江戸料理と蕎麦 : 晩酌や 月

吉祥寺に面白い蕎麦屋があるという噂は耳にしていました。
一度行ってみたいなあと思っていたら、蕎麦博士のマイレビュアーさんから、5,500円のコースを予約したのでどうですか？とうれしいお誘い。
いつもご手配感謝いたします、とお礼を申し上げ喜んで集合日の19時に店に向かったのでした。

吉祥寺の駅からは10分近く歩きます。
ヨドバシの一本裏の通りを北へ向かい、五日市街道を越えて少し歩いた住宅街の中に店があります。
ちなみに吉祥寺の南北の道が、なんで中央線の線路に対して少し東斜めに通っているか？というと、中央線よりも昔からある五日市街道に直角に交わるように通っているからだそうです。

19時に吉祥寺駅に到着したので、約10分遅れで入店。
店内には靴を脱いで上がります。
自宅の広いリビングのような店内で、テーブル席に座らせていただきました。

先に始めていただいていたみなさんにご挨拶をして、素早く注文したコエドビールの瑠璃で乾杯。
まず、蜆と生姜を入れた蕎麦の実雑炊をいただきました。
飲む前に胃を守ってくれそうな優しい味です。

この店はそばと共に江戸料理の店。
江戸時代の作り方で作った料理なので、江戸で食べられていたものでは必ずしもないそうですが、和食の歴史を知ることができる貴重な機会。
その江戸料理は、続いて出てきた刺身の盛り合わせに、その技が発揮されていました。
本鮪のきらずまぶし、鰹の膾造り、赤烏賊の干し納豆がけの3点盛り。
説明を伺うのに必死でうっかり写真を撮り忘れてしまったので、どんな刺身だったかはご一緒していただいたレビュアーさんのレビューをご参照ください。
本鮪のきらずまぶしは、鮪の赤身の水分をある程度抜いて旨味を凝縮させ、黄な粉をまぶしたもの。
鰹の膾造りは鰹の和風マリネのような感じ。
赤烏賊の干し納豆がけは、赤烏賊の水分を抜いて刻んだ干し納豆を乗せたもの。
いずれも魚の水分を抜いているので、旨味がギュッと凝縮されていました。

続いて出していただいたのは江戸料理の盛り合わせ。
鮎味噌と水茄子、こおり豆腐、利休卵、たたきごぼうと鰊、えぼ鯛の昆布〆、小柱寿司、蕎麦寿司4種、合鴨が一つの皿に盛りこまれていました。

鮎味噌は鮎の内臓を味噌に和えたもの。
うるかのような苦さはなく、味噌にコクを加える役割を果たしていました。
こおり豆腐は、海藻の寒天で豆腐をくるんだもの。
氷に見立てて出してくる、見た目で涼しさを感じる夏の料理なのでしょう。
利休卵は胡麻を混ぜた玉子焼きだと思います。
上に乗った空豆の緑が鮮やかです。
たたきごぼうは、よくおせちにも登場しますね。
地中深くに根を伸ばすことから、家の土台をしっかりさせるという縁起物の料理。
鰊もごぼうに合わせてしっかりした味付けで酒の良いお供です。
他にもなかなかお目にかかれない料理たちで、食べているのが楽しい江戸料理でした。

さらにいただいたのは、鮎の風干し。
こごみとみずのお浸しと若竹煮が添えられていました。
鮎は干物になってもほのかに脂分を感じます。
みずは東北の方でよく獲れる山菜だったかな。
歯応えがいいです。

鱧と天然こごみの天ぷらは、鱧はふっくら、こごみはしゃっきりとした歯応えの違いが面白い。

玉子ふわふわは醤油と出汁の効いた和風スフレ。
これも江戸料理。ほんとにフワフワです。

〆の蕎麦は十割そば。
星も見えて、食べると穀物感があります。
つゆはすっきり系でやや薄味。
でも出汁はしっかりしています。
蕎麦の旨味を引き出す役割のつゆですね。
蕎麦湯は自然体でした。

デザートにはわらびもち。
まだほんのり温かく、出来立てを出していただいたようです。
プルンとした食感で料理を締めくくったのでした。

この日の料理に合わせた日本酒は、次の5種。
菊鷹純米無濾過生原酒若水
阿武の鶴純米吟醸無濾過生原酒折鶴
十六代九郎右衛門山廃純米
よ右衛門夏ぎんが純米吟醸生原酒
神亀純米酒
個人的には、菊鷹の旨味がしっかりしたところが印象的でした。

なかなか食べる機会のない江戸料理を堪能できたたいへん貴重な機会。
ご一緒いただいたレビュアーさんたちとも料理の感想の交換やら、いろいろな店の情報交換やらができてこれもまた貴重な機会でした。
こうした機会を作っていただいた幹事役のＴさん、ありがとうございました。