デジャヴからジャメヴへ : キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロ

初訪

トリコロール本国で、50年三ツ星のメゾン・トロワグロを新宿で味わう。

◆内観
ハイアットリージェンシーにある、当店。入り口直ぐのウェイティグスペースを通れば、ダイニングルームが広がる。
キッチンはガラス張りで、シェフたちの真摯な眼差しと技巧的な手さばきを眺められる。

フルオープンのカウンターキッチンと違い、慌ただしく動き回るシェフたちを眼前に、忙しい感覚はありません。開放感と適度なライブ感が、娯楽性を伴うメゾンの魅力。

◆料理
過日は、飲食サイトを通じて予約。シャンパン、赤白ついて17,000円（税/サ込）。以下が、コース。

はじまりの一品
アミューズブーシュ
ムール貝とズッキーニ ナージュ・フォル
カツオの軽い燻製 シチリアの香り
コションの背肉 アラシード トマトと海苔
セルからシュクルへ
小菓子
モノクロームグレー

シチリアのガス入りウォーターを追加。

◆料理仔細
・はじまりの一品
３種で一品。オーダーの順に。
大根を器に、ライムとなしのゼリーが鮮やかな一品。爽やかな柑橘の酸味と、アクセントのわさびが拡がる。

二撃目は、蕎麦の実を器に、セップ茸のソースとヘーゼルナッツの風味が豊かな一品。ガリガリとした蕎麦の実の食感と、ねっとりしたポルチーニ茸のクリーム，カリッと軽快な食感と香り高いヘーゼルナッツが調和。

三撃目は、エスカルゴをエスカルゴバターで調製し、イカ墨を和えた一口。スパイシーな風味が拡がります。
オーダーの順にコクが増しており、ウエイターには従うべきだと感じる。

・パン
パンは2種類。パンドカンパーニュと、蕎麦の実とトウモロコシでつくったパン。見た目可愛い蕎麦の実のパンはちぎると、トウモロコシの香りが鼻に抜ける。結構、唾液を奪います。

田舎風パンは、ゴツゴツした噛み応えある食感。大概の料理に適合する。塩と北海道のバターをつけても美味しい。

・アミューズブーシュ
いかとパッションフルーツ、海苔。
白色透明なイカが短冊形に切られ、パッションフルーツのジュレへ。

パッションフルーツの柑橘味が、味覚に直撃するため、そこはかとないイカの甘みの知覚が遅れる。ひとつのベクトルに突き出た味わいは、味覚の順応が必要。海苔の風味が漂う。

・ムール貝とズッキーニ ナージュ・フォル
ムール貝とズッキーニのスープ。ピスタチオがスープのアクセントに。ムール貝とブイヨンが磯の香り高い風味となり、ズッキーニは豊かな味わいをまとう。
口当たり優しく、パンやワインにも適合。

・カツオの軽い燻製 シチリアの香り
土佐の鰹を燻製にし、表面にスモークチップの香りを纏わせ、ウイキョウのソースを合わせる。松の実，ケッパー，干しぶどうで脇を固め、味覚と視覚にアクセントを与える。

純血ジャパニーズにとっては、鰹特有の赤身の香りと、ねっとりした身から溢れる程よい生臭さが、カツオに求めるエッセンスであり、ウイキョウと脇固めの香辛類が強気に過ぎた。分けて食べると味わいがわかる。

・コションの背肉 アラシード トマトと海苔
豚の背肉は、適度に脂肪を蓄えた、薄桃色の肉質が目に映えます。脂と肉の比率よく、噛めば旨味となって溢れてくる。味噌とヨーグルト，カレーのソースが適合し、添え物のトマトとホオズキの酸味が、口当たりを爽やかにする。バジルとピスタチオがアクセント。

・セルからシュクルへ
パンナコッタです。枝豆とオリーブ，塩が調和したソースがかかる。
パンナコッタの心地よい甘みと、爽やかなソースが口から喉に伝わる。メインの肉料理からの、見事な味覚のベクトルシフト。

・小菓子 ３種
チョコレートでつくったポルチーニ茸
サヴァイヨンクリームをつかった、ポテトとサツマイモのタルト
チョコレートとカシスのタルト
小菓子すべてに秋の味覚を用いる。小さなお菓子、大きなインパクト。

・モノクロームグレー
グレーなる世界。シグニチャーな一皿。見て食べて理解し感動。

◆狭量な感想
日本の味覚を用いたディッシュで、一貫しコースを構成する。日常よく目にし口にする、ズッキーニや鰹，味噌，海苔など、日々の定番なる食材を取り入れながら、フレンチのエッセンスで一皿を昇華させる。和とフレンチのフュージョン，イノベーティブの旗手がみせる世界。

ありふれた定番の、凡常な食材を用いた品々は、どこか既視感を覚えながらも、ミシェルトロワグロの手によって、これまで味わったことのない未視なる感覚に誘われる。

既視感から未視感へ。

トリコロール語では、
デジャヴとジャメヴ。
キュイジーヌ ミシェル トロワグロ である。