日の高いうちから飲めるってしみじみシアワセ : 第二力酒蔵

ブロードウェイをぶらぶら歩き、お茶を飲んだら２度目の食事。「第二力酒蔵」を選ぶ。
魚のおいしい居酒屋さんで昼の２時からやっている。
ここの煮豆腐がおいしくて、しかも４５０円。早い時間からおじぃちゃんが煮豆腐あてにちびりちびりと冷酒を飲む姿が粋でかっこよく、歳をとったらあれをしよう…、って約束をした。
まだまだそれには年齢足らず。若造ふたりであれこれたのんで烏龍茶。
３年前に最後に一緒に来たときとお店の人はかわらず同じ、座った場所も同じ席。
貝の刺身をとりました。
分厚いホタテの柱にホッキ、青柳、それから蒸し鮑。クニュクニュもありフカフカもあり、むっちりコリコリ、貝の世界は多様で多彩。中でも青柳のミネラル分にあふれる香り、渋みを帯びた味わいにウットリします。貝は好き。

太った太刀魚が入ってるという。塩焼き、バタ焼きが選べてここは当然バタ焼き。粉をはたいてバターで焼く。皮目がサクサク揚がって仕上がり、身はしっとりと強いうま味を堪能します。
イカのかき揚げが好きでした。
角切りにしたイカを三つ葉と一緒に揚げる。衣は薄付き、最小限で箸を当てるとパラリと散らかる。ムチムチとしたイカの食感、自然な甘み。天つゆにどっぷりつけて食べるのが好き。マグロのヌタをたのんで今日のひと揃え。
まだ日が高い時間というのに、お店の中はにぎやかで帰る頃にはほぼ満席。おじさんたちがニコニコしながらお酒を飲んで語り合う。しみじみシアワセ。オキニイリ。

中野の第二力酒蔵にくる。
タナカくんがこの上もなく愛した居酒屋。
そしてタナカくんはお店の人気者だった。だっておいしそうに食べて飲んで笑うんだもん。
気さくなお店のおばちゃんたちが「まりおちゃん、ひさしぶり」「まりおちゃん、何食べるの？」って近づいてきて、だからこの店ではボクは彼のオマケみたいな存在だった。
昼の２時開店。早い時間にいくと近所のじいちゃんたちが魚を肴に日本酒をちびりちびりとたのしんでいる。
年とって残り少ない時間を、こんなところで無駄遣いするのってなんて贅沢なことだろうねぇ。ボクらもあんな風にくたびれていければいいなぁ…、って来るたび言って笑ったものです。
今日は仲のいい友だち誘って三人で。彼を一番かわいがってくれてたおかみさんに亡くなったことを伝えると、食べて飲んで冥福祈ってあげてください。私たちも偲んで今日は料理を作りますからネ…、って。

いつも絶対たのんだ料理をまず３つ。
これを食べるのをたのしみに来てた「煮豆腐」。魚を煮続けた煮汁でクツクツ炊いて仕上げた豆腐で、ふるふるなめらか。口に含むと魚の味が染み出してくる安くておいしく、しかもお腹があったまり酒をおいしくしてくれる。
それからホッキのバター焼き。粉を叩いてその表面がサクサクになるまで熱をくわえて仕上げる。味わい濃厚。ホッキの旨味を粉がもれなく吸い込んで、バターの香りもおゴチソウ。
イカをサイコロ状に切り分けて、衣をチリチリさせて仕上げたかき揚げは濃い目の天つゆにたっぷり浸してハフっと食べる。衣が儚く崩れ、イカがクニュっと潰れて口に散らかる。今日もやっぱりおいしいよ！

青柳のぬたも好物だった。
２人とも付き合いはじめた頃にはぬたなんて食べ物がこの世に存在することを意識しないで食べていた。
それが４０半ばで開眼し、ここ１０年くらいは自分で作って食べたりもした。
でもお店で食べるのはやはり格別。
青柳のクニュクニュとした食感が引き立ちずっと食べていたくなるオゴチソウ。
土佐酢にトプンと浸された〆鯖。
脂が乗っていて口がひんやり、冷たく感じる。焼酎のお湯割と一緒に食べると旨いのなんの。
貝の刺身の盛り合わせもいつもたのんでおりました。
食べ物の好みが似ていたことが長く付き合うことができた理由のひとつだったに違いなく、互いの嫌いもその理由を含めてよくわかってた。だから食べることで喧嘩をしたり失望したりすることがなく思いやれたのがありがたかった。
赤貝、石垣貝の柱に小柱。どれもおいしく中でも赤貝のネットリぷるんな噛み応えに昆布にも似た粘りと旨味は格別。ウットリします。

岩牡蠣をひとり一個。今日付き合ってくれた友人とは、いつもいろんな企みを考えては盛り上がってた。今年の秋に個展をしようなんても言ってたし、いつかフランスに牡蠣を食べに行こうよ…、なんて言って互いを勇気づけあっていたんだけれど夢は未完で今日のここ。
イワシの塩焼きは腹まで旨く、タナカくんが大好きだった穴子の天ぷらは今日もさっくり、むっちりおいしい。

何を食べても一緒に食べたものばかり。
ここで一度もたのんだことがない料理たのんでみようと、イカの生干しを焼いたのたのむ。
一杯丸ごと。
遠火でふっくら焼き上げて、切り分けた断面がブリンとそっくり返る姿がまずおいしい。
自然な塩のおいしさに、噛めば噛むほど口に広がる旨味にこれも酒をすすます。
一緒に食べたかったなぁ…、って思う。

イチジクの天ぷらは去年の同じ時期にここで食べて気に入った。
衣がサクッと壊れてとろけるイチジクと混じり合う。プチプチ花が壊れる感じを強調するような天ぷら衣の歯触りに油の香りがなんともおいしい。あのときは調子に乗っておかわりしたんだ…、思い出す。
里芋の炊いたの、軽くぬかで漬けた水なす。そろそろ水なすの季節も終わる。そしたらなす田楽のおいしい季節。どこで食べよう、あるいは作るかってぼんやり思う。

２人のときはここで程々飲み、食べて寿司をつまみに中野の街に繰り出した。今日はお店の空気が心地よく、なんだか一緒にいるような気持ちがしたから長居した。
〆もここでと、鯖の押し寿司。脂ののったハラミのところにガリに大葉がさわやかで、〆のつもりがお酒がすすんで会話もはずむ。
それからしばらく思い出話を肴に飲んで、〆の〆をなめこ汁と梅干しのおむすびにした。とぅるんとなめらかななめこが喉を撫でまわし甘い赤味噌でお腹をホッとさせながら、すっぱい梅で口をスッキリさせて〆。
おやつどきにやってきて、お店を出たら日が暮れていた。たのしく時間を無駄遣いした。タナカくん、今日も君は人気者。

土曜日、仕事を終えて中野に向かう。
ひさしぶりの行きたいお店…、「第二力」にやってくる。
中野駅から本当に近い。
駅前の飲食店が並ぶ路地裏をちょっと歩くると、急に空が広くなる。
角に一軒。昭和な建物。「第二力酒蔵」の看板。「力酒蔵」が大きくて、第二が小さく添えられてるから、おそらく第一、第二、第三と兄弟店があったのでしょう。
のれんはためき、お店に入るとまだお店ははじまったばかりというのに厨房の中では多くの人がキビキビ働いている。
この前に来たのはいつ？と、にわかに思い出せないほどにひさしぶり。なのになじみのサービススタッフさんがニッコリしながら近づいてきて、「おひさしぶりです」って名前を呼んでくれるステキに、気持ちがパッとあったかになる。

「酒蔵」ですから酒をおいしくたのしむ店です。居酒屋という業態に分類しようと思えばできる。けれどただの居酒屋と言ってしまうと居心地悪い。
何しろ１４時開店です。ボクが到着したときには、お店の２階の座敷ではすでに宴会がはじまっていた。
箸袋には「季節料理第二力」と書いてあって、つまり季節の美味しい料理があるから、心置きなくお酒を飲んで…、というお店。居酒屋の原型はもともとそういう場所で、なんだか自然とホっとする。
メニューを見ると思わず酒をたのみたくなる料理がズラリ。壁には季節の料理がこれまたズラリならんで「お飲みなさい！」って微笑みかける。レモンチューハイをたのむとジョッキで並々、ドーンッとやってきてお通しに炊いたレンコン。壁の時計は午後２時半！こんな時間から飲めるなんて、シアワセだなぁ…、ってニッコリします。

季節の野菜。
新タケノコの土佐煮をもらう。
やわらかなタケノコに醤油の風味、鰹節の旨みが染み込みサクッと歯切れる。
噛むとジュワリと出汁のおいしさ。
最後に春の野菜独特の渋みが後口ひきしめる。
ちょっと強めの味付けで、一口食べると舌がお酒をねだるゴチソウ。

それからココの名物料理。「煮豆腐」がくる。煮魚がおいしい店との評判もあり、今日もキンキや鯛の煮付けが揃ってる。けれどそれらは値の張る商品で、たのみたくてもたのめぬ事情があるときもある。
それに何度も繰返し、来る人達にはなやましきモノ。
その魚の煮汁で煮込んだ豆腐は気軽な値段で煮魚っぽい味を存分にたのしめる。シットリ、ふっくら。煮汁がジュワリと口に広がるゴチソウで、お腹がポカリとあったまる。酒をおいしくたのしめるお店の料理に、こうしてお腹を温める料理があるって大切なコト。ありがたい。

コハダの酢〆。分厚く大きめのコハダをキリッと酸味豊かに〆ている。寿司で食べるのと違ったネットリした食感と、ムワッと鼻から抜けていく青い魚の香りがおいしい。
子持ちのシャコとタイラ貝の刺身をもらう。シャコの味わいもさることながら、タイラ貝の強い旨みとザクッと歯切れる食感にもうウットリ。
バター焼きがおいしいお店。和食のお店でバターの香りというのが食欲変わっておいしく、いつもは大抵、北寄貝をソテしてもらう。今日はなんと太刀魚のバター焼きがあるというのでたのんだ。分厚い切り身を表面サクサク、焦がして仕上げてたっぷり自家製マヨネーズ。シットリしていて脂の旨みがおいしくてお腹よろこぶ。オキニイリ。また来なくちゃ…、って思うなり。

中野駅前の「第二力酒蔵」っていう居酒屋で、ココがなんと２時から開店。
お店の前に到着したら２時ちょっと前でのれんがかかっていなかったけど、写真を撮っていたらばお店の中からのれんがでてきてめでたく開店。
それでファーストゲストになります。
ランチタイムが終わってからこうしてお店をあけるのは、ランチは腹を満たす時間で「うちは、お酒をたのしむお店」だからランチをすませてうちに来てちょうだいな…、ってコトなんでしょう、粋でござんす…、大人のお店。

厨房の中はずっと仕込みをしてたんでしょう…、フルスタッフでフル回転で、ボクら２人で８人ほどの調理人を独り占めする、そんな贅沢、アリガタイ。
まずは水茄子。
大きくツヤツヤ浸かった茄子を手で裂きながら味わう今が盛りのゴチソウ…、裂くと中からおいしい茄子の水気が出てきてそれで芥子を溶いて浸してパクリと食べる。
プチュンと皮が歯切れると中はサクサク、口の中がみずみずしくなる…、夏の予感をタップリ中に蓄えた季節の野菜にウットリします。

それから刺身。
今日は貝がおいしいですよ…、と中でも一番新鮮だという生のとり貝。
たのむと鉢にギッシリ氷を詰め込んで、そこにとり貝。
プルプル、見るから艶っぽくぷっくり太った見事な姿。
ウットリしながら口に運ぶと、海の風味が口いっぱいに広がっていく。
クニュクニュ、奥歯にからみつくような食感に、これまたおいしい。

お店に預けてある芋焼酎。
ボトルをあまりキープしない主義のボクだけど、ココとあと数軒だけは例外的に芋焼酎を預けてる。
それを昼からグビリと煽る。
昼からこうして居酒屋で酒をたのしむ放蕩気分にココロほぐれる。

もひとつ貝の料理をと、ホッキのバタ焼き。
太ったホッキにカタクリまぶしバターでこんがり焼いたもの。
それそのものも美味しんだけど、そこにタップリタルタルソースがかかってて、居酒屋なのにそれがポッテリおいしくて、気持ちが変わる。
醤油味だけじゃ料理はやっぱりつまらないから、こういう料理はありがたい。
桜えびをかき揚げにしてもらってサクリと、油のうま味を味わってそれをお酒でゴクリと流す…、まだ昼だっていうのになんて贅沢なコト。

料理をあれこれたのしんでたら、お客様が次々やってくるのです。
それもほとんど常連客…、ココを待ち合わせ場所にしているおじさんたちのグループや、近所に住んでるじぃさまたちに夫婦然とした男女のカップル。
お店の人が見知った顔をみつけると、おひさしぶりネって声を掛け合う。
夜のこの店のサラリーマンやらご近所グループやらが交じり合ってにぎわう雰囲気も好きだけど、身内が集まりのんびり週末昼の時間を無駄遣いするこの雰囲気もなかなかに良い、ハマりそう！

それからここの名物料理、「煮豆腐」がくる。

お店に入ったときには最後の仕上げをしてるというコトで、それがやっとできあがり、栄えあるできたてをもらってフルリ。
煮魚をクツクツ煮込んで魚のうま味が移った素ダレ、それと味醂と醤油に日本酒…、甘くてコッテリうま味濃厚な出汁の中で豆腐をクツクツ煮込んである。
豆腐にブツブツ、小さな穴があいていてそこから煮汁が中にはいって豆腐の芯までおいしくなってる…、すき焼きの豆腐に魚のうま味をまぜて食べてるようなそんな贅沢。

あぁ、これで〆にしようと思っていたら、今日の仕入れの魚の発表…、壁にズラリと貼りだされているおすすめメニューが変更になる。

そこに「子持ちシャコ」って文字をみつけてそれをたのんで〆としようと。
やってきたのをみてウットリする…、太って大きなシャコがドッシリ、ヒックリ返して裏をみるとこんもり真ん中が盛り上がってる。
試しにポキッと割ってみると中にギッシリ玉子が詰まる…、身はフックラとシットリしてて玉子がホツホツ、口の中で散らかるおいしさ。
パクパク食べるのがもったいなくて、ユックリ一口、そして一口、齧って噛んで味わって今日のお昼をシアワセにする…、また来なくっちゃって思う昼。