昭和の大衆食堂の雰囲気が味わえます！ : 常盤食堂

大衆食堂という言葉の響きにはかつては何の感慨も覚えず、どちらかと言うと「安い、早い、不味い」みたいなネガティブな印象すらあったのですが、時代の変化というのは不思議なもので、今は大衆食堂という言葉には希少価値といったイメージもついて回るようになりました。

振り返って、今のように色んなジャンルの飲食店が群雄割拠して誰もが気軽に外食することが出来る時代と違って、外食すること自体が贅沢な時代にあっては、何でも揃う大衆食堂はとても重宝する存在だったんだと思います。
デパートのお好み食堂などもその一派だと思いますが、私の印象にある大衆食堂は、地方都市の駅前の一等地にお店を構えているイメージがありました。
ところが、時代の変化は、これらのビジネスモデルを陳腐化したものに追いやることになるわけです。

デパートのお好み食堂は、いつしか専門店の入るグルメストリートのようなものに取って変わられ、駅前の大衆食堂も、郊外量販店の進出等に伴う駅前商店街の衰退と歩調を合わせるように衰退の道を辿り、閉店するお店も続出します。

かくして今や貴重な存在になってしまった大衆食堂ですが、食べログを始めて色んな地域を食べ歩きで回っていると、現在も昔ながらの風情で営業を続けている大衆食堂に出会うことがあるんですね。

ところで、大衆食堂というのは、食べログのジャンルではどこに該当するのでしょうか？
実は、「その他レストラン」ジャンルの中に「レストラン・食堂」という区分があり、さらに「食堂」という細区分があるのですが、そこに掲載されているお店を眺めても、大衆食堂とはあまりフィットしません。
どちらかというと大衆居酒屋みたいなお店がこのジャンルに掲載されていることが多いみたいですね。
大衆食堂については、食堂区分では無くて、そば・うどん・中華料理・とんかつ・丼・天ぷら・海鮮などのそのお店の得意とする料理区分で登録されているお店が多いように思われます。

この日訪れた当店は店名からも想定されるように典型的な大衆食堂なのですが、食べログのジャンルでは「そば、うどん、丼」となっています。

当店の創業は1935年(昭和10年)と言いますので、近い将来創業90年を迎える大変な老舗です。
お店は旧中山道沿いにあり、店名の常盤は、この辺りの地名を取ったものです。
お店が属する商店街も常盤商店街となっていますね。

この日は、北浦和駅で下車して、途中ベーカリーに立ち寄って(ブーランジェリー イドゥン)翌日の朝食用パンを調達した後浦和方面へ歩いて移動して当店にやって来ました。
当店に到着したのは11時前だったのですが、当店は10時半から営業しているようで、既にお店はオープンしていました。

お店は70代後半くらいではないかと見受けられるかなり年輩の店主らしき男性により切り盛りされていましたが、途中で出前から戻ったと思われる中年の男性も加勢していましたので、ツーオペのようです。
会話の模様から親子と思われ、キチンとした後継者がいる様子が伺えました。

厨房の様子や壁メニューなどから昭和の香りがぷんぷん漂う店内で、客席はカウンター席が4席と4人用テーブル席が3卓で計16席のキャパです。
ただ、カウンター席には物が乱雑に置かれており、稼働していない様子でした。
このことからは、あまり混雑するお店ではないことが分かりますね。
先客はおらず、私は4人用テーブルにゆったりと座らせてもらいました。

卓上にはメニューが置かれていますが、そば・うどん、中華麺、ご飯もの、定食、一品料理の他にそば・うどんとご飯もののセットメニューもあります。
メニューの体系からは、そば・うどんを前面に押し出しているのが分かりますね。

セットメニューは、例えば、もりそばとカレーライスのセットは930円で、もりそば@550円、小カレーライス@520円の合計よりも140円お得な設定になっています。
注文は、冷やしたぬきそばとヤキメシのセット@1,020円にしました。
麺飯セットで1,000円オーバーは、例えば大陸系大衆中華などと比べて安いとは言えないですが、単品価格(冷やしたぬきそば@660円、ミニヤキメシ@520円)の合計と比べると160円お得になっています。

厨房では店主さんがご老体に鞭打ってフライパンを振りヤキメシを作っている音が聞こえてきます。
待つこと5〜6分でヤキメシとスープ、その後2〜3分で冷やしたぬきそばが出来上がってきました。

ヤキメシは紅しょうが抜きで頼んだのですが、これだとかなり殺風景に感じますね。
具は長ネギ、玉ネギ、玉子のみで、たくわんが添えられていますが、味は正直言って私でも出来そうなレベルです。
昔の並の大衆食堂のレベルをそのまま引き継いでいるみたいな趣きです。
添えられているスープは、醤油スープにラー油で風味付けしていますが、ダシが単調で旨味に欠けるスープでした。

冷やしたぬきそばは、思った以上にそばが美味しいです。
弾力がある中にコシもしっかりあるそばで、これは期待以上でしたね。
ただ、天かすは色がくすんでおり、揚げ油はかなり劣化しているのが想像されます。
それでも、そばが美味しいので、添えられているきゅうり、ネギ、なるとなどと絡めていただくとそれなりに美味しくいただけました。

全体に料理のレベルには特筆すべきものは無く、現状では、昭和の雰囲気が満喫出来る食堂というところが唯一のウリのお店という感じですね。
後継者がおられ、更に歴史を積み重ねていける可能性を持ったお店のようですが、長く経営を続けていくためには、例えば経営のバトンタッチを機に何か名物料理を作るなどでお店としての特徴を打ち出していく必要があるのではないでしょうか。