京橋の老舗フレンチ : シェ・イノ

京橋に開業して34年。もはや押しも押されぬ日本フレンチの老舗。オーナーが今のシェフに総料理長を任せてからでも既に12年が経過している。そして今でも変わらず、オーナーは客のテーブルで昼夜問わず1日中飲んでいる。それでもソムリエ兼支配人の対応とスタッフ教育はずば抜けて素晴らしく、居心地の良さは他の追随を許さない。

この店に入社して32年となる今のシェフの料理は、フランス修業でトロワグロ直伝のオーナーの技を完璧に踏襲している。食材へのこだわりと丁寧な下ごしらえ、クラシカルなソースの組合せには、もはや安心感さえ漂っている。今回のコルドンブルーも丁度良い薄さにスライスされた仔牛が行儀良くミルフィーユにされ、カリっとした火入れの衣と共にマデラソースに美しく絡んでくる。

シャンパーニュに合わせるアミューズは和歌山県産の鮎。仄かな苦みが素晴らしく真夏のシャンパーニュに合っている。タルタルとクレソンもクラシカル。オードブルはロワール産のホワイトアスパラガス。しゃきしゃきの食感が美味しい。上には手長海老の白い身が横たわっている。軽い火入れにより絶妙な甘さ。ヴィアンドの後のワゴンのデセールもこの店のスペシャリテ。

乾杯の泡は掘り出し物のシャンパーニュ。ほとんどヴュニュロンのような、あまり知られていない造り手。この店のワインセラーには、1万本以上の在庫があると言われるのも分かる気がするセレクション。白も今は亡きレジミネのプイィヒュメ、ヴィエーヌヴィーニュ。低目の温度で真夏仕様が嬉しい。仔牛のマデラソースにはモレサンドニのクロソロン。嬉し過ぎるマリアージュ。

場所は東京メトロ銀座線の京橋駅。最近新しいオフィスビルが次々に竣工した再開発エリアの元祖再開発ビルとも言える駅上の建物。京橋駅5番出口を鍛冶橋通りに出て、丸の内に向かう目の前の右にあるビル1階。JR京葉線の外堀通りと鍛冶橋通りが交差する八重洲側丸の内交差点を出ても、徒歩3分の至近。パリのレストランにありそうなエントランスの半円形ガラス庇が美しいファサードを造る。

クラシックかつ重厚なインテリアにしっかりしたサービス。特にソムリエ兼支配人は完璧。そして30年以上守り続けるクラシカルな味わい。料理にぴたりと合わせられる底知れない数のワインの在庫。全てが銀座のグランメゾンにひけを取らない、今や日本を代表する老舗フレンチ。毎日客のテーブルで飲んでいる72歳のオーナーには、日本の食文化のために長い間ご苦労様と言わせて貰いたい。

Menu Dejeuner　5840円
アミューズ　和歌山県産鮎のフリット
　タルタル仕立て　クレソンのソース
オードブル　ロワール産ホワイトアスパラガス
　手長海老のポワレ　ブルーテソース
ヴィアンド　仔牛のコルドンブルー
　野菜とフォンドヴォーのマデラソース
　ベイクドポテト添え
デセール　デザートワゴン
　フリュイ　ショコラタルト
　カスタードプディング

NM CHAMPAGNE BRUT
　Charles de Cazanove
　1840円/130mlグラス
2016 Pouilly Fume V.V.
　DOMAINE REGIS MINET
　1300円/120mlグラス
2014 MOREY-SAINT-DENE
　"CLOS SOLON"
　DOMAINE CHRISTOPHE BRYCZEK
　1410円/120mlグラス

別途サービス料13％

今更何も説明はいらない。そう言うフレンチの老舗の典型と言える。この店のシェフの料理が日本のオーセンティックでオーソドックスなフレンチそのものと言ってもおかしくはない。新しいもの、革新的な料理を良しとする最近の風潮に流される気配は毛頭ない。牛頬肉の赤ワイン煮のような料理に、この店の本質を感じる。最高の素材の選択、こうあるべきと言う調理、料理を支える素晴らしいサービス陣、そして何より料理とワインの組み合わせ。何度訪れても飽きの来ない深みを感じる本物のフレンチ。


場所は京橋の東京駅寄り、最高の立地。東京駅からは、丸ノ内側、八重洲側の南口から馬場先通りを鍛治橋交差点を背に宝町に向かってすぐの左側。東京メトロ京橋駅を出て目の前。明治製菓ビルの1階。

エントランスはガラスと青銅調の円形庇がひと際目を引く、美しいヨーロピアン。

重厚なドアを開けると、エントランスは細長いホールと受け付けカウンター。その奥を左に曲がるとダイニングスペース。天井の高さがゴージャス感を醸成する。ゆったりとした丸テーブルの配置はグランメゾン。インテリアは濃茶の塗装の大きな柱型が目立つ。木目がタモや楡を思わせる和風テイスト。ヨーロピアンな空間と和の素材の組み合わせは、パリのグランメゾンにはない、日本独特の仕様。


料理はザ・フレンチと言うオーソドックスなもの。テリーヌやカダイフを使った料理はこれぞフレンチと言う典型。たっぷりソースに浮くポアソン、赤ワインソースの牛頬煮。しかし、味わいは最近の流れに抗わない、塩を感じないあっさりした嬉しい料理。素材の味わいを柔らかく包み込むテリーヌは完璧な仕上がりで、フレンチの教科書のよう。

手長海老の濃厚な香りがセップ茸と混じり合い、カダイフで巻かれて揚げられている。軽快なソースとの組み合わせは、まさにエレガント。ふわふわの手長海老とカリカリのカダイフの食感のハーモニーに感動する。５年前にフランス農業大臣表彰を受け、日本では現代の名工になったシェフ。７０歳を前にして、円熟を極めている。


ワインも文句がない。シャンパーニュもブルゴーニュも、最もコストパフォーマンス、質の絶対値とも良いものが揃う。グラスワインも、選んだ皿に合わせて全て準備されている。手の届きやすい価格帯で、コストパフォーマンスも良く、日本では希少な造り手を探しているのが嬉しい。シェフソムリエ兼支配人は、有名な前支配人の薫陶を１５年間に渡り受け続け、今年から見事に歴史を引き継いだ。


前支配人より腰の低い、いかにも日本的サービスが素晴らしい支配人。その姿勢はスタッフ全員に徹底され、気持ち良く酔うことができる。まさに総合力によるアンビエントに囲まれ、テーブルに注がれるタスクのような料理とワイン。そして最高のサービス。日本の誇るフレンチと言って間違いない。


≪今回の料理≫

ランチコース　Menu B　4830円　別途サービス料10%


アミューズ　セップ茸とジロール茸のテリーヌ、マッシュルームのソース

オードブル　手長海老のカダイフ揚げ　セップ茸とアボガドサラダ仕立て

ポアソン　ホウボウのソテー（or　ヴィアンド　牛ほほ肉の赤ワイン煮）

パン

デセール　オペラ　プリン　フルーツタルト　モンブラン　オレンジのムース

カフェ　ハーブティー　カモミールとレモングラスブレンド


ミネラルウォーター　エヴィアン　840円/1本


≪今回のワイン≫

NV CHAMPAGNE BRUT Charles de Cazanove　1780円/120mlグラス

2008 BOURGOGNE HAUTES-COTES-DE-BEAUNE "EN BOIS GUILLEMAIN”Jean Chartron　1260円/120mlグラス

2009 MARSANNAY Domaine CHANSON　1360円/120mlグラス