夜限定の肉定食 : 十八番

何となく食の神様のご機嫌がよろしくなかった一週間だった。
そんな中でもちょこちょこ、こじっかりしたアタリや盤石な店（レビューを書いていないものもある）を拾いもしたけれど、平均が低調というか、地合いが悪いというか。
そういう時は変に勝負せず、ホームで手堅く終えようと訪れた。丁度、なぜか妙に肉を食べたい腹の具合だったこともある。

行ってみると、こんなに人が入っている〈十八番〉さんはずいぶん久しぶりじゃないかってくらい、席が埋まっている。ほとんどが酔客。席片づけるんでどうぞ、と案内される。
昨年夏、50円ばかりの値上げをしてから、ディナー限定の定食が出来た。どれも1,300円。ほとんど試したのだが、この日の目当ては「肉定食」と勝手に呼んでいる〈焼肉とから揚げの定食〉。
この店は豚肉を使った炒め物がとにかくイイ。豚の絶妙な味と火の入れ方が好きで通っている。中でも〈青椒肉絲〉と、この定食にもパーツとして出て来る〈焼肉〉なる豚バラとタマネギの甘辛い炒めはツートップ。〈から揚げ〉は普通だが、腹にためたい時のオマケ/賑やかしと考えれば問題ない。
脇を固める辛モヤシ、ザーサイ、中華スープまで、どれも雑にウマい。繊細さ皆無で、わかりやすくて、食べた満足感を味わえる。

しかし。
この3年間で、すっかり煙草の煙に敏感になってしまった。昔は付き合いで、居酒屋へ飲みに行き、同席した会社の先輩なんかが目の前で吸っていても何ら気になることはなかったのだが、そうした付き合いの飲み会が途絶えて久しく、煙草の煙を感じること自体が減ったせいか。
この店は分煙がなされていないので、愛煙家が好んで来られるようだ。ちょっと、飲み会で使う人が少なそうな週の前半に使う時を絞ろうか。

野菜名＋ソバという、和式中華にしかないメニューについて考えること多少。
モヤシソバとか、ネギソバとか、ニラソバとか。

派手にお金を使った休暇が終わり、日常に戻る。が、昼の食事がイマイチ盛り上がらなかったので、何かで挽回しなければ一日を終われない。
しかし、派手にお金を使った手前、ちょっと単価も抑えたい。
ということで、私の「ホーム」こと〈十八番〉。唐突にここの〈ニラソバ〉が食べたくなったのだ。
ラーメンが2食続くという褒められた食生活ではないが、やむを得ない。

〈十八番〉の〈ニラソバ〉は、豚肉入りのニラ玉の餡を醤油ベースの中華そばに乗せるだけ。だけって言っていいのかな。
あんまりヨソで見たこと無いが、この味の塩梅が中々乙。町場の中華屋なので雑な味だが、ニラのパンチと卵のやさしさ、そして地味に豚肉がいい味を演出。中華そばと食べてよし、無料でつく半ライスのオカズにしてもよしの無二のメニュー。
思えば町場の中華屋で、この手の野菜の名前を冠した中華そばって、何故かうまい。クセになる。かつて故郷の町にあった某中華屋の、一番の名物は炒飯だったが、実は〈モヤシソバ〉が秀逸だと密かに思っていた。
気が向いたら町場の中華屋でこの手の「ソバ」を探究してみるか。

しかも900円。こういう昔ながらの中華屋は、節約したい時の強い味方。顔なじみになってるおっちゃんたちが元気に忙しく立ち回っているのを見ると、何かほっともする。「ホーム」の店って、こういうものなんだろう。

連休からの復帰初日。平日の夕食。
19:30過ぎに入るといつもどおりすっと入れる。コロナ以前は、ここで近所のサラリーマンが大勢で飲み会していて入れなかったことがあったが、今は、入れないということはない。
また、コロナが流行る前は毎週行っていたのだが、今年は緊急事態宣言が長引いたせいで、20時前に訪れることが難しかったから、1月に行ってから10月までとんとご無沙汰。解禁後は、何だかんだ、使っている。

飛び抜けておいしい中華屋かというと、そんなことはない。だが、炒め物を中心とした「おかず」を中核に据えた定食はどれも安定感が抜群。特に豚肉の炒めが入るものは、青椒肉絲・回鍋肉・野菜炒め・豚のしょうが焼きのどれも豚の脂の旨みと中華らしい濃い口の味で、どれもおいしい。
この日は豚肉のしょうが焼きとしそ餃子。1,400円でボリュームたっぷりに行ける。定食にしたときのザーサイや、もやしの豆板醤（じゃないかも）和えが堂々と腋で主役を支える構図は定食総てに共通。また、豚のしょうが焼きはそこはかとなくショウガ風味が乗るが、どっちかって言うと「スタミナ焼き」的な甘辛い味付けがご飯の頼もしすぎるオカズ。休みなく毎日稼働しているせいか、味にブレも少ない。
また、時々頼むのが麺類。ことに「十八番流油そば」ってな具合の「釜玉ラーメン」は、専門店顔負け。本当の一流どころにはかなわないけど、変哲もない町の中華屋が出すものとしては堂々の出来。ほかにもオツマミ「ネギチャーシュー」やら、ラーメンとのセットメニューしかない「カルビ丼」やら、この店にしかない不思議なスペシャルがあるのも、何か使い続けてしまう理由の一つ。一番大きいのは帰り道の途上で寄りやすいからだけど。

こうして「ホーム」に戻ると、連休中の美食続きでふわふわしたのがぱっつり切れて、リブートできるというもの。さ、気持ちを切り替えて年末まで走ろうか、と、思う。

3回ほどお邪魔。

飛び抜けた絶品があるというより、いわゆる中華屋に期待するものが全部あって、どれも期待以上においしい、そんな店。
個人的な好みで言えば、豚肉の炒め物の類が特においしい。青椒肉絲と、カルビ丼の具の焼肉はどっちもすごくおいしかった。
新日本橋からも神田からも少し遠いので、そういう意味で便利な店ではない。だがそれが、生活圏にこの店がある人たち（自分含む）にとっては、使い出があってよいのだと思う。そういう意味でも、町中華の鑑。

今のところに住んでいる間は、多分これからも使い続けると思う。