第１話　旅立ちは突然に！ : キッチンステージ

　食べログ出版社　梁の家公演別冊付録　ドタバタ西遊記　第１話　旅立ちは突然に！

　「どうしたら～行けるのだろう　教～え～てほ～しい～　ガンダ～○」

　時刻は真夜中子の刻過ぎ。事の始まりはそろそろ布団に潜り込もうかなと思った矢先に届いた一通のメール。内容は、ありがたい教え「旨い食べ物」を授かるために、愉快な仲間達が集うと言われる天竺（新大久保「梁の家」）を目指して、胃袋修行の旅（食い倒れツアー）へと出かけるぞと言う物。それは突然降ってわいた話であった。

　どうやらご一行様の内、三蔵法師と孫悟空と言う主役クラスのお二人は、天竺への道程の直前での合流となりそうだ。これから語れる物語は半日と言う長きに渡って苦難の旅を続ける、猪八戒と沙悟浄、野郎２名の迷脇役によるドタバタ西遊記である。

　さて困った事に当方の記憶違いでなければ西遊記では猪八戒の方が兄弟子のため、当方が沙悟浄役となってしまう。（大先輩、勝手に猪八戒役を押しつけて申し訳ありません。笑って見過ごして頂ければ幸いです。）ちなみに「修行の旅？電車で直行する方が楽ちんなのでパスさせて頂きます。」と言う安易な選択肢は用意されていなかった。

　始まりはランチの国。新宿駅から徒歩５分、伊勢丹地下１階の食品フロアにあるイートインスペース、キッチンステージ。遥か彼方の？？？の天竺目指す旅も随分身近な所から始まる物だ。

　店内はオールガラス張りのちょっと小洒落た雰囲気。カウンター席とテーブル席があり、１５～１６名程度収容する事が出来る。田舎の河育ちの沙悟浄（当方）が想像していたイートインスペースとは随分と異なっている。沙悟浄＝河童と言うイメージは日本でしか通じない話の様だ。

　ここでは和洋ジャンルを問わず、それぞれ２週間程度の期間限定で、各レストランのレシピを再現した料理がお手頃価格で頂ける。通常はキッチンステージのシェフが調理しているが、シェフ本人が招かれて調理する場合もある様だ。

　料理にはもれなく原材料と作り方が記載されたレシピが付いてくる。またオープンキッチンになっており調理過程を見渡す事が出来る。気に入った料理があれば、食品フロア内で全ての材料を買い揃える事も出来る。いわゆるデパ地下の目玉と言う奴だ。

　当日の料理はイタリアンの「アルポンテ」と言うレストランのレシピ。アミューズ＋ワンプレートと言った印象で税込み価格２，６２５円。メインは肉料理と魚料理のどちらかを選択する。ちなみに会計には伊勢丹の割引券も使用出来る。普通の水は無料。以下に料理の内容をざっとご紹介。写真は猪八戒大先輩のオーダーした魚料理も掲載。

　○香川野菜のピンツィモーニオ　EXVオリーブオイルをつけて

　菜花、赤ピーマン、黄ピーマン、金時人参、カブ、柿、オリーブの実が飾られたサラダ。イタリアンだからアンティパスト（前菜）の役割だろう。少し酸味を利かせたオリーブオイルが添えられている。各野菜とも歯ごたえをしっかりと残した状態で塩茹でされているが、素材その物の味を楽しませる料理の割に、野菜自体の味のインパクトにはやや欠ける。柿の自然な甘みがアクセントになっていた。

　○讃岐夢豚のポルペット　レモンの葉の包み焼き
　○カボチャのニョッキ　チーズクリームソース

　豚肉のポルペット、カボチャのニョッキ　パンがワンプレートに盛られて登場。ポルペットとは肉団子、ニョッキとは芋類で作るモッチリとした食感のパスタの事。豚肉の肉団子は塩、胡椒で味付けしレモンで風味付け、ベーコンをぐるりと一巻きした上からレモンの葉っぱで覆っている。シンプルな味付けでサッパリとした料理だが、今一つ豚肉の旨さを引き出せていない。付け合わせは玉葱をローストした物。こちらは柔らかく玉葱の自然な甘味が楽しめる。印象的だったのは裏ごしたカボチャとジャガイモで作ったニョッキ。モチっクニっとしたあまり味わった事の無い食感。芋の自然な甘味とホコホコ感も生きている。クリームチーズとパルメザンチーズのソースとの相性も良く旨かった。プレート全体としてはニョッキが主役の座を奪ってしまっている印象。バランスを取るには肉団子にもう一捻りほしい所だ。

　今回頂いた２皿はイタリアンらしく、素材その物の味わいを生かした料理。いくらレシピを再現していると言っても細かな味付けや微妙な火入れはシェフによって表現方法が異なってくる。多様な分野の料理を再現するキッチンステージにはあまり向いてない料理なのではないだろうか？

　結構厳しい事を書いてしまったが、２～３週間毎に分野の違うレストランの料理が登場し、お手頃価格と食べやすいワンプレートで楽しめると言う発想自体は多いに評価出来る。レシピも貰えて材料も食品フロア内で買い揃えられるとなれば、ますます旨い物好きの心はくすぐられると言う物。

　「お！また新しい店の料理が登場しているぞ。食べてみるかな。」と言った感じの常連さんも多そうで人気が高いのも頷ける。レシピを再現する事の向き、不向きによる多少の当たりハズレもご愛敬と言った所だろう。かく言う当方もまた違う店の料理の時に来てみるかなと思った一人だ。総合評価の３．５点にはコンセプト自体の面白さの評価も含まれている。

　無事ランチの国での食事を終え、天竺目指して次なる国へと旅立つ猪八戒大先輩と沙悟浄であった。