ふみ作/しかも一気飲み ! : ふみ作

アジア生産拠点の新型コロナウィルス蔓延に依るロックダウン、世界的半導体不足、コンテナ不足、そんなところが相まって我々の業界でも納期の滞りに非常に苦労している真っ最中、且つその出口も見えない中で、またまたポンっ !　と高額の注文書を頂戴してしまい、非常にありがたいかぎりであると同時に、プレッシャも募る ……
また品物もほぼ指定場所へ、重量物であれば車上渡しで手配してしまう為に納品に汗を流すこともなく、3千円のものでも100万円のものでも、よもや“同じ”ありがとうございましたとなってしまってはいないだろうか ?　という自己嫌悪に苛まれつつ、今回二度目の訪問となるが、S様の待つ黄昏のおでん屋へと向かった

<R3.11.12>

「ふみ作」

ふたりを隔てる透明のアクリル板は、お店の風情に合わせるかのように、下方で割れてしまったところを何食わぬ顔で接着するというニクい演出が施されていた。
「まだ一杯目ですよね ?」といちお確認しつつ、油断は禁物。このアクリル板越しにS様の唇が迫ってきたときどうやってescapeすればよいか、それとも観念してアクリル板越しに(*´з`)しちゃうしかないのか、そんなことを思案しつつ、先ずは標準仕様で水割りを注文し、慎重に(笑)乾杯した。

するとS様がなにやらポチ袋を差し出してくるではないか。
先日、カラオケの支払いをあなたは拒絶しましたよと、私がふざけて詰ったことを本気で気になさっていたのかと、ちょっと反省しつつ、やめてくださいと押し返したら、「新潟の女は一度出したものは引っ込めないから !」などと、「トラック野郎は一度握ったハンドルは放さねぇ !」的なことを口走り、且つまだ一杯目なのに何故か目も座っているように見えたものでもう空恐ろしくなって(笑)、「ここはいちおぼくがしまっておきますから」と、鞄に仕舞ったのはいいのだけれど ……

※ その後さらに、こちらの店の支払いとふたたびのカラオケ代まで持っていただいたのに、その場で財布を出そうともせず、ろくにお礼も出来ていなかったのではないか !?　ということを翌日の昼過ぎくらいに思い出してしまい(遅えよ !)、この場を借りまして、S様ほんとうにすみませんでした。そしてまたありがとうございました。このポチ袋のお金は必ずや使わずにとっておき、次の機会に利用させていただきたく存じます

こちらのお店は、おでんよりもふつうのおつまみがおいしいと思い、先ずはポテトサラダ、そしてこないだ食べたあさりバターを注文しつつ、二杯目のお酒は、「ロックグラスに氷を入れてお酒とお水半々で」と、ぼく仕様でつくってもらう。
S様は憧れのビーフシチュウを私にとり分けてくれつつ、「開栓するのでちょっとお待ちください」と言われたにも拘わらず、ワインが遅いと店のお姉さんにpressureをかけにいっているようだが(こ～ゆ～こと言ってるとS様規定違反に依り、また差し戻されるかも !/笑)、私はそんなことよりも、そのワインがほんとうに一升瓶から開栓されるのか(笑)のほうが気になってる

ビーフシチュウというのを敢えて注文したことのない私だけど、これは濃厚なドミソースだけをたっぷりと舐めているような感じで、garlicで焼いてくれた食パンといっしょに頬張ると、とてもおいしい。
そのよく煮込まれているように見える赤身のお肉を、ぼくにも食べられるかなぁ ?　なんて期待と不安に駆られていたのも余計な心配。S様は私にジャガイモだけを与えて黙らせておいて、お肉はたちまち独り占めにした模様 ……

その辺りで酔いがほど良く回れば、前回カウンターに横並びになって着いたときの、S様の、股を広げて地に足を踏ん張る姿が脳裏に鮮やかに蘇ってきた。
これが鉛色の暗黒の海に立ちはだかられながら、厳しい風雪に耐えてきた北陸の女の強かなるヴァイタルなのか !　と。今日は見えないけれど、きっとこの卓の下で今夜もまた彼女は、何かに立ち向かうように一所懸命踏ん張って生きているのかと思うと、私の心の中で、その愛おしさと逞しさがリスペクトへと鮮やかに昇華しはじめたその矢先 !

「これいただきま～す ♪」

―― ああ、今度こそコドナにテイクアウトして持っていってあげようとしたあさりバターの残りつゆを、皿をまるで優勝を決めた力士の大盃のように鷲掴みした北陸の女に、またしても飲み干されてしまったわよ !　しかも一気飲みだよ !

でも人類にとって一番のごちそうって、結局あさりバターの残りつゆなのかも知れないな ……
少なくともコドナと彼女にとってはね