『抗い難き“匂い”について』お茶山さんの日記

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お茶山 (男性・山口県)

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 よく、焼肉屋の前を歩いていて「いやあ、このにおいだけで飯が食えますな・・・。」などと言う人がいるが、匂いというやつは、超やり手セールスマンだ。時に、看板・タウンページ以上の効果をあげることもある。
 看板なら看板屋が、タウンページ広告ならNTT関連会社がおいしいのだろうが、店前に、良い匂いを漂わせるだけなら何の負担もない。この「匂い広告」なら通常の営業そのものが広告となり、道路交通法にも抵触しないし、お上から睨まれることもない。
 先日、私は知人の結婚式に出席した。式場はなんと、酒蔵である。
 新郎・新婦ともにガキの頃からの写真を年代別に掲示し、出席者たちは見たくもない古い写真を眺める。私も、「ふうん、○○○って昔からブサイクだったんだ。」と内心思いつつ、蔵の中に歩み入ると、酒造場独特の香りが鼻腔をくすぐる。
 一般向けのお土産コーナーで披露宴が始まるまでの間に暇つぶしをし、誰からもすすめられていないのに、一般の旅行客に混じって純米酒を試飲、最高の時を過ごした。
 しかし、当然ながら、現在愛してやまない酒の香りも幼児のうちから好んでいた訳ではない。5歳児のころ、食卓の上のウニの瓶詰めに好奇心から手を出し、口中に広がるアルコール臭に、気分が悪くなったこともあった。また、今は大好きなフレッシュチーズの類にも、初体験時には虐待レベルのショックを受け、トラウマまで経験したほどだった。
 ワインも同様、社会人になってからの経験だが、最初のボルドーの印象は「万年筆のインクみたいな臭いがするもの、みんなよく楽しそうに飲めるね。」だった。
 実は、大学院卒業まで殆ど酒というものを飲んだことがなかったのだ。衣料メーカーに入社し、海外でも働いたが、経理の仕事だったからか、パーティーにはそれほどご縁はなかった。時々付き合わされる社交の場でも自分はアルコールが弱いと思い込み、当時の同僚にもそう言っていたのである。
 勿論、ビジネスの場で酔っ払ってネクタイを鉢巻代わりに踊ると、メリットがあるというなら(当時、仕事に真剣だった自分としては)やっていたのかもしれないが、あまり飲めない程度に留めておいた方が正しいマナーだよと教わっていたし、色んな国籍の、多様な価値観を持つ人たちと当たり障りなく付き合う為、酔いを全く感じないほどに、常に、緊張していた。男性も女性もそれぞれに個性があって、上品に食事を楽しむ、衝撃的なほどに格好良い人たちだった。そういうことも影響していたと思う。
 今や、こんな打ち明け話をしても、周囲からは「そんな冗談、面白くもなんともない。」と冷ややかに言われるほど、私は変わった。
 ワイン、青カビチーズ・・・それなりの鍛錬があって、初めて美味そうなにおいだあ〜、と思えるにおいというものがあるのだという事を知る・・・これも年をとったということなのか・・・。
 そういえば昔、付き合っていた人に・・・「新橋でドリアン売ってるの見つけたよ。どんなにクサイのか前から興味あったんだ。お茶山さんのアパートで切って食べてもいい?」と言われたことがある。
 その時に、つい相手の愛を疑ってしまい、結局別れることに・・・相手もそれで私の愛の深さをはかっていたのかもしれない・・・今の自分なら許容できたかも・・・年とったんだなあ・・・。
 
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