谷中生姜とつくねとギョニー : 76vin

お、明日、帰国だよね、ナナロクでギョニマ焼きと泡ものでもどーよ？

…SNSのダイレクトメールに「パイセン」より有難きお誘い。ミュンヘンのドイツ博物館経巡りのタイミング。

ひとり旅だったしヴァイスビアの美味さにヤラれて、そーいえばドイツ滞在中はまるでワイン、飲まなかったなあと思いつつ、是非是非行きましょう、予約プリーズ！ と返信を打ち込み、同時にミュンヘン市内交通「MVV」アプリを開き、空港までのタイムテーブルを確認、チケットを購入、朝、チェックアウトを済ませておいたホテルで荷物をピックアップ、みぞれ混じりの雨に煙る街を後にし、機上の人となる。

飛行機の中では、恥ずかしくて映画館に足を運んで観る気にならない「チアダン！ 」がやってるといいのにな、と、思つていたものの、そういうおぢさんの歪んだ要望には対応していないらしく、「恋妻家宮本」で阿部寛氏の熱演ぶりを鑑賞し、チヨコレイトトリュフを肴にコニャックのミニチュア壜と戯れる。

全日本空輸殿、顧客満足強化のためにも是非、広瀬すずちゃん作品の導入を！

羽田に着く。

冬物装束一式の詰まったスーツケースを宅配に託し、横滑りの静岡出張の荷物だけ携え、神田の定宿へ。1700時。

時差ボケ回復と、機内不如意で過ごし、皮膚や髪に浮かんだ汗や脂を取り去るため、火傷するほどの熱いシャワーと冷水を交互に浴びる大薮春彦スタイル™️ で身を清め、服を改め、低気圧で弛緩した下半身に喝を入れるため、根津の町まで半時間ほど歩く。

1900時少し前、店に入る。

フランス製の漬物石にしたくなるほど重い、砂型整形法で作られ、琺瑯がけされた鋳鉄鍋を贔屓にする料理研究家の先生が開いた「ワインと焼き鳥」を専らとする店。

「パイセン」の名前で取られていた食卓に収まると、近くでお祭りごとがあった、とかで、オープンキッチンを囲むステンレス鋼ヘアライン仕上げのカウンタは若い人で満席。

商売繁昌、何よりである。

程なく現れる「パイセン」 無造作にクレマンを一本抜かせ、グラスには氷をぶち込み、これで喉を鳴らすように飲む。

いささか乱暴な喫し方ではあるが、キレはいい。

氷入り泡酒には、谷中生姜に刺したつくね焼きに決めている。

決めているのに理由はない、あったとしても忘れてしまった。

もしあるとすれば、炭酸のキックにはギンゲオールとショウガオール由来の辛味が調和するから、とは、 #知ってることを全部いう 知ったかぶりしたいだけの話だし、そもそもそーならジンジャーエールでもやってりゃいーじゃねーか！ と叱られるから黙っている。

そう思いながらジンゲロンの香りが瑞々しいつくねを楽しみ、季節の焼き筍に帰朝を実感し、上野丸善社謹製「別撰素材ソーセージ」をネギとともに串に刺し、焼いた、ネギマならぬギョニマを初手は塩で、続いてタレ焼きにしてもらうと、正直鶏肉を魚肉ソーセージに変更する事の妙味は、ホモゲナイズされた身に咬まされたラードが加熱により液化し、これが焼きねぎに風味を与えているところくらいしか見出せないうらみはあるものの、店長兼「焼き方」の腕前がいいので出来上がりはよく、炭火の薫香の助けもあり、ちょい弱めにガス圧が調整された酒の、壜の減りがより促進されない、事もない。

・ワインだから洋食

・焼き鳥だから清酒や焼酎

ひとは既成概念にとらわれがちである。

一方で、

・焼き鳥だって高級料理になりうる

・高級料理だからコース仕立てで

と、いう方向性は、なくはないが、それはよく言えば希少性、身も蓋もなく言ってしまえば「いろもの」の世界で、決してスマートとは言えない。

旨いものを拘泥しすぎず気軽に、しかし趣のある小奇麗なところで呑んで食べたいな、と考えたらこういう風になりました、といった風なのが当店であろう。

・西洋居酒屋（ビストロ　のザンク（Zinc：亜鉛びき）みたいなステンレス・ヘアライン仕上げのカウンタの止まり木に腰掛け、焼き場、というよりオープン・キッチンとでも言うべき厨房のあれこれを眺め

厳選された、とは言え必要十分なバリエイションを誇る赤白各種のワインをグラスで、或いはボトルで取り

主要の献立は「焼き鳥」であり、焼き方に優れ、調味に工夫のあるそれらは無論だが、おもわず「ほぅ」と唸りたくなる野菜物も二つ、三つとり

ひとりで、或いは／及び友人と、呑み且つ喰らいながらのんびりと時間を過ごす、というのは、決して悪い事ではない、と思う。

「夜の部」も良いが、週末限定の「カフェタイム」などもなかなか宜しい。

万事「程がよく」といって、凝ってない訳ではなく、が「凝っているのが凝って見えない」当店のありよう、分かった上でふわりと軽い気持ちで訪問すると、面白くない、こともない。