夫婦善哉の微笑ましい余熱でじっくり、自家焙煎豆を : ハミング

当初は内心、多くは期待していなかった。
何しろ近隣には日本一の「珈琲屋バッハ」を仰ぐ、珈琲先進特区＝荒川区サマなのである。

そちら本家の（2Kmは離れているが）縄張りで「自家焙煎」掲げるとは、まことにいい度胸なのである。
訪ねてみれば、店内はほとんどどこかの商店の仮事務所よう。
通りはさんだ対面には、たしかに日本共産党支部の地区事務所、ハミングさんのオーナーご夫妻もその党員みたいな（ｳｿｳｿ　笑）まじめで艶消しムードの控えめな方々だった。（ああ、シンパなのか。デマですが　笑）

ドアの突き当りには生豆が入った梱包袋が、ディスプレイでもなく、ずったりと何袋か横たわる。
生豆をここでハンドピックのうえ選別、焙煎をしているワケだ。
炒った直後の余熱を強制冷却する器具が少々頼りないかもしれないが、こちらの炒り方は概して軽めのロースト。
パンチや酸味よりもサッパリ系、これがお好みの火加減らしい。
よって、なめらかな呑み心地がお好みな豆ならなお、おススメできる。

とくにコロンビア系や、パナマ、我が家ではコスタリカのハニー（製法）処理ものが好物となって「我が家御用達」である。

お値段を聞いてひっくり返りそうになった。
多くは言えないが、これだけ（悪い豆。ひねた豆。火の入りすぎや、虫食い豆などの棄てるべき豆粒）ハンドピックが行き届いて棄てまくって選ばれた『（清酒でいう）吟醸』であるにも関わらず、コスタリカハニーが「100ｇで600円(20年1月現在)」。
これでも少々値上がりしちゃったのでｽﾏｿなのだ…そうである。

ひるがえって、本品をファーストクラスの店舗の焙煎士が炒って直売した・・・とすると、800～1600円（100ｇ）が相場である。

この業界の先達に、ボクはすでに多くの義理があるのだけれども、こちらのご夫婦の欲のないご商売っぷりには有り難いを通り越して、もはや「申しわけない」と感謝しながらコーヒー液をすする毎日だ。

ボクの「食べログ」（半分は強制的に「掲載削除」されて葬られる末路）執筆行脚の中には、最大限の敬意を込めてこの道のパイオニア氏に捧げる文が幾つもある。

その中で、そんな神髄師の店Bにやって来てコーヒーをすすり、同B名物自家製のシュークリームを、いかにも美味しそうに頬ばる＝業界では知らぬ者のない顔の有名フレンチシェフをボクが見つけると、
『いや、ここのシューのクリームが美味しくって、昼休憩の間にタクシーで来ちゃうんだ』と目尻を下げておられたエピソードを紹介した。（片道「初乗り料金」＋２００円か）

やはりBの扱うクリームベースはタダモノではなかったし、イカニモの理屈もあった（「バッハ」篇ご参照）。
それを洋食の大家だからこそ([良質のクリームの乳脂肪の])良さを知り、食べ分けている…ものだという、優良レストランシェフの選び方…その逆論法の種明かしへと結びつく理屈だ。

同じように、ハミングさんのコーヒーを我が家で戴きながら、期せずしてコーヒー液と同じ口腔内で合流する、モンブランやブリュレなどに含まれる洋菓子のクリームものの遭遇の相性。

それの優劣によっては、こちらがビックリするくらい、「コーヒー豆の旨さ」の良しあしにつられ、洋菓子に使用した「クリームの旨さ」がギュンと屹立したり、逆につぶされたりするといった、男女の仲みたいな出逢いがある。
コーヒー君とクリームベース嬢…の相性
この二名の「非予想な化学反応（ケミストリー）」が嬉しい。
『１＋１イコール２』しか知らないで生活しているボクらのひと時に突然やってくる、『１＋１イコール３とか４』という意外な化学変異ぶり。これがサプライズ。

ハミングさんは、開業されてまだやっとこさの３年。
まだ、計算ずくでそうした豆の高めあげ方を狙って炒る・・・までは未だ途半ばである。
コーヒー豆のブランド銘柄と、その各々の持ち味、引き出すべき風味を『炒る度』ごとに維持しようとすることで、ご夫妻は汲々とするばかりだ。（それはどちらさんも多かれ少なかれ到達点はないようなものだろう）
だけど、お二人の宝は何よりも真面目でひたむきであるという取り組む商売への姿勢だ。

先日もあった事だが、ウチがまとめてお願いしているわが「ハニー」豆（コスタリカ産）が、一定期間供された品は、バカに風味を失って雑味の混じる別？個体となっており、しばらくガマンの挙句、当方から具体的に不審点につきクレームを入れる事へまで行きついた。

結局ご夫妻は、クレームを受けあれこれと仕入れ先までたどることになり、我が家ともども一緒になって対処法をひねり出し、ようやく以前と同じようなレベル＝正常化までこぎ着けたばかりだった。

それがいつの日か神経すり減らす気苦労からも解放され、「ハミングのコーヒーにはこのクリーム…」と味わえる安寧の日が、一刻も早く来たらんことを、ボクは共産党事務所の影に隠れてひそかに応援する毎日なのである（笑）。

★★★★★★それから、ここで買い物をする場合、小銭を豊富に持参しておくこと★★★★★★
こちらはお勘定の際、「一杯分の”なんか別の豆”」等を袋に入れてサービスしてくれたりするが、仮に『５０１０円』という請求の場合、端数の『10円』を絶対に負けるようなことはしない(笑)からそのつもりで。金銭感覚については人間性とは別の問題だからだ。
残念だけど・・・そんな豆要らんのだけどね(笑)

＊ちなみに、『ハミング』店頭でもコーヒーを紙ドリップでイートインとして戴ける。価格も「実費」みたいなものだ。
そして、本棚の目立つところに珈琲道の聖者＝（バッハオーナーの）田口護氏著　「珈琲大全」が閲覧できるよう飾られている。

「写真」のハニー袋入りは『200g』パック。小売りは「100g」単位で350円～800円まで各種ある
★★★★★★豆まとめ買いの場合は、あらかじめ電話で問い合わせて、炒りたてを尋ねておくのが、より良いおつきあいのコツだ。

なお、「2022年早々」に何より頼りのご主人が他界なされてしまった。
あれからも他に浮気することなく、我が家の珈琲はハミングと憲法に定めてあるのでわき目振らず通っている。

最後に、残された奥様へ［…XXさんは『こんな焙煎具合が好きといっておられた』という情報と炙り具合などを、常連客別に各豆の性格をメモしておく]と、お一人になっても大変助かると思う。この小さな努力は欠かしてはいけない。