極めたシンプル : 赤坂 詠月

再訪。3回目。

今回は、18,000円のコースで。

初秋の味覚を楽しむ内容。
コースは以下の構成。ボリュームあり。
(1)いくら
(2)新銀杏
(3)松茸の土瓶蒸し
(4)お造り（剣先イカ、カレイ、ウニ）
(5)太刀魚の焼き物
(6)イワシの握り鮨
(7)子持ち鮎の甘露煮
(8)湯葉
(9)焼き松茸、鰻の白焼き
(10)ボタン海老の和え物
(11)鴨と青唐辛子の炊き込みご飯、味噌汁、香の物
(12)デザート（マスカットと梨）
(13)デザート（どら焼き）
(14)抹茶

全体を通して、これまでの詠月とはちょっと違うなぁという印象。
僕の中では詠月は、美味しいお出汁を楽しむ店、という印象が強く、
それが楽しみなんだけれど、今回はそういう料理は、
(3)松茸の土瓶蒸(8)湯葉の２つしかなく、ちょっと不完全燃焼。

でも、魚の質は良く、調理技術もしっかりされているので美味しい。
今回、(10)ボタン海老の和え物が大変素晴らしかった。

次回は、もう少しボリューム少なめにしてもらおうと思う。
それと、お出汁中心の料理で一度やってもらえないか、お願いしてみたい。

15,000円のコース(税サ別)。

素晴らしかった。
コースを通して、落ち着いた綺麗な出汁が根底に流れ、
その上に、魚介や野菜などの旬の味が優しく浮かぶ。
味の強弱、塩分の強弱、熱の強弱、食感の強弱、薬味の強弱が、とても狭い幅で振られてくる。
どれも一定ではなく、その幅の中で振れてくる。
だから、自分の味覚が繊細になる。研ぎ澄ませたくなる。
その幅に味覚を漂わせていれば、最大限引き出された素材の持ち味が料理の方からやってくる。
食材は上質だ。でも最上級ではない。もっと上がある。
でもそれを補って有り余るほどの技術が施され、その結果、最高級の味に仕立てられる。
しかも気品があり、穏やかで、美しい味。
とても心地いい。

その際たる料理が、ホタルイカと桜海老の料理だった。
ホタルイカも桜海老も、確かにかなり上質なものが使われていたが、そもそもそれ自体がそんな高級な食材ではない。
それでも、ホタルイカの硬い食感の部分は綺麗に取り除かれて、かつ臭みも綺麗に抜かれて、
肝も旨みが前面に出る下拵え。
桜海老は、殻の強い味は取り除かれて、身の淡い旨みが前面に出る下拵え。
そしてこれを、仄かな酸味のあるお出汁で重ね合わせることで、
これまでに味わったことがない昇華した旨みが生まれる。
そしてそこに味を引き締める山椒が仄かに効く。
味の組み立てが素晴らしく、そこに行き着くまでの下拵えも完璧だ。

お造りは、塩と醤油とでは、お造りの素材自体に全く異なる性質の旨みが生まれるものだった。
これは僕の中でかなりの衝撃だった。
お造りを塩と醤油で食べさせる店はよくあるが、基本的に素材の旨みの本質は同じで、
表面に塩味が付加されるか醤油味が付加されるかの違いでしかないのが普通だ。
でもここは違う。塩で引き出される旨みと、醤油で引き出される旨みが全く異なっているのだ。

ホッキ貝は立派なもの。驚いたのはその温度。
旨みが最大限引き出される温度。味覚も最大限に活性化する温度。
ちょうどいい塩梅なので、ずっと口の中に入れて咀嚼していたい。
しかも上質だから、咀嚼しても咀嚼してもずっと旨みが溢れてくる。
もちろん塩分もバッチリ決まっている。

グジの煮付けは、火の入り加減が抜群にいい。
旨みが抜けていない。
いや、逆にお出汁を仄かに吸って、グジ自体にそもそもこんな旨みが備わっていたかのように思わせる。
皮目へのちょっとした焦がしも、ほんのりと香り、アクセント。
出しゃばらないお出汁もとても綺麗で美味しい。

新玉ねぎの冷製すり流しは、新玉ねぎならではの、淡い甘みがとても心地いい。
これをアテに日本酒を頂くと、日本酒がとても美味しい。
蕎麦で言えば、冷やかけの「抜き」で日本酒を楽しむ、あのイメージだ。

桜海老の炊き込みご飯も完璧だ。
桜海老がたくさん入っているのに、ヒゲや殻の硬さは気にならず、
全体に行き渡る桜海老の旨みが前面に出る。

全ての食材が活き活きとしている。
出汁がバシッと決まっている。
塩分がバシッと決まっている。

こうした料理が、コースを通して最初から最後まで気持ちよく駆け抜ける。
それを支えているのは、ご主人の職人技。
良い素材が更に輝く。

これまでいろいろな日本料理を食べ歩き、いろいろ惹かれるものはあったけれど、
僕が求めているものは、ここにあった。
この日、末長くお付き合いしたいと、心から思った。