『ル・コント』よ　絶（た）えなば絶（た）えね　ながらへば　罵（のゝし）る民（たみ）の　増（ふ）えもぞする : ルコント 広尾本店

『尖沙咀』をそゝくさと辭別（いとまごひ）し、
脇目（わきめ）も振（ふ）らで、廣尾（ひろを）まで一烟走（まつしぐら）。
その容（さま）、塒（ねぐら）に嚮（むか）ふ烏（からす）に異（こと）ならず。
目指（めざ）すは、唯一（たゞひとつ）、法蘭西菓子（ふらんすぐわし）『ル・コント』。

當家（こちら）で頂（いたゞ）くものは、
"ガトー・フランボワーズ"、すなはち、木苺（きいちご）の菓子（くわし）。
倘（も）し、賣場（うりば）に有之（これあ）らば、
注文（たの）まざる前例（ためし）なき品（しな）"モカ・プラリネ"。

この日（ひ）、"モカ・プラリネ"なかりし故（ゆゑ）、
已（や）むことを得（え）ずして、"ポンポネット"、すなはち"サヴァラン"に、、。
有機紅茶（いうきこうちや）を附（つ）け、
對價（あたひ）、大約（およそ）、一千七百圓也（いつせんなゝひやくゑんなり）。

その味（あぢはひ）たるや、
往古（そのかみ）に秋毫（つゆ）異（こと）なるところなし。
内裝（なか）を覽（み）るに、
變化（かはりたるところ）は、窗際（まどぎは）の置物（おきもの）くらゐ。

「萬事（よろづ）法國式（おふらんすしき）」
とは云へ、
金屬洋食器（かとらり）の設置法（おきかた）は英國式（えげれすしき）、
玻璃盞（ぐらす）は徳國（どいつ）"Shott Zwiesel"牌（ツヴィーゼルじるし）。

金屬洋食器（かとらり）そのものも、
"Christofle"を惜（を）しみなく用（つか）ふ、
青山（あをやま）『ピエール・エルメ』に比較（くら）ぶれば、
頗（すこぶ）る粗末（そまつ）なる貨物（しろもの）。

"Zwiesel"、創業（あきなひをはじ）めしは、
明治五壬申歳（めいじごみづのえさるどし,1872）と云ふ。
古（ふる）くより"Otto Shott"率（ひき）いる、
"Jenaer Glaswerk Schott & Genossen"との關係（かゝはり）深（ふか）し。

先（さき）の大戰后（おほいくさのゝち）、"Jenaer Glaswerk"のみならず、
所縁（ゆかり）の"Carl Zeiss"も東西（ひがしとにし）に分斷（わか）たれ、
西（にし）は、各（おのおの）、"Carl Zeiss"、"Schott Glaswerke AG"、
東（ひがし）は、それぞれ、"VEB Carl Zeiss Jena"、"Jena Glaswerke VEB"となる。

因（ちな）みに、"VEB"とは"Volkseigener Betrieb"、
すなはち、"人民管理企業（じんみんくわんりきげふ）"の略（りやく）。
かの、"A. Lange & Söhne（ランゲ・ウント・ゼーネ）"など、
Glashütter（グラスヒュッテ）の土圭企業（とけいきげふ）も悉（ことごと）く"VEB"に、。

"伯林（べるりん）の壁（かべ）"崩潰後（くづれさりしのち）、
Glashütter（グラスヒュッテ）の時辰儀（とけい）は復興（いきをふきかへ）し、
東西分斷（ひがしにしにわか）れし"Carl Zeiss"と"Shott"は、
各々（おのおの）、"Carl Zeiss"、"ShottAG"として再統一（よりをもどしぬ）。

現在（いま）の"Zwiesel"に三（み）つの品牌（しるし）ありとぞ。
　・"Zwiesel"　　　　　手作業（てづくり）
　・"Schott Zwiesel"　　機械製造（しかけからくりづくり）
　・"Jenaer Glas"　　　　耐熱玻璃（たいねつがらす）

同（おな）じ"ShottAG"の玻璃（がらす）と云へど、
"Schott Zwiesel"は西（にし）Mainz（マインツ）、
"Jenaer Glas"は東（ひがし）Jena（イエナ）に由緒（すぢめ）あるは明白（あきらか）
"Zeiss"も、Oberkochen（オーバーコッヘン）とJena（イエナ）に獨自性（どくじせい）。

案下某生再説（それはさておき）、
"ガトー・フランボワーズ"と"ポンポネット"の二品（ふたしな）：
各々（おのおの）、古（ふる）き批評（ひゝやう）に詳細（つまびらか）なれば、
繰返（くりかへ）すを避（さ）く。

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【照相機】：東京通信工業 索尼（Sony） α7 II　無反光鏡可換鏡頭照相機（みらーれす）
【鏡頭】　：徠卡（Leica）Apo Summicron M 2/50 Asph. @F2～F4
　　　　　　萊茨（Leitz）徠卡（Leica）Super Angulon R 4/21 @F8

【2014-11-02追記】：　※システム不具合による再記です。
『すし通』を辭別(いとまごひ)し、霞町（かすみちやう）から廣尾（ひろお）に向（む）かふ。
仕上（しあ）げは洋菓子（やうぐわし）。
佛蘭西菓子（おふらんすぐわし）『ルコント』。
今（いま）の時季（じき）、習慣(ならひ)の"モカプラリネ"がなく、"ポンポネット"に、、。

俗（よ）に云ふ"サヴァラン"。
"ガトー・フランボアーズ"ともども沙糖（さたう）と酒精（さけ）が效（き）ゝ、
わが舌（した）を悦（よろこ）ばせ、その腹（はら）をしてくちくせしむ。
善哉（よいかな）、善哉（よいかな）！

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【照相機】：日本光學 尼康（Nikon） Df 數碼單鏡反光照相機
【鏡頭】：.....蔡司（Carl Zeiss) Makro Planar T* 2.0/50 ZF.2 @F2.8～F4.0

【2014-04-16記】：
『ル・コント』再開の噂（うはさ）を耳（みゝ）にし、とるものとりあへず廣尾（ひろを）に。
場所（ところ）は有栖川公園（ありすがはこうゑん）近傍（ちかく）、『エノテカ』向（む）かひ。
賈内（なか）には若者（わかもの）ゝ幾人（いくたり）。
玻璃（がらす）の陳列棚（ちんれつだな）には懐（なつか）かしき品々（しなじな）がずらり。

その中（なか）より選（えら）みしは、"木苺（ガトー・フランボアーズ）"、"モカ・プラリネ"。
"意大利咖啡（エスプレッソ）"とゝもに階下（した）の茶席（ちやせき）にて堪能（あぢはふ）。
家苞（いへつと）として、"ガトー・フランボアーズ"、"モカ・プラリネ"、"エクレア・モカ"、
試みに"三日月麪麭（クロワッサン）"、"葡萄麪麭（パン・オ・レザン）"を注文（たのむ）。

僕（やつかれ）、當舖（こちら）を知（し）れりしは四十年餘（よせとせあまり）前（まへ）。
往古（そのかみ）は麻布霞町（あざぶかすみちやう）近傍（ちかく）の六本木に在りて、
洋菓子職人（パティシエ）アンドレ・ルコント翁（おきな）てづから給仕（きふじ）をしたまひき。
その後（のち）、青山、銀座、越後屋（ゑちごや）、伊勢丹にも、、。

舌（した）を研（と）ぎ澄（す）まし、倩（つらつら）、その口味（あぢ）を確かむるに、
洋酒（さけ）の效（き）ゝ惡（あし）く、何（なに）やら平板（ひら）たき味（あぢ）はひ。
四十年餘（よせとせあまり）前の『ル・コント』を知る女給仕（なかゐ）に據（よ）らば、
「慥（たしか）に酒精（リキュール）を控（ひか）へ甜（あまみ）を抑へたるもの」と、、。

妄（みだ）りに掃愁箒（さけ）を減らし、徒（いたづら）に沙糖（さたう）を惜（お）しみ、
剩（あまッ）さへ巷（ちまた）に溢るゝ小賢（こざか）しき蛋糕（けえき）に擦り寄るは、
寔（まこと）愚（おろ）か極（きは）まりなき所業（わざ）。
宛然（あたかも）、虎の牙（きば）を拔き、鷹の爪（つめ）を毀（こぼ）つがごとし。

衆人（もろびと）に阿（おもね）りて口味（あぢ）を變（か）へ、價格（ね）を上ぐるは、
許（ゆる）し難（がた）き舉動（ふるまひ）。
しかはあれど、酸、甜（あまみ）、油脂、酒精（さけ）の均衡（つりあひ）は、
往古（そのかみ）に大（おほ）きく異（こと）なるところなし。

かつての『ル・コント』の佳味（よきあぢ）をうかゞふには好適（よ）き鋪（みせ）なれど、
價格（ね）も口味（あぢ）も往古（そのかみ）とは聊（いさゝ）かの相違（たがひ）あり？
先月より、日本橋（にほん者゛し）三井越後屋（みつゐゑちごや）にも再出店（ふたゝびのでみせ）。
龝（あき）まで半年限定（はんとしかぎり）とのよし。

因（ちな）みに、「佛蘭西菓子（ふらんすぐわし）の嚆矢（はじまり）」と云ふは誤謬（あやまり）。
本朝（わがくに）佛蘭西菓子（ふらんすぐわし）の魁（さきがけ）は神田小川町『エスワイル』。
ル・コントは法國人（あちら）による正宗佛蘭西菓子（ほんばぐわし）の濫觴（はじまり）。
『エスワイル』より『ル・コント』への飛躍（ひやく）は驚歎（おどろ）くべきものあり。

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【照相機】：日本光學 尼康（Nikon） Df 數碼單鏡反光照相機
【鏡頭】：.....蔡司（Carl Zeiss) Makro Planar T* 2.0/50 ZF.2 @F2.8
......................蔡司（Carl Zeiss) Distagon T* 2.8/21 ZF.2 @F8.0
【照相機】：富士胶片（ふじふゐるむ） X-T1 無反光鏡可換鏡頭照相機
【鏡頭】：.....蔡司（Carl Zeiss) S-Planar T* 2.8/60 AEG @F4.0