小麦店の名に恥じない質実剛健のパン屋さん : ナカガワ小麦店

【京都観光＆パン屋巡り其の6】

アルチザナルで買い物を済まし、あとは南に下って知恩院と円山公園の観光だけだとタクシーに乗ってパンの話をしたら運ちゃんが「パンですか？それならこの辺にぃ～」と切り出してくる謎コミュモンスター。「最近はセレアル系のバゲットが～」とか「ドイツパン？ワルダーやペルケオは行きました？」とか「ハード系ならねぇ南ですわ」などどんどん切り出してくる運ちゃん。京都ってタクシーの運ちゃんまでパンの達人なのか・・・

それで運ちゃんの会話に乗ってる内に南ではなく北に向かい、そして辿り着いたのがここナカガワ小麦店さん。9時オープンなのに10時半の時点で半数は売り切れてしまうくらいの人気店。地元民と観光客のダブルパンチもあるのでしょうが、扱ってるパンはシンプルで華はそれほどではないのに良い物はやっぱり人を惹きつけるのでしょう。

店内はスッキリした感じで対面販売。扱うパンは卵は使わない全粒粉メインの食パンやコンプレで、クロワッサンなどもルヴァン種を使ったものという「毎日食べる物だから健康には配慮したい」といったコンセプトがあり、更にパンは全部で16種類で固定しており商品を固定化する事で徹底した品質の管理とロスの削減を試みているあたり京都で生き抜く為のノウハウを感じ取れます。

【クロワッサン】（170円）
【パン・オ・ショコラ】（190円）
感覚的には他のパン屋のよりも1周り大きい感じで、綺麗で丁寧な折り込みと層の独特の艶はこのクロワッサンが並の出来ではないというのを伺わせます。歯切れの良いクラストはサクサク感が強く、バター感がかなり強いのに不思議な事にベタつきがなく全体的に「軽い」食べ応え。濃厚なのに軽いという奇跡のバランスにより食べ続ける事で訪れる不快さは全くない。

パン・オ・ショコラはチョコ棒一本タイプでチョコ感を求めてる人には物足りないながらも生地そのものがしっかりしているのでそれだけでも食わせる事のできるのが強み。

【コンプレ・ノア】（フル/700円）
ガラス越しの色艶に惚れてフルで買いましたがさすがに700円だけあってデカくて太くて重い。

コンプレ（完全な）というだけあって全粒粉100%のパンで生地も暗紫色で普通のパンとは一線を画した色合い。パサついてるように見えますが実はかなりもっちりしており噛み締めていると瑞々しい粉の風味が湧き上がってくるのはさすがでクルミもたっぷり入って単調になりがちなコンプレに華を添えている。

さすがに全粒粉の比率が高いだけにブラン的な風味が強いですが、酸味はなくブラン特有の尖った後味もなくまろやかな味わいなので小麦の風味をとことん楽しみたい人向け。

【バゲット】（250円）
クラストに独特の艶を見て取れるようにクラスト・クラム共にもっちりタイプで、酸味は殆どなくほのかな甘みのあるクラムと胸のすく香りが特徴ですがバゲット特有のパリッとした皮を食べる目的で買うと肩透かしを食うかも。リュスティックタイプのバゲットが好きな人にオススメです。

【トースト・モンターニュ】（ハーフ/305円）
予約してないと買えるかどうか厳しいほどの人気食パンのようです。とにかくこの食パン、全粒粉で作ってるだけあって香りが凄い。食べる前に鼻に近づけて吸い込むだけで満たされる、そんな感じで、いざ食べようと空気と共に口内に入れた瞬間に鼻腔に立ち込めてくる香気、ほぼイきかけます。

山の部分はパリザクで硬質、耳はもっちり、身は外から容易に圧縮してしまえるほどのフワフワ感があるのにしっとりもちもちと数多くの属性を持つ魔性の食パン。喉越し良く、後味は普通の食パンにはない独特の風味、確かにこれは要予約です。

【パン・オ・ルヴァン】（1/4・205円）
継ぎ続けてきたルヴァン種で仕上げた食事パンで、ザクザク感のある硬質なクラスト、しっとりもちもちなクラム、その対比がたまらなく心地良い。トーストするとサクサクもちもちでこれまたクセになる食感です。

一切の雑味のない小麦の香りも強烈ながら、酸味が結構強く最初はそれほどでもないのに噛んでる内に後から後から押し寄せてくる。この味覚の変化を楽しめるかどうかが鍵になりそう。

【フリュイ・ルヴァン】（270円）
パン・オ・ルヴァンの生地にスペイン産のイチジクとくるみを練り込んだパンで、非常に目が詰まっているもののフルーツの水分を吸ってしっとり感抜群で全粒粉とフルーツの香りが複雑に絡み合い独特の芳香に。フルーツ自体はそれほどギッシリ入ってるわけでもないので香り付けの意味合いが強いかと。

【アン】（240円）
このお店では数少ない甘パン。バゲットに丹波産大納言が詰まったよくある「あずきフランス」ですが、小豆がとにかくギッシリ詰まってるので小豆好きには納得の美味しさ。甘さも控え目で上品なので大きさの割に意外とアッサリ食べ切ってしまえる。何度も噛み締めるのを前提としたバゲットとも相性良し。

【ベーグル】（160円）
【ベーグル・ノア】（180円）
香りは良く生地も全粒粉ならではの味わいではあるが、クラストはもっちりさはあまりなくややハード寄りで生地もどちらかと言うとパン寄りの歯切れ。勿論、丁寧に作られているので美味しいのですがベーグル特有の嗜好性を求めた場合は他の店のベーグルに軍配が上がるし、香り豊かな食事パンを求めた場合はこのお店の他のパンが優秀すぎると選択肢から外れがちな不遇の存在。

全粒粉のベーグルはリベイクするとかなり香ばしくなるので一度は試して欲しいです


総評です。まさに「小麦店」の名に恥じないお店でした。視覚的に訴える華はないが食べてみれば分かる圧倒的小麦の存在感は全粒粉特有の「香りを食べる」を実感させてくれます。食べる際もパンを片手に香りを嗅ぎ、食べるのを中断して陶酔してる光景は完全に粉キメてる状態。格式ある下鴨神社（世界遺産）の傍らに接して尚輝きを失わない、質素ながらも力強い質実剛健なパン屋さん、京都の個性を垣間見た気がします。ごちそうさまでした。