麻布十番、飾り過ぎず実直な料理、隠れ家にしておくのはもったいない。 : 麻布十番 味はな

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こちらは国の内外での多くの経歴を持つ西山 道泰氏が2020年1月にオープンしたお店です。

氏は40年以上の経歴を持つ和食の料理人であり、スイスに渡った先の「兎山」や、料理長を務めた「西麻布いちの」でもミシュランを獲得した実力派でもあり、とても楽しみにしていました。

お店はビルの6Fにあり、エレベーターを降りた段階で麻布十番の隠れ家に引き込まれます。
カウンターのみの最大7席のお店なのですが、4年目とは思えないくらいにきれいに保たれていました。

料理はコースもあるのですが、この日はアラカルトを中心に。
お酒は最初はビールでお願いしましたが、後はペアリングとしてお任せで。
初めて出会う日本酒やワインが出てきただけでなく、料理をしっかりと支えるお酒でした。

■料理
・先付け
・お造り
・おでん 牛すじ大根
・おでん ロールキャベツ
・のどぐろ焼き
・蟹クリームコロッケ
・和牛入りメンチカツ
・自家製チーズ
・うなぎの肝焼き、かば焼き
・名物 鮑バター焼き
・からすみ新蕎麦
・出来立て苺大福

■お酒
・サッポロ「エビス」
・川村酒造「酉与右衛門(よえもん)」
・男山酒造「山川光男　2022 ふゆ」
・シャサーニュ モンラッシェ 2013
・王祿酒造「出雲麹屋　純米にごり」
・新政酒造「陽乃鳥(ひのとり)」
・ヴォーヌ ロマネ 2017


まずは「先付け」として、1月に相応しく数の子や黒豆をあしらった一皿が登場。
数の子の食感や酸味、しわ一つない黒豆とその味わいだけでも実力が垣間見えるようでした。
最初から気持ちが盛り上がります。

「お造り」はヒゲダイや金目鯛、タコなどが彩りの美しい器に盛られていました。
食べ始めると、最初は厚めに切っているのかと思ったのですが、そうではなく、魚自体の食感がしっかりしているので、まるで厚切りのように感じた次第です。
つまりは旨い魚だということ。
すり立てのワサビの風味と一緒に食感も楽しんでいきます。

「おでん」は寒い日に嬉しい気取らないメニューであり、これを載せていることも氏の人柄が見えるように思いました。
とはいえ出汁の旨さはやはり秀逸。
マナー違反だとは思いながらも出汁までしっかり飲み干してしまうくらいに。

「のどぐろ焼き」は皮まで含めた焼き加減が絶妙。
のどぐろは時として脂が強すぎるときがあるのですが、その脂がさっくりと感じられるような焼き加減であり、さらに添えてあるレモンおろしにより、のどぐろの旨さがさらに引き出されていました。
合わせてもらった白ワインもちょっとクセのあるところが、こののどぐろにマッチ。
他のペアリングもそうですが、素直過ぎない合わせ方が見事でした。

「蟹クリームコロッケ」「和牛入りメンチカツ」も見た目は地味なのですが、たっぷりの蟹身や和牛をキメの細かい衣で包み込んでおり、また、蟹と和牛の両方を用意しているところもちょうど良いです。
美味しくても片方だと物足りないかもと思えるあたりが。
「おでん」同様、飾らないメニューなのに本物の味わいなのです。

さらに「自家製チーズ」もシンプルな形で供されます。
氏のスイス経験が活きているのだと思いますが、食べ進めるとフレッシュさが際立つチーズ。
チーズも種類によって苦手な方もいらっしゃるとは思いますが、これは日本人が大好きな味わいかと。

それからはメインとも言える品々が登場。

「うなぎの肝焼き、かば焼き」は炭で焼いたうなぎに絶妙なタレ。
それを赤ワインが後押ししてくれます。
鰻ダレと赤ワイン、初めての組み合わせですが、想像以上に良い組み合わせです。

「名物 鮑バター焼き」は名前の通り、必食の一品。
鮑の切り方やサイズ感も絶妙なのですが、それを最大限に引き出すのが手作りのバター。
そしてアスパラガスがあることによって、全体のバランスがさらに高まります。
気を利かせたお店の方が、バターソースを楽しめるようにと匙を出して下さったのですが、最後までソースを楽しみ切りましたよ。

すっかり満足してきた頃に「からすみ新蕎麦」も登場。
「からすみ蕎麦」といえば、神谷町の「おかもと」で食べて感動したことがあったのですが、こちらのは「からすみ」をより荒く削ることによって風味を開かせているように感じました。
これも旨いなぁ。

最後の「出来立て苺大福」はお茶と一緒に。
餅、餡、イチゴとそれらのバランスが良く、それが作り立てなこともあり、贅沢なデザートでした。
きっと氏は甘いモノも好きなんじゃないかな、と。

最高の技と素材、そしてそれに合わせたペアリングを頂きましたが、「おでん」や「コロッケ」などの飾らないメニューや見た目だけにはこだわるわけではない実直な料理の数々に感動です。
本当に美味しいものをシンプルに出すという矜持を感じました。

隠しておきたい一方で、食いしん坊さんには知っておいて欲しいお店でした。
ごちそうさま。