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一見奇を衒った種物でも、基本の仕事がしっかりなので味の面でも納得
この暑さでは遠出は億劫。
そんな時には勝手知ったる近場の蕎麦屋が一番。
こちらも最近はすっかり人気が定着し平日でも時分時は混んでいるため、少し時間をずらした13時半過ぎに地下への階段を降りる。
それでも半分ほどのテーブルが塞がり、さらに私の後からもパラパラと入店客が居る状況。
定席である打ち場の前のカウンター席を選ぶ。
何はともあれ「生ビール」で一息つく。
肴には'本日の酒肴'から2品を注文。
「カブの柚子入り甘酢漬け」:薄切りの蕪は「聖護院かぶら」と言わないまでも、それに似た柔らかい食感。
酢の加減は甘さがやや強いが、混ぜられた柚子皮の細切りの香りが爽やか。
「白海老唐揚げ」:旬ものの白海老がバラ揚げにされており、軽く塩が振られている。
やや油が草臥れているのか色が少しくすんでいるが、味や食感は問題なく美味しい。
肴にはもう一品、定番の「クリームチーズの味噌漬け」をもらうが、甘さが少ないため食べやすく舌触りも良好。
ビールは直ぐに蒸発し、続いて「ハイボール」をもらう。
さらに「陸奥八仙」を半合のグラスで追加。
これらで、暫しの寛いだ蕎麦前を楽しむ。
14時半のⅬ.O.が近づき、蕎麦を注文。
今回はちょっと遊んでみようと「鳥と茄子のピリ辛坦々つけせいろ」なる変わり種を選択。
一式が角盆で登場し、まず大き目の小鉢に張られたつゆに目を向ける。
表面は辣油の赤味は少ないが煎り胡麻と糸唐辛子・青葱などが散らされ、結構辛そうなビジュアル。
つゆには炒めた豚ひき肉が入り、それに練り胡麻が加えられていると思われる。
具材には腿肉をロール状にした蒸し鶏の7.8m幅の輪切りと、胡麻油で炒めた茄子や葱がたっぷりと入っている。
先に少し口に含んでみると、かなり濃厚だが極端な辛さは無くそばつゆがベースなので無理のない味わい。
これに精妙に茹で上げられて蕎麦を浸すが、どっぷり沈めるようなことをしなければ蕎麦の風味も爽快な喉越しも楽しめる。
豊富な具材を合間に摘まみながら啜るのは、中々面白かった。
蕎麦湯はさすがに直接小鉢に注ぐには無理があるため、空の蕎麦猪口に少しずつ移して割り、辛さと共に深みのある味わいを楽しむ。
結局ほとんどのつゆを飲み干してしまったが、満足感は十二分。
ここ10年ほど前から刺激的なつゆで蕎麦を食べさせるスタイルが流行り出し、私も話の種にとそのパイオニアと言うべき店はじめ数軒に寄ったことが有るが、決して良い印象は無かった。
つゆは甘みが勝った味の濃さに辛味が添加されており、それに対抗するように太めに打たれた蕎麦はゴワゴワの食感が際立っていた。
両者の個性がぶつかるようなスタイルはとうてい美味しいとは思えず、麺が蕎麦である必然性のない代物で、店内の異様な雰囲気と共に悍ましい記憶が強く残っている。
今回試したこちらのピリ辛のつけ汁も、一見するとこれらと同類と思われるかも知れないが、つゆのベースがしっかりしているため違和感は少ない。
蕎麦も濃厚なつゆにも見合うだけの力があり、偶にはこういったものも面白いなと思える遊び心をむしろ評価したい。
今回はやや変則的ながら、夏場に相応しい蕎麦屋酒を堪能。
今月の変わり蕎麦は「むらさき芋きり」
ゆっくり時間がとれないが、きちんとした蕎麦屋酒で寛ぎたい。
そんな時は勝手知ったる馴染み店に限る。
昼に2時間ほどの合間を作って出向く。
12時少し前で混んでいるかなと思ったが、平日のためそれほどでは無かった。
座り慣れた打ち場の前のカウンター中ほどの席を選ぶ。
まずは生ビール(一番搾り)をもらう。
口開けながら注ぎ方も上手で美味い。
肴には刺身類も気になったが、こちらの2品を注文。
「お魚の南蛮漬け」:魚はイシダイとサワラで、一口サイズにカットして油で揚げて熱いうちに南蛮酢に浸け込まれたもの。
酢には玉葱・茗荷・大葉の繊切りがたっぷり混ぜ合わされており、上には青葱の小口切りが散らされている。
酢の加減が穏やかで魚の持ち味が生きており、程よく馴染んだ香味野菜の歯触りも良い。
結構な食べ応えで580円は安い。
「きのこの天ぷら」:4種の茸(舞茸・椎茸・しめじ・エリンギ)が2個づつ、薄目の衣でカラッと揚がっている。
おろし入りの天つゆで食べるが、旨味が上手に引き出されておりそれぞれの食感が楽しい。
特に舞茸天の美味さが光り、こちらもボリュームが有り750円は安い。
酒は栃木の銘柄を2種、半合ずつもらう。
「若駒」は文字通りフレッシュな口当たり。
「辻善兵衛」はきりっとした辛口ながら、ふくよかに広がる味わいが秀逸。
これらで快適な蕎麦前を満喫。
こちらでは季節感が盛り込まれる変わり蕎麦を月ごとに打っているが、今の時期は「むらさき芋切り」。
私にとって初めてなので、蕎麦にはこれを交えた「三色そば」を選択。
3種が1つの笊に盛られて登場。
「むらさき芋切り」は文字通り紫芋を練り込んで打たれているが、綺麗な色合いで細目に揃っており、仄かに芋の風味が感じられくっきりとした歯触りも良好。
これには専用のポタージュ状のつけ汁が添えられているが、控えめな塩気と微かな甘みで蕎麦に上手く合うように工夫されている。
もちろん「せいろ」も「田舎」も相変わらずの出来栄え。
つゆの出来も揺るぎなく、むらさき芋切りをこちらで食べても美味しい。
さらっとした蕎麦湯を双方の蕎麦猪口に注ぎ全てを飲み干せば、充足感が五体に染み渡って行く。
気の利いた肴の出来と卓越な蕎麦打ちの技には、毎回感心させられる。
特につけ汁にまで工夫が凝らされた「変わり蕎麦」は楽しみ。
平日の昼にこんな気持ちの良い時間を過ごせるのは、まことに有難い。
今年もお世話になります
新年の挨拶がてら訪れたのは、ここ数年私の蕎麦屋巡りの軸となっているこちら。
松の内の6日の昼、予想外の雪が舞い散る中を向かう。
最近は混んでいることが多いので、時間をずらした13時半ごろに入店。
外は冷蔵庫の中のような寒さながら、地下へ降りて重い扉を開けた中は温かい空気と雰囲気が溢れている。
ご主人夫妻に歓待されて、座り慣れたカウンター中ほどの席を占める。
広々としたフロアーの正面には、正月らしい飾りつけが施されている。
熱燗とも思ったが、やはり生ビール(一番搾り)で始める。
肴には'おすすめ'から「牛すじ煮込み」をもらう。
小丼ほどの器には、味噌味と思われる茶褐色の煮込みがなみなみと張られ、上にはたっぷりの白葱の小口切りが盛られている。
箸で中を探ると牛肉は筋だけでなくバラ肉の角切りもコロコロと現れ、他にじっくり煮込まれた大根・牛蒡・蒟蒻、さらに豆腐も姿を見せる。
赤味噌仕立ての見た目はかなり濃厚で、実際にもコラーゲンが溶け込んでとろみも強いが、ほど良い塩気で甘味も控えめなので案外あっさりしている。
まるで和風ビーフシチューの趣で、豊富な具材をつまみ、さらに旨味たっぷりの煮汁も蓮華で余さず頂く。
これで580円は安い。
酒には最近人気の三重の「作」を1合もらう。
口当たりは爽やかだが、奥行きのあるしっかりした味わいが「牛すじ煮込み」に良く合った。
肴には定番の中から「ちくわの磯辺揚げ」を追加。
こちらには何度も通っているが、このメニューは小学校の給食で出て来たイメージが有るので今まで頼まなかったのだが、供されたのは瀟洒な一品。
上物の小振りの竹輪が、青海苔粉をたっぷり混ぜ込んだ天ぷら衣を纏わせてからっと揚げられている。
青海苔の風味が効いていて、レモンを絞っても添えられた天つゆのどちらでも美味い。
酒に静岡の「志太泉」を半合で追加し、ゆるりとしたひと時を過ごす。
蕎麦はこちらも'季節のおすすめ'から「たまごとじそば」を選択。
「花巻」のように蓋付きの丼で登場し、薬味には葱の他に摺り生姜と刻み海苔が添えられている。
おもむろに蓋を開けると湯気とともに出汁の香りが芳しく立ち上がり、表面は細かな襞を寄せたレモンイエローの玉子に覆われている。
まずは蓮華でつゆを掬うと、優しい味わいに思わず笑みがこぼれる。
玉子をかき分けるように蕎麦を手繰ると、しっかりと食感が保たれている。
玉子はしっかりした火通りだが、黄身と白身が完全に混ざっていないので舌触りの違いも面白い。
途中で刻み海苔や生姜、さらに七色を振り入れて味を変化させるのも楽しい。
当然ながらつゆまで全て飲み干して、満足感に浸る。
この時期ならではの、身も心も温まる「蕎麦屋酒」を堪能。
石神井では「きくち」も面白いがちょっとマニアックで、こちらは誰にでもお勧めできる優等生的な店。
我が家の近所にも歩いて行ける所に、「じゆうさん」「野中」「法師人」「ふる井」と言った名店が揃っているが、雰囲気や接客面に秀でたこちらが寛げる点では一番である。
「蕎麦屋酒解禁」の本格的始動は、勝手知ったるこちらで
9月末で緊急事態宣言が解除になり、一応飲食店の酒提供が許容されることとなった。
私が食べ歩きの拠り所としている「蕎麦屋酒」も晴れて解禁となったが、いざそうなると訪れたい蕎麦屋が多すぎてどこから廻ろうか考えあぐねる。
一方で世の中が動き出すとそれなりに日常生活も忙しくなり、遠出はなかなか難しい状況。
そんな時はやはり、近場の勝手知ったる処に限る。
実はこちらを初っ端にと思ったのだが、最近こちらも土・日はかなり混むため、それを避けた週明けの昼に時間を作って向かう。
口開け直後に入店すると初客で、座り慣れた打ち場に臨むカウンター席を選ぶ。
ご主人に訊くと案の定、土・日は此処を先途とばかりに押し掛けた客で大混雑だったそうだ。
流石にこの日は後客はパラパラの状況で、ゆっくり出来そう。
まずは生ビール(一番搾り)をもらう。
女将さんから別書きの'本日の魚肴'も手渡されたが、やはり昨日までに大量に出てしまったために用意できないものも有るようだ。
選んだものは次の2品。
「アボカドの漬け」:何度も頼んでいるが、こちらの名物と呼べる逸品である。
かえしに半割のアボカドが浸されており、今回はかなりしっかりした漬かり具合で味が良く染み込んでいるが、その分ねっとりとした食感が楽しい。
添えの柚子胡椒にも塩分が含まれているので、加減して使う。
「秋刀魚塩焼き」:'本日の魚肴'から気になったので頼んでみた。
今年は秋刀魚が不漁で値段も高いと聞いていたが、少し安定してきたようだ。
登場した皿には、行儀よく真直ぐに焼かれたやや小ぶりの一尾が横たわっている。
焦げ目も綺麗で、出会い物の大根おろしがたっぷり添えられているのが嬉しい。
やはり不漁のせいか脂の乗りは今一だが、パサつくことなくふんわりとした火通りが好ましい。
適度な苦みのはらわたも美味しく、醤油を垂らした大根おろしと共に、頭と中骨を残すだけで全て食べ尽くす。
酒には「栄光富士」を一合。
すっきりした飲み口が好ましい。
ご主人はサービスで北海道旅行で手に入れたという小樽の「宝川」という銘柄も、ぐい飲みでサービスしてくれた。
蕎麦はどうしようかと思うが、今の時期の'変わり蕎麦'は「けし切り」とのこと。
けし切りは「一茶庵」の変わりそばの仕事の中でも茶そばと並んで古く、総帥の片倉康雄氏が広めた伝統のスタイル。
その昔に高橋邦弘さんのけし切りも食べた記憶があるが、今でも「禅味会」系の蕎麦屋では定番となっている。
何度も通いながらこちらでは初めてで、今回は「けし切り」と「せいろ」の「二色」でお願いする。
笊に2種が並べられて登場し、つゆは普通のつゆの他に変わり蕎麦用の「塩だれ」も添えられている。
「けし切り」は更科粉の白さに黒い粒々が散らばる、正統的なスタイル。
敢えてやや扁平の太めの切りにしており、噛めば芥子の香ばしさが楽しめる趣向。
「せいろ」も相変わらずの良い出来。
つゆの奥深い味わいも安定している。
けし切りは塩だれでも試したが、これには普通のつゆの方が合っているような気がする。
もちろん塩だれそのものは良い出来で、蕎麦湯を双方の蕎麦猪口に注いで最後の一滴まで美味しく飲み干す。
この日は比較的空いていたので、ご主人とは少し話をすることが出来た。
やっと平常に近い営業スタイルに戻ったとは言え、長い自粛期間の中で変節を余儀なくされた蕎麦屋事情について意見を交わす。
私も気になっていたのだが、ご主人が「蕎上人」で同門だった都立大学の「存ぶん」が、最近になって店を閉じてしまった。
あちらは今年の春に絶好の「花見酒」を楽しんだ記憶が新しく、立地も良く繁盛していたはずだが、別に居る経営者の意向でこんな仕儀に至ったようだ。
まことに残念でならないが、このご時世で表面的には分からない事情が潜在していたと思われる。
他にも思い返せば高齢のご夫婦や家族だけで賄われていた蕎麦屋で、コロナ禍を切っ掛けとして止めてしまった老舗が結構ある。
中には協力金を貰うことで営業中止でも逆に潤った店も在ると聞くが、個々の状況の把握を怠った大雑把な政府の対応が招いたことで、これに税金が使われたことに憤りを感じる。
そんな一部の店をよそに粗方の処は苦境に立たされており、そういった店を支援する意味でも積極的に食べ歩きを再開したい。
飲酒解禁に伴い昼でも大盛況。「冷やし鴨南」に妙味
飲酒が解禁となり「蕎麦屋酒」が再開となれば、やはり外せないのはこちら。
日曜日の口開けを狙って向かうが、開店より5分ほど前に到着して待ち客が2組4人。
慌ててその列に加わるが、私の後にもすぐに2.3人が続いた。
定刻に開いて地下への階段を降りていくが、並んでいた面々ですぐに満席となってしまった。
と言うのもテーブル席のほとんどに予約が入っており、カウンターも席数が減らされているため、もう少し遅ければ席が確保できなかった。
こんなご時世でも人気店であることが分かる。
いつものように生ビール(一番搾り)で始める。
肴には別書きになった'本日の魚肴'から2品。
「えんがわユッケ」:鰈と思われる縁側をコチュジャンや胡麻油で調味されたものに、ウズラの卵がトッピングされている。
出来合いと思われるが、吟味されていることが分かる。
下にオニオンスライスを敷くひと手間が好ましく、ほど良い辛味で酒が進む。
「お魚の天麩羅」:魚の種類は日によって異なり、この日は「マツダイ」とのこと。
マツダイとはあまり聞いたことの無いため後で調べてみると、見た目はクロダイを厳つくしたような姿だが、実際は鱸の仲間とのこと。
淡白な白身で、梅塩と濃い目の天つゆが付いたがどちらでも美味しい。
酒には'日本酒限定品'から、まず「相模灘」を半合で、その後「奈良萬」を1合。
いずれもお勧めだけあって、中々の満足感。
さらに肴に軽いものをと「クリームチーズの味噌漬け」をもらうが、適度な歯応えと甘みの無い味わいが好ましい。
活気に満ちた店内を見回しつつ、ゆっくりと蕎麦前を楽しむ。
蕎麦はどうしようと思うが、別書きになった「冷やし鴨南」が目に留まる。
このメニューはご主人の修業先の「蕎上人」でも2.3年前から出すようになったと記憶しており、面白そうなので頼んでみる。
運ばれた大振りのガラス鉢の景色は、結構な量の抱き身の薄切りと短冊切りの葱や茄子が表面を覆い、上には緑鮮やかなサヤエンドウが放射状に並び、貝割れ菜がたっぷりと盛られている。
これに冷たいつゆが張られた、独特のスタイル。
鴨肉に旨味あり野菜も鴨の脂で炒められているのでコクがあり、つゆにもその脂と味が加わっている。
蕎麦を引き上げるとシャキッとした歯応えが好ましく、旨味の濃いつゆを纏ってなかなか美味い。
この時点で酒は尽きていたが、この蕎麦を前にしてもう少し飲みたくなり「ハート天明」を半合追加し合わせる。
つゆの温度が冷た過ぎないので脂が固まるようなことは無いが、やはり舌や唇に纏わりつく脂っぽさは否めない。
これには賛否が有ると思われるが、私は決して嫌では無い。
途中から粉山椒や七色を振り入れて、味を変化させながらスルスルと完食。
蕎麦湯用に空の蕎麦猪口が出され、蓮華でつゆを移して蕎麦湯を注ぐ。
旨味たっぷりのつゆを割っていくらでも飲めそうだが、さすがに全部平らげるのは無理だった。
ちなみに後で「蕎上人」の「冷やし鴨南」を確認するとスタイルはほぼ同じだが、値段はこちらの方が300円安い。
今回も中々楽しい時間を過ごせた。
休日なので蕎麦を手繰る前に、一杯やることを目的の客がほとんど。
また家族連れなども多く注文も複雑だが、それに応え得るだけの安定した仕事ぶりが貫かれているのは立派。
今回の「冷やし鴨南」のように、新たな種物への挑戦も好感。
これからは平日を選んで、よりゆっくりとこちらの魅力を堪能したい。
今年もスタートはこちらの蕎麦屋
新年初回のレビューは、昨年私が最もお世話になったこちら。
正月は2日から昼~夕刻に限って開けていることを知り、3日の午後に足を運んでみた。
このくらいなら空いているかなと14時半ごろに到着したが、店内はほぼ満席で入口には奥のテーブルの空きを待っているグループもいる状況。
一人の私は偶々空いていたカウンター手前の端に通される。
忙しいながらもすぐに気付いてくれたご主人夫妻と挨拶を交わす。
まずは生ビールで始める。
肴には今回は定番から2品を注文。
「鴨ロースト」は抱き身が丁寧に焼き上げられており、歯応えはしっかりだが噛めばジューシーな旨味がほとばしる。
添えは白髪ねぎとオニオンスライスの葱2種が添えられる点が面白く、掛けられている塩だれも良い味。(ちなみに4切で頼んだが実際に出されたのは5切で、他に別の料理も一品サービスしてもらった)
「アボカド漬け」は半割のアボカドが'かえし'に漬けられており、ほど良い熟し加減の実を使っているため、味の染み込み具合も食感も好ましい。
添えられた柚子胡椒が良いアクセント。
酒は'おすすめの限定品'から、2種類を選択。
まずは大分の「ちえびじん 彗星」を1合で頼むが、やや甘口ながら微発泡のため軽い酸味もあり爽やかな口当たり。
次いで青森の「陸奥八仙 新春祝い酒」を半合のグラスでもらうが、香り華やかできりっとした味わい。
蕎麦は変わり蕎麦は'えび切り'だが昨年試したため、今回は「せいろ」と「田舎」が盛り合された「二色」を注文。
シャキッとした歯触りと小気味よい喉越しの「せいろ」、武骨だが噛みしめると香りと甘みが溢れる「田舎」ともに良かった。
つゆのバランスの取れた味わいは、双方の蕎麦に良く合うように考えられている。
徳利で出されるひと手間もゆかしく、残ったつゆも自然体の蕎麦湯で割って余さず飲み干し、満足感に浸る。
新年早々、気持ちの良い「蕎麦屋酒」が楽しめた。
入り口脇のやや落ち着かない席だったが、居心地の悪さを感じさせないのは流石。
この日は奥の厨房にご主人を含め5人の男性陣、ホールも女将さん含めて4人の女性陣で万全の体制が取られており、煩雑な注文にもそつなくこなしていく光景は見ていて気持ちが良いほど。
こんなご時世で食べ歩きをするにも、遠出をしたり勝手の分からない店に行くことは憚られるが、近くに安定した仕事が約束された店があるのは喜ばしいこと。
今年も何回か足を運ぶことは確実。
こんな時期でも安心して寛げる蕎麦屋
信頼のおける蕎麦屋への定期訪問。昼に時間を見つけて足を運ぶ。
12時少し前で、テーブル席の半数はすでに埋まっている。
女将さんに促され、私はいつものカウンター中ほどの席に通される。
厨房にはご主人のほか3人の職人の姿が見え、ホールは女将さんとベテランの花番さんという盤石の体制。
まずは「グラスビール」をもらい、乾燥ぎみの喉を潤す。
女将さんから別書きになった「本日の魚肴」の紙片を手渡され、その中には'豊洲直送'が付された旬の刺身も並んでいる。
まずは「刺身二点盛り」を、宮崎産の「イシダイ」と福岡玄海産の「アオハタ」で注文。
暫しの後に運ばれた皿には4切ずつが盛り合されており、包丁技の冴えが感じられ、添えのつまなども丁寧な仕事。
ともに綺麗な白身だが、ほど良い歯応えで噛みしめると旨味がしっかり感じられる。
燗酒が欲しくなり'日本酒限定品'から「玉川 純米 にごり」をもらう。
メニューには'燗も◎'となっていたが、にごりが思ったより強く白酒を温かくしたようになってしまい、これはちょっと残念だった。
肴にはもう一品「きのこの天麩羅」をもらう。
内容は椎茸・エリンギ・平茸・舞茸が2個ずつで、衣の具合も揚げ加減も上々。
それぞれの食感と味わいの違いが楽しく、ピンク岩塩でもおろし入りの天つゆでも美味しい。
これには「大倉 山廃特別純米」を半合でもらい合わせるが、こちらはすっきりした味わいが良かった。
蕎麦には最近切り替わった変わり蕎麦の「抹茶切り」も気になるが、偶には違ったものをと温蕎麦の「やまかけそば」を選択。
運ばれた大鉢は調味されたとろろで覆われており、表面には青海苔と三つ葉の緑がアーティスティックに配され、別に生のウズラの卵が添えられている。
とろろは冷たいが熱いかけつゆと融和することで、玄妙な口当たりと味加減を見せている。
その中で蕎麦はある程度の歯応えが保たれ、とろみを纏った舌触りが心地よい。
さらに敢えて残しておいた舞茸天を投入して絡めると、なかなか面白い食感が楽しめた。
蕎麦を啜りつゆまで全て平らげて満足至極。
今回も期待通りの快適な時間を満喫。
訪れるたびに安定した実力が備わっていることを実感。
一時に立て込むことは無いが客の入店に途切れの無い状況で、近隣の方々に強く支持されていることが窺える。
今回改めて応対ぶりを眺めると、女性陣から客席の状況が常に厨房に報告され、提供のタイミングが見計られていることが分かる。
表と奥のこういった連携も、客にとっての安心感と居心地の良さに繋がっていると思う。
遠出はせずとも近場に寛げる蕎麦屋が在るのは嬉しい限り。
再燃し始めたコロナ禍のご時世では、特に有難味を感じる。
この時期でも開けているのは有り難い。'三密'ではない空間でいつもながらの優雅な時間を過ごす
前日(4/7)に発せられた「緊急事態宣言」により、多くの飲食店が休業を余儀なくされている。
昨晩も4月下旬に予約を入れておいた銀座のレストランから、営業を続けたい気持ちは有るものの入居しているビル自体が閉鎖されたため、キャンセルを申し出る電話があった。
楽しみにしていただけに実に残念だが、お店にとっては切実で誠に気の毒に思う。
何処かの蕎麦屋に寄りたい気持ちが頭をもたげるが、都心方面にそれだけの目的で出掛けるのは控えるのが順当。
馴染みの蕎麦屋で夜の営業をやめて昼だけにしている処や、逆に呑ませることを主眼にして夜のみ開けていた店が、苦肉の策で昼の営業に移行させたケースなども聞き及んでいる。
応援してあげたい気持ちはあるものの、敢えて訪れることには二の足を踏んでいる。
そうなると近場と言うことになるが、ふとこちらのHPを覗いてみると夜の営業時間は短縮するが昼は通常通りとのこと。
そうなれば気もそぞろとなり、開店時刻に合わせて下り電車に飛び乗る。
降りた石神井公園の駅周辺は、人の動きは普段とあまり変わらないように見受ける。
11時半の2.3分前に到着すると一番客だったが、その後にすぐに数名が続いた。
入口には女将さんが待機しており、手指の消毒用のアルコールを勧めてくれた。
私の定席である、カウンター中ほどの「C4」の席を占める。
奥からはご主人が挨拶に出てきてくれたが、スタッフも全員揃っているようだ。
こんな時期に昼から不謹慎と思われる向きもあろうが、私の目的は当然ながら「蕎麦屋酒」である。
まずは「生ビール」で始める。
肴には女将さんから品書きに載っていないおすすめが口頭で告げられ、その中から4月1日から富山湾で解禁になった「白海老のから揚げ」をもらう。
軽い食感と香ばしさ、確かな旨味が好ましい。
ビールジョッキは早々に空になり、酒をもらおうと'日本酒の限定品'と記された品書きを眺める。
面白そうな銘柄が並んでいるが、その中から説明書きの'鬼退治・邪気払いの神事に因む酒酩'という、この時期に相応しい文言が目に付いた「天吹 龍王 うるとらDRY 鬼夜」を選択。
口当たりは爽やかだが、奥行きのある味わいが良かった。
肴にはもう一品、定番から「長芋のわさび漬け」を追加。
薄目の輪切りにされた長芋が山葵醤油で漬け込まれており、仄かな辛味とシャクシャクとした食感が好ましい。
後客は地元の常連さんがちらほらと言う状況で、暫しゆるりとした時間が流れる。
蕎麦は季節の'変わり蕎麦'は「さくら切り」が気になるが、以前に試したことがある。
偶には違ったものをと温蕎麦の「鴨南蛮」を選択。
それに合わせて「常山 超辛 純米」を半合のグラスで追加。
しばしの後に運ばれた丼の景色は、それほど厚みの無い抱き身のスライスが5.6切れとたっぷりの葱が表面を覆い、結び三つ葉と柚子皮が色と香りを添えている。
鴨肉はしっかり目の火通りでジューシーさは無いが適度な噛み応えが好ましく、その味がつゆに深いコクを与えている。
多めの葱も嬉しいが、暖冬の影響かこの時期にしては育ちすぎているようで少し硬かった。
蕎麦はある程度の食感は保たれているが、熱いつゆの中で次第に損なわれてしまうのは仕方ない。
しかし元々しっかりとした江戸前の出汁に、鴨の旨味が加わった濃厚なつゆを味わうのがこの種物の醍醐味。
鴨や葱を摘まみ蕎麦を啜り、さらにつゆを少しずつ含みながらの冷酒は実に美味い。
最後は丼を傾けて、全てを飲み干せば充足感が染み渡っていく。
期待通りの快適なひと時が過ごせた。
この時期でも普段通りの仕事振りが維持されており、満足度の高さは何ら変わることは無い。
閉塞感が漂い始めた日常で、こういった安らぎの時間は貴重である。
こちらは地下店舗ながら広々としてテーブル配置や席の間隔にゆとりがあり、よほど混まない限り'三密'とはならない。
実際の入店客の誘導も、離れた席から埋めていく配慮がゆかしい。
勝手知ったる馴染みの店が、この難局に際しても開けていてくれるのは嬉しい限り。
安定感と共に、安心感も兼ね備えた信頼のおける佳店である。
年明け最初の変わり蕎麦は「海老切り」
こちらは昨年私が一番お世話になった蕎麦屋。
新年の挨拶も兼ねて、正月休み最後の日曜日の昼に訪れる。
新年第一弾の変わり蕎麦が「海老切り」であることは、事前に確認してある。
開店時刻の数分前に、地下へ降りる入口前に到着。
一番客だったが、すぐ後ろに5.6人が続いた。
定刻になり階段を降りていくと、ご主人夫妻が明るく出迎えてくれた。
他の方々も常連のようで、私同様に皆さん新年の挨拶を交わしている。
いつものようにカウンター中ほどの席を選ぶ。
まずは「小さい生ビール」をもらう。
肴には別書きの'本日の魚肴'が魅力的。
そちらから2品を頼んだが、少し時間が掛かるためかご主人は気を利かして、先に「中トロの刺身」をサービスしてくれた。
既定の分量より少な目とは思われるが、鮪の質は上々。
本山葵のおろしを添えた醤油で味わえば、口福の極みである。
これには燗酒が欲しくなり「黒牛」を熱燗につけてもらう。
キレの良い辛口が心地よい。
そうこうしているうちに注文の2品が登場。
「まぐろ串カツ」は一口サイズにカットされた鮪の身と筒切りの葱が、串に刺してフライにされたものが3本。
細かめのパン粉が綺麗な揚げ上がりで、サクッとした食感も好ましい。
特製のとんかつソース風のタレが付いているが、刺身に添えられた山葵醤油で食べても美味しかった。
「煎り銀杏」はやや小粒で少し焦げた部分もあったが、味は悪くない。
指先で割って一粒ずつ味わうのは、なかなか楽しい。
酒の追加に、正月に相応しい「陸奥八仙 新春祝酒」を選択。
フルーティーさの後に芳醇な味わいが広がり、いたく満足。
蕎麦の前に、この時期限定で出している「けんちん汁」をもらう。
じっくりと煮込まれた里芋・大根・人参・葱・蒟蒻・豆腐・油揚げがたっぷりと入った汁もので、味付けは'かえし'が入っているのか少々甘目であるが、胡麻油の香りが心地よい。
一杯やる客には有難い一品で、身も心も温まるほのぼのとした味わい。
蕎麦はお目当ての「海老切り」を注文。
桜海老を細かに挽いたものを加えて打たれており、ピンクの色合いが美しい。
手繰って鼻を近づければ香りが芳しく、噛んでみるとくっきりとした歯触りの中にかすかに海老の味が感じられる。
つゆは普通のつゆと専用の塩だれの2種類が付いており、どちらでも美味い。
蕎麦粉と粉末の海老との配合などには、入念な試行錯誤があったと思われるが、完成度の高い逸品に仕上がっている。
双方の猪口のつゆを、自然体の蕎麦湯で割って全てを飲み干す。
ご主人夫妻んの気遣いのおかげもあったが、期待通りの満足度の高い「蕎麦屋酒」を楽しめた。
これからも大事にしたい一軒である。
今回の変わり蕎麦は「かぼちゃ切り」
こちらの「変わり蕎麦」はほぼ月ごとに一新され、季節の色や香りが織り込まれるため目にも舌にもなかなか楽しい。
さらにこちらでは蕎麦に趣向が凝らされているだけでなく、つけ汁にもそれに相応しい工夫が施されるのが特徴。
好天に恵まれた日曜日の昼、今回も「変わり蕎麦」を含めた快適な「蕎麦屋酒」を期待して訪れる。
11時半の開店より5分前に到着すると、表に出された看板に'変わり蕎麦に「かぼちゃ切り」始めました'の文字が見える。
最近はこちらも人気店となり、その時点ですでに5人ほどの待ち客が地下への階段前にたむろしているのにちょっと驚く。
定時に花番の女性が下から上がって来て開店を告げると、ぞろぞろと階段を降りていく。
女将さんに明るく出迎えられて、私の定位置であるカウンター中央の席を占める。
目の前の打ち場で作業に専念していたご主人も、すぐに気づいてくれた。
スタッフはホールは女将さんともう一人、奥にはご主人を含め4人の職人の姿が見える。
いつものように生ビール(一番搾り)で始める。
料理は定番から選ぶつもりでいたが、女将さんは'こちらもどうぞ'と「本日のおすすめ」の紙片を提示してくれた。
折角なので、この中から2品を選択。
「酒盗チーズ」:酒盗の風味を抽出したものとクリームチーズを合わせ、柔らかめに寄せられている。
酒盗のクセをチーズが円やかに包み込んでおり、添えられた蕎麦チップスに乗せて味わう。
大泉学園の「むら季」でも似たようなものを出しているが、蕎麦屋の肴としては好ましい一品。
「白海老唐揚げ」:白海老の旬は春先から夏と思っていたが、最近はこの時期でも出回っているようだ。
姿のままサクッと揚げられ、軽く振られた塩と国産レモンを絞れば実に美味しく、これが480円とは信じられない価格。
酒には燗酒が欲しくなり「諏訪泉」をぬる燗につけてもらう。
さらにご主人からのサービスとして、半量ほどの「真鯖のしめさば」が出された。
しめ具合は浅めだが、鯖の旨味が引き出されている上々の仕上がり。
添えられた山葵も本物のおろし立て。
酒に「英君」を半合のグラスでもらい、充実した蕎麦前を楽しむ。
開店直後に半数ほどの席が埋まると、予約客を含めて近隣と思われる皆さんが続々と入店。
人手が十分で食事のみの客も多いため回転は悪くないが、団体で訪れた地元商店街の面々は、諦めて帰っていくほどの状況。
しかし明るく広々とした店内に慌ただしさ無く、ゆったりとしたカウンター席の居心地は良い。
蕎麦は当初の予定通りに、変わり蕎麦の「かぼちゃ切り」を注文。
運ばれた角盆には、鮮やかな山吹色の「かぼちゃ切り」とともに、2種類のつゆ(徳利に入った普通のつゆと、南瓜で作られた専用のつゆ)が並んでいる。
まずは「かぼちゃ切り」だけを2.3本噛んでみると、しっかりとした歯応えの中に仄かにかぼちゃの風味が感じられる。
まずは普通のつゆで啜るが、上品な出汁の香りとすっきりとした味わいで、これだけでも十分に美味しい。
さらに専用のつゆに浸けるが、裏漉しした南瓜を塩味の出汁で伸ばしたと思われ、冷製ポタージュのような濃厚さや甘さは無く、蕎麦を生かすように調整されていることが分かる。
山椒の香りがアクセントとなっていて、なかなか楽しめた。
江戸時代から受け継がれる「変わり蕎麦」は、元々江戸っ子の遊び心から誕生した。
蕎麦の実の中心部分を挽いた香りが淡く純白の「さらしな粉」に、季節の素材を加えて打たれたもので、歯応えは蕎麦だが見た目や香りには素材の個性が前面に出るため、嗜好品的な趣が強い。
更科系蕎麦屋の'お家芸'であるが、その伝統は片倉康雄氏が興した一茶庵にも引き継がれ、こちらのご主人の修業先の「蕎上人」でも定評がある。
さらにそれを発展させて、個々の変わり蕎麦にそれに見合ったつゆを添えるスタイルを考案したご主人は、なかなかのアイデアマンだと思う。
今どきの蕎麦自体の香りに重きを置く'蕎麦オタク'とは無縁のジャンルだが、私のような人間にとってこういった小粋な趣向は大いに歓迎するもの。。
今回の「かぼちゃ切り」にも、完成度の高さが感じられた。
季節に応じて繰り出されるご主人の技とセンスを楽しみに、これからも末永く通いたい。
※追記
現在の変わり蕎麦は「アーモンド切り」が始まっているとのこと。
これにも特製の「木の実汁」が添えられており、大いに期待が持てる。
最近の伸長ぶりは目覚ましい
今私が最も気に入っている蕎麦屋である。
しかし昨年に親しいレビュアーさん方と訪れて以来なので、半年以上間が空いた。
連休中を避けて、落ち着けることを期待して平日の昼に訪店。
しかし11時半の開店から間のない時刻ながら、奥のテーブル席には3組ほどの先客が居る。
丁度ご主人は打ち場で作業中。
すぐに気づいてくれたご主人夫妻に無沙汰を詫びつつ、打ち場が良く見えるカウンター中央の席を選ぶ。
生ビール(一番搾り)のジョッキで始める。
肴には「鴨おろしポン酢」を注文。
'手羽元のコリコリした部分'と記されているように、心地よい食感でコラーゲンも豊富。
鴨ならではの旨味が凝縮しており、たっぷりの大根おろしと、一味唐辛子を効かせたポン酢の味加減も程よい。
酒は女将さんのお勧めにより「臥龍梅 涼風夏酒」を半合でもらう。
ブルーの瓶の柄も涼しげで、実際の味わいも爽やか。
蕎麦は偶には違ったものと「ぶっかけそば」を選択。
硬めに茹で上げた蕎麦の上に、揚げ玉('天かす'ではありませんよ!)・大根の細切り・青葱・削り鰹・刻みのりが綺麗に盛られ、別に小さな円盤状に成形された「練りみそ」が添えられている。
食べ方は練りみそを蕎麦猪口に移し、そこに徳利のそばつゆを注いで溶かし、好みの量を蕎麦の上から掛けて混ぜ合わせるスタイル。
練りみそは「焼き味噌」にも使われるベースで、結構甘いのでそばつゆと合わせるとどうかなと思ったが、蕎麦に絡めた際の違和感は無く、むしろ少しずつそばつゆを足すことで、味に変化が出て面白い。
最後はすべてを一体化させるが、様々な食感が折り重なった味わいはなかなか楽しく、食べ応えも十分。
もちろん蕎麦湯も添えられる。
釜湯のままの自然体のため、多少残った味噌入りのつゆも綺麗に伸びて、一滴残さず飲み干す。
いつもながらの満足感が得られた。
今回は「ぶっかけそば」と言う変わり種を試したが、奇を衒ったようなものではなく、創意工夫はきちんと計算された結果であることが分かる。
スタッフはご主人はじめ職人の男性が3人、ホールも女将さんを含めて3人の合わせて6人体制となっていた。
最近の忙しさに対応するため、増員したようだ。
こちらの最近の伸長ぶりは、目を見張るものがある。
地下店舗でありながら明るく清潔感のある雰囲気、女将さんを中心としたゆかしい接客ぶり、何よりご主人の蕎麦打ちに対する真摯な姿勢と確かな技術力が、人気を押し上げた所以であろう。
今回は親しいレビュアーさんとご一緒に
今回は親しいレビュアーさんをお誘いして、4名のオフ会での利用。
19時に予約を入れておいた。
いつもはカウンターばかりなのだが、今回は当然ながら奥右手のテーブル席が用意されていた。
まずは「生ビール」でスタート。
肴・料理には定番の他、季節ものやオリジナルなど、訪れるたびに新顔が登場する楽しみもある。
今回は、次のような品々を注文。
「とれたて枝豆」「鴨ロースト」「アボカド漬け」「出汁巻きたまご」「きのこの餡かけ 揚げ出し豆腐」「チキン南蛮 特製タルタルソース付け」さらに「長芋のわさび漬け」「クリームチーズの味噌漬け」。
大人数なので、多彩な味が楽しめたのは良かった。
「アボカド」の漬かり具合や、「出汁巻き」の綺麗な焼き上がりは相変わらず。
丁寧な仕事の「鴨ロースト」も良かったし、蕎麦屋では珍しい「チキン南蛮」も面白かった。
4人なので、取り分けやすいようにして供されるサービスもゆかしい。
酒はその道の達人のレビュアーさんのご意見に従い、「こんな夜に…雷鳥 」「天吹 バハムート」「上喜元」などを次々と注文。
「雷鳥」をさらに追加するなど、2合で頼んだガラスの片口が調子よく空いていく。
酌み交わしながらの皆さんとの会話も楽しく、和やかな時間が流れる。
途中でご主人から'特別メニュー'のサービスが施された。
こちらについては普段出していない'裏メニュー'なので、詳細についての言及は控えたい。
蕎麦は4人揃って「変わり蕎麦」を含めた「三色」にするつもりだったが、「十割」を入れた「四色そば」も可能とのことでこちらでお願いする。
こちらの月毎の'変わり'は毎回楽しみだが、今回は「ほうれん草切り」とのこと。
有りそうで無い手法で私も今まで経験が無く、さらにこれに合わせて考案された'特別のつゆ'にも大いに興味がある。
運ばれ角盆には、蕎麦が4つの山に盛られた笊、つゆ・薬味の一式の他、パステルカラーのつゆが入った蕎麦猪口も乗っている。
まずはこの「ほうれん草切り」から手繰るが、緑が鮮やかで独特の香りもかすかに感じられる。
淡いグリーンに生クリームが垂らされ、ピンクペッパーがアクセントなったつゆは、まさに'冷製ポタージュ'の趣。
変わり蕎麦にオリジナルのつゆを添える、ご主人の技術と創意に改めて感心。
こういったセンスには、江戸前蕎麦屋ならではの'遊び心'の伝統が垣間見え、こちらの仕事がその延長上に在ることが分かる。
他の「せいろ」「田舎」「十割」も、歯触りや喉越しにそれぞれの違いが際立っていて楽しめた。
このいずれにも合う、つゆも丁寧な仕上がり。
葱・山葵・大根おろしが付く、薬味の仕事もしっかり。
蕎麦湯は気持ちよく伸びる、さらりとした自然体。
双方のつゆを割って、余さず飲み干す。
個々の料理を丹念に味わうには、やや盛り上がり過ぎたという気もしないでは無いが、実に快適な宴となった。
ご一緒していただいた皆さんにも喜んでいただいたようで、嬉しく思う。
色々と気を遣ってもらったご主人夫妻や、スタッフの方々にもこの場を借りて感謝申し上げたい。
5月の変わり蕎麦は「あおさ切り」
月毎の「変わり蕎麦」を楽しみに訪店。
表の看板には「あおさ切り」の文字が見える。
ゴールデンウィーク中とは言え、この日はカレンダー上では平日。
しかし12時前に地下への階段を下りて行くとすでに数組の先客が居て、その中には「蕎麦屋酒」に興じている様子も伺える。
今回、酒はビールだけにするつもりで、最初から大瓶(サッポロラガー:通称'赤星')を注文。
肴には偶には変わったものをと「蓮根の挽肉はさみ揚げ」を選択。
登場した皿は期待通りの景色で、スライスされた2枚の蓮根に豚のひき肉を挟んで天ぷら衣で揚げ、半分にカットされたものが4個。
断面を見ると挟まれているのは餃子の餡のように見えるが、緑の野菜は韮でなく大葉で、その風味が生きている。
軽く塩を振っただけだが、これで十分に美味しい。
12時半近くになると次々と後客が入店してきて、広々とした店内のほとんどのテーブルが埋まった。
蕎麦はお目当ての「あおさ切り」を交えた「三色そば」にする。
運ばれた盆上には通常のつゆや薬味の設えに加え、透き通った「つゆ」の猪口も乗っている。
訊けばこれは「あおさ切り」に合わせて作られた「塩だれ」とのことで、少し含んでみると昆布の旨味が効いて程よい塩梅である。
「あおさ」はいわゆる「青海苔」だが、爽やかな香気と半透明の緑が涼やかで、細目に打たれた食感も心地良く、清廉な「塩だれ」と良く合った。
「せいろ」は角が立った堅打ちで、香りもある。
「田舎」は粒が分かるほどの粗挽きで、かなり太く打たれているが、噛みしめると味が深い。
これらに合わせるつゆは、基本的な奥行きのある辛口。
さらにその後に、先月まで出していた「柑橘切り」を少し出すサービスが施された。
実は先月中に寄ろうと思いつつ逃していたため、これは何とも嬉しい。
綺麗なオレンジ色の仕上がりで、香りも歯触りも鮮やか。
帰り際にご主人に伺ったら、実際に使われているのも「オレンジ」とのこと。
添えられているつゆは、これまた特別に「柑橘切り」に合わせたやや淡麗な味わいのもの。
残った3種のつゆに蕎麦湯を注いで、全てを飲み干す。
湯桶の中身も揺すれば下から白濁や粘度が沸き上がるが、静かに注げばすっきりと伸びて気持ちよく〆られる。
こちらは月毎の「変わり蕎麦」に定評が有るが、一口に変わり蕎麦と言っても色や香りをただ綺麗に出せば良いというものではない。
加え込む素材の特性により配合の方法も変わるだろうし、水加減や捏ね・延し・切りに至る作業には工夫が必要であり、客に出すまでには多くの試行錯誤が繰り返されたことは想像に難くない。
前回訪れた折の「ごま切り」にも感心したが、今回の「あおさ切り」「柑橘切り」はともに見た目の鮮烈さだけでなく、卓越の技が秘められている。
さらにこれに専用のつゆを添える心憎い演出には、センスの良さと芸の細かさが感じられる。
元々「変わり蕎麦」は江戸前の食文化ならではの、創意と遊び心から生まれたもので、その伝統が息づいている点を東京人として喜ばしく思う。
合わせて「せいろ」や「田舎」の出来にも、伸長が見られることを確認。
これからも頻繁に通うことは確実な、私にとって大切な一軒である。
居心地の良さは沿線随一。一月の変わり蕎麦は「ごま切り」
信頼のおける蕎麦屋への定期訪問。
前回は昨年の7月だったので、約半年ぶりである。
今回は夜の口開け直後に入店。
扉を押すと相変わらず清潔感あふれる空間が広がっている。
若奥さんと呼んだほうが相応しい女将さんの'どちらでもどうぞ'という声に、定位置のカウンター席に座る。
この寒さながら乾燥したのどを潤すため「生ビールの小グラス」で始める。
肴には季節を先取りした「春野菜の天麩羅」を勧められたので、こちらを注文。
一度試したことがあり、内容(菜の花・たらの芽・たけのこ・アスパラ)も変わっていないが、今回は天つゆの他にアンデス岩塩の粉末が付いていた。
'はしり'にしては、香りも歯ごたえもしっかり。
酒は'限定品'と記された中から、「九郎右衛門 スノーウーマン」を半合のグラスでもらう。
微発泡の爽やかさと酸味が心地よかった。
次いで肴に「お魚の煮凝り」を追加。
魚の種類は鯛を中心とのことだが、煮てから食感を残すくらいにほぐした身を、程よい固さに寄せてある。
これには燗酒が欲しくなり「阿櫻」をやや熱めにつけてもらうが、煮凝りの口どけとともに楽しめた。
さらに新メニューで気になったのは「けんちん汁」。
女将さんに量を訊けば'小丼ほど'とのことで頼んでみた。
出てきた器には、大きめにカットされたたっぷりの牛蒡・里芋・大根・人参・葱・蒟蒻・豆腐が、そばつゆベースと思われる少し甘みを感じる醤油味で煮込まれて、結び三つ葉が色を添えている。
汁物と煮物の中間くらいの仕上がりで、根菜類のしみじみした旨味に垂らされた胡麻油の風味が効いている。
これを使った「けんちんそば」も出しているが、単品で頼んだこちらは「鴨ぬき」や「天ぬき」にも通ずる味わいで、酒の肴に適した逸品。
冷酒に「こんな夜に…雷鳥」という、こちらに相応しい銘柄を半合追加。
最近入荷した新酒とのことで、'肴も佳し酒も佳し'の寛いだ時間を過ごす。
6時近くになると後客が次々と入店して来たが、いずれも地元のお馴染みさんと思われる面々
私もそろそろ蕎麦にする。
今月の'変わり蕎麦'は「ごま切り」で、さらに提供方法に一工夫施されていることは耳にしていたので、迷わずこちらを選択。
一式が角盆で登場。
「ごま切り」は粗く擂られた黒胡麻が練り込まれ、通常の変わり蕎麦よりも少し太めに打たれている。
当然ながら胡麻の風味が強く、噛みしめるとより味と香りが強くなる。
一方つゆには白胡麻が使われており、こちらも多少粒々感が残るくらいの擂り加減で、それをそばつゆで伸ばしているのだが、適度な粘度と味加減がほど良い。
'黒白'の両方の胡麻を一時に口にするなど初体験だが、なかなか面白かった。
別に普通のつゆも徳利で添えられ、こちらでも味わえるのはありがたい。
両方のつゆに自然体の蕎麦湯を注ぎ、締めをゆっくりと楽しむ。
さすがにつゆを全部割って飲み干すのは無理だったが、今回も満足度はかなり高かった。
今回の「けんちん汁」の味わいや「ごま切り」の出来からして、ご主人の抽斗はまだまだ多いと思われる。
毎回新しい発見が楽しみな店。
この沿線には様々なタイプの蕎麦屋が点在しているが、雰囲気や接客ぶりを勘案すれば居心地の良さでは随一。
開店からまだ一年半の新しい店ながら、これからも永く通い続けたい、私にとって大事な一軒となっている。
7月の変わりそばは「レモン切り」
この暑さなので遠出は億劫。
安定的な「蕎麦屋酒」を求めて足を運んだのは、お気に入りのこちら。
日曜日なので少し時間をずらしたほうが良かろうと、13時半近くに到着。
表の置き看板には'7月の変わりそば「レモン切り」'の文字が見える。
奥の階段を下りて重い扉を押した向こうには、相変わらず気持ちの良い空間が広がっている。
この時間帯でも、テーブル席のほとんどが埋まっている状況。
いつものように、カウンター中ほどの席を選ぶ。
まずは「生ビール」(キリンラガーの中ジョッキ)で、のどを潤す。
肴に選んだのは次の2品。
「蒸し鶏」:鶏腿肉をロール状に成型して蒸し上げてから冷し、7.8ミリの輪切りにされた6個に、青葱が散らされている。
仕事としては悪く無いが、鶏自体に結構塩気が有り、皿の縁に柚子胡椒が多めに添えられているのは疑問。
何度も言うように柚子胡椒はかなりの塩分を含んでいるので、山葵と同じような感覚で付けると塩辛くなってしまうので、この点は配慮が有って然るべきと思う。
「クリームチーズの味噌漬け」:こちらはなかなかの出来映え。
多少甘味を加えた味噌の染み込み具合が丁度よく、ねっとりとした旨みと舌触りが楽しめた。
酒は'この時期の限定品'の欄から、英国人杜氏が醸すことでも知られた、京都丹後の木下酒造の「玉川 山廃純米にごり酒」を一合。
思いのほかにごりが濃くまったりとしているが、後味は案外すっきり。
これらで外の暑さを忘れる、ゆるりとした時間を過ごす。
時刻は14時過ぎだが、予約を入れて訪れる方を含めて客足に途絶えがない。
早めに蕎麦を注文しておく。
やはり「レモン切り」を交えた「三色そば」にする。
それほど待つことなく一式が登場。
まずは「レモン切り」から手繰るが、爽やかな香気が心地よい。
冬場の「ゆず切り」や春先の「桜切り」ほどのインパクトはないが、この時期にふさわしい清冽な仕上がり。
「せいろ」や「田舎」も相変わらずの出来。
丁寧なつゆの味も揺るぎ無い。
自然体の蕎麦湯で〆て、充足感に浸る。
休日は女将さんに加えて、お手伝いの女の子が居る。
店が広い分多少心許ないところもみられるが、遺漏は無い。
しかしかねてより気になっていた、スタッフの出入りと精算時に立つ客とが交錯してしまう、レジの位置は要検討だと思う。
休日は時間帯をずらして「蕎麦屋酒」目的で訪れる客が多く見られ、こちらの店に適した使い方が周知されてきたことを嬉しく思う。
私は毎月の「変わりそば」を目当てに、専ら平日に寄りたいと思う。
お気に入りの蕎麦屋で、春の名残を満喫
前日は南麻布に誕生した斬新な切り口の高級中華の店で、名立たるレビュアーさん方との会食の席に臨んだ。
帰りが結構遅くなったため少し寝過ごしてしまい、ベットから這い出たのは9時近い時刻。
偶々日中は然したる用事もなかっため、だらだらと雑事をこなした後、昼近くに石神井公園まで散策に出掛けた。
今年の桜は開花した直後に天候不順が続き、見ごろもはっきりしないうちに時が過ぎてしまったが、そろそろ散り始めた模様。
名残りの花見に向かう前に寄ったのは、最近お気に入りのこちらの蕎麦屋。
事前に変わり蕎麦に「さくら切り」を出しているという情報は入っていたが、花も盛りを過ぎたために間に合わないかもと店の前まで行くと、表の置き看板には'さくら切りは明日までです'の掲示。
これはラッキーと、奥の階段を地下へと降りて行った。
時刻はまだ11時半を少し回ったころで、一番客であった。
座り慣れたカウンター中程の席を選ぶ。
まずは生ビールの小グラスをもらう。
肴には'季節のお料理'として載っている「春の野菜の天ぷら」を注文。
内容は筍・たらの芽・菜花が各2個と、グリーンアスパラ一本分。
たらの芽と菜花はやや盛りを過ぎているものの、その分香りも濃く食べ応え十分。
筍はまさに今が旬で軽やかな食感が好ましく、アスパラの甘味も秀逸。
見た目は'蕎麦屋のてんぷら'の趣。
昨今の流行りのように塩は添えられず、おろし入りの天つゆで食べさせるが、こちらの揚げ方からすれば理に適ったこと。
酒に合わせるにはむしろこの方が好ましく、実際に追加で頼んだ「風の森」(半合のグラス)との相性も良かった。
蕎麦はお目当ての「さくら切り」を存分に味わうため、今回はあえて「三色」にはせずに単一で注文。
先日同門の「うさぎや」で試したが、こちらはスタンダードなスタイル。
更科粉に刻んだ桜の塩漬けを混ぜ込んで香りを含ませ、色はごく薄く食紅で染めているため、細かな葉の粒子が確認できる。
ほのかな香りがゆかしく、硬めのシャキッとした食感も好ましい。
つゆのすっきりとした味わいが、これを引き立てる。
薬味はきちんとした仕事でたっぷりと添えられるが、この蕎麦には合わせず、後の蕎麦湯の際に使用。
口開けのため多少の手は加わっているが嫌みのない蕎麦湯と、徳利で出されるつゆや薬味と調合しながら〆をゆっくりと楽しむ。
旬の天ぷらと「さくら切り」で、春の名残を満喫。
四季折々の味わいで蕎麦屋酒を楽しめるのも、江戸前蕎麦屋ならではの醍醐味。
こちらが私にとって大事な一軒となったことを確信。
店を出た後、池の周りを逍遥。
清々しい陽気の中、少し散り始めたとは言え長閑に花見を楽しむ。
穏やかな心持ちで、午後のひと時を過ごせた。
都心に出向かずとも、老舗の味で「蕎麦屋酒」が楽しめる佳店
暮れも押し迫った28日、昼に時間を見つけてこちらに足を運ぶ。
前回はまだ暑い最中だったので、約4か月ぶりである。
実は前日に訪れた蕎麦屋で残念な思いをしたので、それを晴らす気持ちも有りこちらを選んだ。
開店の11時半直後のため先客は無く、今回も打ち場の前のカウンター席に座る。
まずはこの寒さなので燗酒を所望。
薦められたのは奈良の「風の森」で、微発泡のこの銘柄を燗で試すにはちょっと勇気がいるが、味に膨らみが出て意外にも良かった。
肴には「出汁巻きたまご」を注文したが、焼きたての熱々で登場。
「三つ葉」の葉一片を透けて見えるように巻き込む「蕎上人」に倣った仕事で、綺麗で丁寧な仕上がりと供に味の面でも満足。
蕎麦はどうしようかと思案する。
今月の'変わり蕎麦'は「柚子切り」とのこと。
さらに季節の鴨を使った種物も魅力的。
そこで柚子切りを交えた「三色そば」のつゆを「鴨汁」に出来ないかと申し出ると、快く応じてくれた。
「柚子切り」は色合いは控え目だが、香りと食感の鮮烈さは見事。
さらに「せいろ」も、粗挽きで太打ちの「田舎」も相変わらずの出来栄え。
一方の「鴨汁」は、結構な幅と程良い厚みの抱き身5切れと葱が入り、濃厚な浸けつゆに仕上がっている。
たっぷりの具材は良く煮込まれており、やや硬いがその分食べ応えは十分で、「鴨せいろ」ならではの醍醐味を堪能。
サラッとした蕎麦湯を注ぎ、最後の一滴まで飲み干して充足感に浸る。
前述したようにこちらは「蕎上人」の出身であるが、遜色のない技を継承しながらも値段は全般的に3割近く安い。
サービス面でも好印象。
今回も満足度の高いひと時を過ごせ、前日のもやもやした気分も払拭できた。
私の後からもパラパラと客が入店して来た。
入り口が少し分かり難い地下店舗ながら。すでにご近所では評判店になっているようだ。
この沿線には新進の人気蕎麦屋が多いが、味も店構えも個性豊か。
こちらは伝統に則った仕事が貫かれていることに加え、スペースの広さと落ち着ける雰囲気では随一であろう。
都心に出向かずとも江戸前の王道を楽しめ、昼でもゆるりと寛げる店として、これからも私にとっては大事な一軒になることを確信。
(新規に8枚の写真を追加掲載)
≪2016年8月のレビュー≫
確かな筋から、石神井公園の駅近くに、浅草の「蕎上人」出身の職人が新たに蕎麦屋をオープンさせた情報が入って来ていた。
開店は7月11日なので、まだ1か月ちょっと。
場所は駅の南口からバス通りを進み、池の方向に曲がらずに信号を真っ直ぐに少し進んだ、左手のビルの地下。
階段が奥まった所に有るので少しわかりずらいが、表に置き看板が出ているので迷うことは無い。
初回は昼に寄って蕎麦の出来を確認したが、なかなか良かったので、夜の早い時刻に再訪した。
店舗は地下にしては思いのほか広く、まだ新しいせいもあるが、清々しい空気に満ちている。
店の中央を占めている打ち場を囲むような、L字のカウンターに10席。
奥の白い壁面の所々にアート作品や植栽が点在する広々としたスペースには、6卓のテーブルに22席がゆったりと配されている。
店はまだ30歳代と思われるご主人夫妻と、助手の若い男性という体制。
時刻は5時を少し回った頃なので、先客の姿は無い。
'どちらでもどうぞ'と女将さんは言ってくれたが、あまり奥の方にポツンと一人ではと思い、カウンター中程の席を選ぶ。
まずはビール。「一番搾り」の生をジョッキでもらう。
口開けながら良い状態で出され、480円は安いと思う。
ちなみにお通しは付かない。
メニューは一冊に纏められており'蕎麦前'のページには、あまり多くないが魅力的な品々が載っている。
その中から次の3品を注文。
「アボカド漬け」:半割にしたアボカドを、出汁醤油に漬け込んであり、味わいも食感も楽しい。
柚子胡椒が添えられているが、塩分が強いので付けすぎると味のバランスが悪くなる。
「鴨ロースト 4枚切れ」:程良い焼き具合の抱き身がオニオンスライスの上に並べられ、上には白髪葱があしらわれており、たれがかかり、山葵も添えられている。
2種類の葱の使い方が面白い。
「天婦羅盛り」:結構大き目の海老2本と、野菜(茄子・南瓜・椎茸・しし唐)の盛り合わせ。
800円と言う値段からして、海老の質がいまいちでなのは仕方ないだろう。
手法はいわゆる'蕎麦屋の天ぷら'なのだが、色付きも薄目でポワッとした仕上がりで、正直これはもう少し改善の余地があると思う。
やや濃いめのおろし入りの天つゆで食べさせるが、この揚げ方からすれば、今どきの流行りのように塩を付けないのは正解。
海老を一本に減らしても、上質のものに変えた方が良いと思う。
酒は日本酒の定番が5.6種類、さらに'限定入荷品'となっている面白そうな銘柄も別書きで並んでいる。
他に焼酎などの用意も有る。
まずは岩手の「月の輪」を一合。洒落たガラスの片口と切子のグラスで登場。
次いで山形の「上喜元」を半合。こちらは小振りのタンブラーで供される。
いずれもなかなか美味く、これらでゆっくりと蕎麦前を楽しむ。
蕎麦メニューは絞られているが「蕎上人」の出身らしく、蕎麦はせいろと田舎、さらに季節の変わり蕎麦の3種類を常時打っている。
この3種を楽しめる「三色蕎麦」が品書きに載っており、九月の'変わり'は「しそ切り」とのことで、こちらを選択。
角盆で一式が登場。
「蕎上人」では松花堂風に仕切られた塗りの器で出て来るが、こちらでは大き目の笊に3つの山に盛られており、その分値段が控えめなのは嬉しい。
まずは「しそ切り」から啜ってみるが、涼し気な浅緑色で、シャキッとした食感と爽やかな香りが心地良い。
「せいろ」は、基本の二八くらいの配合と思われ、伝統に則った仕事。
「田舎」は、挽きぐるみならではの野趣が感じられ、やや平打ち気味の太めだが噛みしめると味が深い。
「つゆ」は一茶庵の流れが顕著な、かえしの深味と出汁の旨みのバランスが取れた、上品な仕上がり。
薬味は山葵がやや残念だが、葱などはきちんとしている。
蕎麦湯は自然体のため、気持ちよく〆られた。
「蕎上人」出身の蕎麦屋は都内でも何軒か知っているが、蕎麦打ちに関しては学んだことを基礎に、独自の個性を盛り込んでいる店も多い。
こちらは主家のスタイルを、ほぼ忠実に踏襲している。
それは安定した仕事が約束されていることに他ならず、私にとっても馴染み深い一茶庵伝統の蕎麦が、この地で楽しめることは喜ばしい。
ご主人の真摯な仕事振りに加え、女将さんの丁寧な応対も好感。
値段も全般的にリーズナブルに思う。
広々として清潔感のある雰囲気は、大らかな気分で「蕎麦屋酒」が楽しめる。
味の評価は、天ぷらの出来を勘案し平均してこうなった。
総合評価も、今後への期待を込めてこのようにした。
ちなみに店名の「雷鳥」は、ご主人が山歩きが好きなことに由来するようだ。
これからが楽しみな、新鋭蕎麦屋の誕生を大いに歓迎したい。
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店名 |
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ジャンル | そば、居酒屋 |
予約・ お問い合わせ |
03-6913-1596 |
予約可否 |
予約可 大晦日の予約は不可 |
住所 | |
交通手段 |
石神井公園駅から徒歩4分。 石神井公園駅から264m |
営業時間 |
営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください。 |
予算(口コミ集計) |
¥5,000~¥5,999
¥1,000~¥1,999
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支払い方法 |
カード可 (VISA、Master) 電子マネー可 QRコード決済可 (PayPay、d払い、au PAY) |
サービス料・ チャージ |
両方ともありません |
席数 |
32席 (カウンター 10席、テーブル 11卓(22席) テーブルはつなげて最大18名座れます) |
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個室 |
無 |
貸切 |
不可 |
禁煙・喫煙 |
全席禁煙 建物の外に喫煙所と自販機あります。 |
駐車場 |
無 近隣にコインパーキングが何件あります。 |
空間・設備 | 落ち着いた空間、席が広い、カウンター席あり、無料Wi-Fiあり |
ドリンク | 日本酒あり、焼酎あり、日本酒にこだわる |
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料理 | 健康・美容メニューあり |
利用シーン |
こんな時によく使われます。 |
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お子様連れ |
子供可(乳児可、未就学児可、小学生可) 0歳のお子様から大丈夫です。 |
ホームページ | |
オープン日 |
2016年7月11日 |
備考 |
電子マネーのPayPayは利用可能 |
初投稿者 | |
最近の編集者 |
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新年一軒目に訪れたのは、勝手知ったるこちらの店。
今年もお世話になることは確実であり、新年の挨拶がてら3日の午後に向かう。
3日と4日は昼から17時までの営業とのこと。
14時半ごろに地下への階段を降りていくと、待ち客は居なかったが満席状態で正月早々繁盛している。
スタッフは表も奥も充実しており客捌きはスムーズの様子で、ほとんど待つことなく席が空いた。
しかし今回は定席のカウンターでは無く、奥の方のテーブル席に案内された。
まずはいつものように生ビール(一番搾り)で始める。
肴は'本日のおすすめ'から4品を、少し間を空けて注文。
いずれも一品400~600円ほどの良心的価格。
「うにいか」:烏賊の上身だけが、粒も確認出来る塩雲丹に絡められている。
ねっとりした烏賊の舌触りに、雲丹の旨味が加わっている。
一般的な塩辛とは違い塩分が控えめな点も良い。
「カブの柚子入り甘酢漬け」:聖護院かぶらと思われる大きい蕪の薄切りが、柚子の香りの甘酢に漬け込まれている。
少し甘すぎる気もするが、柔らかな歯触りは悪くない。
「お魚の煮凝り」:白身魚の煮魚を解して煮汁ごと固めた、こちらのスペシャリテの一つ。
今回は鯛で多少ゼラチンを加えていると思われが、プルプルとした食感が好ましい。
小骨などを取り除くのは面倒と思われるが、たっぷりと入った鯛の身自体も美味しい。
「焼き海苔」:メニューには'燻すまでに15~20分かかります'と記されており、登場したのは江戸前蕎麦屋伝統の「海苔箱」で、蓋の上面には北斎の赤富士が描かれている。
蓋を開けると厚手の和紙の上に八つ切りが一枚分重ねられており、底には小さな炭火が忍ばせてある。
下町の老舗では予め炙ったものの保温の為だけに使われるが、こちらでは卓上で弱火の炭火でじっくりと燻されるスタイルで、運ばれる際にスタッフから出来上がる時刻を告げられた。
予定時刻に蓋を開けて手に取ると仄かな温かさとパリッとした感触が伝わり、たっぷりと添えられたわさびに醤油を垂らして少し乗せて口に運ぶが、実に美味しい。
酒は「陸奥八仙 新春祝酒」をもらう。
穏やかな口当たりで香りもフルーティーだが、豊かに広がる味わいが印象的。
その後でお店から'こちらも呑み比べてください'と、「ちえびじん」ともう一種類(銘柄失念)をグラスでサービスしてくれたが、何れも美味しく頂いた。
15時近くになっても家族連れ中心に後客に途絶えは無く、ほぼ満席状態が続いている。
そろそろ蕎麦にしようとするが、今回は縁起物の「海老切り」を交えた「三色そば」を選択。
それほど待つことなく一式が登場。
海老切りは2年前にも試したが、桜海老の粉末を更科粉に加えて打たれており、綺麗なピンクの色合いと海老の香りと味が感じられる、江戸前伝統の変わり蕎麦の技法の一つ。
こちらでは海老の風味が生かされる専用の「塩だれ」を添える工夫が施されており、実際にこれ啜ってみると瀟洒な味が楽しめる。
二八の「せいろ」と挽きぐるみを太く打った「田舎」は、この順で手繰る。
徳利で出されるつゆも一茶庵の伝統が生きる優れた仕上がりで、どちらの蕎麦にも適した中庸な味わいが好ましい。
蕎麦湯は釜湯のままが提供され、自然の白濁と微かなとろみが好ましい。
徳利のつゆを蕎麦猪口に空けてたっぷりと注ぎ、塩だれの猪口の中身も割り、全てを平らげて満足感に浸る。
新年早々、心地よい蕎麦屋酒が楽しめた。
多少の慌ただしさは有ったものの、新春らしい華やいだ雰囲気は悪くない。
ご主人夫妻に今年もお世話になりますと申し上げて、清々しい気持ちで店を後にした。