両国の華　力士、花火と　江戸政の生　再訪 : 江戸政

夕方17時前、すでに行列は10名以上。その昔はこんな行列は見かけない。しかし、他のどんな焼鳥の名店にもない華のある店。いわば焼鳥界の伊藤若冲。意表を突く、大向こうをうならせる一品の数々。これぞまさに江戸の華、両国の華。

最初に飲み物の確認。そして串は時間を要するとの説明。我々は最初ビールで次に日本酒（燗酒）。まずはたたき。焼きか生かを聞かれる。もちろん生。これが江戸政名物。他の焼鳥店では絶対に味わえない粋でいなせな庶民の三ツ星愛。

続いてハートスタミナ、焼鳥（ネギ間）、ピーマン（焼たたき）が登場。この後、レバーで一応おまかせの終了。しかし、ハートスタミナ！なんというゴージャスな味か。鳥しきの主人に食べさせたい。そして印象を聞いてみたい。こういう串もあるのだと、そう言いたい。

しかし、ここから。別のメニューのふじと皮があるのだ。（追加）。これがさらに圧巻。なんとも言えぬふじ（ハツもと）の脂乗り。そして、いよいよ皮。誰もがこれが皮とは信じまい。まるで、まるでドイツの白いソーセージ。あのヴァイスヴルストを思い出す。いや、その肥満児だ。

旨い！まるで絶品のバターのように口の中で溶ける。美女の熱い口づけのように脳裏を激する。男の誇り、理性など瞬時に消し飛ぶ。しかし、こんな禁断の串。毎日食べると麻○のように体を蝕むかもしれない。美味しすぎて危険だ。

ちなみに今宵一緒したのは某有名焼鳥店の店主。彼はあまりの衝撃に（飲みすぎて）帰宅まで電車を乗り越す。ついには未知の焼鳥との遭遇に。当日は夢の中で官能と挑戦を繰り返したようだ。昔の江戸政はこれになんと鰻の頭巻まであった。すごい店だ。

ああ、焼鳥。されど、されど焼鳥。実に奥が深い。彼との行脚も続く…

●たたき（生）、ハートスタミナ、焼鳥、レバー、ふじ、皮
○日本酒　白鶴

2015.6再訪

両国橋を初夏の風が吹き抜ける。そのたもとには香ばしい焼鳥の匂いが。実に情緒のある焼鳥店だ。ときには相撲の力士たちと一緒に狭い店中で焼鳥を楽しむ。彼らの豪快な食べっぷりに感嘆することも多かった！

以下、詳しく

この地で長く親しまれてきた江戸政。創業は1924年という老舗。立ち食いながら以前生つくねで一世を風靡したものだ。土地柄相撲力士でにぎわうこともあり、狭い店内で往生したことも。店内には力士たちの手形が壁に貼られている。それから大相撲にかかわる貴重な写真なども。

相撲と言えば国技館地下で作られる焼鳥が有名。相撲見物ではなくてはならない名物だ。しかしあちらがタレの強いタイプなら江戸政は風味主体。それに材料も脂が十分乗って美味しい。間違いなく江戸政のほうが美味しいと思える。

ただ今はセットのみになってしまった。私が通い始めた90年代は先代と女将がそれこそフル回転で大量に仕込みをしていた。近所の飲み屋がたくさんテイクアウトする店でもあったのだ。江戸政の焼鳥を大量に買って、客に提供する飲み屋が多かったのだ。

現在は代替わりし2代目が跡を継いでいる。往時ほどの繁盛店ではなくなったようだが。焼鳥ファンにはぜひ訪問して欲しい店だ。　八丁堀のさくら家、京橋の伊勢ひろなどとともに庶民派焼鳥店の代表格だから。今発行中のDANCHUにはぜひ採りあげてほしかった。

久しぶりの生たたきは山葵で食べるがねっとりとしてなかなかの美味。生レバーが消えていく世の中でこれだけは残ってほしい。どの串も錦糸町や目黒の有名店とか異なるが。庶民の焼鳥として愛着を覚える。

焼鳥ファンにはぜひ1度は訪問して欲しい店だ。

●セット
生たたき
レバー
ピーマン肉詰め
焼鳥（ねぎま）
ハートスタミナ

＊今回の写真は最初の8枚


2007.12.29
この店は焼鳥好きにとってワンダーランドとも言うべき実に面白味、味わいのある店です。何と言っても、立ち飲み、焼き場を囲む小さなカウンター、そして目の前の鳥を焼く煙、忙しく立ち働く母子、店の客以上に忙しい持ち帰りの応対、変ったメニュー等々何だか焼鳥屋の原風景を見ているような印象を受けるのです。

焼鳥自体が飛びぬけて美味しい訳ではありません。味は満足以上という程度でしょうか。しかし、つくねをタタキ状態の生をわさび醤油で食べる時の口の中のトロける食感、鳥肉の旨味がジワーっと広がり1日の疲れなどいっぺんに吹き飛びます。

以前はこれにウナギのかぶと焼きなどを食べ、一杯ごとにキャッシュで買うお酒を飲んでいると、ああ庶民の食生活の醍醐味ここにあり、を感じました。よく相撲の関取や若い衆がこの店でしこたま食べておりました。

店の壁にはそうした懐かしい写真が飾られています。すぐそこの両国橋を越えれば蔵前も目前です。

残念ながらご主人は他界されて現在はご子息が頑張っていますがうなぎは作っていないそうです。

この店は店の構えや周りの風景など下町の情調が溢れていますが、いくら焼鳥好きと言ってもまず女性が一人で訪れるのは相当に勇気が要る店でした。女将さんに聞くと今では若い女性のグループも多いそうです。オヤジの聖地もこうして失われて行きます。

店に入り、混雑している客の間に上手く割り込み、手際よく飲み物、焼鳥を注文し適度にオーダーストップする。しばらくすると客が30分程度ですこしずつ回転しているのが良くわかります。焼鳥1本170円ですから飲み物込みで一人2000円程度とCPは極めてよい店です。

焼鳥屋のランキングなど全く関係ありません。この店のこの持ち味が好きでたまらない贔屓の客(いやマニアか)によって熱烈に支えられ、超然と存在しているのです。冷静に判断すれば星の数は人により全く異なると思いますが、マニアにとっては心の中では何時も★★★★★の店です。