生きるということは、いつの頃からか「死ぬまでの長い暇つぶし」だと思うようになりました。
一日の終わりにビールを一杯飲めればそれでよく、飲み歩きなど本来はおまけのようなものにすぎないのですが、私はそのおまけをひそかに大切にしていて、その夜もどうにか生きていたという証拠を、お店の人が静かに見届けてくれるのです。
その小さな証明を、まるで自分がまだ生きていると誰かに示すための拙い日記のように、ここへ書き留めています。
料理の好き嫌いを言うなと教えられて育ち、
「うまい」「まずい」
と口にするのは今でも性に合わないのですが、それでもその店で過ごしたひととき、その日そこで生きていたという、取るに足らぬ証明を残しておきたいのです。
私はただ、今日もどうにか生きていたという事実を、そっと記録しているだけなのです。
(山本紀夫
平成八年一月十日
逸珈琲にて)
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