"嫦娥（このむすめ）"　仙藥（くすり）盜（ぬす）みて　月（つき）に迯（にげ）　竟（つひ）には零落（おち）ぬ　"蟾蜍（みにくきかへる）"に : 青柳正家

九月十三夜（ながつきじふさんや）は"栗名月（くりめいげつ）"。
「十三夜（このよ）に"栗（くり）"を不食（くはぬ）は丈夫（をのこ）の恥辱（はぢ）」
とばかりに、勇躍（いさみたち）、向島（むかふじま）『正家 靑柳』に、、。
莞忝（につか）と歡迎（むかふ）るは女將（おかみ）。

扨（さて）、東都（えど）に有名（かくれなき）『正家 靑柳』"栗羊羹（くりやうかん）"。
"栗羊羹（そ）の小（こぶりのもの）"に加（くは）へ、
"杏餈（からもゝもちひ）"、"栗餈（くりもちひ）"、
對價（あたひ）、二千五百九十二圓也（にせんごひやくきふじふにゑんなり）。

"嫦娥（つきむすめ）"も竟（つひ）には"蟾蜍（ひきかへる）"と化（な）ると云へり。
當日（このひ）は、八月十六日（はづきいざよひ）のごとき"朧月夜（をぼろづきよ）"*)。
"玉菟（つき）"を覆（おほ）ひ隱（かく）さんばかりに雲（くも）が擴散（ひろが）り、
宛然（あたかも）、"魑魅魍魎（すだまみづは）"の蠢（うごめ）くが若（ごと）し。

閑話休題（それはさておき）、"栗羊羹（くりやうかん）"。
黑文字（くろもじ）の"楊枝（やうじ）"を用（つか）ひ、
上等（よ）き"茶（ちや）"と一緒（とも）に堪能之（これをいたゞく）。
"風味（あぢ・かをりとも）"に尋常（つね）に一無差異（つゆことなるところなし）。

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*)「朧月夜」とは春の季語とのこと。（∵田中茂雄様）

【暗匣】：富士膠片（Fujifilm）X-T4 無反光鏡可換鏡頭照相機（みらーれす）
【鏡珠】：福倫達（Voigtländer）MACRO APO-ULTRON 2/35 @F2.8～F4
　　　　　安徽長庚光學（Venus Optics）老蛙（LAOWA）2.8/9 ZERO-D @F8
　　　　　TomyTec miniBorg 71FL 5.6/400 w/1.4X（Equiv. 8/560）@F8　※十三夜
　　　　　精機光學 觀音（Kwanon）nFD 2.8/300L @F2.8　※朧月

"彼岸（ひがん）"に"萩花（はぎのはな）"啖（くら）ふは、
往古（いにしへ）ゟ（より）の風習（ならはし）であり、悦樂（たのしみ）でもある。
、、と云ふ仔細（わけ）にて久々（ひさびさ）の向島（むかふじま）『靑柳正家』。
玻瓈（びいどろ）の扉（とびら）にも"おはぎ"と大書（おほきくしるさる）。

「春（はる）は"牡丹餈（ぼたもち）"」と云ふは俗説（ぞくせつ）ならん。
何者（そのゆゑいかにとならば）、
そもそも"萩（はぎ）"の別名（またのな）を"ぼた"と稱（とな）へ、
"牡丹（ぼたん）"は初夏（なつのはじめ）に咲（さ）くが常態（つね）なればなり。

【和漢三才圖繪】<903/921>：
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>"牡丹餠（ぼたもち）"及"萩花（はぎのはな）"者、形色ヲ以テ名之（これをなづく）。
>今人、隱名（なをかく）して"夜舟"と爲す。　
>言（こゝろ）は、「不知其着（そのつくことをしらざる）」也。
>又、"主之連歌（とのゝれんが）"と名づく。
>言（こゝろ）は、「雖不附（つかずといへども）用之（これをつかふ）」。
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【嬉遊笑覽】<239/359>：
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>《分談抄》に、「俗に"萩の花"といふ物なり」とあれば今世の"ぼたもち"なり。
>《屠龍工隨筆》に、
>　「"ぼたもち"は"牡丹餠"なりとおもひしにさに非ず。
>　　"萩"を"ぼた"といへば、直に"萩もち"といふことにて"おはぎ"といふ。
>　　おなじことなり。
>　　と、土達部の娘の老女となられしが語られし。」
>といへり。
>按るに、"ぼた"をは肥たるを云なり。　※←卍疑之（これをうたがふ）
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ま、案下某生再説（それはさておき）、
"萩花（はぎのはな）"二種（ふたくさ）、"粒餡（つぶあん）"＋"漉餡（こしあん）"、
それに、"杏餈（からもゝもち）"、"栗餈（くりもち）"を加（くは）へ、
對價（あたひ）、八百六十四圓也（はつぴやくろくじふしゑんなり）。

小體（こぶり）ながらも、味（あぢ）淡麗（あはくきよらか）にして佳良（あしからず）。
東都（えど）の"餈餜子（もちぐわし）"に限定（かぎる）なら、
待塲（まちば）の"それ"と比較（くらべ）て「天地懸隔（あめつちほどのたがひ）」。
善哉（よきかな）、善哉（よきかな）！

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【暗匣】：富士膠片（Fujifilm）X-T4 無反光鏡可換鏡頭照相機（みらーれす）
【鏡珠】：銘匠光學 TTArtisan 1.4/35 @F2.8～F5.6
　　　　　安徽長庚光學（Venus Optics）老蛙（LAOWA）2.8/9 ZERO-D @F8

長月十三日（ながつきとほかあまりみつか、=Oct.29）は"栗名月（くりめいげつ）"。
「と云ふからには、何（なに）か栗（くり）の餜子（くわし）の等類（たぐひ）でも、、」
となるが、
貴人（やむごとなきかた）のみならず、庶民（しもじも）の習俗（ならひ）と云ふもの。

と云ふ緣由 （ことのよし）にて、『靑柳正家』の"栗羊羹（くりやうかん）"。
染垂阿爺（しみたれおやぢ）なれば、一棹（ひとさを）ならで、半棹（ひとさをのなかば）。
"和三盆銅鑼燒（わさんぼんどらやき）"に"豆大福餈（まめだいふくもちひ）"をあはせ、
對價（あたひ）、二千六百四十六圓也（にせんろつぴやくしゞふろくゑんなり）。

冢中枯骨（くたばりそこなひのそれがし）、幼少期以來（いとけなきみぎりよりこのかた）、
"羊羹（やうかん）"・"銅鑼燒（どらやき）"の等類（たぐひ）は、
受忍限度（たへしのび、こらふるかぎり）を　はや超（こ）えて、
惡夢（あしきゆめ）見（み）し　×獼猴〇得手（えて）とせず。　←※ｳｿﾀﾞｹﾄﾞ、、

"羊肉羹（ひつぢにくのあつもの）"が"豆沙糕（あづきのこなもち）"と化（な）り、
"荳沙（あづきあん）"に"麪（むぎのこ）"を混（ま）ぜて蒸（む）すものなりしが、
"瓊脂（こゝろぶと）"加（くは）へて練（ね）る製法（やりかた）に變化（かはれり）。
この邊（あた）り、旣述（すでにのべたる）ことなれば省畧之（これをはぶく）。

巷（ちまた）の"銅鑼燒（どらやき）"も、
現今（いま）の姿形（すがた）と化（な）りしは、明治以降（めいぢのみよゟのち）。
輒（すなは）ち、
"羊羹（やうかん）"・"銅鑼燒（どらやき）"、ともに、變遷（うつろひ）ゆくもの。

"黃油銅鑼燒（バタどら）"なるものも、
"草莓大福餈（いちごだいふくもちひ）"と同樣（おなじく）、
遠（とほ）からず普及（あまねくひろまる）は、一無懐疑（つゆうたがひなきところ）。
"羊羹（やうかん）"は、、、？、、、こればかりは神（かみ）のみぞ知（し）る。

冢中枯骨（それがし）、
"荳沙（あづきあん）"に"黃油（バタ）"、"蜜漬栗子（くりのかんろに）"には"ブランデー"、
と云ふが、密（ひそ）かなる悦樂（たのしみ）。
ゆゑに、"ブランデー栗羊羹（くりやうかん）"あらば、すなはひ噉之（これをくらは）む。

否（いな）！
試（こゝろ）みに"ブランデー栗羊羹（くりやうかん）"と檢索（グヽ）れば、
即（すなはち）、"これほど"多種多樣（さまざま）なるものが檢出（みいださ）る。
"牛酪銅鑼燒（バタどら）"同樣（とおなじく）、これも何（いづ）れは、、。

扨（さて）、"和三盆銅鑼燒（わさんぼんどらやき）"：
半分（なかば）をその儘（まゝ）、剩餘（のこり）は"黃油（バタ）"と噉（くら）ふ。
『うさぎや』の"それ"と比較（くらべ）て、淡麗（あはくきよらか）なる味（あぢはひ）。
"蜂蜜（はちみつ）"→"飴餹（みづあめ）"＋"和三盆（わさんぼん）"の差異（たがひ）か？

牛酪（バタ）加（くは）へたる"剩餘（のこり）"、
i.e.,（すなはち）、弓張月（ゆみはりづき）"髣髴（おもは）す"それ"を一噛（ガブリ）。
豫想（おもふところ）に一無相違（ひとつとしてたがふところな）く、
美味（よきあぢ）、眞言（まこと）、鮮美（よきあぢ）なり！

茲（こゝ）で"豆大福餈（まめだいふくもちひ）"：
東都（えど）で高名（なだか）きは、『岡埜榮泉』、『松島屋』、『群林堂』なれど、、
老骨（それがし）、『鹽野』の"それ"を嗜好（この）む。
當家（こちら）の"それ"も『鹽野』に匹敵（ならびた）つ味（あぢはひ）。

包皮（かは）薄（うす）く輭（やはらか）。
加旃（しかのみならず）、荳沙（あづきあん）が淸冽（きよらかにす）み、
口中（くちのなか）、一陣旋風（つむじかぜ）でも舞（ま）ふかと錯覺（うたがはる）。
但し、『鹽野』は漉餡（こしあん）、當家（こちら）は"粒餡（つぶあん）"。

これはその儘（まゝ）咋（くら）ふも吉（よし）。
さりながら、
"酸（すみ）"ある"覆盆子（いちご）"、"杏子（からもゝ）"包含（つゝむ）も適切（よし）。
"糖靑梅（あをむめのみつゞけ）"も無人知之（しられざ）る華美（よきあぢ）。

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【暗匣】：東京通信工業 索尼（Sony）α7 III 無反光鏡可換鏡頭照相機（みらーれす）
【鏡珠】：精機光學 佳能（Canon）nFD 2.8/300L @F4 w/ FD 2X-B（Equiv. 8/600）
　　　　　東蔡（Carl Zeiss Jena）紅 MC Pancolar 1.8/50 @F2.8～F5.6
　　　　　東蔡（Carl Zeiss Jena）紅 MC Flektogon 2.8/20 @F11　　　　　

舊暦五月朔日（もとのこよみさつきついたち）は、　
二十四節季（にじふしせつき）の"夏至（げし）"に當（あ）たる。
その前日（まへのひ）、向島（むかふじま）近邊（あたり）を徘徊（うろつきまはる）。
『いりむら』→『靑柳正家』→『うを德』と云ふ經路（めぐりかた）。

"夏至（げし）"に因（ちな）む沙糖餜子（さたうぐわし）も浮（う）かばで、
陳列棚（ちんれつだな）ゟ（より）、朱明（なつ）に相應（ふさは）しき、
"潺（せゝらぎ）"＋"澄空（すみぞら）"に"菊最中（きくもなか）"を加（くは）へ、
對價（あたひ）、一千三百六十一圓也（いつせんさんびやくろくじふしちゑんなり）。

元來（もとより）、
"菓子（くわし、くだもの）"とは、"果實（このみ・くさのみ）"を指（さ）し、
慶長八～九（1603～1604）年刊、【日葡辞書】にも、
「"菓子（くわし）"........果實、特に、食後の果物を言ふ」とある。

"唐菓子（からくだもの）"は古（ふる）く異朝（もろこし）ゟ（より）傳來（つたは）り、
"南蠻菓子（なんばんぐわし）"も戰國期（みだれたるみよ）には渡來（わたりきたれり）。
どちらも、現代（いま）に繼承（うけつが）るゝもの少（すく）なからず。
仔細（こまけーこと©毒ぱいせん）は省畧（はぶく）。

沙糖（さたう）を多用（をしみなくつか）ふ"南蠻菓子（なんばんぐわし）"は、
下層階級（しもじも）には疎遠（ゆかりうすき）ものながら、
上流階級（やむごとなきかたがた）には、大（おほ）いに歡迎（もてはやさ）る。
總體（おしなめ）て彼儕（かなみ）は、古來（いにしへより）美食家（よきものくらひ）。

享保三（1718）年、
本朝最古（わがくにていとふるき）菓子製法書（くわしのこしらへかたをしるせしふみ）、
【御前菓子祕傳抄（ごぜんぐわしひでんしやう）】も、
"一、あるへいたうの方"に始（はじ）まる。

序文（まへがき）にも、
「いにしへの帝（みかど）、、手（て）つから、みつから、調（てう）し給へるたのしみ」
「御側（そば）に女中なと御相手（あひて）に、
　《沙糖（さたう）よ、何（なに）よ》と、精味（せいみ）かゝせ給ひ、、」とある。

【御前菓子祕傳抄（ごぜんぐわしひでんしやう）<4～5/57>】：
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
>禁中（きんちゆう）に"御黑戸（くろと）"といへる一間（ひとま）あるは、
>いにしへの帝（みかど）まさなことせさせ給る御料理（おんれうり）の間（ま）の、
>ふすぼれるなり、とそ、
>最明寺時頼（さいみやうじときより）の棚（たな）さかし志た土器（かはらけ）に、
>つける味噌（みそ）をもてはやし給ひけんも、
>手（て）つから、みつから、調（てう）し給へるたのしみをそ興（けう）せられける。
>まして、菓子類（くわしるい）の風味（ふうみ）は、
>紫式部（むらさきしきぶ）か、すさひにもはかなき"くたもの"を"たに"と書（かゝ）れて、
>「うへかうへ」なるつかさ位（くらゐ）にめし給ふは、
>「したした」のいやしき手（て）にかくへき事（こと）かは、
>"豆腐（たうふ）"をさへ、諸葛孔明（しよかつこうめい）か仕出（しいだ）しにほこり、
>"温飩（うとん）"は、
>胡僧（こさう）の胸中（きようちゆう）に祕（ひ）せしを懇望（こんばう）せしそかし。
>
>これをみ、彼（かれ）を聞（きく）に、
>今も猶（なほ）、御側（そば）に女中なと御相手（あひて）に、
>「沙糖（さたう）よ、何（なに）よ」と、精味（せいみ）かゝせ給ひて、
>心（こゝろ）こゝろに、色取（いろとり）おもひおもひに、
>姿（すがた）をつくり出（いだ）し、
>花月（くわげつ）のむしろに、
>客人（まらうど）のもてなしとなさせおはしまさんたよりにもや、と、
>あつめて、品々（しなじな）の菓子（くわし）の數（かず）をしるし、
>"祕傳抄（ひでんしやう）"といふ名（な）を、
>ありのまゝなから、櫻（さくら）にいのちなかふする事しかり。
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝

その後（のち）、文政十三（1830）年には、

【嬉遊笑覽<235～236/359>】：
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>食物の中、菓子も又、今の世ほど花美を極めたる事もあるべからず。
>そも、端々のみせ棚にも、上菓子を風日にさらして賣やうになりしは、この頃のことなり。
>古への菓子ともを考ふるに、今のだぐわしにも劣るべし。
>沙糖なければ、みな、甘葛煎をもて製れり。
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝

然（しか）はあれど、
この頃（ころ）ですら、"最中（もなか）"は未完（いまだならず）、
"羊肝餠（やうかんもち）"に"瓊脂（こゝろぶと）"用（つか）ふは稀（まれ）。
"家主貞良（かすていら）"に"水餹（みづあめ）"用（つか）ふも後（のち）のこと。

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【暗匣】：東京通信工業 索尼（Sony）α7 III 無反光鏡可換鏡頭照相機（みらーれす）
【鏡珠】：東蔡（Carl Zeiss Jena）紅MC Flektogon 2.4/35 @F4

"中秋節（ちゆうしうせつ）"と云ふと"月餠（つきみもち）"が不可缺（かゝせぬ）。
とは云へ、冢中枯骨（それがし）嗜（この）む"月餠（つきみもち）"は、
日本（やまと）に皆無（なし）。
代替（かはり）となるべき"月見團子（つきみだんご）"も氣（き）が乘（の）らぬ。

午後（ひるすぎ）から茅舎（あばらや）にて消防點檢（ひけしのみまはり）があり、
外（とのも）での晝飧（ひるめし）を諦（あきら）め、
"栗羊羹（くりやうかん）"を『靑柳正家』、"煎餠（せん遍゛以）"を『いりむら』、
と決意（き）め、緊急（いそ）ぎ向島（むかふじま）に、、。

舊暦（むかしのこよみ）八月十五日（はちがつじふごにち）は望月（もちづき）ならで、
月齢（げつれい）十三點七（じふさんてんしち）の"小望月（こもちづき）"。
望月（もちづき）は、翌（よく）八月十六日（はちがつじふろくにち）。
と云ふ理由（わけ）で"中秋節（ちゆうしうせつ）"に"栗羊羹（くりやうかん）"。

その意（こゝろ）、
銀寄（ぎんよせ）とは云へ、「栗（くり）眞丸（まんまる）ならず。」と云ふにあり。
"栗羊羹（くりやうかん）"、
對價（あたひ）、四千四百二十八圓也（しせんしひやくにじふはちゑんなり）。

本朝（わがくに）で號（い）ふ"栗名月（くりめいげつ）"とは、
元來（もとより）、舊暦（むかしのこよみ）九月十三日（くがつじふさんにち）。
茲（こゝ）は、
「まッ、些細（こま）けーことはッ！©ドクシマぱいせん」と、將錯就錯（ひらきなほる）。

"羊羹史（やうかんし）"に就（つ）いては、旣（すで）に索（たづ）ねたる通（とほ）り。
當家（こちら）には、
"栗羊羹（くりやうかん）"と"栗蒸羊羹（くりむしやうかん）"があり、
價格（ね）は"栗羊羹（くりやうかん）"が上（うへ）。

包裝（つゝみ）が、十重二十重（とへはたへ）、、とは大袈裟（おほげさ）ながら、
十二單（じふにひとへ）、いや、これでもまだ大袈裟（おほげさ）歟（か）?
ともかく、幾重（いくへ）にも重（かさ）なり、剝（は）がすに難儀（てこずる）。
その容（さま）、女（めのこ）の衣（ころも）でも剝（は）ぐがごとし。

「〽單身對衣肌欲開（ひとりころもにむかひてはだひらかんとほつす）
　　一枚一枚復一枚（いちまいゝちまいまたいちまい）」
自（おの）づと手（て）も震（ふる）へ、心臟（むね）も高鳴（たかな）る。
會（あ）ふは別離（わかれ）の首（はじめ）、剝（は）ぐは"こと"の劈頭（はじめ）。

海（うみ）に皮剝（かはゝぎ）、山（やま）に追剝（おひはぎ）。
"莫切自根金生木（きるなのねからかねのなるき）"に"追剝（おひはが）れ"。
靑陽（はる）牡丹（ふかみぐさ）、白藏（あき）なら萩（はぎ）のあの餈（もちひ）？
とかなんとか戲（たはぶ）るゝうち、漸（やうや）う中身（なかみ）に、、。

その斷面（きりくち）が小望月（こもちづき）に見（み）ゆる歟（か）?否歟（いなか）?
それはそれで、月（つき）を眺（なが）めながらの愉快（たのし）き宴（うたげ）。
宴會（うたげ）に綿毛（わたげ）、沈丁花（ちんちやうげ）。
有卦（うけ）に入（い）るには過早（はやすぎ）る。

滾（たぎ）る鍋（なべ）の湯（ゆ）、裏切（うらぎ）る鼠輩（やから）、
迷惑千萬（めいわくせんばん）"ブルーギル"。
切封（ふうき）る包裝（つゝみ）、中（なか）羊羹（やうかん）。
栗（くり）吉（よし）、荳沙（あん）好（よし）、鈔（ぜに）は無（なし）。

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【暗匣】：東京通信工業 索尼（Sony）α7 III 無反光鏡可換鏡頭照相機（みらーれす）
【鏡珠】：旭光學 微距琢磨（Macro Takumar）4/50 @F5.6
　　　　　興和（Kowa） Prominar FL 5.6/500 @F6.3 w/旭光學 A2X-L ※月

周知（あまねくしら）るゝごとく、
櫻餠（さくらもち）には、
東國（ひがし）の"長命寺（ちやうめいじ）"と、
西國（にし）の"道明寺（だうみやうじ）"の二類型（ふたつのかたち）あり。

勿論（いふまでもなく）、
長命寺門前山本（やまもと）『櫻もち』は"長命寺型（ちやうめいじがた）"。
有一日（あるひ）、
藝者衆（きれいどころ）と櫻花（さくら）を狙（ねら）ひ墨堤（かはづゝみ）に、、。

生憎（あいにく）、
肆（みせ）は休業（やすみ）、向嶋藝者衆（きれいどころ）も不在（をらず）。
地元民（ひと）の説（はなし）では、
「何道（どのみち）土曜日・日曜日（どにち）のみ」とのこと。

落膽（きもをおと）し、
足取（あしど）り重（おも）く、近邊（あたり）を徘徊（たもとほ）る。
その容（さま）、
塵芥（ごみ）を漁（あさ）る野良猫（のらねこ）に異（こと）ならず。

と、料理茶屋（れうりぢャや）多（おほ）き界隈（あたり）に、
混凝土造築（こんくりづくり）の高樓（たかどの）。
『青柳正家』と喚做（よびな）す和菓子舗（わぐわしや）。
玄關先（げんくわんさき）には京師風（みやこふう）犬矢來（いぬやらい）。

「狗扱（いぬあつか）ひは蒙御免（かなワン）！」、
とばかりに、賈内（なか）へと闖入（おをしいる）。
莞忝（につか）と小人（それがし）を迎（むか）ふるは、先代御内儀（さきつおかみ）。
「現在（いま）の東道（あるじ）で三代目（さんだいめ）」とのよし。

勿駭（おどろなかれ）、
三代目主人（さんだいめ）は色白（いろじろ）にして、
絲竹艷曲（しちくえんきよく）に舞踊（まひをど）ることもなし。
先代御内儀（さきつおかみ）、三代目主人（さんだいめ）に、職人（しよくにん）も、、。

「創業（あきなひのはじまり）は大戰後（おほいくさのゝち）」との説明（こと）。
とまれ、
"櫻餠（さくらもち）"に"栗生沙糖菓子（くりなまさたうぐわし）"を求（もと）む。
對價（あたひ）、五百圓（ごひやくゑん）ほど。

"櫻餠（さくらもち）"は"長命寺型（ちやうめいじがた）"、
"草餠（くさもち）"に目移（めうつ）りするも、
『玉英堂』"草餠（くさもち）"とは天淵冰炭（くもとつちほどのたがひ）。
可惜（をしむべし）、寔（まこと）、可惜（をしむべし）！

店内（なか）に茶（ちや）と湯呑（ゆのみ）があり、
"櫻餠（さくらもち）"に"栗生沙糖菓子（くりなまさたうぐわし）"を頂戴（いたゞく）。
倩（つらつら）"櫻餠（さくらもち）"の姿形（すがたかたち）を觀察（ながむ）るに、
長命寺（ちやうめいじ）とは異形（ことなる）。

荳沙餡（あづきあん）の包（つゝ）み方（かた）、
葉（は）の枚數（かず）、包（つゝ）み方（かた）、都（すべ）て、相違（あひことなる）。
餠（もち）の色（いろ）、また然（しかり）。
『長命寺（あちら）』は白（しろ）、『青柳正家（こちら）』は薄紅（うすべに）。

晒餡（さらしあん）は共通（おなじ）なれど、
『長命寺（あちら）』がより淡麗（あはくきよらか）。
かくて、二種（ふたつ）の沙糖菓子（あまきもの）を平（たひ）らげ、
茶（ちや）にて漱（くちすゝ）ぎ辭別（いとまごひ）。

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【照相機】：東京通信工業 索尼（Sony）α7 II 無反光鏡可換鏡頭照相機（みらーれす）
【鏡頭】　：高千穗光學 奧林巴斯（Olympus）瑞光（Zuiko）Auto-Macro 2/50 @F2.8～F3.5
　　　　　　高千穗光學 奧林巴斯（Olympus）瑞光（Zuiko）Auto 2/21 @F5.6～F11
　　　　　　高千穗光學 奧林巴斯（Olympus）瑞光（Zuiko）Auto-Macro 2/90 @F2.8