凛とした雰囲気のなかに : 御料理 宮坂

有難いお誘いを頂き2年ぶりに訪れました。今や予約の取りづらい店の仲間入りを果たして、当日予約派の私にはかなりハードルの高い一軒であります。柚子香煎に続いてカウンターで頂いたコースの内容は以下の通りです。

「聖護院蕪の蒸しもの　金目鯛/金時人参/筍添え」　○
「造り：ひらめ（青森）/まぐろ（長崎）」　◎/○
「伊勢海老しんじょうと胡麻豆腐の椀」　◎
「まながつお（淡路）の炭火焼き　丹波篠山の野菜を敷いて」　○
「黒豆の飯蒸し　炒りからすみ掛け」　◎
「八寸：帆立揚げ/堀川牛蒡/かます棒寿司/白ばい貝うま煮/鰆の藁いぶし焼き/雲子/あん肝/なまこ」　○
「聖護院大根と蕗と筍（鹿児島）の炊き合わせ」　○
「松葉蟹/ふぐ（豊後水道）の煮凝り/皮/焼き霜」　○/○
「土鍋ご飯/漬物/赤だし」　◎
「ご飯のお供：ひらめと九条葱のフライ」　○
「蕎麦饅頭　豆あんかけ」　○
「季節の果物：いちご/洋梨/文旦/日向夏/キウイ/オレンジゼリー」　○
「お薄」
これに「生ビール」「九平次（燗酒）」「伯楽星」を嗜み32000円なり。

どこまでも清らかな出汁が素材本来の味を引き出します。特に顕著なのは伊勢海老しんじょうの椀でした。海老のふくよかな甘みを昆布のまろやかな出汁が引き立てますね。造りでは厚めに切ったひらめの上品な脂とブリッとした食感の妙が楽しめましたし、添えられた肝醤油や柑橘塩で味の違いを存分に楽しめます。美しい八寸や艶のある白米にも癒されるひと時でありました。ご飯の残りを塩むすびにしたお土産は翌朝までしっとりねっとりした食感と甘さで夢の続きを見させてくれる残り香の如し。

全体としてとても穏やかで物足りないかなと感じたりもしましたが、ご飯のお供である葱にヒラメを巻いたフライはしっとりして甘く絶妙な歯応えと共に満足感を植え付け、主張する一品と感じました。今回のコースの主役は”ひらめ”とも感じました。

御主人の宮坂氏は良い意味で肩の力が抜けたカジュアルなトークで和ませてくれ、ややもすると凛とせざるを得ない空間において、食事を一層美味しく頂けるひと時を演出してくれますね。無論大変おいしく頂けましたが、CPやコースの構成という面を考慮すると、個人的好みからすると絶賛するにはもうひとつかなという気もしました。まだまだ修行が足りませぬ・・・私のね（笑）
ごちそうさまでした♪

根津美術館脇の坂道沿いにあるビル地下にひっそりとその店があります。表には家紋の目印のみで地下へと続く階段を降りても鉄の扉があるだけ、しかしそこを開けると、漆喰による凛とした黒基調の雰囲気と奥行きあるカウンター8席の真新しい香りが身を包んでくれます。御主人はまだ40歳位と思しき青年、東京出身ですが京都の”未在”で10年間腕を磨かれた宮坂氏であります。汲みだしの塩香煎に続き供された当日の「お任せコース」（22000円 外税）の内容は以下の通りです。

「山菜の胡麻和え/鳥貝（銚子）のお浸し/甘鯛の酒蒸し」　〇
「お造り：真鯛（佐島）/中とろ（那智勝浦)」　◎/〇・・・鯛の歯応えが抜群。鮪は脂の切れが良く、山葵の香りも華を添える。
「お椀：蛤と帆立の潮仕立て」　〇・・・意外なほどにしっかり味。しかし出汁の丁寧なとり方は言わずもがな。
「焼物：桜鱒の木の芽焼き　丹波篠山の八種野菜添え」　◎・・・鱒はしっとりして美味しいのだが、下味が施された野菜が衝撃的な程に存在感ある代物でメインの魚に負けていない。
「箸休め：のどぐろ茶碗蒸し」　〇・・・忍んだ新牛蒡が玉子の円やかさと好相性。
「八寸：稚鮎揚げ/こはだともずく酢/飯蛸煮/烏賊の塩辛/うに/つぶ貝煮/鯛の手毬寿司」　〇
「煮物：鯛の子 筍 蕗の炊き合わせ」　◎・・・京都を感じる一品である。鯛の子にしっかり染み込んだ上品な甘さのある出汁と丁寧にえぐみを除いた筍の旨みが共存する。
「強肴：太刀魚の焼き霜造り 白魚 たいらぎ貝」　〇
「土鍋ご飯」　◎・・・滋賀産の米を自家精米し炊き上げたご飯。先ずは煮えばなが供され、艶々の色と甘さと香りを存分に楽しむ。ご飯のおかずが出てくる度にお替りをし、三杯目のふっくら蒸しあがった完成形の旨さは言葉に表し難い。同じ様な食べさせ方をする店はあったがこちらのが一番自分の舌にはフィットした。
「九条葱の赤出汁/漬物/九条葱の牛肉巻き揚げ」　〇/◎/〇・・・漬物の美しさと塩梅と素材の良さに脱帽。ポン酢と供される牛肉巻きには、そのジューシーさと爽やかさに満腹感も忘れて御飯を頬張る。
「よもぎ餅」　〇
「お薄」　〇
「日向夏のゼリー」　〇
「アイベリーのアイスクリーム 豆腐クリームのせ」　〇
これに「芋焼酎」（1000円×2）「加賀鳶 山廃純米」（1400円）「上喜元 純米吟醸」（2200円）等を2名で頂き、ひとり約3万円。尚、ワインの品揃えが懐石料理屋にしては多め（20種以上 7800円～35000円）だった事を付け加えます。

私は”未在”には訪れた事が無いので比べようがありませんが、食後感の非常に爽やかな料理群であります。とはいえ想像以上に輪郭のはっきりした味で満足度は非常に高いとも感じました。素材を考慮するとCP的には若干微妙な面はあるものの、年代ものの味わい深い器の数々や立地（最寄り駅からは少々遠いですが）を考慮すれば十分納得の範囲内でありましょう。

御主人の接客は、肩の力が抜けて自然でカジュアルな物言いで寛げる要素を持っております。そして離れ的な4人用の個室はありますが今のところ使ってないとの事で見学だけさせてくれました。もう少し調理スタッフが充実すれば開放するつもりなのでしょう。弱点は店内写真撮影禁止な事と（笑）匂い袋から来る香りが少々強かった事と、空調の問題か構造の問題か分かりませんが冷気がひんやり感じた事でしょうか。

深遠な思いを抱かせる器で頂く爽快な味わいの一軒で、近いうちに予約の取り辛い店になりそうでもあります。・・・残念（笑）
ごちそうさまでした♪