荻窪の名店で味わう　実直な料理と酒のマリアージュ : 荻窪いちべえ

ネットで見つけ、前から気になっていたお店。日本酒にこだわった随一の居酒屋として、好きな人の間では有名なお店とのこと。12月中旬の土曜日の19時ごろ訪問。ことしの1年間をねぎらおうと、妻との忘年会に利用させていただきました。

店内は昔ながらの居酒屋という風情。入って左手に酒の一升瓶が並んで、しばし釘付けになる。酒飲みにはたまらない光景ですね。カウンターと座敷がメインのようで、座敷は昭和の居酒屋の雰囲気を漂わせていて素敵。店員さんの案内で、われわれはカウンターに。今回は料理4400円＋日本酒飲み放題2750円で1人7150円のコースでお願いしました。

一発目は喉が渇いていたので瓶ビール。飲み放題でサッポロの赤星をいただけるのは贅沢ですね。どっしりとした苦みと、爽やかな甘みが素晴らしい。中瓶の2本目をいただいたあたりで、早速料理が運ばれてくる。お通しはニシンの山椒漬け。酒どころ会津の郷土料理じゃないですか。山椒の香味に、ニシンの旨味が乗っかって、俄然酒が飲みたくなる。ここから日本酒を頼みます。

こちらのお店、日本酒はこちらから選ぶのではなく、店員さんが好みや料理に合わせてオススメの酒を持ってきてくれる方式。酒にこだわる酒場の矜持を感じますね。
▼一本目は秋田県の山本の純米吟醸。亀の尾という酒米を使ったもののようですね。爽やかな甘みと飲み口、ひたすら上品な余韻が続きます。
料理2品目のお刺身。大変上質ですね。鯛もマグロも鮮度が高く、しめ鯖は臭みがなく、脂の乗り方が見事。山本とよく合います。
▼宮城県の墨廼江、本辛。こちらはどっしりと米の旨味を感じ、海鮮とより合う印象。しめ鯖はもちろん、上品なお味の西京漬けとベリベリマッチ。
▼長野県の亀齢。こちらも辛めでより米の味がたっている。炊き物のようなものの方があうような感じがしました。
▼福島県の国権、特別純米夢の香。こちらは以前から大好きなお酒。うーん、ジューシーな旨味と甘み、適度なキレ。そして後半も決してだれない味わいの美しさ。間違いないですね。

ここで炊き物が登場。金沢の治部煮ですね。鴨肉の処理もよく、だしもよく出ていておいしい。このお店、料理も手を抜いていない。各地で酒と供される郷土料理にこだわっているのもいい。
一品一品は地味だが、大変よいお味で感服いたします。

▼福岡県の若波 I'LL BE BACK。西のお酒らしく、やや濃醇なお味ですが、治部煮との相性○。
▼広島県の宝剣の純米。こちらも肉厚な甘みをたたえた飲み応えある一本。治部煮や茶わん蒸しとの相性はなかなか。茶わん蒸しはカキが入っていて、なるほどこれとのマリアージュか。
まだまだ飲み足りない！　さあ、どんどん行こう。
▼東京都の屋守。通好みの酒米、雄町を使った1本とのこと。この辺りでいったんピークが引いたのもあって、あまり印象に残りませんでした。
料理はさっぱりともずく酢。口の中が爽やかになって、さらに酒への欲求が高まる。
そしてここからたたみかけるように怒濤のラッシュ。
▼福島県は飛露喜の特別純米かすみざけ。出た～ッ飛露喜！　いよッ待ってました。
少しにごりのある酒で、お米のほかに乳酸系の香りがある。初しぼりの酒なんですね。柔らかな米の旨味と甘みが広がる。結構ふくよかな味なのに、次から次へと飲みたくなってしまう。後口は本当にきれいですね。普段は飛露喜よりうまい酒はたくさんあるなどと嘯いているワタクシですが、いやはや現物を飲むとうまいッてんだから恐れ入る。
▼山形県は上喜元、特別純米酒生酒。山形の上喜元というだけで垂涎なのに、仕込第一号の生酒とは嬉しすぎる。チョイスの素晴らしさに悶絶。ジューシーでうまい。ただひたすら口当たりがよくてうまいなんて…これは卑怯だ(笑)。
▼最後は新潟県の〆張鶴、しぼりたて生原酒。いや、嬉しくて。もうかなり酔っ払って、細かい味のテクスチャーなんて覚えてないんですけれど、とにかくうまくて何杯でも飲めそうな危険なやつでした。

最後はかやくご飯としじみ汁、漬物のお食事で〆。お料理もお酒も、大変結構な内容でした。
こちらのお店、日本酒のチョイスがことごとく素晴らしい上に、料理の品質もかなりのもの。たかが居酒屋の料理と侮ることなかれ。都内で食べる和食にしては、この値段ではかなりしっかり作られていると思います。そしてお料理と日本酒のマリアージュの妙。料理と合わせることで、お味が本当に膨らむんですよね。日本酒のそろえも素晴らしく、終盤の飛露喜→上喜元→〆張鶴の3連コンボは、東北・北陸最強説を支持する身にとっては、歓喜の連続でした。料理もお酒もとにかく見事で、日本酒が好きな方ならば、一度は訪れる価値のあるお店だと思います。
また機会があれば、ぜひ伺いたいと思います。ごちそうさまでした！