【★3.9】長谷川さんスパニッシュ【2616】 : anchoa

4,140文字★

アンチョア スペシャルコース（16,940円、税サ込）滞在時間：約2時間30分

埼玉県出身の酒井涼シェフ（1981年生まれ）が腕を奮う同店（3.87）。
2012年から代々木八幡でアルドアック（3.71）を営むも、
2021年に鎌倉へ移転して店名もアンチョア（スペイン語でアンチョビの意）に変わりました。

長井漁港（さかな人）長谷川さんの食材を駆使するスペイン料理店。
電話で食材について尋ねると長谷川さんから安定的に仕入れているとのご回答。
なお長谷川さんオンリーではなくて、佐島漁港などからも魚介を仕入れています。

相模湾魚介スペシャルコース（16,940円）は魚介のみというコース構成。
アンチョア スペシャルコース（16,940円）はコースに肉も入るとのご説明で、
後者を選ぶことにしました（もっと廉価なコースも用意されています）。

店内はキッチン前の直線カウンターに3席、4人テーブル3卓（計15席）。
シェフと男性スタッフの計2名でお店を切り盛り。
テーブル席からもキッチンの様子を窺える開放的な意匠となっています。

料理の感想を総論的に申し上げると、
コース前半は薄味淡麗で素材を活かしながら、シェフの個性も表現するような抽象的料理、
後半（終盤）はパエリアやチーズケーキといった濃厚で分かりやすい料理が出てきました。
濃淡のメリハリがくっきり（個人的には終盤の分かりやすい料理のほうが好み）。

ドリンクは料理に合わせてワインペアリング（9杯 or 5杯、レギュラー or プレミアム）。
9杯のレギュラーコースでお願いしました。
下記の通り飲み食いして、お支払い総額25,740円。

・ワインペアリングコース（9杯 600ml 8,800円）
1.アンチョア 2.ピンチョス 3.赤羽太 4.勘八 5.ピーマン 6.石垣鯛 7.鴨 8.パエリア 9.デザート

1.ゲタリアコ チャコリーナ スドゥガライ 2022 スドゥガライ 白 スペイン バスク
2-1.ルスタウ ベルモット ロゼ スペイン アンダルシア
2-2.マンサニージャ マカレナ シェリー酒 スペイン D.O.ヘレス
3.アバディア デ サンカンピオ 2022 白 スペイン D.O.リアス バイシャス
4.アルベアル トレス ミラダス ビノ デ プエブロ 2019 白 スペイン アンダルシア
5.ロレ デ オスタトゥ 2018 白 スペイン バスク
6.タガナン ブランコ 2021 エンビナーテ 白 スペイン ガリシア
7.レ パラデテス 2014 エスコーダ サナフヤ 赤 スペイン カタルーニャ
8.スクセス ヴィニコラ 2018 エル メンティデー 赤 スペイン カタルーニャ
9.リコレス アルメンドラレホ ラス シンコ ベリョータス（どんぐりリキュール）

・アンチョア スペシャルコース（16,940円）

01.アンチョア コカ
02.ピンチョス
02-1.梭子魚（かます）
02-2.蛸
02-3.干柿
02-4.鱸（すずき）の白子
02-5.鰆（さわら）
02-6.マッシュルーム
03.アカハタ／ハヤトウリ／サフラン
04.勘八／ポロ葱／アーモンド
05.ピキージョピーマン
06.パン
07.石垣鯛／大根／茸
08.鴨／人参／ねぎ
09.パエリア
09-1.イバラガニモドキのパエリア
09-2.イカスミパエリア
10.八木下農園みかん
11.チーズケーキ
12.小菓子
13.食後のお飲み物

食べた料理の寸評は以下の通り、【】内は個別の採点、表示価格は税サ込です

【3.5】アンチョア コカ

カンタブリア海のアンチョビを高菜入りのコカ（パン）に乗せて。
米文化の日本で魚とパンを組み合わせることは珍しいですが、
パン文化のヨーロッパを訪れると魚のサンドイッチが市民権を得ています。

食べログの全国No.1スペイン料理店であるaca 1°（4.61）でも、
小鰭や新子を乗せたボカディージョ（パン・コン・トマテ）がスペシャリテでした。
aca 1°と比べるとアンチョビや高菜の癖が目立って尖った味わいという印象。

【3.7】ピンチョス

・上段
1.やわらかく茹で上げた佐島産真蛸を刻み野菜のドレッシングと温め直して
2.干柿とクリームチーズを忍ばせたハモン・イベリコ・デ・ベジョータ（生ハム）
3.ギンディージャ（バスクの酢漬け青唐辛子）など乗せた鰆（さわら）の自家製コンフィ
・下段
4.今朝獲れ鱸（すずき）白子のフリット
5.自家製の梭子魚（かます）酢漬け 黒オリーブのペースト スペイン産チーズ
6.自家製チョリソを詰めて焼き上げたマッシュルーム

やわらかくなるまで蛸を茹で上げているように火入れや酢〆が強めでしょうか。
蛸は弾力を残すほうが好きですし、鰆や梭子魚もレアー感を残すほうが好み。
カウンターの原木からカットしたのであろう最高級生ハムが流石の美味しさですが、
干柿とクリームチーズの主張が少し強いようにも思うところ。

ピンチョスで白眉と思ったのは白子（メニューではブダイとなっていますが鱸に変更）。
下手な雲子（真鱈の白子）より濃厚クリーミーながらフレッシュ。
長谷川さんが神経〆しているのか分かりませんが好素材でした。

【3.6】アカハタ／ハヤトウリ／サフラン

長井漁港の（つまり長谷川さんの）アカハタ。
あさり出汁のサフランスープに合わせて。
付け合わせはハヤトウリと紅芯大根、仕上げにパセリオイルも垂らして。

サフランならではの上品な香りが素晴らしいのですが薄味淡麗。
アカハタは身に弾力あって脂ノリも強い魚なので、
広東料理の「清蒸」のような強い味付けのほうが活きるように思ってしまいます。

【3.5】勘八／ポロ葱／アーモンド

レアー感を残す火入れの相模湾産カンパチ（高温の油で表面だけフリットに）。
蕪、ポロ葱、ハーブでサラダ仕立てに。
ニンニクとアーモンドのソース「アホ・ブランコ（直訳すると白いニンニク）」を添えて。
アクセントに、黄柚子の皮、黒オリーブの粉、シナモンパウダー。

濃厚なアホ・ブランコで淡白な味わいのカンパチを補完する意図と思うのですが、
カンパチの身に火を入れる調理法に疑問を抱いてしまいます。
筆者の持論としては、カンパチの身は、刺身、握り、カルパッチョで食べるのが一番。
カブトやカマであれば脂が乗っているので焼いても抜群に美味しいのですが、
身に関しては一切の火入れを拒否したいです（やっぱりナマが好き）。

【3.7】ピキージョピーマン

海老と鱈のペーストを詰めたスペイン産の赤ピーマン（ピキージョ）。
ピキージョベースの野菜ソースで。

とろとろ食感のペーストがジャガイモを思わせる口当たりなのですが、
海老、鱈、玉葱、小麦粉だけでジャガイモは使っていないとのご説明。

ピキージョ自体も悪くないですが大量に盛られたソースのほうが主役という印象。
一緒に出てきたパン（後述）で拭って食べると濃厚クリーミーな美味しさ。

【3.6】パン

自家製のパン・デ・アセイテ（オリーブオイルパン）。
フォカッチャの仲間とのご説明。
クラム（内側）がズッシリしており多加水なのでしょうか。
食べ終えた後におかわりなど出なくて一度きり。
ピキージョソースを拭うために登場したのだと思われます。

【3.7】石垣鯛／大根／茸

長井漁港の（つまり長谷川さんの）石垣鯛の炭火焼き。
ソースは葉山で採れた天然ナラタケ（採ったのは長谷川さんではない）。
付け合わせに、大根、白菜、シナモンバジル。

皮をパリッと身はシットリ焼き上げており悪くないのですが、
もっとレアー感を残すような火入れのほうが好み。
高知県で食べた感動を覚えた、こうろう（石垣鯛）のタタキには及ばず。
ナラタケの滋味が溢れるピリ辛ソースは良かったです（ソースに関しては4.0級）。

【3.8】鴨／人参／ねぎ

新潟の鴨（おそらくジビエのマガモ）の炭火焼き。
メニューに人参と書いてありますが人参を感じることはなく、
付け合わせに葱とビーツ、シェリー酒ソースで。

仕上げにシェフが目の前で黒トリュフを削るのですが、
どうも鴨ロースに黒トリュフは蛇足のように思ってしまいます。
ロッシーニは好きでフォアグラ（鴨の肝臓）や牛肉にトリュフは合うと思うのですが、
独特の野趣を感じるマガモの風味はそのままストレートに味わいたいところ。

【4.1】パエリア

ここから今までとは方向性が変わって濃厚で分かりやすい美味しさの料理が続きます。
長谷川さんから仕入れるお店で定番となっているイバラガニモドキ。
タラバガニ科なのでズワイガニよりタラバに近い味ですが旨味しっかり。

パエリアにはコシヒカリの古米を使っているとのご説明。
水分の多い新米よりパラパラに仕上がってパエリア向きなのでしょう。
もう1つイカスミパエリアまで出てきて合い盛りに。

味変アイテムとしてアイオリソース（ニンニク入りマヨネーズ）が添えられます。
アイオリを使わずとも2種類とも濃厚な味わいで塩分しっかり。
炭水化物（カロリー）、旨味、塩を組み合わせた、生存本能に訴求するような美味しさ。

【3.8】八木下農園みかん

ヨーグルトとクリームチーズのアイスクリームに八木下農園（小田原市）のみかん。
仕上げに甘口シェリー酒（アルベアル ペドロヒメネス 1927 N.V.）を垂らす大人スイーツ。

【4.3】チーズケーキ

レアー感を残すような火入れで蕩ける口当たり。
旨味をしっかり感じられて濃厚クリーミー。
チーズ自体も良質なものを使っているのだと思います。
甘みと酸味のバランス良くて過去最高クラスに美味しいバスクチーズケーキ。

【3.3】小菓子

1.アロス・コン・レチェ（牛乳、シナモン、レモンピールでお米を煮込んだお粥）
2.トシーノ・デ・シエロ（牛乳を使わないプリン）
3.スポンジケーキ

・食後のお飲み物の候補

1.コーヒー
2.エスプレッソ
3.小田原産ほうじ茶
4.スペイン産はちみつカモミールティー