美食考察記　第四話 : ぽん多本家

こちらでは未食の牡蠣フライを目当てに足を運びました。
牡蠣フライと一口に言っても、牡蠣の産地、パン粉（の粒度）、油の種類、揚げ方（温度）
等、味を構成する要因は複数あるのです。なお、産地では厚岸も良いけど、やはり広田湾。牡蠣フライでは洋食系は京橋サカキ、とんかつ店では秋葉原の丸五が好み。
なお、世間の評価との乖離が最も大きいのは神田須田町の万平かな。。。

さて、こちらの牡蠣フライですが、まず、素材の牡蠣が兎に角、上質。通常の牡蠣フライとは違い貝柱が残されていることが特徴の一つ。また、牡蠣自体の旨味が強くしっかりとした歯応えが印象的で、何より、他店ではなかなかお目にかかれないサイズ感。11月3週でこれだけのものは、あまり口にした記憶がないので、産地を伺ったところ、「三陸」とだけしか教えて戴けませんでした。。。揚げ方に関して言えば、私の好みより一寸火入れが強く感じましたが、揚げ油であるラードも上質で、キャベツの繊切りや赤出汁も抜かりなく、一食の価値ある牡蠣フライと感じました。
ところで、牡蠣を口にしてのた打ち回った経験はないですが、この一、二年、食後、少しお腹が緩く状況が続いています。以前は、そのようなことが全くなかったので、あまり考えたくはないですが、イエローカードが1枚提示されている、大当たりフィーバーが近い状況なのかもしれません。。。

学生の頃から、上野のぽん多本家で一通り注文して食べることが、漠然と目標としてありました。しかし、その当時は、飲食に対して、今のような金銭感覚を持ち合わせた(同世代)の人間は殆ど存在しておらず、そもそも「揚げ物だけでお腹を満たす行為に、万単位の金を支払う」という考え自体、世間の常識からは大きく逸脱しているとみなされ、実現には至りませんでした。

それから二十年以上もの月日が流れ、インターネットの普及により、人々の食に対する価値観は一変しました。機は熟したとみて、ある方の食事会の席で、参加者を募ってみたところ、賛同者が数名現れたのです。揚げ物と言えど、食材の旬は当然意識し、訪問日を6月の平日に狙いを定め、さぁ、「いざ、鎌倉」ならぬ「いざ、ぽん多本家」へ！

例の重い扉をあけ、二階に上がり、海老フライ、穴子フライ、蛤バタ焼き、鮑バタ焼き、キスフライ、イカフライ、カツレツ、ポークソテー、海老コロッケ、タンシチューを4人で注文。

普段は、栄養のバランスやカロリー等を第一に考え、揚げ物の大量摂取は控えるのですが、この日ばかりはお構いなし。二日後の健康診断のことも忘れて、ひたすら食べまくりました。自身の過去レビューを見ると、カツレツを勧めていますが、(^_^;)脂を削ぎ落とし過ぎかなと感じました。なお、同系統のカツレツで比較するのであれば、かつて当店と共に上野の御三家と称された双葉（閉店）の方が私は好みかもしれません。ただ、海老フライ、穴子フライ、キスフライは流石のお味と感心しました。素材の質、揚げ方、油の状態いずれも良いので、揚げ油が動物性のラードであるにも関わらずいくらでもお腹に収まります。自家製のタルタルやキャベツ、お新香、赤出汁の味噌汁と脇役にも抜かりはありません。個人的に、「この日の一番」と感じたのは、黒毛和牛を使用したタンシチューです。贅沢な厚みにカットされたタンはトロリと柔らかく、また、醤油を隠し味に加えた漆黒のデミは何とも奥深い味わいでした。これは、ウィーンの森が過去に口にしたタンシチューの中では間違いなく5本の指に入るお味です。

今回、思ったのは、以前は「美味しいけど高い」という印象だったのですが、（ジャンルや食材は異なりますが、）昨今、天婦羅店の価格帯が高騰していることもあり、揚げ物一括りで考えた場合、同じ金額を出すのであれば、こちらの方がはるかに満足度は高いのではということ。閉店時間が早いのが難点ですが、上野では間違いなく訪問すべき一軒と思います。

日本を代表する高級洋食店だけあって、
佇まい一つとっても何とも言えぬ風格が感じられる。
重い木扉を開き中に入ると、
外の世界とは打って変わって
厳粛な空気が漂っている。
店のメニューは全て経木に書かれているのだが、
値段が一切明記されていない為、初めて来店される方は、
きっと戸惑われることと思う。

こちらで食べねばならぬアイテムの一つにポークカツレツがある。
余分な脂や筋を一切取り除いた豚肉を
低温でじっくりと揚げたものであるが、
あっさりとしつつも噛む度に、豚肉の旨味が口中に広がり非常に美味。
カツの横に添えられた揚げポテトやキャベツの繊切り、
お新香、赤出汁に至るまで職人の技を感じさせるお味。
魚介類（平目、穴子等）のフライも、
銀座の近藤(天ぷら専門店)と同じネタを
使用しているというだけあって、流石に美味しい。

接客は決して良い方ではないと思うし、
ある程度値も張りますが、それでも強く
オススメしたい一軒です。

※1便宜上、価格/1人当りを￥3000～3999と設定しましたが、
あれこれ食べると1万円前後はかかります。