エベレスト/サイコロになってさえ : エベレスト

晴れ。久々気温が上がっている。
昨夜の雨はいったい何だったのか。思わず鉄板焼き屋に長居し過ぎたが、内臓へのダメイジはそれほど残っている感じでもない。今日は大通りから回っていって所用を済ませた。帰り道、その時見つけておいた、過去に一度きたことのあるお店のドアの把手に、半ばあきらめ半分、同時に期待半分手を掛けた

<H29.9.5>

「エベレスト」

BGMは何らかの民族歌謡。
目の前には女性4名パーティ。内一人について、ちょっと上を向くと、その角度で満島ひかりに見えるよ、と対面の彼女が指摘し、それを本人は、そんなことないよと照れている。私の個人的な見立てはここでは伏せさせていただくが、しかし清潔そうで整然としている店内の中、全体としてのこの風景はけっして悪いものではなかった。

最奥、怪しげに透けるカーテンの向こう側は“本場”の方専用フロアであろうか。
午後一時半に迫っていたが、そこから二組ほどの褐色の方々が奥へと進み、お店の方と親しげに談笑していた

“カジキマグロのネパール風&本日のカレー(ミートボール)” @890也。

サラダは粘りのない納豆のつぶつぶ入り。
そしてメインのお盆が舞い降りた。さて、どっちがどっちか。具をかんますのもやらしいので、まずは食べてみることに。黄土色のほうがカジキマグロのようで、最初は内心、魚にこういった形で熱を再添加された時の臭みを心配していたのだが、それは私の完全なる取り越し苦労だったようで、しかもカレーという強力に主義主張を発揮するやつの中にあって、このマグロというのも、サイコロのような姿となって尚、けっこうな個性を発揮している。
すると、消去法で残った赤身がかったほうがミートボールとなろうが、こちらはシャバシャバ系でトマト風味、またキャベツも入っていて、どことなくロールキャベツのような洋食感を纏っていた。

結論的に、久々にまともで美味しいインド(ネパール?)カレーを食べた気がするが、それがいつもの“キーマ”を避けたことに拠って得られたものかは、ちょっと不明なんだけど ……

「最初にかな入力でいこうと決めた時点で、もう終わってるよね !」

目の前の女性チームが、彼女たちの職場にいると思しきパソコンをかな入力する同僚のことを、ストレートに馬鹿にしている (笑)。何を隠そう、私もかな入力派なのでこのことは聞き捨てならなかったが、しかし私も周囲から自分が馬鹿にされていることは百も承知だったので、大人しく黙っていることにした。

私もこのことを直接指摘されることがよくよくあったが、その都度、理論上、指の運動量をローマ字入力の半分で済ませるかな入力の優位性を訴えたものである。
それは無論ふざけてのことだが、一度キーパンチャーに近い職務の人に同じ調子でこの持論を展開したところ、その人だけが私の言葉をまともに受けてくれ、それはそうだけど、英文が混ざる文章には不利だろうと真っ当に反論してきてくれたことには、妙に感心してしまったなぁ ……

昼間、太陽の下は大袈裟に言ってぽかぽかと言えなくもなかった。夜になって北風びゅんびゅんになるなんて、とても思えないくらいに ……

<H28.2.10 蒲田>

「エベレスト 3D」
もとい
「エベレスト」

―― しかし洋画の邦題に堂々“3D”までつけちゃうってことが、ほんとに日本人もここまで地に堕ちたかと心底憂う。どちらかと言うと俺も馬鹿にしてたくちだけど、水野晴郎さんの才能って、今思うとほんともの凄い !!

テーブルクロスは「グラン・ブルー」。
うっすらと花模様が型押しされており、高級感、清潔さ、そしてまた誠実ささえもが同時に醸し出されているように感じた。調度品は、こういったお店の形態の倣ってそれなりにデコラティヴながら、ありがちな雑然さは微塵も感じられず、寧ろ整然とした印象を受ける。
午前十一時四十分くらいか。
それでももう数組、テーブルに着いていた。私は二人掛けの席に独り誘われ、おもむろにメニュウを広げて、今日のカレーの選定にはいった。

と言ってもこの手のお店で、私がチャレンジすることの出来るものは基本一種。それをベースに二種の内からもうひとつをチョイス出来るセットとした

“キーマカレーセット” @860也
プラス定番の1種 or 本日のカレー

私 「本日のカレーは何ですか ?」
彼の国の方 「本日のカレーは、￡＃§＠と挽き肉のカレー」となります

とのこと。
選べる二種の内、固定のカレーは“ほうれん草”。片や本日のカレーというのが何だかよく分からなかったし、辛うじて聞きとれた挽き肉というのがキーマとかぶる気がしたが、勇気を振り絞ってそれにしてみた。
結果、聞きとれなかった部分は豆腐で、且つスープ状のカレー。豆腐 & 汁物ということで、日本人として否が応にも“味噌汁”を連想してしまうが、それはヴェクトルとしては決して間違ってはいないと思う。
実際、可愛らしく添えられた浅い(色合いも)プリン状のライスは、無意識にやって“ねこまんま”を永遠に希求する哺乳類としては、必然的にそちらメインでやることとなった。

キーマカレーはやや赤褐色で、肉感も十分。
例の業務用の“典型的”な色合いよりは幾分赤みが深かったが、完全にオリヂナルのものであるのかどうかが、料理記者ではなく、一介のスーパーカーキャメラマンでしかない私の力量ではとても言い切れないことが、堪らなくもどかしい

「豆腐とお～ !?、挽き肉うぅ～ ???」

後から入ってきた女性が、私と同じように本日のカレーを確認し、その事実に明らかに驚愕していた。おそらく私も、それが“豆腐”と最初っから聞きとれていたらまったく同じ気持ちになったろう。

テーブルクロスの深いブルーに、ラッシーの純白さが殊更映えていた。
インドカレー屋さんで“キーマ”しかやれない私にとって、だから内容としては常に単純明快なものとなるはずだが、この意味深なブルーに真っ昼間っからデヴィッド・リンチしはじめてしまう自分をとめることが出来ず、いつものことながらいい調子で屈折しはじめる心を、もう一人の自分がまるで他人を見るような冷めた目で、もう匙(さじ)を投たようにただ傍観していた