芝蘭/適当な麻婆豆腐を適当に喰らうということ : 芝蘭 豊洲店

いつもの居酒屋の頭上のテレヴィジョンから、今夜は九死に一生なんとか、YouTubeとかでありがちな決定的瞬間を集めた番組をやってる。
なんでも“九死に一生”の平仮名の“に”を省けば、中国でもそれが日本と同じように危機一髪的な意味で通るのだとのこと。お店の閑散とも相まって、中国は四川出身の女の子が私の横でそんな解説を私にくれながら、その映像にもう食い入ってる。

「ミテミテ !」

赤ちゃんが冷蔵庫の中のものをどうしても物色したいんだけど背が届かずに、でも赤ちゃんながらに考えて、自分と同じくらいの大きさの飼い犬の背を踏み台にしてその熱い思いを成し遂げる(笑)、そんな微笑ましい映像も織り込まれつつ、でもクルマが子供を巻き込んじゃうようなショックシーンでは、その四川の女の子はもう大袈裟に怖がってしまって。
それをみて私はちょっと意地悪を言った。

「こういうの、中国のほうがたくさんあるんじゃないの ?」
「ソウ、チュウゴクイッパイアル」
「中国は人いっぱいいるからね」

中国は人口が多いからそういう事故も多いんだよねと、自分としてはその意地悪を中和する意味で言ったんだけど、その娘はシリアスな表情を崩さず、私に向かって本心を吐露した ……

「チュウゴクオオイデスケド、ダイタイシンジャウノ ……」

中国では確かにこういうことが多く発生し、しかもその大体は死んでしまうのだと(笑)深刻な顔で中国の女の子からそう言われると、不謹慎かも知れないけど可笑しくて可笑しくて。まあその娘も笑ってんだけどね ……
(笑/こういったヒヤリハットで中国だけ死亡率が高いなんてあるわけないと思うけど。やはりそれはピラミッド型に軽微な事故から一定確率で重大事故に至るわけで、底辺が大きくなるほど重大事故件数が増えるから、危険予知の徹底により先ずその裾野を狭めましょうね、となるんだろう)

<その翌日、H31.2.14/豊洲>

「四川料理 芝蘭」

電車のくせにタイヤで走るという世の中をなめきった交通機関、ゆりかもめを“新橋”から“有明テニスの森”で下り、用事を済ませて、今度は豊洲方面に乗ってみる。新橋に帰るよりは早くご飯にありつけると思った為。
午後二時を十分も過ぎており、いい加減お腹が空いた。
食べグロにあたり、良さげな洋食屋を目指す。が、同飲食店街のお隣りに中華屋、しかも四川と名乗る店を発見し、本能的に突っ込んでしまった。考えてみると麻婆豆腐は昨日の夜にやったことを思い出したが、でもそんなことはいいだろう。

注文してしまって尚も気になる、テーブルの上の小さな透明アクリルのメニュウ立ての中に、“1,200円で本場四川山椒入りマーボー出来ます”“1,400円でもっと～”なんていう謳い文句。私はふつうのにしてしまったんだけど、この文脈を読みとる限り、逆説的に私の注文したそれは“本場”じゃないしグレードが落ちるようで、何となく気分が卑屈になってきた(笑)

“麻婆豆腐セット” @1,000也。

ほどなくして、真ん丸の手前側のみ一直線にカットされた、よく中部地区の飲食店で見かけるようなお盆に載って、その揃いものは供された。
一見して麻婆豆腐の量に対し、ご飯の量が少なく思える。与えられた唯一の武器であるメタルのスプウンは、卵形ではなく、どちらかと言えばそれほど大きくはない丸形。それで先ずスウプをやりつつ、そのまんま麻婆豆腐に立ち向かってゆく。

麻婆豆腐は豆板醤か甜麺醤か、そのどっちかの味噌感に溢れ(どっちだかは知らないです !)、特筆すべきは挽き肉の質(たち)が上質で、安っちいそこらへんの中華屋にありがちな、咀嚼中にグキってなる筋っぽさも皆無。1,200円、または1,400円出してないので本場ではなく、だからお店の人も適当に作ったであろう麻婆豆腐だが(おいおいおい !)、ふつうに全然美味いじゃん !!

※ いや、適当という言葉には真剣にとり組まないという意味の他に、ある条件、目的、要求などにうまく適ったという意味があり、無論私はその意味で使ったのである

そしてやっぱりご飯が足りなくなりそう。
左手にお茶碗を構えたまんま、卓上のアクリルのメニュウ立てを綿密に再点検してみる。と、ご飯食べ放題という神のお告げがそこに !!

「半分くらいください !」

そう言えば2/3くらいよそってくれると思ったが、額面通りに半分くくらいで還ってきたご飯に、ふたたび「大きくなって帰ってこいよ !」とキャッチアンドリリースしたい気分でいっぱいになるが、でも自らの全精神力を振り絞って我慢した。人間ドックを控えているということなど関係ない。ただひたすらに、自分の人間のとしての尊厳を守らなければならないと思っただけだ。

すると私のその愚行を追いかけるように、隣に着いていた女子二名チームが揃ってご飯お代わりとやった。そちらに目をやることは出来なかったが、きっと私と同じように、身に纏った究極素材であるミートテックの維持に勤めているのだろうか。
この冬寒くて夏暑いという高機能を持つ、究極の天然素材のキープを ……