シェフが替わっても美味しい！ : JASMINE憶江南

山口シェフから鯨井シェフへと料理長が替わった「JASMINE憶江南」。味はどう替わったかとひさしぶりに訪れたが、結論から言えば鯨井さんの料理はかつての味に新しいテーストが加わって、通うのがさらに楽しみになった。
前菜8種盛りから始まる流れはこれまでと変わらない。山口さんと一緒に立ち上げから加わっているから、鯨井さんの料理は安定している。が、ところどころスパイシーな感じがするのが仄かに見え隠れする鯨井テーストかな、と思ったらラストに爆発！　〆はシンガポール風のカレーとバクテーだった。聞くところによれば彼はシンガポール料理店にいたことがあったらしい。この辺りから新しい色をつけていこうとしているのかな。師匠は超えるためにあるのだから、遠慮せずにね。

JASMINEグループの総料理長を務める山口祐介さんが新たな挑戦をするという話を知り、最後にわがままを言って、彼らしい料理を食べる会を開催。思い起こせば震災直後に偶然訪れて以来の付き合い。いい常連ではなかったのにワガママばかり言わせてもらったが、それに応えた料理を常に出してくれた。
今回の圧巻は青鮫のフカヒレ。いつも「フカヒレやアワビみたいな高い食材はいらないから」といっているのだが、あえてそれを出してきたからには秘密があると思っていたら、さすがの存在感。フカヒレノしょっかんとそれを支えるスープが素晴らしい。
山口さん、新しい展開を楽しみにしています！　そして新しい総料理長になった鯨井JASMINEグループにも期待しています。

JASMINEグループもずいぶん店を拡張しているが、基本的に山口料理長がいるのはここ。彼が好きな上海系の料理もここがいちばん揃っている。よだれ鶏や餃子が旨いことは否定しないが、それは彼にとっては余技のようなもの。料理は好き嫌いもあるから、万人に合うものはないが、せっかくなら彼の直球である上海料理を食べてから評価してもらえるといいなあと思う。中国料理はなかなか奥が深いから、わからなかったら店の人と相談すればいいし、彼におまかせしてもいい。地味な料理に彼のよさが現れていると思っているのは私だけかなあ。

〆の料理にラードご飯が出た。ラードと菜っぱであえたご飯をいくつもの小鉢で食べて欲しいという山口シェフの考え。最近、華やかな料理ばかりが表舞台に出るなかで、こういう地に足のついた料理を〆にもってくる山口シェフの自信を感じる。中盤のなまこの点心も素晴らしく、訪れるたびに発見を感じる。訪れるなら、二週間ほど前からぜひメニューをシェフと考えることをオススメする。中華はそれがあるとないとでは大違いと思うからだ。

「中華香彩ＪＡＳＭＩＮＥ」が広尾に開店したのは３１１の地震が起きた直前のこと。
オープニングこそ華やかだったが、それから半年間は大変な苦労があったと聞いている。しかし、シェフの山口さんは地道に美味しい料理を開発。いまや広尾店は大人気で、いまや「よだれ鶏」と「餃子」を注文し、よだれ鶏のタレで餃子を食べるのは、この店の定番となっている。
しかし、山口さんの得意ジャンルは四川料理ではない。彼が愛するのは上海を中心とした江南地方の料理なのだ。
そこで、支店として「ＪＡＳＭＩＮＥ憶江南」を中目黒に開店することが決まった時、山口さんは「ここで自分の好きな江南料理を出したい」と心に誓った。だからこそ店の名前に「江南」の文字がある。
メニューを開けると江南地方のスペシャリテが並ぶページがある。ぜひとも、そこから選んで食べていただきたい。もちろん商売だから、ここにもよだれ鶏や餃子はあるし、それはもちろん美味しいけれど、できれば2週間くらい前には連絡をとって、江南料理のスペシャルメニューをお願いすれば、きっと満足のいく料理が出てくると思う。なぜ2週間が必要か。それくらいあれば、乾貨（乾物）を戻して料理することが出来るからだ。
「ＪＡＳＭＩＮＥ憶江南」が出来てすぐに、人数を集めて江南料理しばりで山口さんにコースをお願いした。川エビやハタのから揚げの甘酢かけ、といった江南料理が続き、スペシャリテは大きな乾貨のナマコを戻した一品。こういう料理は時間をかけて打ち合わせをしないと食べられない。
といっても、常連だからそんな料理が食べられるというわけじゃない。
山口さんは愛すべき「中華おたく」だから、はじめての客でも「いかに、自分が中華が大好きでこんな料理が食べたい」と力説すれば、素敵なメニューを作ってくれる。私が最初に作ってもらったのは、ランチに訪れてとても美味しかったので電話をしただけのきっかけだったのだから。
今の時期は、山口さんは基本的にはこちらにいるという。まだオープンして間もないが、何回か通い、定番はすでに問題のない味になったことを確認した。よだれ鶏も餃子もうまい（広尾とは変わった味になっています）ので、つい頼んでしまうのが、困ったものだ。