正統的フレンチの印象　シェフの確かな技量を堪能 : TERROIR Kawabata

　年末に練馬の和食ダイニングでもご一緒した、食への旺盛なる好奇心とバイタリティ溢れる行動力で夙に知られた女性レビュアーさんに、ランチをお付き合い頂いた。
　今回選んだのは、信頼できる皆さん方のレビューを拝見して以来、一度訪れてみたかったこちらのフレンチ。
　シェフは料理人として輝かしい実績を誇る方で、大いに期待を持って臨んだ。
　
　店の場所は外堀通りを、お茶の水から万世橋方向に相生坂を少し下った「湯島聖堂」の真前。
　裏手は外堀（神田川）に面しており、奥の窓からはJRの駅のホームや丸の内線が走る光景も見られる面白い立地。

　今年になってから予約を入れたが、人気店のため我々で全ての席が満杯となった様子。
　店内はやや手狭だが、派手さは無いすっきりとした雰囲気。
　手前の方の広めのテーブルを選んだが、かえってゆっくり出来て良かった。
　テーブルセッティングでは、深紅のガラス製の位置皿が印象的。

　丁寧な応対振りの、ソムリエも兼ねる若い女性スタッフが中心となってサービスが為される。
　メインを魚か肉かで選べるコースも有るが、折角なので両方が楽しめる「シェフのおまかせコース」を頼んでおいた。
　ワインもボトルでは無く、料理ごとにそれに合ったものをグラスで出してくれるスタイルを選択。

　まずはシャンパン（銘柄は「DEUTZ」）で始まる。
　グラスの底から湧き上がる細かな泡で、一時に気分が高まる。
　
　アミューズ・ブーシェは「赤カブのムース」：淡いピンク色のムースが、ショットグラスで登場。
　赤かぶの爽やかさがクリームに溶け込み、上々のスタート。

　一品目の前菜は「自家製スモークサーモン」：完成まで数日間かかるという、シェフ自慢の一皿。
　舌触りも味も、申し分のない出来映え。
　添えの野菜（蕪・玉ねぎ・赤人参・パプリカ）のピクルスも、食感と酢の加減が程良い。

　グラスワインの1杯目は、アルザスの「RIESLING」。
　甘さの少ない、まさに＇辛口リースリング＇で、きりっとした味わいが好ましい。

　二品目の前菜は「牛蒡のポタージュ」：小振りではあるが、高さの有るココットで登場。
　ポタージュと言ってもクリーミー感は少なく、サラッとした仕上がり。
　しかし和の素材である牛蒡の風味を、フレンチに仕立てた技は見事。

　本日の魚介料理は「鱸のクネル　リヨン風」：丁寧なすり身ならではの、旨みと柔らかさが秀逸。
　車海老のソテーが添えられ、海老の殻や味噌を煮出したオレンジ色のソースを掛けて、器ごとグラタンにされている。
　皿のソースはパンで拭って、余さず頂く。

　2杯目のワインは、ブルゴーニュの「BENJAMIN　LEROUX」。
　ややコクのある味わいが、濃厚なソースに良く合った。
　
　本日のメイン料理は2種の肉料理から選べるが、一品ずつ頼んで2人でシェアする。
　皿が運ばれる前に、柄の部分が色鮮やかな刃付きの専用ナイフを提示して、客に好みのものを選ばせる趣向。
　カトラリーの生産で名高い「LAGUIOLE」の文字が刻まれ、その証である蜂のエンブレムが飾られている。

　「牛ロースのポワレ　マスタードソース」：適度な焼き加減で、肉のそのもの味も濃い。
　ソースはオーソドックスな赤ワインソースで、それに粒マスタードが風味を添えている。
　ガル二は小松菜・ブロッコリーといった青野菜に、ポテトや人参だが、それぞれの仕事もきちんとしている。

　「鴨のロースト　オレンジソース」：皮目はこんがりと焼かれ、肉はジューシーな仕上がり。
　こちらも定番とも言えるオレンジソースだが、甘酸っぱさが鴨肉と調和して実に美味い。

　これらに合わせるワインは、2種類の赤から選べる。
　ボルドーの「POUPILLE」とブルゴーニュの「FIXIN」だったが、それぞれを1杯ずつもらい少しずつ試した。
　両方ともなかなか結構で、肉料理との相性が楽しめた。

　デザートが2種類出されるも嬉しい。
　「リンゴのコンフィチュール　バニラアイス添え」：柔らかく煮られたリンゴはゼリーかけとなっており、普通一緒に煮られるシナモンは、アイスクリームの上に少量振られている点に芸の細かさを感じる。
　「ババロア　フランボワーズのソルベと苺添え」：ババロアの味わいにきちんとした仕事が確認でき、盛り付けは春を先取りした装い。

　飲み物には「コーヒー」をもらう。
　これには「ココナッツ風味のマカロン」のミニャルディーズが添えられた。
　満足感に浸りながら、暫しゆるりとした時間を過ごす。


　正統的なスタイルを継承しながら、和の素材を違和感なく取り入れている点は見事。
　盛り付けなどにも気を衒ったところは無く、地に足の着いたフレンチと言う印象。
　お勘定はすべて込みで丁度一人10,000円であるから、内容に照らせばリーズナブルと言える。

　接客振りも清々しく、居心地の良さも満喫できた。
　帰り際にはシェフ自ら見送りして頂き、気持ちよく店を後にした。