ホタルの夕べ : Taikouen

　決してまじめとは言えない予備校生の頃、友人の下宿先の程近くの哲学の径。南禅寺近くから銀閣寺近辺まで、疎水に沿ってその儚い光を無邪気に追いかけたのが私にとって生まれて初めてのホタルとの出会いでした。闇夜に光を放つ生物への純粋な驚きと同時に消え入りそうな危うさ、切なさに滅びの美学とでも言うのでしょうか、文句なく心を奪われたものでした。

　ん十年後の初夏、久し振りの出会いは大阪の真ん中、太閤園の庭園です。友人一家を誘って二家族で訪問。
此処は大正ロマンを今に伝える淀川邸をはじめとする建築物と見事な庭園からなる美空間。まさに都会の喧騒とは別世界を体験できる心休まる処です。

　この見事な庭園を活かし、こちらではホタルが放たれ、初夏限定で毎年行われるイベント「ほたるビュッフェ」では、大人も子供も都心でホタル鑑賞を体験できます。この企画以外にも幾つかあるレストランでもホタルにちなんだお料理が頂けますが、ちびっ子連れの我々が選んだのは、この別館の大きな会場でのビュッフェ。ビュッフェとはいえ事前予約制で、きちんと自分たちの席はキープされているので、混雑感もさほど気になりません。
・鰻の柳川鍋・白身魚竜田揚げ餡かけ・初夏の味覚鰹のたたき　・夏野菜の焚合・冷やし蕎麦、うどん・にぎり寿司・プロシュートとグリル野菜パルメジャーノのコポー添え
・トマトとモッツアレラチーズ　バジル風味・タタキサーモンのラビゴットソース
・アンディーブとインゲンのサラダ・小海老のオーロラソース　ミモザ風
・茸とベーコンのパスタ　ジャポネーズ・オコゼと小海老ポワレソースナンチュア
・チキンのバーベキューソースパン粉焼き・牛バラ肉の煮込み生姜風味　季節の温野菜
・牛ロースステーキマデラソース
と、多種多彩。勿論、フリードリンク。デザートも手抜きなくちゃんとした出来映えです。
　ビュッフェとしては流石に料理の質感も高く、目の前でシェフが焼いてくれるステーキもとっても美味しく頂けました。子連れ客のみならず、年配の方達のグループも見受けられ、きっと毎年の行事にされているんでしょうね。和やかないい雰囲気です。

　６時の開場時にはまだまだ明るかった空もオヤジ達の酔いが廻る頃にはどっぷり夜陰に包まれ、さあ、ホタル達との出会いです。設えられたカゴ近辺のみならず、園内の水際に、何十匹もの儚い光。ほんとに綺麗です。ちびっ子達も初めてのホタルに感激の様子。よかったよかった。こちらも暑すぎない初夏の風に吹かれつつのホタル鑑賞。なんとも贅沢な酔い覚ましです。

　庭園の外では、駐車場の一角を利用してスマートボールやようようつり等の露店が並ぶ縁日が催され、ホタル鑑賞の後は更にこちらでもちびっ子達は大盛り上がり。景品を手に手に、帰る間際まで大騒ぎです。
　しっかり食べて、ホタルを追って、縁日で遊んで、さぞお腹一杯幸せ一杯だったんでしょうか？友人一家と別れた帰りの車中では、すぐに撃沈。グゥーグゥー。
「今日は最高の一日だね。」　
　こんな時の近頃の彼の常套句。
今日は、きっと夢の中で言ってるんでしょう。