多幸チュクミ : 儘や

このごろの日韓関係はこじれてゆく一方ですね。
両国に政治外交上譲れない一線があるのも理解はできます。こう言っては火に油を注ぐかもしれませんが、感情論を振り回す民を冷めた目で見ている無関心さは同じ日本人として恥ずべきだと思います。とは言えそのような時節だからこそ、せめて市民レベルではお互いへの親しみを忘れたくありません。相手の文化に触れて、相手にも感情と日常があることに思いを致して頂ければと思います。同じヒトという生き物なのですから。


・突き出し 辛味先烏賊 茎若布 玉ねぎ甘酢
韓国料理店では大抵突き出しが何品か供されます。こちら様では、コチョジャンをまとわせたつややかなさきいか、茎若布のナムルは定番です。玉葱甘酢漬けは初めての品でした。よく漬かって鼻につんと来ませんでした。

・チュクミ
こちら様の名物料理、小さな蛸(イイダコ？)と豆もやしの蒸し焼きです。テーブル埋め込みのこんろに鍋を載せた後は、店の方が調理してくれます。韓国料理店に於けるこのもてなしはちっとも疎ましくないのです。それは無言でことを進めてくださる配慮なのだと思います。かような行いはサムギョプサルほか卓上調理の品全てにあることを感謝しております。話が逸れましたね。初めにひとかけのバターを鍋肌に溶かしてゆくのがこのレシピのポイントなんだと後に分かります。すべてを混ぜ合わせて汁気が溜まってきたら食べ頃のようです。豆もやしがしゃきしゃきと、蛸がこりこりとして歯応えが楽しいものです。蛸の頭と足にも食感の差異があるので楽しんでください。塩気は蛸の持つものだけかのように薄く、わずかな唐辛子の甘味を際立たせています。辛味も後からじんわりとやって来ます。思わず一心不乱に食べ進めてしまうのです。チュクミという料理を提供する店が少ないのでこちら様の存在はとても貴重です。

・チャプチェ　
チャプチェは店によって作り手によってたくさんのレシピがあるように思います。おそらくはこちら様の、甘く醤油にて調味するのが定石だと思います。でもこちら様の品は一歩秀でているように感じるのです。下味として煮込まれた牛筋が味付けの軸となっています。無頓着に牛肉を入れればいいというのは乱暴です。味を持った牛筋と太く透明な春雨が出会ってこそのチャプチェだと思います。他に、人参、木耳、ほうれん草、干ししいたけ、白胡麻を伴っているのは五行に拠っているのでしょうか。薬食同源なのだと思います。デチャングムを思い出してしまいます。

・海鮮チヂミ　
量を多くして単価をつり上げるのはスマートではありません。おやつ的な品ではありませんでしたか、チヂミ。箸休めにしては持て余す厚さは指摘します。ソウルで食べたチヂミは韮か青葱を含むだけでした。薄くぱりっとした軽い食感が思い出されます。それに較べると厚くてもったりとして粉に対価を払いたくないという気持ちになります。この品を食事と捉えるなら肯定できますが、そうで無いのなら拒みます。海鮮の香りはしても探し当てるは難いのは強く不満です。

・チュクミご飯　
チュクミの汁にご飯を入れて、良い胡麻油をたっぷり回しかけて、海苔もたっぷり振りかけて焼いて仕上げてもらえます。日本でも海苔は貴重品になろうとしているのにもたいぶらないところが素晴らしいのです。「え、そこまで…！」してくれます。グレードの良い油故なのかは判断しかねますが、辛味が胡麻油と出逢うとエマルジョン化するのか辛くなくなるのです。海苔の豊かな香りにきっと満足します。するはずです。


日本は仏教伝来を機にして事実上肉食を忌むようになりました。そのことによって海産を進めたのかもしれません。一方大陸では儒教が広まったこともあったのか肉食は否定されませんでした。それでも朝鮮半島に海産の文化が育ったのは自然なことだと思います。中華圏と切り離せば三方を海に囲まれているのですから。言語的にも文法が似ていると言われています。漢語ではなく日本語からの外来語が存在すると認識しています。だからこうというナショナリズムは聞きたくありません。ただ明らかなのは、世界から見て、共通点がたくさんあるという事実です。共通点があるのは交流があったからです。その交流を滞らせれば水さえも腐敗させます。そのような事態は誰も望みません。魚の生食や海藻を食べる共通項を異にする根拠をお持ちの人がいるならお聞きしたいものです。

ご馳走様でした。共存共栄を模索してもらえないでしょうか。

久しぶりの訪問です。
ときどき禁断症状のようにチュクミを食べたくなるのです。

チュクミとはイイダコと豆もやしを炒り煮にしたなかなか辛い鍋ものです。韓国料理の店は卓番の方が就いてくれるので煩わしさとは無縁とはいえ、過熱前の画像を撮り損ねることの繰り返しで、どのようなビジュアルなのか伝えられないことに葛藤しています。加熱前の鍋には、底にそれほど辛くない唐辛子をまとったイイダコ(おそらく生かと)。その上にたくさんの豆もやしとほんの少しのエノキダケとほんの少しのバターが載ります。店の方が貫徹して調理してくれるのではじめてでも安心です。いえ、調理を断ったことは無いのですが…加熱が始まるとバターを先に融かすので芳香が辺りを覆います。唐辛子の香りとマッチングして強く食欲をあおります。店の方はときどき鍋を混ぜに来るだけですので、聞かれたくない話も小声でできるほどの時間です。どうぞと声がかかったらやけどに気をつけて食べましょう。蛸が過熱で固くならないよう、温かいままで食べられるよう火を弱めてくれます。もやしのしゃきしゃきとした、蛸のぶりぶりとした食感、それに蛸のわずかな塩気、汗を帯びる程度の唐辛子と香るバター、それらが渾然一体となった様は夢中になってしまいます。バターは必須です。たとえばトマトクリームのクリームの役目を担っているような、辛さを和らげて旨味を増幅させる効果があるように思います。エノキダケは刻むと歯に挟まりやすいものなのですが、こちら様は根元を切り外しただけなのか歯に挟まりません。これは快適に食事を進めるのにとても大事な要素です。食べた後は火を消してもらって〆を待ちましょう。オプションの別料金ながらチュクミの後のごはん、と注文すると、蛸の旨味が抽出された汁と、たっぷりの海苔や薬味を混ぜ合わせて、しっとりとした焼き飯を作ってもらえます。これでもか！と言わんばかりに海苔を振りかけてくれるのはとても嬉しいものです。世界的に見ても海苔を食べるのは日本と朝鮮半島だけだろうと思います。似た食文化を持つのですから仲良くしたいものです。何はともあれチュクミで一献、チュクミごはんで一献。マッコリが進みます。日本国内でもチュクミを提供する店は希少で、こちら様が一歩抜きん出ているのではないでしょうか。チュクミの日があるようですし、こちら様の名物料理と言ってよろしいかと思える名品です。蛇足ですが…チャドルバギの提供も日本国内では珍しいものかと思います。まだまだ知らない韓国料理の一面を知ることができます。

こちら様で初めて注文してみたチャプチェはそれほど甘辛くありませんでした。
チャプチェとひとつにくくってみても、店によって味付けがかなり異なるものです。他のある店では胡麻油と塩味と胡瓜というシンプルなさっぱりとした味付けということもありました。こちら様のそれはプルコギのような甘辛さを醸しているもののそれは肉だけに下味を施しているようで、歯応えの楽しい太い春雨には染みておらず、肉に含まれる塩気とともに咀嚼すればこの品のちょっとしたサプライズを解ってもらえると思います。とても美味しいチャプチェでした。

総合☆２．７
席間にゆとりがあるのが良いですね。そのうえ卓ごとに火元を装備してプライベート感があります。三種の突き出しは毎回同じ品のようにも思えますが、韓流定番の品ですので飽くことはありません。推薦します。


ＪＵＮ 2012

暑さの最中、辛いものが食べたくて訪ねてみました。
サムギョプサルは他の店でも提供していますので、あえてこの店独特のメニューを狙ってみました。

チャドルバギはみなさん口コミに書かれているように焼きしゃぶのような料理です。
しゃぶしゃぶ店でよく見られる、凍った肉をスライスしてロールになってるものありますよね。まさにあの状態で供されます。そしてサムギョプサルと同じように店員さんが付いてくれます。傾いた厚い鉄板で丁寧に焼いてくれます。
(このへんは韓国料理店に共通するおもてなしですよね)

極薄の肉ですがしっかり焼いてくれます。ほんのりピンクで食べたいとも思いましたが、そこは続きを読んでください。

肉は和牛とのことで、赤身と脂身が半々ずつです。
その脂身から溶け落ちてゆく脂をもったいないと思いながらポン酢につけて口に含むと…それはもう至福のひとときです。この肉は半生で食べても美味しいのでしょうが、クニャクニャとした印象が残るだろうな…完全に加熱したほうが良いな…と感じました。

そして、甘みと酸味の抑えられたポン酢も美味しいものです。
あえてダブルで、長ねぎと玉ねぎのみじん切りを薬味に加えているのも試行錯誤の賜物なんだろうと感じました。そして、別皿で付いてくる青唐辛子は一切れくるんでくださいね。風味に厚みが現れて断然美味しくなります。

また、ヤンニョムチキン(鶏唐揚げのヤンニョムがけ)も美味しかったです。
コチュジャンをのばしただけではない、甘ったるさのないすっきりした味わいでした。

おそらくこちらの店主(夫人)なのでしょう、あえて店名に倣ってママと呼ばせていただきますが、
このママが素敵な方なんです。気配りはもちろん、低いトーンの声が落ち着きをもたらして安心できます。なのにときどき少女のような一面を見せてこちらが驚いてしまいます。

季節を通じて楽しめるメニューがそろっていると思います。
お勧めしたいと思います。


2012　06　再訪

隣席で食べていたものが美味しそうだったのでチュクミを注文。
鍋に豆もやしと蛸のぶつ切りが山盛りになり、バターがちょっとだけトッピングされてきます。
それを店員さんが目の前で調理してくれます。
どうやらこれはこの店の看板メニューらしいです。ノーマークでした、不覚！

それにしても蛸からこんなに旨みが出るとは予想できませんでした。辛いソースにわずかなバターが香っていたのがとても心憎いしとても美味しかったです。脂のない蛸と豆もやし、健康的なのに美味しいなんて良いですね。

残ったソースにご飯を入れて、焼きピビンパプにしてもらえます。
(もちろんオプションです)
海苔をこれでもかってくらい入れてくれるので、海苔の香りがとても心地よかったです。でも蛸の味と香りも残ってて、蛸のヤツやるなぁ、とうなってしまいました笑


さらに再訪！汗

オギョプサルを注文。店員さんは、白菜キムチを一緒に焼くと美味しいと勧めるけどやんわりとお断り。
他店ではセットされてるところですが、ここではオプションのようなのでやめておきました。小慣れたオファーにはご注意を。

でもサンチュとエゴマの葉は他店より多かったです。

そしてハチノス刺しもおいしかったです。
シコシコともフワフワともいえない微妙な食感を楽しんでください。でも茹での水切りが甘いようで、塩胡麻油や辛味ダレを付けても水っぽかったのは減点でした。

薬缶に入ってくるマッコリはキンキンに冷えて良いですね。

席間に余裕があるので、プライバシーに厳しい方でも妥協できるのではないでしょうか。
このごろちょっとヘビーローテーションになってきた「儘や」さんです。