すこし強めの揚げ具合が香気を引き出す技 : 天ぷら小泉 たかの

素材に恵まれながらも天ぷらが根付いているとはいいがたい富山には貴重な店といえるでしょう．開店して日の浅いころに一度店の前まで行って入れず，棚上げになっていました．

土曜の11時少し前に電話を入れて，当日か日曜の昼に入れるか聞いたところ，さすがに当日は無理で，日曜日のお昼にうかがうことにしました．電話口で3500円のコースを注文．天丼はもうやっていないとのこと．好き嫌いやアレルギーも丁寧に聞かれます．

駐車場はアーバンプレイス駐車場が提携利用できます．地下駐車場の通用口から店まで15秒ほど．一部を除き立体格納式なので，車内に忘れ物をした場合，途中回収が困難です．この日車内にスマホを忘れたため，写真が撮れませんでした．

この駅北のアーバンプレイス地下には４店舗のレストランが営業していますが，日曜昼の人影は希薄で富山大丈夫か？と心配になります．

12時半に入店．店内は３組計約10名，5割ほどが埋まっている状態でした．

着席すると，飲み物を聞かれます．リストはビールは物足りないのですが，ほかは充実しています．地酒は林や勝駒，苗加屋など重要なものが抜かりなく揃えられています．そしてナパバレー Kenzo 農園のものなど，特にワインに力が入っているようです．

先付け
正月らしくふっくら煮上がった丹波黒まめに金箔が乗ってでてきました．
白木の箸はシャープに仕上げられており，煮豆一粒もつまみやすい自宅にも欲しくなる高機能な箸です．
らっきょう漬けで食べるサラダは先に食べてしまいましたが，天ぷらの途中の箸休めにしてもいいのかもしれない．


いよいよ天ぷらに入る前に，ネタを見せていただけます．ここでもう一度食べられないものがないか確認．細かい心配りがあります．天ぷらはIHヒーター，ステンレス揚げ鍋の合理的な体制で調理されます．場所的に火気が使えないのかもしれません．

天つゆは出汁が濃く引いてありうまいです．かつおが主体，昆布ほんのりという具合．これとおろしで酒が呑めそうです．それと塩とレモン．


活クルマエビ
車というよりサイマキのサイズで，一尾だと少々物足りないです．尻尾も食べられますとのこと．
脚はエビの風味が花開いておりコース中最も印象的でした．

茎ブロッコリー
こちらは穂先の部分がやや揚がりすぎではないかと思われた．焦げ風味で苦みがあります．
アスパラならば最良の結果だったでしょう．

しかし，一品目のしっぽまで食べられるクルマエビとこの揚がり過ぎた感の二品目で，調理の方向性がよくわかります．むしろ，方向性をはっきり示すために，序盤にあえて揚げ過ぎた演出？とすら思えるくらいです．

くせの少ない紅花油で種がすこーし色付くまで揚げ，素材から生臭さを飛ばして香ばしい風味を引き出す技巧．はー，なるほどなーと感心させられました．自宅で天ぷらをするときにも，もう少し勇気をもって揚げ込んでもいいのかもしれない，と思わせられました．


ほうぼう
刺身だと素性が見えにくい白身も，天ぷらにすると下味のない素材の本体もあらわになるようです．これも尾びれまで食べられます．小骨を一切感じさせない仕事がしてあります．

しいたけふつう

五郎島金時
強めの揚げ具合が効果的に作用して風味を向上させています．

小鯛
半身の半分はめずらしい甘味噌ダレ付きです．

あなご
やはりアナゴは天だねに好適と思わされます．ねっとりした皮目，弾力ある白身．

ごはん
天茶と天バラをいただきました．ミツバとエビのかき揚げか使われます．
天茶の吸地は出汁ではなく，目の覚めるような緑のお茶です．碾茶が配されているのでしょうか．白い茶碗に緑のお茶，白いゴハンの上にミツバの深緑とエビの赤が映える，見た目が美しい印象的な一杯です．摺りたてのわさびが天に盛られます．天茶は赤だしなし．

天バラはごはんとかき揚げとゴマのふりかけがザクザク混ぜ込まれたハーモニーという感じで，後を引くうまさです．何だこりゃうまいな，と思い出したのは，ローソンおにぎり空前の大ヒット商品，天かすと麺つゆを使った反則的B級味覚の悪魔のおにぎりです．アレのぜいたくバージョンでしょう．それをこの高級食材でやれば、うまいのはあたりまえでしょう。

香の物は赤かぶ甘酢．きゅうり，白菜．丁寧に造られています．

食後の抹茶ジェラートはふつう．抹茶がダマダマなのは意図したのか失敗なのかよくわかりませんでした．

昼の3500円コースだと，本体の天ぷらが少し物足りないかもしれません．野菜ももう少し欲しかったかも．

今回感じたこの物足りなさは，また行きたいと思わせる類のものでした．

カード可．