正月のACH : アジアカレーハウス

3日がACHの仕事はじめ。「イマカラカレーツクル℡」と言うので、こっちもカレーはじめとして炊きたてのマトンビリヤニを食おうと来店。昼時にもかかわらずほかにお客はおらず、ユル～い始動。

スペシャルマトンビリヤニ チキンローストカレー、卵カレー、サラダミックス付き
ヤギ肉、チニグラ米の色ムラの無い正調バングラマトンビリヤニ。炊きたて…だとおもわれる。ヤギのダシで食わすかんじで香りは二の次。油がギーだったら完璧だった。このビリヤニが食えることが貴重だ。おかわり1回オッケー。現在も深夜3時まで営業しており、夜の街に働くバングラおいさんたちの利用によってこの味が担保されている。

今日はキチュリ（バングラの豆ごはん）を3杯食った。
炊きたてだった。
濃い満足感につつまれている。
にしても、ここまで旨かったっけかなぁ?と思ったら、シェフが代わっていた。
前に来てからあっという間に7年が経過していた。


1杯目
平皿にキチュリとおかず2種、別皿にスパイシービーフカレー\1,200のセット。
しっとりタイプのチニグラ米。まだ熱々。
ぬおー、粘膜を40番のサンドペーパーでゴシゴシやられてるかんじがキモチいい!
これが…バングラの味だよ!
傍らの非常にまじめな骨付きチキンローストとエッグコルマもいい案配。

目の前で淡々と仕事をこなす（あまり喋れない）シェイフルくん。
人に警戒心を与えない柔和な顔の田舎青年。
喋らないので喋らしてみよう。
「ヘイ シェイフル この店にいつ来たの?」（以下すべてバングラ語）
「4ジ」
あちゃー、そうなんだけど、尋きたいのはそうじゃない。初戦敗退。


2杯目
おかわりを所望。
キチュリをとりにいくシェイフルくんの腹が俺の背中を擦る。それぐらい狭い。
とっておいたスパイシービーフカレーをダーっとぶっかけた。
カルダモン臭の油膜がどっぷり浮いたこれがまた強烈なお品!
キチュリにはやっぱり肉が合う。てか、肉でなきゃ合わない。

えーっと、バングラ語の「来る」を「働く」に替えて、「から」を足して…
「ヘイ シェイフル この店でいつから働いてるの?」
「3年前」
よっしゃ、通じたー! 再起成功。


3杯目
再びシェイフルくんの腹の弾力が背中に伝わる。往復で。
青唐辛子を齧りながら、残りの生タマネギを投入し、最後はプレーンで食ってみた。
ギー（バター）の香りがたまらんですなぁ!
3杯目でもまだ旨い。
高級なチャーハンのようでもあった。

それでも尋かれたことにしか応えないシェイフルくん。
「俺はバングラ語はよく喋れないんだ。」
「ボクハ、ニホンゴガ、ヨクシャベレマセン。」
という共感がにじむオチに。
彼は子どもの頃からバングラのドカン（食堂）で働いているらしい。
彼自身がドカンの景色そのものだった。

バングラデシュについての私のイメージ。
世界一の人口過密、貧困、洪水に加え、シンボル的な観光資源に乏しいため、観光客は少なく、チープで衛生状態も悪そうなマイナーなイメージが先行するインドの東隣の小国である。
ベンガル虎の生息するシュンドル・ボン(世界自然遺産)とロケット・スティーマー(デルタ地帯を航行するオンボロの外輪客船)があるにはあるものの…

南アジア料理の中にあっても、バングラデシュ料理の看板を掲げる店ははなはだ少なく、インド、パキスタン、スリランカ、ネパール、各国を代表する国民食のように、料理名と味わいを認識されるには至っておらず、マイナーな地位に甘んじている。
在日バングラデシュ人約１万人を数えるにもかかわらず、見て、食べて、分かりやすい料理が無いことから、呪いのように地味ぃなイメージにつきまとわれている♪

ググってみると…
世界第４位の米生産量を誇り、国内自給率１００％。
人口約１億５千万、世界第７位。豊富な労働力で外資系繊維業が伸びている。
もともとはインド文化圏で、米飯文化の農業国、河だらけのデルタ地帯にギュギュっと人がひしめいているというわけだ。

判官びいきの性格も手伝い、ほうっておけないシブい店が錦糸町にある。
２０時～明け方までの営業。これはイスラムの一日５回の礼拝時間を考慮してのことであり、錦糸町近辺に１００人いるというバングラデシュ人のハラル食提供を目的としており、錦糸町イスラム事情ありきの営業時間ということになる。
当然、料理もバングラデシュ現地仕様となり、愉しむのに必要なものは、好奇心と千円札一枚だけである♪


「アッサラーム」(イスラム圏どこでもいつでも通用する挨拶。日本語では「どもどもども」に相当する。瞬時に距離を縮める魔法の言葉。)と唸りつつ、引き戸を開ける…
そこにはシェフのスルタンさんと手食のバングラ男性客がいて、一気に空気は和む。一旦、口火を切れば、喋るヽゝ♪

本日の料理　￥１０００

まず、スナック３種の前菜が供される。
・アル・・チョップ（平たいサモサ）
・ピアジュ（青唐辛子のかき揚げ）
・ベグニ（なすの天ぷら）
ラマダン（日中の飲食を控える）につき、まずこれでささっと空腹をいやしてちょうだい、という配慮だ。
どれも南アジア露店標準に冷め、ガシガシで、チャトニなどという気の利いたものは無く、普通に旨しい。
昼飯をちゃんと食べている身には、揚げ物４個のウォーミングアップは重いが、謹んで業に従う♪

次に、大皿に盛られた白米(シャグ・パット)と深みのある陶器でカレー３種が供される。
・白米
パキスタン産バスマティと日本米のブレンドで、日本米の比率が高く、炊飯ジャーから盛り付けられる。
ボソボソと固めの炊き上がりで、スープ状のカレーに良くマッチする。

・フィッシュ　ｍｅｄｉｕｍ
パンガシといいうナマズのカレー。
皮ごと素揚げした輪切りのナマズを、パンチフォロン(ベンガル・ミックススパイス)で大鍋調理してある。
完全にスープ状のソースは、塩もニンニクも油も強く、苦みもあり、ガラムマサラとはまた違う味わいを出して良く馴染んでいる。丁寧な調味だ。
皮が旨い。皮が♪

ダル　ｍｉｌｄ
煮くずしたダルとカリフラワーの明るい色のスープ状カレー。
これだけが常温である。
強い具材には強く、そうでないものにはそうでなく、ということで、味付けはおだやかで、豆とカリフラワーがこれまた旨い。
シェフは、スパイス個々でなく、パンチフォロンとして捉えているようだ。

マトン　ｈｏｔ
機械カットの群馬産骨付きハラル山羊を使った肉を食べるためのカレー。１００ｇ程度でボリュームがある。
煮込みはまだ浅く、固く引きしまった赤身とゼラチン部位とのミックスであり、ソースは底にたまる程度に少なく、ホールのグリーンチリが一緒に煮込まれ、辛さも塩も生姜も増量といったところ。

どれもパウダーのパンチフォロンのベースで、大鍋調理ということでは同じだが、他の調味料やチリとの配分を変えることで、骨太な味に仕上げ、且つ、バリエーションを出している。
白米の上にカレーを全部あけて、グルグルかき混ぜてみれば、皿の上にターリーともミールスともダルバートとも違う苦みばしったシブい味の幅が広がっていく。
すごく自然で理にかなった調理で、都下での珍しさもなかなかだと思う。


派手さは無い。
優雅さとも程遠い。
構わない、地味こそバングラデシュの持ち味である♪

クソ真面目で、ムスリム的紳士で、火がつけば灰になるまで喋りまくるスルタンさんにしても、ベンガル人でなく、バングラデシュ人というアイデンティティで仕事をしている。
ようこそ、我が国へ♪

料理に関するベンガル語をいくつかメモったが、今、その単語を見ても、それがどういう意味なのかが思い出せないでいる(涙)。
メモのベンガル語は忘れたが、帰り際に握ったぶ厚く固いスルタンさんの手の感触は鮮明に憶えている。