なんて優美なコンポジション、色、五味、食感、温度、そして香りの。 : オテル・ドゥ・ミクニ

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4.5

¥10,000~¥14,9991人
  • 料理・味4.5
  • サービス4.5
  • 雰囲気4.5
  • CP5.0
  • 酒・ドリンク3.4
2021/10訪問1回目

4.5

  • 料理・味4.5
  • サービス4.5
  • 雰囲気4.5
  • CP5.0
  • 酒・ドリンク3.4
¥10,000~¥14,9991人

なんて優美なコンポジション、色、五味、食感、温度、そして香りの。

これがコンポジションですよ、
構成こそがフランス料理の魂。
しかも華麗な一皿になっていなければ意味がない。
そんな三國シェフの料理観が伝わってきます。
そしてぼくはおもった、
三國シェフの料理は、意外にも
カンテサンスの岸田周三シェフに代表されるフュージョン世代の料理観に
通じているのではないかしら。



いやあ、ぼくは心底驚いた。
マッチョで、一徹者で、カリスマ性をそなえ、
長年にわたって「フランス料理の侍」を続けてこられたその人の料理が、
こんなにも繊細で優美で、しかも理知的で、
緻密な構成(コンポジション)をそなえ、
一皿の料理をいただいているほんの数分のあいだに、
印象がひそやかに変化する、そんなあえかな魅力を放っていたなんて!


実はぼくもまたかれについて大きく誤解していました。
どういうわけか根拠なくぼくは、三國シェフの料理をいただくまえは、
きっと三國シェフは、ル・ジャルダン・デ・サヴールの中澤敬二シェフ、
ひいては北島亭の北島素幸シェフみたいなタイプなんだろうな、
と、勝手におもっていたもの。
魚にはバターと白ワインをたっぷり使った気品あふれるブールブラン。
肉には仔牛の骨の水煮ダシと赤ワインとバターをたっぷり使った
光輝くブラウンカラーのソース。
かれら熱血シェフたちのどっしりしたフレンチをぼくもまた大好きです。
ところが、(三國シェフの人柄はともあれ?)
実際にいただくと、その料理はまったく違っていた。
まず料理の味わいが軽く、いまっぽい。
構成が凝っている。盛りつけが華麗。
むしろ、目指す世界は違えども、
かれの料理人としての資質は、独創的かつ前衛的スペイン料理をふるまう
サンパウのカルメ・ルスカイェーダ・シェフと同族であるように、
ぼくにはおもえる。
もっとも、三國シェフは自身の実験性や冒険好きの精神をほどよく隠し、
むしろ適度にコンサバに見えるように料理を仕上げるところが
ひじょうに大御所っぽいのだけれど。


しかも三國シェフはレパートリーが膨大でたいそう多彩で、
おそらくかれは日本でいちばん多くの種類の料理を創造してきたでしょう。
喩えるならば、ピカソが絵が描けて描けて止まらなくて、
まるで起きてるあいだすっと描いてるみたいで、
しかもその絵のすべてに魅力があるような、そんな感じ。
食べログにアップロードされているひとつひとつの料理写真を見てゆくだけでも、
まるで美術館の展示を見てまわるようなおもしろさ。
三國シェフの脳内に、食材/調理法/ソースの膨大な組み合わせデータベースが
存在していることがわかります。


いったいどんな道筋で、この規格外の超絶料理人、三國シェフはできあがったのでしょう?
三國シェフは、1973年にその名をつけられたヌーヴェルキュイジーヌの世代に学んだ
代表的なシェフです。
では、いったいヌーヴェルキュイジーヌとはなんでしょう?
それまで地下厨房の料理労働者だった料理人の地位を、
明るく機能的なキッチンを自分のステージと心得るアーティストにまで向上させ、
同時にサーヴのスタイルも、それまでデミグラスやベシャメルを大鍋で作り置きしていた習慣を改め、
むしろそのとき目の前のお客さんにその場で人数分、フレッシュな料理を提供する時代を拓きました。
ざっとそのような大雑把な理念的理解はかんたんですが、
ただしヌーヴェルキュイジーヌと言えども、じっさいにはシェフごとにそのスタイルは違います。
考えてみれば、ぼくのヌーヴェルキュイジーヌのイメージは、
かつて表参道で、ジョエル・シェフの料理で体験したボキューズ・シェフであり、
ジャルダン・デ・サヴールの中澤シェフの料理から想像したトロワグロ兄弟であり、
アラジンの川崎シェフの料理を介して夢想するベルナール・ロワゾー・シェフだった。
いずれも、おいしさが明快な超絶料理ばかりです。
しかし、三國シェフの経歴を考えれば、
(「ソースの神様」トロワグロ兄弟においても修行されているし、
なるほど、三國シェフはここぞというときにはいかにもトロワグロっぽい
モダンクラシックなソースを使うこともあるとは言え、
しかし、むしろよりいっそうは)、
ヌーヴェルキュイジーヌを、ジラルデ・シェフや、
アラン・シャペル・シェフに光を当てて理解すべきではないかしら。
もっとも、かつてぼくはジラルデ・シェフの洋書の料理写真集のページこそめくったものの、
ただし、白身魚のポワレにブロッコリーかなにかの黄緑色の
美しいソースをたっぷり流してあるのを覚えているばかりで、
そのいかにも華麗な料理写真に幻惑されながらも、しかし、
ぼくのとぼしい理解力ではその「世にも凄いと噂される天才ぶり」に
感動するには至りませんでした。
仕方ありませんね、だってぼくはジラルデ・シェフの料理を食べてないんだもの。
他方、アラン・シャペル、苗字が礼拝所(Chapel)であるこのシェフは、
1970年代~1980年代、ポール・ボキューズがフランス料理の親善大使だった時代に、
「フランス料理の頭脳」と呼ばれました。
曇り空のパリの夕方、街の明かりが灯りはじめる、そんな光景をおもわせる鈍色の、
上品なうまみの深いソースが忘れがたい「野生きのこのカプチーノ仕立て」が有名です。
(ぼくは、いまはなき白金高輪のラ・バスティードで、
大谷シェフに作っていただきました。)
またアラン・シャペル育ちと言えば、白菜をプリマドンナに変えた、
あのラ・ターブル・ド・コンマの小峰敏宏シェフをおもいだします。
ぼくらは無意識についついそれをとっくに知っているかのように語るけれど、
しかし、おもえばヌーヴェルキュイジーヌもまた、
けっして一枚岩ではありません。


オテル・ドゥ・ミクニをはじめて訪ねる人は驚くでしょう。
JRおよび東京メトロ・四ッ谷駅から徒歩5分ではあるものの、
住所を頼りにいぶかしがりながら路地を歩き、角を曲がり、
低層住宅地のあいだのなだらかな勾配を上り、不安な気持ちでうろうろしていると、
そこに忽然と、蔦の絡まる洋館が現れる。
レセプションの女性がぼくとぼくのいつもの女友達を迎えてくれます。
まずは、シャンデリアのウェイティングバーに通され、
ぼくらはソファに座ります。つづいてぼくらはメニューを手渡されます。
ぼくらはそれぞれ9160円(税込)のコースを選びます。
ワインはブルゴーニュを選べば最高だとおもいつつも高いのであきらめ、
ぼくはソムリエさんに言います、「ボルドーのメルロー系のものをなにか。
7000円ていどで」。するとソムリエさんは、
タナとメルローを使ったミクニオリジナル直輸入赤ワインを勧めてくれました。
内心ぼくは、タナは余計だな、とおもった。と言うか、そもそもぼくとしては、
もっとソムリエさんとあれこれワイン選びとそのフィロソフィについての
会話を愉しみたかった。しかし、グランメゾンであるにもかかわらず、
あろうことかいきなりハウスワインを勧められてしまい、
しかも、ぼくはワインについてはまだまだウブ(と言うか未熟者)なので、
気弱にもそれを断り切れなかったのだった。
ま、仕方ありません、けっして世界はぼくのためにできているわけではありませんから。


さて、ぼくらはいよいよダイニングに案内されます。
明るく気持ちのいい、いくらかコンサバな空間、
壁には抽象画が飾られ、中央にはゴージャスな花々が飾られています。
まずは赤ワインで乾杯。
ぼくの不安は的中、このワインはその値つけにもかかわらず、
しかし、ぼくがいつも飲んでいる格安チリワイン、
CONCHA Y TORO社の FRONTERA ピノ・ノワールとさほど違いはありません。
しかし、気を取り直しぼくらはそれでも想像力の翼を借りて、
ボルドーのポムロール地区を夢想しつつ、料理への期待を高めた。


いよいよこれからこの日のコースがどんな流れだったのかについてお話しましょう。
なお、三國シェフがメニューにお書きになるオリジナルな料理名表記は、
すべての食材の産地、そして場合によっては生産者名を含めて書かれていて、
ぼくはそこに三國シェフの、生産者たちに感謝しかれらを励ますお気持ちを感じ、
たいへん好感を持つのですが、ただし、ここでは料理の構造がすっきりわかるように、
(たいへん恐縮ながら)ぼくのたんじゅんなスタイルで書かせてください。


1)アミューズ:タルト・オニオン。
クリスピーに焼きあがったタルト生地の上に、
フラン(茶碗蒸し)がふんわり乗っています。
ほんのり温かい絶妙の温度とともに、上品な幸福感が口のなかに広がります。
むかしからオテル・ドゥ・ミクニと言えばなぜか(!??)この一品が有名で、
なるほどたしかに一流の仕上がりで素敵ですが、しかし、
ニッポンのフランス料理の宝、三國シェフをもしもタルト・オニオンに代表させてしまっては、
いくらなんでもそれはわれわれ食べ手の力量不足というもの。
たとえどれだけタルト・オニオンがおいしくても、
ここで立ち上がって「ブラボー!」と叫ぶのは我慢しておきましょう。
これはまだ、食べ手の食欲に火をつけ、
これから先の展開を期待させるための小品にすぎません。


2)前菜:ユリ根のフリット、じゃがいものピュレ添え。
これもまた小品ながら、しかし、調理力の高さと、
三國シェフならではの構成の妙が、その魅惑の世界が、
さりげなく示されます。
そもそもユリ根は根菜類で、しいて言えばニンニクの同族、
ただし、加熱するとサツマイモに似た甘さがひかえめに生まれます。
フリット技術が絶妙で、表面はクリスピーに、内側はしっとり熱々に仕上がっています。
このユリ根の下に敷いてあるのが、
いかにもエレガントなじゃがもののピュレで、
もともとはじゃがいもの分際で、しかしいまや惚れ惚れするほどの貴婦人に成り上がっていて。
しかもその貴婦人なピュレのなかに、彩りと味のアクセントとして、
ピンクの桜海老と、黄緑色の銀杏をあしらってあります。
どうです、これがコンポジションの妙というもの。


3)サワラのグリエ、ゴボウのピュレとともに。
まず印象的なのは、全体に上品な酸味をしっかり効かせてあること。
ここで、おぉ、と驚き、意表を突かれたよろこびを感じるのが、
三國ファンです。
調理に先立ってサワラはしっかりマリネしてあって、
江戸前鮨のテクニックをおもわせます。
下に、ゴボウのペーストと、マリネしてある蓮根が敷いてあります。
薄く剥いたゴボウをからっと揚げたチップが添えてあります。
おもえばゴボウは興味深い食材で、ナマの状態で軽く皮をこそぎ落としても、
それだけではえぐみがあって、そのえぐみはタンニンそのほかのポリフェノールです。
むろんそのえぐみは熱湯をくぐらせるか、あるいは2分ていど水にさらすなどの
下処理においてあるていど落とすわけですが、
しかし完全にえぐみを落としてしまってはつまらない。
また、ゴボウはスープやワインや生クリームそのほか
加熱する液体の味を繊維のなかに沁み込ませます。
(果たしてそのときポリフェノールは留まるのか、あるいは沁み出してしまうのか?)
これら一連のプロセスがゴボウの活かす/殺すを決定します。
優れた料理人にとって、ゴボウをいかに手なづけるか、挑戦し甲斐のあるテーマでしょう。
そしてこの一皿は、その模範解答になっています。
ゴボウと蓮根のブレゼも添えてあって、ゴボウのフリットの食感も導入され、
仕上げにスペインの、魚醤ガルム風味ヴィネガーも使ってあるそうな。
複数の味と食感を共存させ、複数の調理法を組み合わせ、
複数の食感のコントラストを作ること、
これが三國ワールドの基本です。
また三國シェフの標榜する Franco-Japonaise Cuisine を
ここに見ることもできるでしょう。


メゾンカイザーのものらしいパンも香ばしくおいしい。
バターカーラーで綺麗にくるんとカールされたバターもエレガントです。


4)鴨の各部位のコンポジション、グランヴヌールソースとビーツのピュレ添え。
鴨の胸肉、ササミ、腿がそれぞれ違った調理で仕上げてあります。
たとえば腿肉はハチミツを塗り、クミンのエキゾティックなアクセントがつけてあります。
下には、3種のビーツを薄切りにしてマリネしたものが敷いてあります。
そのうちのひとつはハチミツでマリネしてあります。
昏い紅色の力強いグランヴヌールソースを流してあります。
このソースは、まず鴨の骨を焼いて、
セロリやニンジンやネギと一緒にコトコト水煮したダシに、
胡椒をいくらか多めに加え、ソース・ポワヴラードを作り、
そこにスグリのジャムを加えて仕上げたもの。
そこにマジェンダ色のビーツのピュレが、赤スグリをアクセントにしつつ、混ざっています。
かっこいいですね、派手ですねぇ。
三國シェフはここでのソースに(けっしてジビエの定番ポワヴラードでは満足せず)、
華やかなグランヴヌールを選び、さらにはビーツのピュレを混ぜて華麗に仕上げるところが
まさに三國シェフらしさです。
なお、こういうモダンクラシックなリッチなソースは、
けっしていまのフュージョン世代の標準的シェフには作れないんじゃないかしらん。
そのうえあろうとかシイタケの小片も食感の愉しみとして混じっていてユーモラスです。
しかも、華麗さに念を押すように、網焼きされたビーツがファンシーな飾りになっています。
食べ手が「ブラボー!」と叫ぶべきはこの一品に対してでしょう。


もっとも、ぼくにとってはきょうのワインが位負けしていることが惜しまれるし、
また、鴨は茨城産で、残念ながらフランス、ビュルゴー家のシャラン鴨
(ルーアン鴨と北京種の交配種)のような、
「食べると気力体力みなぎり、おもわず1500メートル全力疾走してしまいそうな」、
そんな肉自体の力強さ表現力はないものの、
しかし、そもそもコース税込9000円ですから、
そんな口をきくのは世間知らずというものでしょう。
と言うか、むしろここで汲み取るべきは、
三國シェフの〈お手頃価格で、なるべく多くの人たちに、
グランメゾンの愉しみを伝えたい〉という意志でしょう。
このひと皿の三國シェフの創造性を味わう価値は高い。


5)フロマージュ・ブラン、柚子風味
3層になっている一品で、
一番底に純白の、柚子のジャムの層、
まんなかにフロマージュ・ブランの層、
表面に柚子のゼリーの層があります。
皿のふちには、オーヴンでクリスピーに焼き上げられた柚子が飾られています。
柚子の、ほのかに和を感じる酸味が上品、
そしてフロマージュブランの純白と、柚子の明るい黄色が、
層になって寄り添っているところが、
たいへん優美でエレガントです。

6)2種の葡萄のパルフェ、赤ワイン風味
パルフェ、英語ふうに呼べばパフェです。
フランス語で parfait 、英語のperfect に当たる言葉で、
「完璧なデザート」という意味だそうな。
ただし、現れたその一品は、パルフェ~パフェのイメージを大胆に刷新しています。
ピンクのキューブを積み上げて構成し、
赤ワインソースを流してある、かっこいい一品。


7)柿のタルト、ギネスビール風味のアイス添え
これがまた実に構成的な一品。
スポンジケーキの上に、
柿のタタン。
その上にギネスの苦味を活かしたアイス。
凄いですねぇ、このちょっぴり苦味を添える構成。
ここが実に三國シェフです。


8)薔薇と林檎のフレイヴァーティー
メニューには「マリーアントワネットティー」と書かれています。
いかにも三國シェフらしい繊細な魅惑です。
三國シェフのコースにけっしてエスプレッソは似合わない。


8)焼き菓子三種
ヴァニラ風味のビスケット、
ピーカンナッツのタルト、
ピスタチオのロールケーキ。
愛らしい色のふりわけのみならず、食感のアンサンブルもあって、
最後まで三國シェフの構成主義を魅せつけてくれます。


いやあ、楽しかった。
一皿づつの料理に愉しみどころがいくつも潜んでいて、
コースをいただくドラマに食べ手は何度となく驚き、微笑み、歓声を上げます。
そしてまたフランス料理好きにとって感動的なことは、
三國シェフのよる伝統継承です。
おもいだしてみましょう。
アラン・シャペル・シェフは1990年の夏、脳卒中で突然死し、
奥様がかれの薫陶を受けた料理人がレストラン運営を引き継いだものの、
しかし、ざんねんながら2012年閉店した。
ジラルデ・シェフはまだご存命ながら1996年に引退した。
2018年は象徴的な年でした。
1月にヌーヴェルキュイジーヌの帝王ボキューズが亡くなり、
8月にロブションが他界したのですから。
そしてヌーヴェルキュイジーヌ(新しい料理)は現代史の一部になりました。
逆に言えば、もはやヌーヴェルでもなんでもありません。
それが証拠にいまや若い料理人たちの多くは、
カタルーニャの Ell Blli 伝説でそのアヴァンギャルド料理に圧倒され、
コペンハーゲンの noma や、ローマの La Pergola の料理をチェックし、
トーキョーの Quintessence や、オーサカの Hajime に憧れています。
それらの料理はイノヴェーティヴフュージョンと呼ばれ、
00年代後半にミシュランがその名をつけてからというもの、
フランス料理の流行は一気にそちらに舵を切り、
結果フランス料理文化の、世代間断絶が生まれました。
しかし、そんななか三國シェフはかつてと少しも変わりません。
自身がジラルデやシャペルから創造性を学び、
料理への向き合い方を継承し、かれは堂々たるミクニの料理を創りながらも、
しかし、いまだかれらの精神を讃美してやみません。
ぼくはそこにかけがえのない文化継承を見るし、また、
これこそが啓蒙であり教育だとおもう。
しかもそれと同時に、三國シェフの料理はけっして古臭くなく、
むしろ(意外にも)カンテサンスに代表されるイノヴェーティヴ・フュージョン世代にも通じていて。
ヌーヴェルキュイジーヌ世代とイノヴェーティヴフュージョン世代は、一見断絶して見えながらも、
しかし、三國シェフの料理を介して繋がっています。
これがぼくにとって今回いちばんの発見だった。


給仕長はぼくが(「にわか」とは言え)三國ファンだと見抜くと、
あれこれ気さくに、うちわの話を聞かせてくれた。
たとえば、YOUTUBEの収録は週に2日で一週間分7本を収録していて、https://www.youtube.com/channel/UCftLOohXnznK4tDXqT-Yt_w
ランチ営業とディナー営業のあいだに撮るので、
スタッフはおおわらわだそうな。
ぼくはスタッフに同情しながらも、
ここでもまた三國シェフのフランス料理啓蒙活動への情熱を見る。
三國シェフはけっしてYOUTUBEでレストランフレンチを伝授しているわけではなく、
誰でもスーパーマーケットでたやすく買える食材で作ることができる、
かんたんなフランス家庭料理のノウハウを教えておられます。
ぼくはそこに三國シェフのこんな考えを受け取ります。
たとえどんなに三ツ星フレンチが眩しく見えようとも、
その輝かしい楼閣もまた、実はハンバーグや豚のエスカロップなどの
平凡な家庭料理の基礎の上に建っているのだ。
すなわち、すばらしくおいしいハンバーグに惚れこむ心があってこそ、
グランメゾンの料理の高みをふさわしく鑑賞できるのだ。
だからこそ啓蒙が必要で、なぜって、もしもフランス料理を愛する人たちの
裾野が広がらないことには、けっしてその高みの輝きもまた広く理解はされないでしょう。
このように三國シェフは、フランス料理文化を下の世代に正しく伝承するのだ、
という責任を背負っておられます。
この責任感が、とても凛々しい。


ぼくにとって今回のランチコースはワインだけがちょっと玉に瑕だったけれど、
しかし、ぼくの女友達はミクニワインをフォロウします。
「たしかにテーブルワインですけどね、
とはいえ、軽めで普通っぽくはあっても、 しっかり果実味があって上品で、
料理を邪魔しない、どのお皿にもデセールにも合う、
さすがミクニ印のテーブルワインですよ。」


ぼくは読者に問いかける、「あなたはジャルダン・デ・サヴール~北島亭派か、
それともオテル・ドゥ・ミクニ~カンテサンス派か?」
いいえ、この両極をともに味わってこそ、フランス料理を堪能できるというもの。
もっとも、ぼくはけっしてふだんもっぱら回転鮨、宅配ピザ、
とんこつラーメン、ハンバーガー、焼肉ばかり食べている人には
ミクニの料理は勧めません。だって、そういう人にはミクニの料理は難しすぎるでしょう。
またワインマニアにミクニをお勧めできるかどうかも微妙です。
しかし、アートを愛している人には試してみる価値があるし、
ましてやフランス料理を目指す料理人ならば、ミクニの料理はゼッタイに食べるべきです。
もしも食べないで済ませてしまえば人生の大損となるでしょう。
またフランス料理愛好家もまた是非にも食べるべきではあるでしょう。
ただし、ミクニの料理をどう語るかによって、食べ手としての力量、
フランス料理の教養の多寡がまざまざとバレてしまいます。
これはなかなかおっかない。
対称的に、けっして北島亭やコートドールの料理には
こういうプレッシャーはありません。


実は、こうしてこのレヴューを書き終えつつあるいま、
ぼくも内心冷や汗を流しています。
なぜなら、どのジャンルにせよ、プレイヤーとしての実力と
鑑賞者としての能力はあるていど相関しています。
だからこそ、小説家が語る小説鑑賞はおもしろいものですし、
野球解説には元野球選手が抜擢されます。
さいきんではお笑い評論さえも現役大御所コメディアンがおこなうとき注目が集まります。
では、ぼくの料理の力量はいかほどかと言えば、
鯖缶のタルタルや、ニースふうサラダ、
生米からフライパンで仕上げるリゾット、豚のエスカロップ、
ハンバーグ、焼いたバナナとイチジクにハーゲンダッツのアイスクリームを添え
リキュールをかけたものくらいはなんとか作れるものの、
しかし、それとてけっして人様からおカネをいただけるようなレヴェルにはほど遠い。
そんなぼくが巧緻を極めたミクニの世界を正確に理解できるはずがありません。
でも、こればかりは仕方ありません。
ほんらいプロの料理人と客の関係は非対称なもの。
もしもぼくが三國シェフのように料理を作れるならば、
ぼくはミクニへ食べに行く必要がありません。
そして食べログには食べログの役割があります。


長いレヴューを最後まで読んでくだすって、ありがとうございます。
そろそろまとめに入りましょう。
遥かな高みを仰ぎ見るよろこびは、万人に開かれています。
あなたも、オテル・ドゥ・ミクニに挑戦してみてください。
接客も上等ですので、あなたはきっと楽しい時間を過ごせるでしょう。


Eat for health,performance and esthetic
http://tabelog.com/rvwr/000436613/

  • オテル・ドゥ・ミクニ - 2種の葡萄のパルフェ、赤ワイン風味(ミクニが手掛けると、パフェがこうなる!)

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  • オテル・ドゥ・ミクニ - まずはウェイティングバーで、メニューを拝見します。

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  • オテル・ドゥ・ミクニ - アミューズのタルトオニオン(いくらおいしくとも、ここで立ち上がって「ブラボー!」と叫ぶのは我慢しましょう。)

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  • オテル・ドゥ・ミクニ - ユリ根のフリット、じゃがいものピュレ添え(火入れが絶妙なだけではありません。優美にかっこいいのは、構成です。)

    ユリ根のフリット、じゃがいものピュレ添え(火入れが絶妙なだけではありません。優美にかっこいいのは、構成です。)

  • オテル・ドゥ・ミクニ - 1986年の三國清三シェフ(レシピブック『皿の上に、僕がある。』のカヴァー写真。)

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  • オテル・ドゥ・ミクニ - サワラのグリエ、ゴボウのピュレとともに。(酸の活かし方が印象的ながら、同時に複雑な構成がたいへん興味深い一品。)

    サワラのグリエ、ゴボウのピュレとともに。(酸の活かし方が印象的ながら、同時に複雑な構成がたいへん興味深い一品。)

  • オテル・ドゥ・ミクニ - 鴨の各部位のコンポジション、グランヴヌールソースとビーツのピュレ。(もしもあなたがフランス料理好きで、この一品を味わわずに死んでしまったならば、きっとあなたは千年の悔いを残すでしょう。)

    鴨の各部位のコンポジション、グランヴヌールソースとビーツのピュレ。(もしもあなたがフランス料理好きで、この一品を味わわずに死んでしまったならば、きっとあなたは千年の悔いを残すでしょう。)

  • オテル・ドゥ・ミクニ - フロマージュ・ブラン、柚子風味(スプーンを差し込んだとき、この料理のエレガントな構成に気がつきます。)

    フロマージュ・ブラン、柚子風味(スプーンを差し込んだとき、この料理のエレガントな構成に気がつきます。)

  • オテル・ドゥ・ミクニ - 柿のタルト、ギネスビール風味のアイス添え(ここでギネスの苦味を添える、その心憎い構成!)

    柿のタルト、ギネスビール風味のアイス添え(ここでギネスの苦味を添える、その心憎い構成!)

  • オテル・ドゥ・ミクニ - マリーアントワネットティー(薔薇と林檎のフレイヴァーティー)

    マリーアントワネットティー(薔薇と林檎のフレイヴァーティー)

  • オテル・ドゥ・ミクニ - ヴァニラ風味のビスケット、 ピーカンナッツのタルト、 ピスタチオのロールケーキ(皿の上の、ちいさなPerfume?)

    ヴァニラ風味のビスケット、 ピーカンナッツのタルト、 ピスタチオのロールケーキ(皿の上の、ちいさなPerfume?)

  • オテル・ドゥ・ミクニ - 花々とアートに飾られたダイニング

    花々とアートに飾られたダイニング

  • オテル・ドゥ・ミクニ - ヴィジュアルアートも目のごちそうです。

    ヴィジュアルアートも目のごちそうです。

  • オテル・ドゥ・ミクニ - 三國シェフの恩師、帝国ホテル総料理長、村上信夫さん

    三國シェフの恩師、帝国ホテル総料理長、村上信夫さん

  • オテル・ドゥ・ミクニ - 「YOUTUBEの収録は週2日、ランチ営業とディナー営業のあいだに、1週間分撮っています。けっこうたいへんなんですよ。」

    「YOUTUBEの収録は週2日、ランチ営業とディナー営業のあいだに、1週間分撮っています。けっこうたいへんなんですよ。」

  • オテル・ドゥ・ミクニ - 四ッ谷駅から徒歩5分とはいえ、まさかこんな住宅地に・・・という場所にレストランは佇んでいます。

    四ッ谷駅から徒歩5分とはいえ、まさかこんな住宅地に・・・という場所にレストランは佇んでいます。

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店舗情報(詳細)

「みんなで作るグルメサイト」という性質上、店舗情報の正確性は保証されませんので、必ず事前にご確認の上ご利用ください。 詳しくはこちら

店舗基本情報

店名
閉店 オテル・ドゥ・ミクニ(HOTEL DE MIKUNI)

このお店は現在閉店しております。店舗の掲載情報に関して

ジャンル フレンチ
住所

東京都新宿区若葉1-18

交通手段

JR中央線四ッ谷駅赤坂口から 徒歩7分

四ツ谷駅から437m

営業時間
  • ■営業時間
    [火~土] 12:00~14:30(L.O) 18:00~21:30(L.O)
    [日] 12:00~14:30(L.O)

    ■定休日
    日曜日夜、月曜日

営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください。

予算

¥20,000~¥29,999

¥10,000~¥14,999

予算(口コミ集計)
支払い方法

カード可

(VISA、Master、JCB、AMEX、Diners)

電子マネー不可

サービス料・
チャージ

10%

席・設備

席数

80席

個室

(4人可、6人可、8人可、10~20人可)

貸切

(50人以上可)

禁煙・喫煙

分煙

バーのみ喫煙可

2020年4月1日より受動喫煙対策に関する法律(改正健康増進法)が施行されており、最新の情報と異なる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください。

駐車場

近隣にコインパーキングがございます。

空間・設備

落ち着いた空間、席が広い

メニュー

ドリンク

ワインあり、カクテルあり、ワインにこだわる、カクテルにこだわる

料理

ベジタリアンメニューあり

特徴・関連情報

利用シーン

家族・子供と

こんな時によく使われます。

ロケーション

一軒家レストラン

サービス

お祝い・サプライズ可、ソムリエがいる

お子様連れ

子供可

小学5年生以上可です。

ドレスコード

オープン日

1985年

備考

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