美味しい日本酒とワインの個室居酒屋 日が落ちたら、行こう！ : 落日酒楽

昔、東京都武蔵野市の事業所に勤務していたことがあった。
会社帰りに同僚と飲みに寄ったりして、わりとこのあたりには馴染みが深い。
井の頭公園（吉祥寺）で花見の場所取りをしたことなどを思い出す。
その頃の友人と再会し、久々に一杯やることになった。

JR 中央線　三鷹駅の西隣、武蔵境にある日本酒とワインの個室居酒屋

「落日酒楽」（ひはおちてさけたのし）。

何とも粋な店名だ。
「落日遠道」（日は落ちて道遠し）、
「旅人有一人行夜道」（夜道、一人行く旅人有り）だった若き日を思い出した。

武蔵境駅南口から東へ線路に沿って　120m ほど進んだ左手（北側、線路との間）にあるライザ武蔵境ビルの B1F に、その店はある。地下 1F なのでご注意を。

総席数：100席だが、小分けして大小の個室あるいは半個室として利用できる。100席全部使った大宴会も可能とのこと。武蔵境で 100席は、トップクラスだそうだ。駅が近いので、飲んだ後も楽ですね。

友人は、日本酒だけでなく、ワインもそこそこ飲むので、この店にしたらしい。 まあ、私は日本酒で行きます。はい。

アラカルトでオーダー。
今日のメニューは、

自家製クリームチーズの粕漬け
希少宮崎鶏たたき
チーズ３種盛り合せ
富山産トロサバへしこ

こちらのお店では、お通しとして小鉢料理か、またはミニグラスでのお酒がいただける。
お通し代わりにいただいたのが、島根の日本酒「智則」（とものり）。

戦国時代に出雲を中心とした山陰地方を支配していた尼子氏。その居城・月山富田城の名にちなむ「月山」（がっさん）という名前のお酒がある。
智則は、この月山を主力銘柄とする吉田酒造さんの逸品だ。（吉田酒造さんは、月山富田城の城下町にあたる場所にある）

艶のある吟醸香、フルーティな香り、ふくよかさを感じる。 食前酒と言ってしまうにはもったいない、すばらしいお酒。最初ですでにノックアウトだ。

オードブルは、自家製クリームチーズの粕漬け。
友人はワインを飲んでいるが、クリームチーズは日本酒にも合う。

「天吹　山廃吟醸　雄町」 雄町は幻の酒米と言われる酒造好適米だ。
おだやかな微香、しっかりした味わい。キレが良いが、山廃仕込みなので、味の幅がある。 天吹（あまぶき）は、落ち着いた味わいで、女性でも飲みやすいのでは、と感じる。 クリームチーズと合わせて、女性にお勧めかもしれない。

日本酒を替える時、「青煌（せいこう）　仕込み水」を口に含んでリセットするとのこと。
利き酒師になった気分。

希少宮崎鶏たたき 宮崎の地鶏は有名だ。身に締まりが合って、味わい深い。 ポン酢だけで食べると、鶏本来のうまみが出てくる。

「菊鷹　純米」 明治5年創業の蔵元、愛知の藤市酒造の純米酒。 香りは穏やか、程よいコクと落ち着いたうまみ。厚みのある酸味とわずかな苦みもあり、辛口感がある。 男の酒と云う感じか。 鶏のうまみを引き立ててくれる。

チーズ３種盛り合せ　をつまむ。
チーズ談議になると、ワイン好きの友人にはかなわない。

周りが白カビのチーズのブリア・サヴァラン
洗いながら発酵させるというエポワス
三大青かびチーズのひとつ、スティルトン

酸味とうまみの塊みたいなチーズには、とろりとして華やかな香りの「作（ざく）　恵みの智　純米吟醸」をいただく。
「作」は三重県鈴鹿市のお酒で、伊勢志摩サミットで、乾杯酒としてふるまわれたことで有名だ。
もっともサミットで出された酒のランクは最上級で、四合瓶で ￥15,000.- だとか……。

いよいよ本日のメイン・イベントだ。

富山産トロサバへしこ

「へしこ」とは、魚のぬか漬けのこと。漁師町に昔から伝わる保存食だが、酒の肴にはこれ以上ないというほどピッタリだ。麹と塩だけで付け込まれたサバは、しっとりとしていて、日本酒に良く合うしょっぱさに出来上がっている。
この味は魚好き、いや日本人なら癖になる。塩辛さをうすめるために大根おろしと一緒に食べると、幸せ感に顔中に笑みがこぼれる。

こんな第一級クラスの肴には、力強いお酒が合う。

「旭若松　純米　無濾過生原酒　雄町100％」

四国は徳島のお酒。20度近いアルコールで、ちょっと重めのお酒だが、うまみが強い。 自家栽培の雄町で醸す酒は芳醇旨口。 旨みあふれる酒で、どっしりとした重厚感がある。酸味もしっかりあって、キレもいい。 加水して燗にしても美味しいのだとか。

となれば、飲んでみるしかない。
旭若松の燗は、加水されたことで、飲みやすくなっていい感じ。口当たりがとても良い。
あ～やっぱり日本酒は燗だね……。 燗酒もう一丁！

「独楽蔵　無農薬山田錦六十　特別純米」

純米酒だが、熱燗で飲むとお米の味が広がる。後味もすっきり。
熱燗徳利が変っている。二重構造になっていて、真ん中に日本酒、外側を熱湯が満たし、燗酒が冷めるのを防いでいる。 本当の酒好きは、ぬる燗または人肌燗と言うのだが、熱燗の腹に沁みわたるうまさは、他では変えられない。
燗酒を冷まさないこんな配慮が、酒飲みにはありがたい。

いやもう頭がぼうっとしてきた。いい肴とお酒に幸せ気分 100% だ。

「落日酒楽」（日は落ちて酒楽し）に、酔った勢いで、勝手に続けてみよう。

我思昔日青雲（我思う昔日の青雲）
燕雀安知鴻鵠之志哉（燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや…）
（飲みすぎー！）

あと書き
この武蔵境という土地と出雲とは、実は関係が深い。 江戸時代、このあたりは将軍家の鷹狩り場だったが、その管理を任されたのが、出雲の親藩・松平だった。
その松平の殿様が、自分の土地・出雲の出雲大社を勧請して建てたのが、すぐ近くにある杵築大社（きづきたいしゃ）である。現在、「えびす・だいこく」の二福神を祀る神社となっている。

お通しで出してもらった日本酒「智則」（とものり）が島根（出雲）産ということを思い出すと感慨深い。

この智則、若き後継蔵元が「責任仕込み」するフラッグシップ銘柄でありながら、蔵元の全生産石数の１割にも満たないという希少なお酒である。 そんなお酒を「お通し」で出してくれるとは、お店の日本酒の品ぞろえの豊富さがわかる。

大国主命（おおくにぬしのみこと）を思いながら、もう一度「智則」を飲んでみたいものだ……。