又一順/全力で想う : 又一順

渋谷から銀座線で上野広小路まで戻り、いちお辺りを徘徊するもどうしてもぴんとこず、いつもの帰途への通勤電車に乗り込んで(まあいつもとしても、それで真っ直ぐ帰ったことなんか金輪際ないおれだけどね)、でもこのまま王子駅まで行ってしまったらオレの負けになる !　とばかりに一念勃起して日暮里で下車を決めたのは、町中華かお気に入りの日本そば屋を狙っていこうという、苦肉の算段

<R5.11.25 夜の部>

「又一順」

なんだけど駅を下りて尚、「太宝家」さんでのおそば屋酒も高くつくだろうとビビってしまい、まあこちらの夜予算も未知数ではあったが、試しにやってみようと足を踏み込んだ次第。
二階では宴会が宴もたけなわか、連続的な奇声がリズミカルに階段を転がり落ちてきて、さぞや盛り上がっている感じ。一階にお客さんは数組いたがテーブルにはまだ若干空きがあり、一番入口近くに誘われたので素直にそれに従った。
人の出入りがある度におもての冷気に直で晒されはするが、ダウンのショートコートを羽織り直したので、生きる死ぬの問題でもないだろう

こういったお店で(一人酒用のポーションというものが想定されていないお店で)おつまみをア・ラ・カルトでやっていくには、予算的にも、そしてまた胃袋の容量的にも、今この瞬間の自分には些かアンマッチと思い、餃子で気分を落ち着けたあと、分解おつまみの集合体をリーズナブルにという意味合いで定食で〆る、という作戦を立てていく

「お客様、餃子そろそろ出来上がりま～す ♪」

気持ち料理も滞る中、酔っ払いたちとの相席は辛いということだろうか、一旦階段を上っていった小学生の兄妹連れのご家族が下りて来て、ちょうど空いた私の目の前のテーブルに落ち着くようで、いい年ぶっこいて永遠のチョンガーの自分との圧倒的コントラストにまたしても圧し掛かられたなら、一時忘れていたみじめさもふたたび募ろうというもの ……

そのあたりから、よほど二階の騒々しいチームが大量注文を重ねているのか、なかなか出てこない料理に注文の通り忘れを疑うお客さんたちの声が上がり始めるが、でもこんなとき、とりわけ酒を舐めていたなら、多少料理が届かないからといって気にせず、どっしりと構えていられるからいい。
餃子よりはリードタイム短めでやってきた、老舗的店構えから期待していた海老のケチャップ煮は、残念ながらそこら辺の大陸中華にありふれた半透明蝋細工のもので、なによりこの身を切る冷気の中でぬるいのが解せなく。
おそらく冷えたまんまの厚いお皿が粗熱を奪ってしまったものと思われるのだが ……

「ちょっとコンビニ行ってきます。新聞買いに」
「新聞いっぱいありますよ ♪」
「競馬新聞 !」

とはいえ、この下町感はやっぱりいいし、夜に競馬新聞を買ってくると耳に入れば、明日もまだ休みだなぁ ……　と、ささやかな希望が湧いてくるような気もする。
ならばボクの“独り宴もたけなわ”も、そろそろお開きにしましょうかと、今宵ほんとうの“宴もたけなわ”に向け(なんなんだよ“ほんとうの”って !!)、海外ジェネリック胃腸薬を飲んで調子を整えておこうと、
(もうお願いだから真っ直ぐ帰ってくれお前は !)

「お水もらえますか ?」
とやったところ ……

「こちら(この席)寒いと思って、お湯お持ちしました ♪」

―― お湯 !?　お湯 !?　まだ年寄りぢゃないんだから、お湯はやめてよね ……　その前にぬるいエビチリのこと心配してちょ～だいよ

とはいえこ～ゆ～思いやりも日暮里らしくていいのかも
と、全力で想いたい ……

【本日のお会計】
・冷酒 @770 *2
・焼餃子 @550
・エビチリソースAセット @1,320
〆て3,410円也

さて、精神的にも頼りきっていたちびっ子ワープロを壊してしまい、どうしたものか。
ショックでないと言ったら嘘になるが、実はこの製品の不適合(不具合)には繰り返し苛まれており、しかもいつもちょうど保証期間が過ぎたころにおかしくなるのだが(それが某社のようにコントロールされたものではないところが涙を誘う)、しかし他社で同様の使い勝手の製品を見つけられない為に、もう都合4台ほど、その中でモデルの更新はあれど仕方なく買い換えていたところ、この壊してしまった個体もとうとう、先日ディスプレイが真っ白になるという現象が発生 !　また来たな !　と思っていたところの、今回の事故である ……

―― こないだは画面全体真緑になって逝ってしまったが、こんどは真っ白だよ(笑)　今までの流れではその頻度がどんどん高くなっていって、これは時間の問題で使えなくなるなと焦っていたところ、その前に自分でとどめさしちゃったわ(笑)

その当日の夜、ディスプレイが割れていることを早速Y～ちゃんに見破られながら、割れ目を避けるように非効率な作業をやりつつ今後の対応を考えてみたのだが、もうどうしても、この信頼性の低すぎる製品をこれ以上買い足す気になれず、私の用途からは多少逸れてしまうだろうが、ままよと、まさかパソコンを買うという暴挙に出てしまった !

兎も角小さなものでないとふだん携行できないので、それを満たし、日本語キーボード付きのものをと(何故ならば、私はかな入力なもので)、スマホにあたってある程度目星をつけ、その翌日の日中にはもう気持ちの整理もつき(というよりもあきらめがつき/涙)、混雑している量販店のパソコン売り場で物欲しそうな顔して獲物(店員)を待つと、間もなく若い女の子がまんまと針にかかった !

<R2.9.21 日暮里>

「又一順」

国鉄日暮里駅を谷中Cemetery側に出てみようとしたんだけど(ふつうに谷中霊園っていえよ !)、これは死者が蘇って歩きはじめたのか知らないけど“密”がとんでもなかったもので、気圧されて反対側に向き直した。
そういえば私の父親も今日はお墓に行くと言って朝の5時からドタバタしていたので(でも実際出掛けたのは9時過ぎ。こういう年寄りも保健所連れてけば安楽死させてもらえるのかな ……)日本的に何等かの宗教儀式の日なのであろうか。
それはそうと、もし父親が死んだとしても、絶対にお母さんと一緒のお墓には眠らせないと息子であるこの私が企んでいるということを、果たして親父が気づいてしまったらもう、発狂するだろうな(笑)

本日は朝から昨日買って帰ってきたおnewのちびっ子パソコンの設定作業に時間がとられ、ようやくお昼ご飯にありつこうというところ。
午後3時前という中途半端な時間であったが、一階の見えている範囲でだけでも先客が二組ほどあり。BGMは、これは南沙織だったか、「春に誘われたわけじゃあない～」のインストゥルメンタルアレンジ曲。
それに合わせるように軽快に、いいこと思いついちゃった私は、得意気に注文を告げる !

“すい餃子” @710
“ごはん” @220

〆て930円也。
我ながら、今日は狡猾な注文を成功させたと思う。
品書きで昭和中華の様式美を守る、黒いスープ入りの餃子だということは見えていたので、餃子を白いごはんのおかずにしつつ、スープでお茶漬けのようなアレンジも加えられるだろうと見越してのことだった。

そしたらごはんが何だこれっ !　これ麦ごはんじゃない ?
先ず色からして期待の純白から逸れていたことにはちょっと落胆したが、でも目論見通りにおつゆから引きあげた餃子とごはんの相乗は、しかしぜんぜん悪くない。
水餃子のどんぶりはかなりのボリウムがあり、そのスープは三原じゅん子さん仕様となっているようで、随分とお酢が効いていた(その昔テレビで、三原じゅん子さんがお酢が好きで、兎も角なんでもかんでもお酢を入れちゃうのだと見たことがある)。
これは単純な話、餃子のたれの考え方をそのままスープに適用してしまっているのであろうが(笑)、でもちゃんと形にはなっているので責めるに責められない !(笑)

白菜に似た野菜がごろごろしており、そこも、おれは茎のとこが嫌いなんだよなぁ、と思いながら、なんだかんだ食べ進む。
そしたらとうとう完全に芯の部分が発掘されてきたときには、まあこれは出汁をとる為に入っているもんだから、食べる必要もないかと観念して残すことにし、うま味の出た酸っぱい(笑)スープだけを尚も舐め続ける。

特筆すべきはこの小鉢のザーサイで、細切りにして、なんか絞ったようなあとがついてるんだけど(笑)、ごはんにあってとてもおいしい。となるとこのままでは下手したらまたごはんをおかわりする羽目になってしまうので、そこは口中調味で調整しつつ、ヴァランスとったけど !

【還って「なんとかカメラ」にて、女の子の指南を受けるボク】

「リモート会議でお使いになるのであれば、上位の機種のほうがおすすめですが」
「文章が打てて、おまけ的にWi-Fiの繋がるところでインターネットの閲覧ができればそれでいいんです」

――　あれ～ ?　私が目星をつけたのより下位機種でも、リモート授業やリモート会議に最適 !　って、学生さん対象か、大幅割引セール(何か通信の契約を一緒にしなければならないようだけど)の札が見えてるのに(笑)

でもこの若い女の子も商品知識が非常に豊富で、しゃがみ込むときに背筋を伸ばして股を広げる姿がとりわけ凛々しく(東北の娘なのかな ?)、そして最終的にお会計カウンターに連れてってくれるまで、その対応は完璧だったんだけど、商品を受け取るときに“研修中”的な腕章を付けていることに気づいてしまい、ほんとかよ !　と。
秋葉の別の「なんとかカメラ」でも、スマホを買い換えた時に担当してくれた中国人の娘の聡明さには驚かされたけど、日本人もまだまだ、捨てたもんじゃないなぁ ♪

久々、二時近くまで飲んでしまった。
気付けば洋服を着たまんま布団の上でぶっ倒れていて、午前四時過ぎの、朝風呂とも何とも言えぬ儀式を以てまたぶっ倒れる。
朝起きたら、お前の箸が一本無くなっていると父親から詰(なじ)られたので、帰宅後そんな状態の中で、また何かお腹に入れたようだ。我ながら、自分のそんな生命力に感心する。誰も褒めてくれないので、もう自画自賛するしかない。

箸は、形あるものはいつかは必ず滅び去るものなので、これはもう仕方がない。それが自然の摂理なので ……

<H29.9.23 日暮里>

「又一順」

駅を下りてすぐ、通りの向こうに「尾張屋」(ほんとは尾張屋じゃなかったことに後で気がついた)が見え、遠巻きに回り込んで近寄っていったら、その前に立派な店構えの中華屋があったので、つい脚を踏み込んでしまった。

午後五時の少し手前。
まだぶ厚いモヤモヤの被さったまんまの頭で品書きを検索する。ラーメンはノーサンキュー。麻婆豆腐はちょっと重そうに感じたし、こちらのお薦めとも思えず (もっと町場の中華屋のような料理が得意そうに思えたので)。なので炒飯にしたら、お酒も注文していないのに突き出しの小皿を持ってきてくださって、ちょっと後ろめたくなる。
続いて急須のようなものは、これは何だろう。お店の人が見えなくなった隙を突いてふたを開けてみたら、ほんとに急須だったようで、冷たいジャスミン茶が入っていた。

ウィスキィに焼かれた喉元を、冷たいジャスミン茶が官能的な肌触りでつたいおちてゆく。暫しの戦士の休息。もうあとわずか、夜になれば俺はまた、戦場に還って喉を焼き続けなければならない

“蟹チャーハン” @840也。

けっこうに大雑把な盛り付け (笑)。
食べグロの他の方の写真はすごく整っており、且つ立体感があって美味しそうなのに ……　スープと共に私にはちょいあっさり味に感じたが、食べた感じは、その盛り付けほどには悪くはないと思った。

草臥れた男を包む、草臥れた店内。
最初は私一人だけだったのだが、家族連れや年嵩のご夫婦が次々と来店。五人パーティは二階席へと促されている。
私の背には、年頃の娘さんを抱えたお父さんお母さん。娘さんがお父さんのお酒に付き合おうと積極性をみせるのを、ほんとうは嬉しいのだろうけど、ポーカーフェイスで受け流すそのお父さんのダンディズムを目の当たり、もう居たたまれなくなって席を立った。
昼間、いきつけの居酒屋の女の子から届いた「今日いるよ !」、とのLINEメッセージだけを心の支えとして。

“居たたまれないイコール、常に、いても立ってもいられない”

そう解釈しさえすれば、俺はあと少し生きてゆける ……