『おいでやすぅ～』で空気マッサージ、の巻 : やげんぼり 赤坂店

金曜日の夜です。

赤坂です。
予約はしておりません。すべて運任せ。

三分坂上の第一目標のお鮨屋さんはいまだお休み中。もしかして閉店しちゃったのかなぁ、残念。

第二目標は昔ながらの町蕎麦屋さん。
冬だもん。そうです。鍋焼きうどんの季節です。お汁が染み込んだ海老天のプニュプニュ衣に癒されたい。それに土日が休みなので、お伺いするとしたら今日がベスト。坂を下って見附方面にノテノテと進みます。

三が日明けの最初の金曜日ということで、通りを歩く皆さんは何だか艶福顔。良かった良かった。ひとまず中東危機も回避されたみたいだし、平和の有難みを噛みしめながら、九十九折に薄暗い路地をのんびりと彷徨います。

焼肉の名店、”赤坂大関”の真向かいになんだか良さそな割烹料理屋さんを発見。暖簾の隙間から中を覗くと、えっ、いきなりの上がり框。それも二段構えの高さ50cm。まさに高い敷居・・・

う～む。覚悟を決めるには、ここは慎重に食べログで事前チェックしよう。開くと、なんだよぉ、夜のレビューが無い。あるのはランチレビューばかり。

これはそのぉ、いわゆる、夜のお客は食べログにレビューなどあげない、お大尽様か接待系？

メニュー画面を開きます。単品料理は充実しているようだけど、確かに気軽に頼めるお値段では無い。

不安が頭をもたげますが、玄関脇で背中を丸めながらスマホを見つめるのもカッコ悪いので、胃を決して、いや、意を決して引き戸をガラガラガラと引き開けます。

『たのもうっ！』などとは口が裂けても言えないので、『ごめんくださ～い』なんて、体形に似合わずか細い声で呟きます。下足番さんはいらっしゃいません。ほどなく左手横の暖簾の奥から『おいでやすぅ～』なんて、小顔で細身で上背のある着物姿も小粋なお美しい娘さんが出ていらっしゃいました。

瞬間、鍋焼きうどんの幻影が雲散霧消。お腹が小さくガッツポーズ。

『予約していないのですが、独り、入れますか？』と可愛く呟く小デブ。

『カウンターでよろしければ．．．』と下がり眉で呟く娘殿。

『カウンター、大好きですぅ！』と、小躍りしているつもりで前後に揺れる小デブ。

あっ、あいやぁ～、靴を脱ぐんやったぁ・・・、ちゃんと磨いておけば良かった。足元を見られるとはまさにこの事か、なんて自身の脇の甘さを後悔するも、今更後には引けません。

靴下に穴は開いていない・・・、ましてや足も臭わない筈。でも嗅いだことないから分かんないや。

『ラーニャンは体臭がないのよね．．．』なんて天国の妻の呟きを思い出します。

おいおい、それって付き合っている頃に言われただけじゃん。今は三十数年分の加齢臭が漂っているかも。

そんなつまんないことを連想しつつ、着物姿の娘さんのお尻にくっつきながら（別に触れているわけではありません、見ているだけですヾ(≧▽≦)ﾉ）、静々と中に入ります。

掘り炬燵式のL字カウンター。奥に妙齢のご常連様らしきお二方が居らっしゃいます。

『おいでやすぅ～』と板長、脇板、煮方兼揚方のお三方からお声がけ。

コートと上着を預け、カウンターの角席に座ろうとすると年配の板長が『そちらは背中がお寒うございますやろから、ひとつずれたほうが宜しいかと．．．』と、眼を見て呟かれます。

『そいでは端っこに座りますね』と小デブ。

ホッと緊張が解けます。

先ずは”男は黙ってサッポロビール”の中瓶をお願いし、小さめのグラスを一口で飲み干します。

ックウーーーーーーッ！
うんまい。
喉の洗浄終了（玉ちゃん、パクッて御免）

女優の深浦加奈子（大腸癌でお亡くなりになりました。小デブは大好きでした）の面影を宿す女将が膝をつかれます。

京都のご出身とのこと。

『お店の娘さん、着物姿が様になっていますね。所作も柔らかいし』と軽くジャブを放ちます。

『そうですやろ。みな舞台などに出てはる女優さんや声優さんの卵なんどすぅ。以前勤めていた娘（こ）が、今は多少有名になっておりますけど、そのつてで来てくれはるようになって、彼女たちも色々なお客様に接して、ねっ、舞台のお稽古にもなるみたいで喜んでくれておりますのよ．．．』とのお答え。

なるほど。
やはり訳がありました。

納得です。

女将に娘さん、板長、煮方のかたとも打ち解け、柔らかい空気マッサージに癒された二時間強。

さすが赤坂。
季節ごとにお伺いすることに決めました。

いただいたものは以下の通りです。
お皿のコメントは写真とともにどうぞ。

板長によれば、七割ほどが接待客なのでコース料理が良く出るものの、逆にカウンターはアラカルトで愉しむお一人様が多いとのこと。

流儀に従い、小デブもアラカルトでお願いします。


●お通し：
・子持ち昆布
・イクラ
・地鶏炙りの柚子胡椒
・烏賊の黄金（卵黄）焼き
・黒豆
・車海老
・紅白なます
・唐墨大根
●刺身：赤貝
●真子鰈の唐揚げ：常磐
●牛タタキ：内腿
●もずく酢
●穴子山椒焼き
●お茶漬け：チリメン山椒

〇黒ラベル：中瓶
〇招徳 花洛 祝：純米吟醸、伏見
〇澤屋まつもと守破離：伏見
〇菊姫：山廃純米、吉川特A山田錦、白山
日本酒は計三合