雨の日の月曜日には我もまた　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　鴨の名残を如何にとやせむ : 並木藪蕎麦

　この冬は鴨が大当たりでした。吾妻橋やぶそばでも鴨抜き、あい焼きを楽しませて戴きました。神田まつやでも鴨抜きを食しました。でも…桜の開花日が話題になる頃になって何か物足りない…。

　そう、今冬は並木藪蕎麦の鴨を食べていなかったんです。何回か足を運んだのですが、鴨のシーズンを迎えて混む時期にインバウンドの戻りが重なり、待ち行列が長くて諦めていました。

　もう数日で桜が咲こうかという月曜日、朝からの小雨が昼前には本降りになって、これ幸いと雷門南へと向かいます。お店に着くと、午餐時を過ぎたせいか3卓に空きがあり、すんなりと着席できました。

　並木藪蕎麦に来た時は“わさびいも”から始めることが多いのですが、今日は単刀直入に鴨抜きと熱燗を注文します。蕎麦味噌で熱燗を舐めていると、やがて鴨抜きが届きました。

　丼の蓋にかかる程たっぷりに汁が張られています。香りを吸い込みながら蓋を取れば、5mm厚の鴨肉が4枚、大きめの肉団子が1個と、半透明に煮えた白葱が見えます。そして、これらは汁に浮いているのではなくて、丼の底までぎっしり詰まった白葱に支えられているのです。鴨肉と白葱の質・厚み・量、そして汁の旨味・量、総合点で自分の食べた中でのKing of Kamonukiです。

　鴨脂が浮いた汁を啜りながら、鴨肉と白葱を囓りながら、熱燗を2本空け、締めには“ざるそば”を2枚頼みます。1枚目は少し残した鴨汁で、2枚目は普通に辛汁で戴きました。大振りな急須の蕎麦湯を汁の残りで飲み尽くして大満足です。あらためて、この鴨を食べずには春が迎えられない、と感じてしまいました。

　ごちそうさまでした。

　しばらく振りに並木藪へ来ました。緊急事態宣言解除から1ヵ月、浅草界隈もだいぶ人通りが増えています。店内も月曜日の14時過ぎなのに満席。ちょうど厨房前の座敷が空いて通されます。

　まずは、わさびいもとぬる燗から。安定の味ですが、珍しくわさびのおろし方が少々雑です。まあ、それだけ忙しいって事なのかもしれません。

　壁の品書きの柱の定位置には「鴨南ばん」が貼られ、次々に注文が入っています。やはり皆さん寒くなると、これを目当てにいらっしゃるようです。鴨ぬきとぬる燗2本目を頼みましょうか。

　蓋を取ると、厚切りのロース4枚、肉団子、半透明に火の通された白葱、きめ細かい油の浮いた汁。もう見た目で十分美味しそうです。汁と油を掬おうとレンゲを入れますが、具が沈みません。箸をそろりと入れて探ってみると、ロースの下にも丼の底までギッチリ白葱が敷き詰められています。ロースを一噛り、白葱を一摘み、汁を一掬い、ロースと白葱を纏めて一口、味と食感のバリエーションを楽しめてお酒も進みます。

　汁を半分程残したところでお銚子も空き、ざるそばを貰います。薄っすら緑色を残したそば、この時期ならではです。そのままで一箸、鴨汁で半分、最後は辛汁で。あぁ口福です。
　残った鴨汁と辛汁を使いそば湯で締め、入口で待ちがあるので早々に席を立ちました。
　ごちそうさまでした。

　賑かな雰囲気に戻って、花番も厨房もフル回転で注文を捌いていますが、何だか楽しそうに立ち働く様を見ると、やっぱりこっちが本来の姿なんだなと思わされます。その反面、平日の午時過ぎでも行列となると、また敷居が高くなると身勝手に悩みながらの帰途でした。

先日、神田まつやさんで“天ぬき”を解禁したのですが、並木藪で抜いたらどうなるか気になりだしました。

朝から雨の月曜日、ならばゆっくり昼呑みできようと、午餐時が過ぎる頃を見計らっての訪問となりました。
先客は小上がりに一組、テーブルに二組、いずれも遅めの昼食の御様子。窓を背にした小上がりへ座り、まずは“わさびいも”とぬる燗でウォーミングアップ。

わさびいもを片付け、蕎麦味噌に手を付けたところで、今日のメインイベント“天ぬき”と２本目のぬる燗を発注。1本目と蕎麦味噌が無くなる頃合いで“天ぬき”が到着です。

蓋付きの丼にレンゲだけが添えられています。蕎麦湯の入った急須は付いてきません。つまりは「汁の濃さはベストで出しているから勝手に弄るな」ということかと覚悟します。

丼の蓋を取ると．．．心の準備はしていた積もりでしたが、一見、天かす少々と香り付けの柚子皮が一片浮かぶだけの汁という景色に怯んでしまいました。そう、藪の“天ぷらそば”は小海老のかき揚げが載っているので、土台になる蕎麦を抜いたら、かき揚げが汁に沈んで、そしたら当然こうなるわな．．．と気持を落ち着かせるまで1分近くも丼とにらめっこする羽目に。（今は無き）池の端藪で“天だね”を頼んで、高さ5cmはあろうかというかき揚げが懐紙の上に載って出てきた時のインパクトの裏返しと言いましょうか．．．

気を取り直してレンゲで汁を一掬い。汁の濃さはそばの時よりも気持薄目に感じますが、日本酒のお供に丁度な塩梅。確かに下手に蕎麦湯で加減する必要を感じさせません。

二口目はレンゲでかき揚げを少し崩して。かき揚げの隙間から可愛らしい小海老が汁の中へ舞い出てきたのも拾い上げ、汁、衣と一緒に。汁を吸った衣のニュルニュル感と、程よく火の入った小海老のプリプリ感が、汁の香りと共に口腔内をくすぐります。飲み下したところへぬる燗の樽酒を。

三口目からは、もうノンストップの無限連鎖に突入。ゆっくり呑むつもりが、あっという間に丼とお銚子が空いてしまいました。文句ありません。昔から“天ぬき”がお酒のお供として愛されて来た理由が解ったような気がしました。

大海老の“天ぬき”とは、また別世界の味わいが楽しめる並木藪のかき揚げ“天ぬき”でした。
（あまりの感激に2週間と置かず再度“天ぬき”を食べに行きました。）

合羽橋飯田屋でこの時期、子持ちのどぜう鍋、と思って来たのですが、何と14時～17時はお休み（コロナ対策らしい）。ならば金楽のホルモンと方向転換しますが、こちらも開いてない！尾張屋の角へ出たので、いっそならばと並木藪へ足を運びました。


普段なら浅草観光の方々でこの時間でも入店待ちのところ、コロナの影響で席は半分程しか埋まっていません。

6月にしては30℃超えと暑い日で、まずはビールとわさびいも。

エンジンが掛かったので、樽酒（お銚子冷や）に焼海苔を追加。

焼海苔は、炭を入れた焙りの入れ物が特徴ですが、並木藪、上野藪、（今は無き）池の端藪と、それぞれ違って楽しいですね。（神田は、まつやへ行ってしまうので未訪問）


さて、締めは…好物の花まきに行くには、さっき焼海苔を食べたばかりで…
玉子とじは、まだ頼んだことが無かったので…行ってみますか。

小振りの丼に濃い目の甘汁、上には見るからにフワフワの玉子。良いですね～と、一箸掬うと、玉子の下には海苔が敷いてある！（写真は海苔を見せるため一箸返しています。）こう来たか！花まきにしようか迷ったのを見透かされたようでもあり、ちょっとお得感があります。

玉子多め、海苔多め、そばメイン、と一口ごとに変化が付けられて、楽しめますな。


最後は大振りの急須で添えられた蕎麦湯を汁に注いで、余韻を味わい尽くし、出汁の余韻を楽しみながらお店をあとにしました。