銀座のオジサンの笑顔こぼれる、the 銀座・小料理屋。 : 三亀

「東京いい店うまい店07-08」曰く、「店の構えは銀座ならではの敷居の高さだが、一歩入れば古くからの馴染みの店かと思うほど居心地がいい。(中略)思い思いに寛ぐ(くつろぐ)顔々が何よりの証拠だ」。ミシュランで★をとった銀座・小料理屋、三亀。
何が素敵なのか。訪れてみた。そして、わかった。ここは、銀座で遊ぶ、50～60代のオエライ感じのオジサマたちの、嬌声があがる・笑顔があふれる楽天地。

■　立地・客筋

今回は「立地・客筋」「内装」「サービス」「料理」で書いてみたい。でも。
このお店の個性は、この点に尽きる。「客筋」。

「あさぎ」があって「寿司幸」があって「大野」があって「すし　おおの」があって…ここは銀座の一等地中の一等地。その上で、一見さんが飛び込めるような門構えではない。
古くからある銀座の小料理屋。見た目高級感がない素朴な外見故に、何も知らずに飛び込むことは至難である。

しかし一歩踏み込むと、全然違う。女将が多いに歓待してくださり、とても、開放的。
そして。オジサマたちがはしゃぎまくっている。

仕事終わりに一人で飛び込んだ私よりも、15？20？は年長の諸先輩方。
平日夜・全6組いらっしゃったが、全員スーツ・若くても50代半ばの諸先輩方がもう、はしゃぎまくっている。
全員が、この店の馴染み。その上で正確に言うと、
●2組は仕事後の友人飲み。騒ぎすぎず、しっぽり杯を傾け、ここだけははしゃがずにくつろぎ中。
●2組は一人の飛び込み。でもきっとこれから、銀座のママの居る店に行くはず。店主・女将とは完全にお友達。ここはすっかり出来上がり、大声で騒いだりニヤニヤと周りを見渡したり。
●2組は馴染みのクラブの和服ママ同伴。この一群はもう、なんだかテンション上がりまくり。それをいなすママの技も、まあ見事見事。
…
新橋ガード下とかではないこの銀座の名店に、ママ同伴・これからクラブ突撃の様相で訪れているので、みなさんきっと財布の豊かな方々。
きっとそれぞれの会社で、それぞれちゃんとしたお立場のはずです。
でもみなさま、もうなんだか子供みたいになっていて。
きっと家でもこんな満面の笑顔とか出さないんじゃないのか？と思う、活気溢れる店内になっていました。

思うに。そういう意味でとても素敵なお店なんです。きっと、ここは。
静かに皿をグッと見据えるのではなく。「腕の良さも凄いけど、それ以上に俺を居心地よくさせてくれるこの空気が好きだ」という気持ちで通い詰める店。
それも、銀座のオジサマたちが。そんな、the 銀座・小料理屋が、このお店だと。
そう思いました。

さあ、この客筋に馴染めるか。勝負はここです。
ちなみに私は…俺は少なくとも20年は早いと。そう実感しました。

■　内装

まさに、小料理屋さん。銀座の新しい・エレガントなビル群などまるでなかったかのような気にさせる。とても正当な、旧き良き銀座の小料理屋さんの姿になっています。
適度に狭く。オシャレすぎず。あちこちがごちゃっとしていて。でもよく見ると文化人の色紙が無造作に飾られている。
ほんと、ある意味感心します。

■　サービス

女将が気さくで、とても魅力的な「お姉さま」(みのもんたが言うと「お嬢さん」)です。
他の方々も一様に「お姉さま」なわけですが、どなたもとても気がきく。
普通に、安心できます。

■　料理

本日は13650円のコース。
いただいたのは、以下の品々。
●　鱧の皮の酢の物
●　じゅん菜酢の物
●　鯛そぼろ椀
●　鮪・鯛・小柱の刺身
●　海鱒の木の芽焼
●　ひろうす
●　蛤の吸い物
●　ごはん
●　デザート（西瓜）

奇をてらったものは、一つもありません。
その上で、どれもこれもが、普通にとてもうまい。とても、うまいと思います。

特に素晴らしいのは、ミシュランでも紹介されている、ひろうす。
がんもどきの関西の呼び名「ひろうす」ですが、これがまあ、本当に上品で繊細。
高い技術を感じます。このあたりが、「新奇なものは一切ない。そこがまたこの店の実力をあらわしている」(東京いい店うまい店07-08)と言われる所以だと思えます。

・・・

ただ。13650円で、奇をまったくてらわないこの内容。
昨日行ったEdiTion Koji Shimomuraのコースが、まったくの同じ値段です。
あの感激を、思うと。うーん、今回のこのお店、どうだろう。

銀座なのです、これを高いと言ってはいけないはず。
ただ、皿をグッと見つめたい僕としては、皿からそのお店の明らかな個性が欲しい。
その意味では。この値段でこのお品だと、物足りないなあと感じました。

ここは意見が分かれるところ。基本の和食をしっかり出す、かつそれなりに値段のするお店を、どう評価するか。意見が分かれると思います。
僕は、あまり魅かれない。残念ながら、それをあらためて感じました。

※　ちなみに。ＴＶで「ミシュランを最も安く味わえる店」として、このお店のお昼定食1950円が紹介されているのを見たことがあります。昼はまた、ＣＰ違うかも。

・・・

この内容の料理をこの値段。ここは意見が分かれるところ。僕は残念ながら、強い魅力を感じないタイプです。ただ、人によっては高く評価するでしょう。
…
ただ、ミシュランで★をとるのかと言われると、正直よくわかりません。こういうところに、ミシュランの和食バブルがあるような気はします。
…
しかしそれ以上にポイントになるのは、この客筋と馴染めるか。この店の評価はここで分かれると思います。
僕は20年早いし、20年後も同じコース料金ならコウジ・シモムラの方に行くかなあ。
逆に言えばこの店で居心地よければ、「銀座で自由にはしゃげるオジサン」の素養ありなのかも。そんなことを思いつつ。後にした、銀座の夜でした。

追記：でもなんでこの店が、東京カレンダーのプラチナ・セレクションのゴージャスな金色表紙の本に載っているのかは、よくわからない。