三幸園/ましてや女には …… : 中華料理 餃子の店 三幸園 白山通り店

人間ドック当日。
生まれて初めて血圧の薬を飲んで四日目となるが、その効果は如何に ?　と思っていたところ、最初に機械で測られてやはり、最高血圧150がマークされ(自分的にはそれでも完全に薬の効果は出ているなと思った)、その後機械式の計器でのマニュアル測定では130付近を示すも、憐れまたしてもバリウム検査受診の可否は、問診で先生に見てもらってからということになってしまい、ふたたび去年の、ちょっと私とはマッチングの悪い女医さんにあたったらどうしようと身構える ……

そしたら今回は、それもそれで身構えてしまったがえらく若い彼氏に見てもらうことに ……
「人生の特等席」という映画で、イーストウッド演じる失明の危機に瀕したプロ野球の老スカウトマンが、仲違いしている娘の言うことを聞きたくなくて、自動車の運転を止められているというのに振り切って自らステアリングを握って走りだした途端に事故を起こしてしまい、担ぎ込まれた病院で青年医師から「生きてて良かった !」と説教されて、キミは幾つだ ?　と問い返したことを思い出す。
そこで30そこそこだと答える青年医師に向かって「それで何で生きてて良かったなんて言えるんだ !?」(その若さで何が分かるのだ !)と訝る非常に印象的なシーンがあったが、何となく、そんな気分に陥る ……

―― その随分と若い先生も、レトロチックな機械式計器を用いて直ぐ様、今測った限りでは(数値は)大丈夫ですからと、続くバリウム検査のゴーサインをあっさりと出してくれたことには胸を撫で下ろしたけど。いや、そんなもん好んで受けたくもないんだけど、検診のお金が会社持ちだということを考えれば、なおざりにしてしまっては何となく後ろめたい気持ちになるから ……

<R2.3.24 神保町>

「三幸園」

変な恰好の劇場の玄関で2～3分ほど待って、午前11時きっかりに整理番号付きの映画の切符を入手。
それを握りしめてすずらん通りを南下し、白山通りでちょっと左に回り込んだところの非常に評価の高い中華屋さん。11時開店にも関わらず、お一人様が多いようだが数組のお客が既に入っており、またお店のお客を迎え入れる準備も万端のようで、こういった“アクティヴ”なお店というのは非常に気持ちが良い。

品書きに目を通してもまさしく期待通りの、日本人に依る日本人の為のメニュウが並んでおり、しかしこちらは“餃子の店”ということがあり、最初っから決めていたそれを注文。
ふつうに口中調味していくとご飯に対して餃子が足らなくなるので、わずかな追加料金は掛かるがスープをワンタンに代えてもらい、それをおかずメンバーに加えてやると良いとのレヴュウを真に受けて、そのとおりにやってみることに ……

“餃子定食” @700
“ミニワンタンスープに変更” @100
〆て800円也。

更に続々と後客が続く。
私が入店したとき、こういった繁盛店の常套である端っこからの鮨詰め、カウンター席からではなく、敢えてテーブル席を勧めていただけたのはなんでだろう ?　と思っていたが、こちらは2階席も持ってらっしゃるようで、複数人パーティは次々2階へと捌かれていった。
のはいいんだけど、私の餃子が来ない。
“餃子の店”なのに餃子がこないし、“餃子の店”なのにほとんど餃子を注文しているお客がいないことが私の不安を急がせる(笑)。
またやらかしてしまったのだろうか ……

そしていよいよ待望のそれらが舞い下りる。
ワンタンスープのスープの色は、あくまでも形式美追求派らしく漆黒をキープ。そして餃子は、餃子。かもめはかもめのように、餃子は餃子。シュウマイや春巻や、ましてや女にはなれない ……

この餃子は、素直に、私の餃子研究人生の中で初めて、今は亡き十条「一番」の餃子より美味い餃子かも知れないと思った。
焦げ模様に着目すれば三日月型にフラットとなる部分、即ち焼き上げるときに底面となる部分の縁を立たせて剛性を得る構造としていることは一目瞭然ながら、裏腹、皮の合わせ目の接着強度が不足しているのは、しかしこの美味さを思うと、それすら何らか意図的なものかも知れないとも勘ぐってしまう。

ご飯に対しておかずが足りないというのは、実際には餃子が足りないのではなくご飯がそれに増して大盛り、というのがほんとうのところであって、価格に対して非常に満足度の高いお昼ご飯となった。
メニュウにも昔ながらの中華屋のそれが満載されており、今後のこととして、ちょっと覚えておく必要のあるお店だと思った

【以下映画の話】

「十兵衛、おなごの笛に守られてわしと闘う所存か。吹くがよい。こい十兵衛 !　あの笛の音ともども、己(おの)が頭蓋を打ち砕いてくれよう !」

深作欣二監督のこの演出はあまりに雑に過ぎるのではと訝ってしまうが(笑)、黒沢映画から野村芳太郎の流れでの観賞ともなればそれも致し方なかろうし、逆にその“雑”こそが、この圧倒的スピード感の最大要因かも知れないと思うと、あながち否定出来ないことがもどかしい(笑)。
そして本作を大人になってからも既に1～2度劇場で観賞しているはずだが、その度に佳那晃子さんの美と妖艶が加速度的に増して見えてくることは、これは気のせいか ……

「申されませ。ただ一言、無念と ……」

武術とともに人格的にも揺るぎなき高度な次元に到達しているはずの伝説の剣豪たちが、こうも簡単に魔物に寝返るということは、一寸先に迫った死への畏れに覆い被さってくるような、ジュリーのこの妖しくも耽美な耳元への囁きか ……

そんな魔界衆たちにこの世で唯一人立ち向かうは独眼の千葉真一 !
その手には神に逢うては神を切り、魔物に逢うては魔物を切るという、丹波哲郎が死を賭して打った最後の妖刀、村正 !

その孤高の独眼は、磨き抜いた自分の剣術と幻の妖刀の力だけではそれでもまだ、魔界衆たちの底知れぬ妖力には心許なく、また自分の敗北は同時にこの世の終末を意味するのだと、立たされた状況を冷静に評価、分析し、武士道として卑怯ともとらまえられかねない(宮本武蔵の心をかき乱す)おつうの笛の音、また顔面に張り巡らせた梵字など、考え得るあらゆる手段を講じて決死の闘いに挑むのだ !

果たしてジュリーの怨念を打ち砕いた独眼。
自らの生首を抱えたその妖怪に、この世に無情が蔓延る限り自分は必ずや蘇ってまたこの世を脅かす。俺の仲間になり、その冴えわたる剣の腕を永遠のものにする気はないか ?　と問われる独眼

「ない !　永遠の命など俺は信じぬ !」

即座にそう言い切った千葉真一には、心底惚れた。
万物は必ずや変化、消滅し、生きものには必ず死が訪れるということは、本来我々日本人がもっとも深く了解していてよいことだと思うが、人間ドックなどという子供騙しに健康を、しかもまさか恒久的に求めているとしたならば ……