これやッ、このッ！　豬（ぶた）の太肉（しゝむら）　啖（くら）ひては　湯（しる）も完飮（のみほす）　末廣（すゑひろ）の席（せき） : 桂花ラーメン 新宿末広店

當家（こちら）に通（かよ）ひはじめて、四十有餘年（よそとせあまり）。
内藤新宿（ないとうしんじゆく）で晝息（ひるめし）に困窮（こま）れば『桂花』、
と云ふが、小人（それがし）が不文律（ひめたるきまり）。
今風（いまふう）に號（い）ふなら"旣定値（=Defaut value）"。

漿醤味（しやうゆあぢ）强（つよ）き太肉（しゝむら）、
甘藍（はぼたん）の芯（しん）をその儘（まゝ）用（つか）ひ、
雞蛋（とりのたまご）は固茹（かたゆで）。
ボソッと臼齒（おくば）にたち截（き）らるゝ麪條（きりむぎ）など、常態（つね）のごとし。

唯一（たゞひとつ）、
春物（はるもの）と思（おぼ）しき卷心菜（はぼたん）は、甜（あま）く、嫩（やはらか）。
霎時（しばし）、「苣（レタス）歟（か）？」、と錯覺（みまがふ）。
内裝（なかのしつらへ）のほか、變化（かはりたるところ）皆無（ひとつとしてなし）。

軍（いくさ）も、
勇猛果敢（たけだけしく）・剛力無雙（ちからのつよき）の强者（つはもの）ばかりより、
賢者（かしこきもの）・智者（ちゑあるもの）、
統率力（ひきゐるちから）を有（も）つ將（おやぶん）まで揃（そろ）ふが吉（よい）。

一人（ひとり）一人（ひとり）が弱兵（よはきものゝふ）なりとも、
否（いな）!
弱兵（よはきものゝふ）の集團（あつまり）なればこそ、
能（よ）く强兵（つよきものゝふ）打倒（うちまか）すこと珎（めづら）しからず。

湯（つゆ）の一滴（ひとしづく）も餘（あま）すことなく、
瞬（またゝ）く中（うち）にこれを完食（たひらぐ）。
超克不能（のりこえがた）くも、中毒性（のがれがたく、たちがた）き味（あぢはひ）。
「花鳥（くわてう）、花鳥（くわてう）」と譏（そし）ること勿（なか）れ！

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【照相機】：東京通信工業 索尼（Sony）α7 II 無反光鏡可換鏡頭照相機（みらーれす）
【鏡頭】　：東蔡（Carl Zeiss Jena）MC Pancolar 1.8/50 @F2.4

【2016-02-22追記】：
(^^♪内藤新宿（ないとうしんじゆく）午刻（うまのこく）、
この地（ち）で困（こま）るは晝飧（ひるのめし）。
困（こま）ると驅込（かけこ）むその先（さき）は、
熊本拉麪 （くまもとらあめん）新宿（しんじゆく）『桂花』。

と云ふ顛末（わけ）で、またまた末廣町（すゑひろちやう）『桂花』に、、。
當舖（こちら）に通（かよ）ひ初（はじ）めて以來（よりこのかた）四十年（よそとせ)。
醤油（しやうゆ）塗（まみ）れの肉叢（しゝむら）、固茹（かたゆ）で煮鶏蛋（にたまご）、
粗野（はげしくあら）き軸入（じくい）り甘藍（きやべつ）、、。

(^^♪ボソボソ千切（ちぎ）るゝ太（ふと）き麪條（そば）、
天下（よ）にも高名（なだか）き、この"マー油（ゆ）"。
正體（まことのすがた）を薀（たづ）ぬれば、
大蒜（おほひる）煎（い）りたる肥州（ひのくに、ひご）の祕膏油（ひめあぶら）。

その妖（あや）しき香氣（かをり）と旨味（うまみ）の擒（とりこ）となり、
秋毫（つゆ）脱出（ぬけいだ）す豫兆（きざし）なきは、
我（われ）ながら可驚（おどろくべき）こと。
實（げ）に、複雜（ふくざつ）にして玄妙（げんめう）。

何（なに）から何（なに）まで往古（そのかみ）の儘（まゝ）。
個々（ひとつひとつ）はおぞましきほどのものなるに、
一度（ひとたび）一（ひと）つの丼（うつは）に集合（つど）ふや、
俄頃（にはか）に、類稀（たぐひまれ）なる美味（よきあぢ）と化（な）る。

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【照相機】：東京通信工業 索尼（Sony） α7-II　無反光鏡可換鏡頭照相機（みらーれす）
【鏡頭】　：旭光學（あさひくわうがく）Super-Multi-Coated Macro Takumar 4.0/50 @F4.0

【2012-01-21追記】：
倒産（つぶ）れて以來（よりこのかた）これが初（はじめて）。
内藤新宿（ないとうしんじゆく）に來（く）る度（たび）氣（き）にかゝるものゝ、
舖（みせ）の前（まへ）に立（た）ちて呼（よ）び込（こ）む姿（すがた）も痛々（いたいた）しく、
素通（すどほ）りするが通常（つね）。

此度（こだみ）は幡ヶ谷（はたがや）での宴會（うたげ）のため内藤新宿（ないとうしんじゆく）に。
晝飧（ひるめし）を啖（くら）ひ損（そこ）ね、沈吟（しあん）せし折（をり）しも、
豫（かね）て氣（き）にかゝりし儘（まゝ）の當店（こちら）『桂花』へと向（む）かふ。
やはり、店先（みせさき）には聲（こゑ）を限（かぎ）りと叫（さけ）ぶ痛々（いたいた）しき姿（すがた）。

賈内（なか）も客（きやく）らしき人影（ひとかげ）はなく、うすら寒（さむ）き感慨（おもひ）。
劵賣機（けんばいき）なる胸糞惡（むなくそわろ）き器械（からくり）にて支拂（しはら）ひを濟（す）ませ、
閑古鳥（かんこどり）啼（な）く店内（てんない）に。
先客（せんきやく）は、奧（おく）に屯（たむろ）する纔（わづ）か一組の男女（なんによ）のみ。

霎時（しばし）待（ま）つほどに、いつもの"太肉麪（たあろおめん）"。
姿容（すがたかたち）こそ往古（そのかみ）に變（か）はらねど、心（こゝろ）なしか、侘（わび）しげ。
その丼鉢（どんぶりばち）すら何時（いつ）にも増（ま）して小（ちい）さく見（み）ゆるは謎（なぞ）。
生平（つね）になき莖若布（くきわかめ）の細（ほそ）さが憐憫（あはれ）を誘（さそ）ふ。

扨（さて）、肝腎（かんじん）の"太肉麪（たあろおめん）"。
濫（みだ）りに醤油（しやうゆ）鹹（から）き"太肉（たあろお）"、やたらボソボソの麪條（そば）、
時代錯誤（じだいさくご）も甚（はなはだ）だしき硬茹（かたゆ）で鶏卵（たまご）。
そして何とも粗野（そや）・粗雜（そざつ）極（きは）まりのなき甘藍（きやべつ）と常（つね）のごとし。

未（いま）だ凍（い）てつく冬（ふゆ）と云ふに、
想定外（おもひのほか）に柔（やは）らかく口（くち）に甜（あま）き甘藍（きやべつ）。
宛然（あたかも）走（はし）りの春甘藍（はるきやべつ）を髣髴（おもはす）。
あの極太莖若布（ごくぶとくきわかめ）なきが唯一（たゞひと）つの心殘（こゝろのこ）り。

【2009-01-16追記】：
ある日、新宿驛で乘り換へる用があり、足を延ばして末廣町に。
新宿で味よき店探すは、海に松茸（まつたけ）、山に鰹（かつを）求むるに同（おな）じ。
さらばと、常（つね）の習性（ならひ）で地下の道を辿（たど）りて新宿三丁目に。
「よくぞ掘つたり、老ひたる土龍（むぐら）」。

一目散に馳（は）せ參ぜんとするに驛（えき）の裝（よそほ）ひあらたまりて大いに面喰（くら）ふ。
遠目に見る桂花の姿（すがた）、古（いにしへ）のそれと寸毫（つゆ）異なるところなし。
勇みて扉（とびら）を開くに、迎（むか）ふるは唐土（もろこし）訛（なまり）の女（をんな）。
驚く勿（なか）れ、劵を賣る小賢（こざか）しき機械（からくり）が置かれ、値（ね）も九百五十圓に。

厨房には髮（かみ）黄金（こがね）に染め上げたる男（をのこ）麪を茹（ゆ）で器（うつは）に注（そゝ）ぐ。
ほどなくして運ばれ來たりし「太肉麪」。
その色、その姿、昔と比べ大きく異なるところなしと云へど、太肉は聊（いさゝ）か小さめ。
匙（さじ）に汁を掬（すく）ひてこれを味はひ、麪を摘（つま）みて一息（ひといき）に啜（すゝ）る。

太肉、莖若布（くきわかめ）、茹（う）で卵、甘藍（キャベツ）、麪碼（めんま）をしかと檢（あらた）む。
葱の切り方粗（あら）きが氣にかゝり、暫（しば）し、箸が止まりて、記憶の絲を手繰（たぐ）る。
その味（あぢ）、その香（かをり）、
慥（たしか）に、古（いにしへ）の「太肉麪」と瓜（うり）が二つの生き冩し。

芯の儘（まゝ）でゴリゴリ硬き甘藍（キャベツ）、粉ッぽくボソボソした硬き麪、醤油の味強き太肉。
加旃（しかのみならず）、色惡（あ）しき堅茹（かたう）で卵に太き若布（わかめ）の莖（くき）。
一つ一つは嫌がらせに等しき貨物（しろもの）にて、およそ僕（やつかれ）の口にすべきものとも思はれず。
元來（もとより）、古（いにしへ）の東都醤油拉麪を好む舌なればなほさら。

兵（つはもの）ども、時に魚鱗（ぎょりん）、あるいは鶴翼（かくよく）となりて舌を攻む。
雑兵（ざうひやう）力を合はせ、能（よ）く敵の大将が首を掻（か）くの前例（ためし）あり。
宛然（あたかも）、蜜蜂の雲霞（くもかすみ）のごとく集まりて雀蜂（すゞめばち）蒸し殺すに似たり。
その味佳（あぢよ）きこと、三十年（みそとせ）越えてもなほ及ぶものは稀有（まれ）。

【2005-12-13記】：
舊（ふる）くは内藤新宿と呼ばれた宿場町。舊宿場町には猥雜な匂ひが漂ふ。本日久々に花園神社からゴールデン街を彷徨（さまよ）ふ。と、云つても未だ晝。駄目元で噂の上海小吃を覗くも準備中。いやはや、この路地の猥雜さたるや聞きしに勝る凄まじさ。此處に比べたら「しよん○×橫丁」なんぞ先斗町に等しい。

諦（あきら）めて第二の目標桂花に向かふ。三十年來の贔屓ながらラヲタ情報に據ると味落ち著しいとか。例に據（よ）つて、「太肉麺」\900。豚骨スープに丸い斷面形状のストレート麺。上に「マー油」と稱する大蒜を煎り抽出した油が浮く。具は、太肉（豚の角煮）、煮玉子、莖若布、キャベツ、メンマ。

麺は太くボソボソした食感。太肉と煮玉子は甘さが殆（ほとん）どなく醤油の味が強く感じられ滅法鹹（から）い。煮玉子は最近流行の半熟玉子ではなく昔ながらの固茹で。キヤベツは芯も取らずに粗く切られてをり頗（すこぶ）る粗野。分析的に個々の要素を採點しそれを合計したら大變低い點になるほかない。

だが、麺を博多拉麺の如き細麺や東京風細縮れ麺に變へたらスープに負けて仕舞ふ。麺屋武藏の如き彈力ある麺も合はない。太肉が九州じゃんがらラーメンの如く甘かつたどうか？。スープも麺も全てが臺無し。粗野なキヤベツ無くば如何？。スープも醤油鹹（から）い太肉も煮玉子もクドく感じられるに違ひない。

單獨では何と云ふことのない莖若布もキヤベツ共々太肉と煮玉子と云ふ主役があつて初めて光り輝く。だが、眞の主役は「マー油」と稱する大蒜抽出油やも知れぬ。實は三十年前、大門八郞と云ふ方の「ラーメンの本」でこの店を知つた。初めて食べた時の感想は「不味い」。構成要素の何處を取つても自分の好みに合はない。

「三度は食べて」と云ふ言葉に騙されて三度通つたらみごとに嵌（はま）つて仕舞つた。自分自身永らく理由が判らなかつたものゝ、ある時、大蒜抽出油に中毒性があることに氣が付いた。現在東京に「マー油」を謳ふ拉麺店少なからず。だが「桂花教原理主義」の立場から云ふと、それらは出來損なひの亞流に過ぎぬ。

氣になつたのは客あしらひ。一寸前迄は亞細亞系外國人が目立つたのに今日は全員日本人。客席には有名な店長初め、厨房や帳場にも經驗を積んだ日本人男性が立つてゐる。内裝は多分三十年殆ど變はつてゐない。最早完成された古典と呼ばずして何と呼ばう。巷のラヲタどもが何と云はうと斷乎支持し續けたい。