色白系の『ポークカツレツ』と絶品 『ポークソテー』…『ぽん多』 : ぽん多本家

今は無き銘店『双葉』さんの流れを汲むとんかつに『信州上田』で偶然出逢うことが出来た。『双葉』さんと言えば往時は『蓬莱屋』さん『當店』とともに上野の『とんかつ御三家』に数えられた店であり、これに『蘭亭ぽん多』さんと『井泉本店』さんを加わえて『御五家』と呼称したものである。そんなこともあって3月のと或る日に久しぶりに『ぽん多』さんへ寄せていただきました。いつものカウンター席は先客の方々で埋まっており已む無く二階のテーブル席へ。カウンター席であれば迷うことなく『ポークソテー』を注文しましたが厨房が見えぬ二階のテーブル席ゆえに調理の所作を見ることも出来ず楽しみが半減してしまうので『ポークカツレツ』をいただくことに。茶を啜りながら20分程度待っただろうか？自家製のラードを使い低温で揚げられた衣ふんわり色白系の主役の『ポークカツレツ』のお目見えです。他店の『ロースとんかつ』は脂身をつけたままパン粉を纏わせ揚げるのが大半ですが當店の『ポークカツレツ』は先ずは脂身を外し赤身の部分の筋を丁寧に抜いた本ロースの部分だけが使われています。後追いで、ごはんに赤だし、香の物が運ばれてきました。いつもの通り先ずは何も加えずそのまま口に運びます。ほんのりピンク色に仕上げられたカツレツは肉自体の甘みとラードの味が一体化し上品且つ美味。後はいつもの通り半分はウスターソースでそして残りの半分はトマトケチャップで味わうのが自分流の味わい方。こうして一度で三度の味を楽しみます。カツレツが美味しいのは言うまでもありませんが添えられたキャベツの千切りがこれまた美味なのです。ロース肉の筋を抜いての下拵え同様にキャベツも芯を取り細く手切りされており他店で供される千切りキャベツの口あたりとはまるで別物。見えないところにひと手間、ふた手間かけられている『ぽん多』さんの料理、香の物に赤だしの味も一切の手抜かりなし。食べて納得の肉質の高さと丁寧な仕込み、その値付けに裏付けされた間違いのない美味しさが愉しめる店です。
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2007/10のレビュー
當店の重厚な木製の扉の中に足を踏み入れるのは幾久しい。店内に入ると正面がオープンキッチン式の厨房スペース。厨房の中には四代目の店主の『島田良彦』氏と二名のシェフがパリッと糊の利いたコックコート姿で出迎えてくれます。店内には凛とした空気が漂っており、こちらも思わず背筋が伸びる。"いらっしゃいませ"。返答は人差し指を一本立てるだけ。"どうぞ…"と厨房前の四席のカウンター席の真ん中に腰を下す。直ぐにメニューとおしぼりが席に運ばれてくる。メニューには一切目を通さずに瓶ビールの小瓶と『ポークソテー』を。とぽつり。瓶ビールは二種類用意されており小瓶はＡ社のキレのあるビール、中瓶はＫ社のやや甘めのビールである。"かしこまりました"。そして必ず、お食事は？と聞いてくる。ひと言、あとで。これで意味は全て通じてしまうのである。つきだしで供された穴子と牛蒡の煮物をあてにビールをグビリ。このつきだしの穴子も決して侮れない味であるが口に運ぶと単なる牛蒡も手間をかけて仕込まれていることが良く解る。調理中は厨房の中は厳粛な雰囲気そのものである。カウンター席で待つのは楽しい。何故ならば調理の過程を見ながら待つ事ができるから。『ポークソテー』は大きめのフライパンで強火で軽く表面をロースト。その後に小さいフライパンに移されてフライパンの上に蓋がかけられ弱火で時間をかけて蒸し焼き状にローストされていく。肉の表面が焦げ付かない様にフライパンを握った手は絶えず小刻みに動かされ目はフライパンに一点集中している。十分程ローストしたところで蓋を開け何らかの調味料が加えられた。定かではないが蓋が一瞬開けられた時にソースらしきものが加えられたように見えた。一枚の『ポークソテー』が出来上がるまでの所用時間は大凡、二十分程。店主が精魂こめて作られている様を一部始終拝見させて戴いた。出来上がり間際に店主が"お願いします"。とシェフにひと言。ひとりのシェフが皿にレタスを盛り始める。焼き上がったポークソテーが十二等分に切り分け皿にのせられた。もうひとりのシェフがトマトとポテトフライを素早く飾りつけ完成。二本目のビールを戴きながら出来たての『ポークソテー』を頬張る。画像をご覧戴くと良くご理解戴けると思いますが補足説明を少し記しますと歯に触りそうな肉の筋という筋は全て取り除かれています。ナイフで単なる筋切りを施したのではなく手間隙かけて筋を一本ゞピンセットのようなもので抜いた様な感じ…とでも言えば御理解戴けることと思う。余分な脂身も綺麗に除去されている。さて、肝腎の味の方はというと『旨い』のひと言に尽きます。他に適当な言葉が見当たりません。表面を強火で一気に焼いた為に肉汁と旨みがしっかり閉じ込められています。ひと口噛むと閉じ込められた肉汁と旨みが口の中にじわーと広がり、ほのかなバターの風味とウスターソースらしき酸味が肉の旨味と相まって絶品の香りと風味が食欲中枢を強烈に刺激します。二本目のビールが横になった頃合いで、ごはん。をお願いします。とひと言。米粒が立った炊きたての『銀舎利』という言葉が良く似合うごはん。赤出汁のなめこ汁、上品な味わいの香の物が運ばれてくる。ごはんは新米だろう。ツヤツヤとした輝きがあり甘みもあり美味い。赤出汁の味噌汁もきちんと出汁からとって作られた味がする。ポークソテー、赤出汁椀、香の物、ごはん。全て素材の良さが伝わった。味は文句のつけ様が無い位に完璧だった。値段については賛否両論大きく分かれるとは思いますが一般的な照焼風のソテーやトンテキ風の物とは一線を画す味。調理の様を目の当たりにすると決して高いとは言えないと思います。場所が場所だけに高いと言われる事も理解は出来るが例えば銀座で、この手間と味を求めたならば同じ値段では口にする事は出来ないと思います。先ずは百聞は一見に如かず。一度ご自身の目と舌でカウンター席にて絶品の味を味わってみて戴きたいと思う次第。當店の評価について『ポークソテー』の評価は★★★★★(5.0)。『ポークカツレツ』の味は★★★☆(3.5)＋α。『ポークソテー』には『ポークカツレツ』の二倍以上の手がかけられています。総合評価は単純に二つを足して二で割って★★★★(4.0)とさせていただきます。