このCPなら課題あり/内装最高 : An Di

他のレビューとは異なり、こちらのお店に関しては結論から申し上げます。

オーナーはソムリエ大越基裕氏で、南青山『レフェルヴェソンス』のスーシェフ内藤千博氏を迎えて2017年までの6,000円のコースから9,000円へ上げて勝負されているお店。

お料理だけでしたら10,000円/人程でそこにby the glassもしくはお酒セットでアルコールを3-5杯お願いするとそこそこレベルのマリアージュで17,000-20,000円/人。

内容としてはInnovetiveという程ではないのですが、よくあるベトナム料理ではないので、フレンチ料理人が手掛けるModernなベトナム宮廷料理というところでしょうか？

周辺が静かで内装の雰囲気もとても良いため、このエリアにおいてはカジュアルデートにはとても良いお店の1つです。しかもこれがフレンチでしたら男性もジャケット必須になりますが、カテゴリー的には『ベトナム料理/アジアン料理』となるのでTシャツでもオッケー。健康意識の高い女性でこちらのお店を嫌がる方はいないはず。会話の弾む各お皿に話し下手な男性にも頼もしいでしょう。

なのでデートご飯としての評価なら上述した通り。

ただ、では改善点がないのか？というとさにあらず。

私はシェフがご出身の南青山『レフェルベソンス』が大好きなこともあって、以下はこちらのお店がより高みに登れるという確信の元、3点提案したいと思います。


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1.コースとして一点、ある面において大きく至らないこと
2.フレンチをしっかりやってきたが故にどこかアジアン料理をこの程度で良いだろうという驕りを感じる
3.この価格帯で勝負するならライバルはベトナム料理ではなく、美味しいフレンチやイタリアンや割烹料理屋だと認識すること

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「1.」に関しては、これは特に夏場にかけてなのですが、コースにおいてまずは『食べ手の胃を開く』ということの重要性を見落としているかなと思います。最初に暖かいちょっとした一皿でさらに食欲が湧くというあれです。
　最初から締めのフォーなどのスープまで暖かい食べ物が皆無でずっと生野菜や柑橘系のソース一辺倒。お水を頼んでも氷に入ったお水のみ。

おそらくシェフ自身が内臓レベルでとても健康なのもあるのでしょうが、現代女性は特に冷え性の方がとても増えていることを忘れてはいけません。冷え性ではない男性も最初にちょっとした温かい一品を嫌がる人はいません。それか無料で暖かいアジアンなお茶を常にserveするのでも良いかと思います。この辺りは『レフェルベソンス』はちゃんと理解して実行してます。


「2.」に関しては、この価格帯の料理にしては、ソースが単調だなと思うからです。ナムプラーにも高い物から安い物までものすごい種類が存在します。もっとベトナム料理ならではの高級希少ナムプラーの使い分けやフレンチ出身ならではの階層的で複雑なソースがところどころに欲しいです。

もし入っているのかもしれませんが、私の味覚嗅覚に判らないということは世間一般では「足りない」のだと思います。

悪くいえば、ずっと柑橘系や野菜をソースという形に変えているだけと感じるからです。


〜当店の料理はベトナム料理にも慣れていらっしゃらない皆様に食べ易いようにあえてそうしています〜


と言われればそれまでですが、その割には締めのフォーはフレンチの王道コンソメのように余分な肉を削ぎ落とす、素晴らしく純粋な骨の旨味で攻めてくるので、その言い分は却下します。


「3.」おそらく、15,000-20,000円出してまでベトナム料理を純粋に愉しみたい人達はこのお店には来ないわけです。それでしたら5,000-6,000円で堪能できるお店が都心には何店かあるからです。

この価格帯のこのレベルで喜ぶ人は良くも悪くも『低温調理』や『熟成』の存在すら知らない普段あまり料理にこだわらない味覚嗅覚の大らかな方か料理の内容よりも雰囲気重視の方が多いのではないでしょうか？

だとするとこちらのお店を高評価するのは値段を全く気にしないで食事できる「グルメン」か「にわか」の方々だけで、普段から美味しい料理を食べてきているグルメンがベトナム料理を食べたい時にこちらのお店を思い浮かべることはないでしょう。


つまり、ミシュランメンバーも同様ということです。


そういう意味では現時点での食べログ評価は素晴らしく的を得ていると言えます。


こちらのお店はある側面では「うちはベトナム料理屋なんで」といえますし、ある側面では「うちは都心の美味しいフレンチ/イタリアン/和食（鮨含む）がライバルなんで」ともいえる当事者にとってはおいしい、周囲からみたら誤解を恐れずに申し上げれば、ズルい位置付けです。

都心でミシュランを目指す宮廷料理レベルのベトナム料理を出すお店の競争率はゼロに近い程かなり低いですしね。

ミシュランのビブグルマンという定義は料金以上の満足度を得られるお店ということですが、私からしたら、ジャンル問わず美味しいコース料理として、明らかに料金を下回る満足度です。


茶葉を発酵させた調味料やフォーの凄みなど、随所に高い技術や工夫は見れるため、都心のアジアン料理としては理想的なこの素晴らしい内装とシェフのポテンシャルを踏まえて、この辺りを改善しましたら、ビブグルマン程度ではない、お店が目指している真のミシュラン星獲得に至ると思います。


若いときからずっと真剣に高い水準の料理を目指してきた方にとっては、ジャンル問わず、アジア料理の料理人は基礎や想像力が足りなく感じることでしょうが、ここはシェフが真摯に女性スタッフ達の『食べる側としての』声にも耳を傾ければ、その日は決して遠くないのではないでしょうか？


シェフがなぜこれだけやってうちのお店はミシュラン星獲得できないのだ！？と悩んでいるとしたら、答えはそのあたりにあるとお思います。


コース料理×お酒2-3杯飲んで12,000円/人程なら素晴らしい高評価ながら、価格帯がグッと変わると見方がガラッと変わるのが人情。感覚としては3,000-5,000円/人高いなという印象。ただ、内装や立地含めたデート店としてはある意味適正価格ともいえますが、このStyleで今後もやっていかれるのであれば、都心の同価格帯の他ジャンルの人気レストランとシビアに比較されることへの覚悟は必要です。


こちらのレストランの顧客層と南青山『レフェルベソンス』の顧客層は交わらないのでその威光が効かないであろうからです。

エリア的にもこの近くにお住まいでない方々はまずはランチから行かれると良いと思います。

ということで、ランチは女子会やカジュアルデートに。夜はカジュアルデートにお勧めです。

※一芯二葉を見せたいのはお店のエゴなので、それよりも茶葉を発酵させた調味料をもう少し口の中で均一になるように調整して刻み叩いて、口当たりを重視したほうが良いです。
※Japanese herbである大葉をこちらの料理に使うことはとても良いと思いますが、乾き切って水分飛び切った大葉をそのまま丸ごと盛り付けるのはもっと良い見せ方があると思います。
※国にこだわらないことは良いのですが、そして柑橘系のソースが多いためソムリエとしてはマリアージュを狙いにくいでしょうが、より高みを目指すのなら、料理とお酒のマリアージュのレベルをあと1-2段引き上げる必要性あり