背徳感だけは味わえる : Gyuubeisouan

転勤でもうすぐ華の都を離れるとなると人間、不思議なもので、ふだんやってなかったことをやりたくなるんですね。この日はふと思い立って、百貨店でちょっと贅沢にランチでもしてみようということに。新宿は小田急の11階のお店を物色してみる。K点超えは半ば覚悟していたものの、1500円を軒並み超えてくる現実に足がすくみ始める。これなら地上に降りてそばかラーメンでも…と志をアッサリくじかれる肝っ玉の小さいワタクシです。そんな中、目にとまったのがこちらのお店。焼き肉で2000円以下のものもあり、フロアのメンツを考えれば比較的リーズナブル。よし、きょうは焼き肉ランチだと意を決して入店します。

お昼時はやや過ぎていた時間帯なので、店内はすいている。
1人席に案内され、水を飲みつつお目当てのランチの内容と値段を確認。和牛、ハラミ、豚トロ、鶏ももの4種が楽しめるバラエティー焼肉ランチを肉1.5倍2178円で注文。ただでさえ時間と金にゆとりある人が多い平日の百貨店の上階、そして1人贅沢に焼き肉ランチ。幸福感と背徳感を感じながら昼飯を食うのは、焼き肉と寿司が双璧でしょうね。至福のひとときになるか、胸が高鳴る。

やがてランチの先陣、サラダにキムチ、ナムルにスープが届く。ややあって、大盛りご飯と肉たちが卓上に。かわいい肉たちにはすべて甘辛いタレがかかっていて、ややテンションが下がる。まあ、比較的割安で提供しているランチなのだから、このくらいは目をつぶりましょう。
まずは鶏もも肉から。ジュッと焼いていると、なんともいい気分に。同僚たちがあくせく働いている同じ時間帯に、ひとり肉を焼くという甘美な時間。これもあって、ランチ焼き肉はたまらない独特の魅力があるんでしょうね。もも肉はまあまあのお味。ライスは少し粒立ちが悪くてもっさりした印象。しかし、明らかに保温丸出しの劣悪なライスを出すお店とは異なり、比較的状態もよく劣化もしていなかったので、きちんと気は遣っているのだと思います。優れた焼き肉店はライスの質にまで目配せをする、というのがワタクシの持論。肉に最も合うのは酒とライス、というのが有史以前から決まっている宇宙の真理だからです。

豚トロはグリルが大炎上するきかん坊ではなく、しっとりと脂が落ちていく大人びたタイプ。お味は及第点。ハラミも赤身の肉の味そのものを堪能できて、よいですね。香ばしく旨味の強い肉の味と白飯のマリアージュが楽しめました。本日一番のお肉かな。和牛もそこそこ楽しめたのですが、ハラミの後だとやや個性が消えてしまい、あまり印象に残りませんでした。

百貨店に入ってるだけあって雰囲気も悪くなく、ランチとしては満足です。
僭越ながら細かいことを言わせてもらうと、4種類ごとに味を変えず、すべて同じタレがけというのはやや惜しい気がしました。ハラミは明らかに塩で食べた方がおいしいですし、もも肉と豚トロは塩だれ、和牛はもう少しアッサリめのタレの方がうまいかも。お値段相応ですが、逆にそれ以上でもないかなという印象。ただ、ランチでひとり焼き肉を楽しんだという背徳感だけは味わえました。ごちそうさまでした。