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京味の真髄と井上氏の実直、そして西翁への敬仰
京味の継受と井上氏の真摯、そして西翁への敬服
水曜日の夜です。
西新橋です。
今夜は凡そ三ヶ月ぶりのこちら、【味享】さんにお伺いしました。二回転目の八時半スタートですが、ご一緒するのはポテトサラダとお酒が有ればニコニコのニャンコ娘さん。
永らく福岡に住んでいらしたので、久留米出身の井上親方とも気が合うはず、ちゅうか、二人が地元の言葉で話し始めると、ラッコも思わず目点。
聞き取れない・・・
意味が分からん・・・\(//∇//)\
それはともかく、本題です。
睦月なので、お正月の名残りのお皿が並びました。残念ながら虎河豚は供されませんでしたが、そこは伊勢海老に蛤真薯、明石の真鯛に真鴨の治部煮、オスメスの蟹の饗宴。
更に芽が出るように、との願いを込めて、芽蕪に芽甘草と、井上氏からいただく京味の優しさに、身も心もホッコリと和みます。
西 健一郎氏の薫陶を実直なまでに継受する井上氏。その真摯さに惚れたラッコはしばらく通わせていただきます。
ひとつひとつのコメントは写真欄に記載しておりますので、画像と一緒にお楽しみいただければ幸いです。
そしてご馳走さまでした。
<コース内容>
昨年の同じ時期にもお伺いしましたが、伊勢海老や蟹の異なる仕立てに感涙したラッコ。無限の引き出しをお持ちなのかもしれません。
派手な輸入食材や超高級食材こそ有りませんが、むしろそれが西翁の教え。
家庭にある食材を余すところなく精魂込めて仕込む。そんな京味の本質を忠実に引き継がれているお店が少なくなりました。
こちらはその数少ない一軒かと思います。
⚫︎お雑煮:
・白味噌
・金時人参
・雑煮大根
⚫︎鏡餅:
・数の子
・菜の花
・蒸し鮑
・田作
・黒豆
・唐墨
⚫︎根芋:
・葛餡
⚫︎蟹:
・ズワイ蟹:越前
・香箱蟹:北海道
・千枚漬け
⚫︎揚物:
・小柱
・芹
⚫︎お造り:
・真鯛:お腹、明石
・芽甘草
・薬味:自家製ポン酢、富士泉醤油
⚫︎椀物:
・蛤真薯
・芽蕪
⚫︎焼物:
・伊勢海老柚庵焼き
・聖護院蕪:おろし、温仕立て
・千社唐
⚫︎炊き合わせ:
・真鴨:治部煮
・淀大根
・京菊菜
⚫︎デザート:
・水羊羹
・岩梨:梅酒漬け
<お酒>
・生ビール
・天領:飛び切り、特別純米、下呂
・獺祭:純米大吟醸、槽場汲み、無濾過、岩国
・義侠:純米原酒、滓がらみ、愛西
京味の承継と井上氏の力業、そして西翁への尊信
土曜日の夜です。
西新橋です。
今夜はおよそ二ヶ月振りの味享さん。
ラッコと変わらぬ強靭な胃をお持ちの元峰 不二子女史とお伺いしました。
狙いは勿論、松茸フライ。
京味伝統のイカリソースとの組み合わせがラッコの大好物。
六時ちょいと前にお店の前で待ち合わせ入店。
アンリオのハーフボトルをチビチビと舐めていると、程なく三組六名のメンバーがお揃いになり、穴子の飯蒸しで今宵の宴がスタート。
さてさてそれでは本題です。
今宵のコース内容は以下の通り。
ひとつひとつのコメントは写真欄に記載しておりますので、画像と一緒にお楽しみいただければ幸いです。
そしてご馳走さまでした。
<まとめ>
岩手産の松茸が加わり、泡もいただいたせいで諭吉七名が必要となりましたが、それでもコスパは十二分。
エッジを効かせた輪郭ですが、その先端はスフマートのように繊細。
丸みを帯びた塩味がことの他口に合います。
次回は虎河豚尽くしとズワイを狙って年明けかな?
でも予約できるか、それが問題、アハッ\(//∇//)\
<コース内容>
⚫︎前菜:
・穴子の飯蒸し
⚫︎お凌ぎ:
・カマス
・ばちこ
・銀杏
・お浸し:ほうれん草の茎
・笹カレイ:一夜干し
⚫︎焼き物:
・松茸:岩手
・酢橘
⚫︎蒸し物:
・甘鯛:一汐
・栗:餡掛け
⚫︎酢の物:
・ムラサキウニ
・百合根ペースト
・土佐酢ジュレ:真鯛の中骨出汁
⚫︎揚げ物:
・松茸:岩手
・イカリソース
⚫︎お造り:
・虎河豚:明石
・縞海老:噴火湾
⚫︎お椀:
・渡り蟹:真薯
・食用菊
⚫︎焼き物:
・九絵:味噌漬け
・おかひじき?の胡麻和え
⚫︎炊き合わせ:
・鰊
・茄子
⚫︎ご飯もの:
・一膳目:牛肉の時雨煮
・二膳目:イクラご飯、焼きハラス
・赤出汁
・香の物
⚫︎デザート:
・水羊羹
・岩梨
<お酒>
・Champagne:Herriot, Blanc de Blanc, Cha100%,
Half Bottle
・天領:飛切り、特別純米、岐阜
・天領:天禄拝領、大吟醸、岐阜
・尾瀬の雪どけ:純米大吟醸、群馬
・早瀬浦:夜長月、特別純米、福井
京味の遺風と井上氏の粉骨、そして西翁への丹心
土曜日の夜です。
西新橋です。
今夜は凡そ四ヶ月ぶりのこちら、味享さんにお伺いしました。和食にお詳しいフォロワーさまのお席に、幸運にも同席することが叶い、一も二もなく駆けつけます。
夜の八時半の部ということで、折敷は五組。二回転目なので、前半より二、三席ほど絞られているようです。
ちょうど一年前の八月にもお伺いしており、その際のメニューを事前に頭に叩き込むラッコ。どんな変化があるのかな?
まさかまさかのおんなじ仕立てだったりして、アハッ、なんてドキドキワクワクしながら勝手な妄想が止まりません。
さてさてそれでは本題です。
いただいたコース内容は以下の通り。
ひとつひとつのコメントは写真欄に記載しておりますので、画像と一緒にお楽しみいただければ幸いです。
そしてご馳走さまでした。
<まとめ>
『お前はもう、いっちゃってる!』
とケンシロウが言ったか言わないか知らないけれど、先付けのウニとオクラの冷製グルグルに瞬殺されたラッコ。
この最初のひと口で、お世辞にもゆとりのある造りとは言えないカウンターに座れた喜びと、我が身の幸せを感じとります。
何かが違う!
駄文では語り尽くせないけれど、敢えて書き記せば、無駄な足し算が無いと言うか、素材の地味と滋味の掛け算の答え、とでも表現するべきか・・・
西翁の遺訓への忠節とその師への丹心を胸に、訥々と素材と向き合う井上氏。
まだまだ暫くは通い続けたいお店です。
<コース内容>
⚫︎先付け:
・ウニとタタキオクラの冷製
⚫︎お凌ぎ:
・白瓜の雷干し:胡麻和え
・甘酢鮨:茗荷、甘鯛
・鱧:付け焼き
・茄子の葛切り巻き:田楽味噌
撮影漏れ:京味では葛ではなく河豚皮で巻いたとか
⚫︎お椀:
・鱧:梅肉
⚫︎酢の物:
・毛蟹
・芋茎
・土佐酢:一番出しジュレ
⚫︎揚げ物:
・黒鮑:葛粉揚げ
・玉蜀黍:葛粉揚げ
⚫︎お造り:
・ツブ貝:北海道
・真鯛
⚫︎お椀:
・スッポン豆腐
・出汁:スッポンのみ
⚫︎焼き物:
・鮎一夜干し:郡上八幡
・緑酢
⚫︎炊き合わせ:
・鱧子:卵とじ
・くだ牛蒡:焼き穴子
・石川芋
⚫︎ご飯もの:
・一膳目:牛肉の時雨煮
・二膳目:鮭
・お味噌汁
・香の物
⚫︎デザート:
・水羊羹
・岩梨
<お酒>
・酢橘サワー:麦
・りんごさん:賀茂金秀、広島
・天領:天禄拝領、大吟醸、岐阜
日本酒は二合
京味の核心と井上氏の篤実、そして西翁への心酔
木曜日の夜です。
西新橋です。
今夜は春の食彩を求めてこちら、味享さんにお伺いしました。一月以来なので、凡そ三ヶ月振りとなります。
予約は二回転目の八時半。
前半のお客様たちがネバらずにお帰りになったので、十分前にご案内。お店の前で待ち合わせていた食べ友と二人でカウンターの真ん中にご案内。
程なく二人連れが二組いらっしゃり、六名で今宵の宴のスタート。
さてさてそれでは本題です。
いただいたコース内容は以下の通り。
ひとつひとつのコメントは写真欄に記載しておりますので、画像と一緒にお楽しみいただければ幸いです。
そしてご馳走さまでした。
<まとめ>
京味ご出身の料理人さんのお店は数多あれど、ラッコの口に最も合うのがこちらの味享さん。
出過ぎず、奥ゆかしく落ち着いた井上氏の所作にも好感が持てるし、何より手間暇を惜しまない丁寧な仕込みに、西翁への忠信を強く感じとります。
今夜の出色は、長岡産の筍の蒸し焼き。木の芽味噌も抜群にうんまい。
白魚と芹の天ぷらも春のお約束。
金目鯛の焼き物に至っては、先日お伺いされた焼津の名店からインスパイアされたのか?
皮目を熱した胡麻油で松笠風に仕上げるのは一緒だけど、でも、何かが違う・・・?
問うと、ニヤッと粋な笑顔。
ひと口、アムっ。
分かった。味噌漬けだ!
月末に焼津のそのお店に伺いますので、違いを確かめ直してみよ、アハッ\(//∇//)\
<コース内容>
●先付け:
・桜鱒と花山椒
・空豆:蜜煮
・蛍烏賊
●煮物碗:
・芋茎:葛煮
・おろし生姜
●焼物:
・筍:蒸し焼き、長岡産
・木の芽味噌
●酢の物:
・赤貝
・ウルイ
・土佐酢:煮凝り
●揚物:
・白魚:天ぷら
・芹:天ぷら
●お造り:
・虎河豚:皮巻き
・真鯛:明石
●椀物:
・アイナメ
・菜の花
・木の芽
●焼物:
・金目鯛:銚子、味噌漬け
・皮目:胡麻油揚げ
●炊き合わせ:
・揚げ蕨
・湯葉
●ご飯:
・一膳目:筍
・二膳目:漬けマグロ
・牛肉の時雨煮
・香の物
●デザート:
・わらび餅
<お酒>
・生ビール
・天領:飛び切り、岐阜
・森嶋:純米吟醸、茨城
日本酒は二合
京味の威風と井上氏の揺るがぬ赤心、そして西翁への恭敬
土曜日の夜です。
西新橋です。
諸般の事情で随分と間が空いてしまいました。
待ち焦がれて待ち焦がれて、ようやく五か月ぶりのお伺い。
こちらへの訪問を熱望されていたフォロワー様と二人でカウンターの端に座ります。
睦月に訪問するのは実は三回目。
前回の献立を復習し、どんなんかなぁ~?
松も明けて久しいし、来週は早くも如月だし、松葉ガニはまだ有るかなぁ、なんてドキをムネムネ、あいやっ、胸をドキドキさせながら火の前をガン見していると、やはり最初のお料理は白味噌仕立てのお雑煮。
さてさて、それでは本題です。
ひとつひとつのコメントは写真欄に記載しておりますので、画像と一緒にお楽しみいただければ幸いです。
そしてご馳走様でした。
<まとめ>
実はちょっとだけ苦手な白味噌。甘すぎて口に合わないお店の多い中、井上氏の手と舌によるお碗はホントに口に合う。
それに加え、睦月らしく伊勢海老の具足煮で新年を祝し、お約束の津居山の松葉も湯葉包み仕立てで登場。
間人でもなく香住でも柴山でもなく、京味の松葉といえば津居山。
それも千鳥丸の山本氏の底引き/浜茹でが西翁のご指定。その西翁が鬼籍に入られ、今も当時の伝手が生きているのか分かりませんが、西翁を敬慕する赤心厚い井上氏のこと、変わらずお付き合いされていることと推察いたします。
<コース内容>
●汁:
・白味噌:東山の山利
・海老芋、人参、お餅
●先付:
・唐墨
・菜の花のお浸し
・蒸し鮑
・数の子
・田作り
・黒豆
●お凌ぎ:
・松葉蟹:津居山
・湯葉包み
・鼈甲餡仕立て
●箸休め:
・千社唐:お浸し
・虎河豚:湯引き
●揚物:
・小柱:葛粉揚げ
・芹:天ぷら
●向付:
・真鯛:明石
・縞鯵:真鯛
・芽甘草
●椀物:
・蛤真薯
・聖護院大根
・金時人参
・京菜
●焼物:
・伊勢海老:具足焼き
・味噌乗せ
●煮物:
・真鴨:治部煮
・聖護院大根
●ご飯:
・牛肉の時雨煮
・鮪丼:血合い岸、中落ち
・赤出汁
・香の物:千枚漬け他
●デザート:
・わらび餅
<お酒>
・生ビール
・天領 飛切り:特別純米、下呂
・天美:純米大吟醸、下関
日本酒は二合
京味の系譜と井上氏の静かな熱誠、そして西翁への陶酔
金曜日の夜です。
今夜はおよそ三か月ぶりのこちら、”味享”さん。
気の合う方との二人でお伺いしました。
ラッコと同じくらい呑み食いできる食べ友との食事は最高の贅沢。これがお茶漬けでもラーメンでも、きっと変わらず『グフグフッ、アイヤァ』なんて笑いあってるに違いありません。
それでは本題です。
コース内容は以下の通り。
ひとつひとつのコメントは写真欄に記載しておりますので、画像と一緒にお楽しみいただければ幸いです。
そしてご馳走さまでした。
<まとめ>
八月ということで、やはり淡路の鱧と郡上の鮎は外せません。脇を固めるのが、島根の黒アワビ、恐らく季節的に噴火湾と思われる毛蟹、天草の天然ウナギといった手練れの面々。
いつもながら、井上氏の控え目な接遇も心地良く、手をかけた一皿一皿に耽溺する時間を過ごせました。
とりわけ茄子の揚げ煮浸しで、そのヘタまで余さず供するところなど、西翁の遺訓が生きている数少ないお店かと。
やはりラッコの中では、西の白鷹、東の味享が横綱です。
<コース内容>
●先付:
・ウニオクラ
●お凌ぎ:飯蒸し
・鰻の蒲焼き:天然、天草
・餅米
●向付:
・鱧:淡路、皮目炙り
●お凌ぎ:温製
・芋茎
・毛蟹
・出汁:煮干し、葛餡
・薬味:おろし生姜
●お凌ぎ:冷製
・鱧の卵
・鱧の浮き袋
・煮凝り餡
●お凌ぎ:煎り物
・新銀杏
●揚げ物:
・黒鮑:島根
●向付:
・アコウ
・冷水〆
●お椀:
・スッポン豆腐
・インゲン
●焼き物:
・若鮎:郡上
・枝豆
●炊き合わせ:
・茄子煮浸し
●ご飯:
・一膳目:牛肉の時雨煮
・二膳目:追加の牛肉の時雨煮
・三膳目:鮭
・赤出汁
・香の物:コリンキー、緑の菜葉?
●デザート:
・水羊羹
・岩梨:梅酒漬け
<お酒>
・生ビール:二杯
・天領 飛び切り:特別純米、下呂
・七田:純米吟醸、小城
・伯楽星:純米吟醸、大崎
・可也:純米大吟醸、八女
・楯野川:純米大吟醸、酒田
・天美:純米大吟醸、下関
京味の滋味と井上氏の努力、そして西翁への忠信
火曜日の夜です。
西新橋です。
暫く一人で通っておりましたが、こちらのお料理がきっと口に合うのではないかと、いつも優しく接してくれるひまわり娘を誘い、二人の会食と相成りました。
時間は八時半。
不定期に催される夜の二回転目に参加します。
さて、こちらの味享さん。
そのひまわり娘によれば、ずっと味亭(アジテイ)と認識していたらしく、『場所が分かんな~い。食べログでいくら検索しても出てこないのぉ~』とSOS。
急ぎLINEで食べログページを送ります。
その地図を見て時間通りに辿り着けたものの、曰く『味亭さん、私のスマホだと出てこないのよん。なんか中華料理屋さん、っぽいのばっかり出てくるんでっけど、どしたんでしょうかねぇ、アハッヾ(≧▽≦)ノ』と無邪気な笑顔。
『うん? 今、なんてった?』
『えっ、アジテイさん、だけど・・・』
『ミタカやで!』
『えっ、ホンマかいな』と外の看板を見上げるひまわり娘。
『でもぉ、味亭って書いてあるよぉ~』
『ちゃうで。亭じゃなくて享保の享やねん』
『享保~? あっ、享保の改革だ。デヘヘッ、ずっと味亭(アジテイ)さんだと思ってた、そりゃ出て来んわな、アハッ』とひとり頷くひまわり娘。
高田純次ばりのテキトーさだけど、誰も傷つけないこの緩さが好き。
一回転目のお客様をお見送りしながら、二人のやり取りを聞いていた井上氏。
『すいませんねぇ、読みにくい名前で・・・』と、はにかんだ笑顔で呟きます。
和やかな雰囲気のまま暖簾をくぐると、間をひと席空けて折敷が二組の四枚。井上氏の正面にひまわり娘が座り、生ビールで唇を湿らせているとほどなく、京味時代からのご常連様と思しき壮年男子お二人がお揃いになり、五月の会席がスタートします。
和食では色々と食材の厳しい五月。
ラッコも実は初めてなので、どんなんかなぁ~?
季節に関係ないスッポンとか、まさかの肉系、なんて半可通の期待が膨らみますが、答えはこの後。
ひとつひとつのコメントは写真欄に記載しておりますので、画像と一緒にお読みいただければ幸いです。
そしてご馳走様でした。
<まとめ>
隣のご常連様がブルゴーニュの白をボトルでお願いされると、ソムリエが奥の厨房から現れます。
ええっ、いつの間にかソムリエさんまで常駐?
聞けば歩いて数分ほどの地下に、やはりご常連様が関係されているワイン・バーがあり、注文が入るたびにそちらからいらっしゃるとのこと。
『ウチは乗せておりませんので、試されやすいかと思います』と控え目に呟く井上氏。
ちょっとだけ触手が動いたけど、『和食はやっぱり日本酒でしょ、アハッ』と日本酒好きのひまわり娘。
その圧に負けたラッコも快く賛同。結局六種類ほどを痛飲。
ひとり呑みも好きだけど、気の合う方との差しつ差されつもまた楽し。
<コース内容>
●お通し:
・うすい豆:和歌山
●お凌ぎ:一皿目
・ちまき寿司:眞子鰈
・笹鰈:一夜干し、コゴミ
●お凌ぎ:二皿目
・赤ウニ:由良
・茄子:田楽
●お凌ぎ:三皿目
・鱧の湯引き:天草
・薬味:梅おろしポン酢、鱧骨出汁
●小鉢:
・毛蟹、白ダツ
・煮干し出汁、土佐酢
●揚げ物:
・鳥貝:舞鶴、葛粉上げ、コシアブラ
●お造り:
・眞子鰈
・金目鯛:昆布〆、炙り、銚子
●お椀:
・白甘鯛:八幡浜
・姫竹
●焼き物:
・稚鮎:琵琶湖
・付け添え:春キャベツ
●蒸し物:
・自家製蒸し厚揚げ:石川芋、空豆、黒胡麻
・蕗:バチコ挟み
●ご飯物
・一膳目:牛肉時雨煮、白菜、三つ葉
・二膳目:漬け丼、中トロ、血合い岸、中落ち
・赤出汁
●デザート:
・わらび餅
<お酒>
●生ビール
●天領:飛び切り、純米、下呂
●可也:純米大吟醸、八女
●森嶋:純米、日立
●Ohmine 3grain:純米、美弥
●写楽:純米吟醸、会津若松
●醸し人九平次:別誂、純米大吟醸、名古屋
京味の遺訓と井上氏の継承、そして西翁への渇仰
火曜日の夜です。
西新橋です。
今夜はおよそ二ヶ月ぶりのこちら、井上氏の営む″味享″さん。
福岡ご出身の、まさに益荒雄。
爽やかな笑顔に加え、食材を見つめる真剣な眼差し。ひと目見て、どなたも魅了されるのではないでしょうか?
無駄で無益な派手さは皆無。
控え目で実直な嘘のない人柄が、ひとつひとつの珠玉のお皿に昇華したさまは、ただただ深い溜息、熱い吐息、荒い鼻息を呼び覚まします。
さてさて今夜ですが、隣にお座りのおひとり様男子。
食べることがお好きなんだなぁ、なんて井上氏との会話を自然と耳にしながら感じ入っていたところ、最後のデザートのところで、『xxxさんでいらっしゃいますよね』とその男子がつぶやきます。
ええっ、『ラッコさんですか?』とは何回か聞かれたことが有るけれど、人間界で生活する仮の名をご存知なんて、ええっ?
『数年前に、名古屋で・・・』
『あっ、にい留さん?』
『はい、そこでご一緒した・・・』
『アイヤァ、もしかしてyyyさんですか?』
『はい、そうなんです』
『いやぁ、すいません、全く気付きませんでした』
『いえいえ、隣に座った時から横顔を拝見して、もしかしてぇ、なんて感じていたのですが、親方との会話で広島のワードが出てきて、確信しちゃいました』
『アイヤァ・・・』
『生のラッコ節が聞けて楽しかったです』
ああっ、紳士や。
品の薄いラッコとは明らかに違う。
三年ぶり、いや、四年ぶり?
食べログでコメントの交換はしばしば進めていたものの、予期せぬ邂逅にびっくりポン。
なんか良いこと有りそな予感、アハッ。
そしてご馳走さまでした。
いただいたものは以下の通り。
ひとつひとつのコメントは写真欄に記載しておりますので、画像と一緒にお楽しみいただければ幸いです。
<コース内容>
もちろん全てのお皿が垂涎ものですが、取り分け、若竹汁の吸い地、押し寿司の甘酢シャリ、山形のウルイの土佐酢ジュレ、朝〆の明石の真鯛の程よい硬さ、宍道湖八珍の白魚天ぷらのシャリシャリ感、広島生まれとしては懐かしの虎魚の唐揚げ紅葉おろしの旨味、などなどに悶絶してしまいました。
極め付けは車海老真薯のお椀。
西翁のスペシャリテなんだそうです。
アジアン馬場園さんのような豊満な旨味と香りの塊に、ラッコの意識は既にグランパラディーソ!
西翁の遺訓をしかと継承、亡き大将を渇仰された逸品でした。
●お通し:
・若竹汁:新筍と新和布
●お凌ぎ:
・春子鯛の刻み寿司:錦糸玉子乗せ
・子持ち飯蛸の炊きもの
・空豆
●小鍋:
・蛤、虎河豚白子、黄柚子、京都西利味噌
●向付:
・赤貝:身、紐、肝、閖上
・天然うるい:山形
・土佐酢煮凝り、
●揚げ物:
・白魚:宍道湖八珍、蕗の薹
●お造り:
・天然真鯛:明石、朝〆
●椀物:
・真薯:車海老、玉子豆腐、菜花
●酒肴:
・車海老味噌
●揚げ物:
・虎魚、辛子菜とアスパラガスの炒め胡麻和え
●炊き合わせ:
・揚げ蕨、鹿児島蒲生産筍、湯葉
●ご飯物
・一膳目:牛肉時雨煮、白菜、柴漬け
・二膳目:漬け丼、血合い岸二番、下田
・赤出汁
●デザート:
・わらび餅
<お酒>
●ハイボール
●天領:飛び切り、純米、下呂
●春霞:純米、花ラベル、秋田
●雅楽代:玉響、生酒、佐渡
京味の魅力と井上氏の謙虚、そして西翁への忠節
水曜日の夜です。
新橋です。
睦月にお伺いするのは、実は初めての”味享”さん。松の内はとうに開けましたが、どのような食材と仕立てでラッコの我儘な胃を和ませてくださるのかなぁ、なんて興味津々。
新橋駅前のスタバで隙間時間を調節し、予約の五分前に暖簾をくぐります。
今夜のお客は八名ですが、妙齢の二人連れカップルが二組。ラッコと同世代のオヤジ三人組が既に揃われておりました。
カウンターの端、コンロの目の前に案内され、白味噌椀を仕込み中の井上氏にご挨拶。
『明けましておめでとうございます』と井上氏。
『こちらこそ、今年もよろしく』とラッコ。
『今日はおみやをご用意しております』
『えっ、ホントですか?』
『例の青辰さんの穴子巻きを用意しますので...』
『ああっ、淡路震災は一昨日でしたっけ?』
『ええっ、早いものでもうニ十七年でしょうか?』
『あの時の火事で、お店も無くなりましたからね』
『ええっ、大将(西翁)が「青辰さんのような穴子巻きを出したいんや」って良く仰っていたんです。「あれがエエんやぁ~」っと呟かれては、何度かお店(京味)でもご用意したのですが、「なんかチャウなぁ~」「三つ葉が入ってたんかなぁ~」なんて、その実物を知らない私にとっては、どんなんやったんやろう、って、ずっと興味があったんです』
青辰とは神戸の南京街にあった焼き穴子の名店。その細巻きや中巻き、太巻きに押寿司はラッコの大好物でした。
たまたま前々回にお伺いした際の会話で、井上氏の青辰への思いに触れ、前回、文春文庫に掲載されていた青辰の写真のコピーをお渡ししておりました(詳細は前々回と前回のレビューをお読みください)
『先日、大将の墓前で「例の青辰さんの巻物、お客さんからいただいた写真で拝見しました。大将が求められていた味に、なんとか近づけるよう精進します」と手を合わせました。大将の顔に泥を塗りたくない。それだけ愛情深く育てていただいた御恩がありますから』と、口元をきつく結び、ラッコの眼を見てしっかと呟く井上氏。
ハニカミながらも素敵な笑顔。
その謙虚さ、実直さといったお人柄とともに、西翁への尊崇、尊敬、敬慕の念が手に取るように伝わります。
この男気というか、お世話になった大将への忠義、忠節に感動。やはり、京味の流儀の本質を受け継ぐのは、井上氏で間違いなし。まさに、正統、と再認識。
そしてご馳走様でした。
睦月のコース、ひとつひとつのコメントは写真欄に記載しておりますので、画像と一緒にお読みいただければ幸いです。
<まとめ>
深緑の折敷で新年のスタート。料理も器も映える、落ち着いた色合いです。
睦月なので、お節に通じる料理の数々を堪能。
とりわけ前菜の味付けが口に合いました。素材の地味と滋味を生かし切った薄めの味付けに覚醒。田作りってこんなに美味しかったんだ。お豆さんも数の子も全くの別物。
ああっ、和食って、ホントに素晴らしい!
<コース内容>
●汁:
・お雑煮:白味噌(東山の山利)
・角餅、海老芋、金時人参、大根
●前菜:お節仕立て
・数の子:別名にぎりこ。船上でさばいた希少品
・唐墨、菜の花、黒豆、煮鮑、田作
●お凌ぎ:
・白ダツ:出汁餡掛け
●箸休め:
・虎河豚の白子:酢橘
●揚げ物:
・葛粉揚げ:一入甘鯛の筍挿み、芹
・筍:鹿児島蒲生産
●お造り:
・真鯛:淡路産
・芽甘草
●煮物椀:
・蛤真薯
・京菊菜、金時人参、聖護院大根、黄柚子
●焼き物:
・伊勢海老の具足焼き
・薬味:白味噌と海老味噌の生姜風味
・空豆:指宿産の彩(みどり)
●炊き合わせ:
・合鴨の治部煮
・京菊菜
・風呂吹き大根
●ご飯と香の物:
・一膳目:牛肉の時雨煮
・二膳目:千枚漬け
・三膳目:鮭
●デザート:
・わらび餅
<お酒>
●ハイボール
●天領:飛び切り、特別純米、下呂
●裏天領:純米吟醸生貯蔵酒、下呂
お酒は二合
京味の神髄と井上氏の忠義、そして西翁への敬虔
土曜日の夜です。
新橋です。
二ヶ月ぶりのこちら、味享さんにお伺いしました。
前回は初秋の松茸フライに癒され、晩秋というか、急な冷え込みでもはや初冬に足を踏み入れたかもしれない今夜は、恐らく香箱にいだかれるはず。
お約束していた、神戸の″青辰″(前回のレビューをご参照下さい:95年の震災で暖簾を仕舞われた、西翁お気に入りの穴子寿司屋さん)の写真を手土産に、六時ちょいと前に到着。
最初の客です。
カウンターに座るや否や、今のうちにと『例の青辰さんのお写真、お持ちしました』と文春文庫のカラーコピーをお渡しします。
恭しく手に取り、穴子の細巻き写真と記事の一文字一文字を丹念に追いかける井上氏。
『これなんですね、青辰さんの穴子。親方が良く口にされていたんですよ、「青辰さんのようにならなアカン」言うて・・・。
私ら和食の世界では、調理法の勉強をする際、昔のこういったお写真や記事を参考にすることが多いんです。今のように便利な厨房機器がある訳やないのに、うわっ、なんだろうこれはって、恐らくそれだけ手間暇かけて作られてたんやろなぁ、と色々と考えさせられます』と、静かに呟き、遠くを見つめる井上氏。
きっと、親方のことを思い出されているんでしょう。
ああっ、お持ちして良かった。こんなに感動していただけるやなんて。
程なく他のお客様もお越しになり、二人の時間はここで終了。五名が揃ったところで今夜の懐石がスタートします。なお、半時間ほど遅れてお二人が到着されましたので、合わせて七名となりました。
さてさて、毎度のことながら、前置きが長くなりました。ただ、井上氏の控え目で実直なお人柄と西翁を敬愛してやまない忠義をお伝えするには、どうしても欠かせない、いわばルーティンのようなものです。
申し訳有りませんが、ご容赦下さいませ。
それでは今夜のコースは以下の通り。
ひとつひとつのコメントは写真欄に記載しておりますので、画像と一緒にお楽しみいただければ幸いです。
そしてご馳走さまでした。
<まとめ>
やはりプリマは香箱でした。
ハムじゃないっすよ。
プリマドンナですよ、アハッ\(//∇//)\
『外子のシャリシャリ感をたっぷりと堪能していただきたいんです』と呟く井上氏。土佐酢との相性も完璧です。この一杯だけで、お酒が一合、消えてしまいました。
柿を模した射込みに感動。こんな手間のかかる細かい仕掛け、気付かない方が多い筈なのに、でもそれが西翁の教え。
お伺いするたびに、新たな感動に包まれる幸せに深く感謝します。
<お料理>
●蕪の摺り下ろし椀:天然ナメコ、グジの一塩仕立て
●飯蒸し:駿河湾産桜海老、結晶岩塩
●前菜:四種
・かます炙り:甘栗裏漉し
・隠元:国産黒胡麻和え
・銀杏
・ウズラ卵の射込み:バチコの卵黄和え
●香箱:津居山産、土佐酢
●白芋茎:吉野葛
●白海老:ゆり根と豆腐の白和え、鯛骨出汁のジュレ
●海老芋:葛粉揚げ、富田林産
●お造り:二種
・真鯛:淡路産
・墨烏賊:小柴産
・山葵:有東木産
●お椀:白味噌
・真鱈の白子、湯葉、素揚げ茄子
●焼魚:
・クエの付け焼き:玄界灘産
・零余子:天然、新潟産
●京かぶらの射込み:
・車海老、京菊菜、真鯛の中骨出汁
●ご飯:
・牛肉の時雨煮:二膳
・焼きハラスと鮭皮:二膳
●お味噌汁
●デザート:自家製わらび餅
<お酒>
●ハイボール
●天領:飛び切り、純米、岐阜
●二兎:純米、岡崎
●澤屋まつもと:守破離、Ultra、伏見
●天美:純米吟醸、下関
日本酒は四合。
京味の応接と井上氏の誠実、そして西翁への敬愛
水曜日の夜です。
西新橋です。
今夜はおよそ二か月ぶりの味享さん。
六時ちょっと前に暖簾をくぐります。
既にご常連らしき二人連れが二組、着席されておりました。天井から吊るされていた透明の間仕切りは取り払われ、ラッコを含めた五人がゆとりをもって座ります。
きけば、他の三人様が八時半過ぎになるとのこと。実質的にはダブルヘッダーですね。そりゃ大変だぁ。
ちょうど一年前の同じころ、久慈産の松茸フライと焼き松茸に舌鼓を打ったラッコ。今宵も松茸で間違いないだろうなぁ、と想像しておりましたが、やはりその通り。
太く、傘の開いていないカリだかソリソリの逸品が、お皿の上でふんぞり返っておりました。思わず生唾をゴックンと呑み込むところ、生ビールを喉に流し込んでごまかします。
今宵はひとつ、興味深いエピソードがありました。
それは、松茸フライとイカリソースの組み合わせ。
広島育ちのラッコにとって、ウースターソースと言えばイカリ。海老フライにもイカリ、鯨フライにもイカリ、おまけに目玉焼きにもイカリ。
『ふう~っ、残ったイカリソース、飲み干しちゃいましたよ』とラッコ。
『えええっ、親方(西翁)もお好きだったんです』と井上氏。
『もうね、これだよこれ、って感じですね。子供の頃の味覚が脳みそから蘇ってくるようです』
『ええっ、良くわかりますわぁ。
親方(西翁)の口癖が「記憶に残るようなお料理」やったんですけど、それは京味の今の味をお客さんの記憶に植え付けるのではなく、どなたもが子供の頃に感じていらしたオフクロさんの手料理の懐かしい味。
それを「お客さんの旧い過去の記憶から呼び覚ますような、そんな味を目指したいんやぁ~」と、言うことだったんです。
そのお手本となるようなものとして、ええっと、関西の太巻きのお店...、なんて言ったっけなぁ?』
『青辰っすか?』
『あっ、そう、そうです。ええ~っ、ご存じなんですか?』
『はい。神戸の元町通りにあった焼穴子の小さなお店なんです。太巻きや中巻き、細巻き、押し寿司などが名物で、若い頃、週刊文春の巻末ページを見て、それで何度か広島に帰省する途中にお伺いしては、地物の播磨灘の焼穴子をむさぼるように齧っていたんですよね、懐かしいなぁ。でもね、あの阪神淡路大震災で焼け野原になってしまって、職人さんも亡くなられたようなんです...』
『そうだったんですか。私はお伺いしたことが無いのですが、親方が都内の太巻きを食べては「これじゃないんや。青辰さんじゃないとアカンのや」と言い続けておられました。いったい、どんなんやったんやろう?』
『文春文庫に写真が掲載されているお店紹介があるので、次回お伺いする際にコピーをお持ちしますよ』
『うわぁ、有難うございます。今日、一番の興奮ですわぁ~』
まさか、青辰の話題で会話できるとは思ってもおりませんでした。
ラッコもあれから多くの焼穴子をいただきましたが、その当時の強烈な記憶はいまだ書き換えられないまま。播磨灘の渦巻く潮に揉まれた健全な脂、煮椎茸の旨味、甘酢のシャリ、芳ばしい焼き海苔。
まさに、快楽、悦楽、享楽!
今でも亡き家内の笑顔とともに、青辰の焼穴子の味の輪郭を思い起こせます。
日本酒を舌の上で転がしながら、そうかぁ、西翁の求めている味って、そういうことだったんだぁ、とひとり膝を打つラッコ。
ああっ、京味にお伺いしたかった。
でもそれも栓無いし、今は西翁の薫陶を最も忠実に継承されている井上氏の味享があるから、まっ、良いっか、アハッ。
それではいただいたものは以下の通りです。
いつもながら派手さのない控え目な仕立て。輸入物の高級食材の出る幕など有りません。その優しい味わいに、舌も胃も癒されます。
隣の京味時代からのご常連が呟きます。
『井上さんの味付けが一番好きだな。親方に似ているから』
うんうんうん。やはりな。そうなんだな。
次回は十一月の下旬。
恐らく香箱の季節でしょうか。
そしてご馳走様でした。
ひとつひとつのコメントは写真欄に記載しておりますので、画像と一緒にお読みいただければ幸いです。
<いただいたもの>
●汁椀:
・九絵と香茸の温かい白味噌仕立て。薬味は和芥子
●向付:三種盛り
・鱧の付け焼き:淡路
・毛蟹の手捏ね鮨:梅干し皮被せ
・隠元の黒胡麻和え:胡麻は茨城産
●蒸し物:
・無花果:田楽味噌と柚子の香り
●冷菜:
・縞海老:鯛の骨出汁、豆腐と百合根の白和え衣
●温菜:
・だつ:吉野葛の餡掛け
●揚げ物:
・松茸フライ:久慈
・玉蜀黍:薄衣
・新銀杏:薄衣
●お造り:
・真鯛:湯引き皮、明石
・喉黒:皮目炙り
●小鍋:
・淡路の鱧と久慈の松茸
●焼き物:
・九絵の塩焼き、枝豆添え
●炊き合わせ:
・鰊茄子:絹さやと黒胡麻で炊いた茄子のヘタ
●ご飯
・一膳目:牛肉の時雨煮
・二膳目:鮭ハラス
・豆腐の赤出汁、ウリ、白菜
●デザート
・蕨餅
<お酒>
●生ビール
●森嶋:純米吟醸、茨城
●ニ兎:純米、岡崎
お酒は計二合
京味の足跡と井上氏の真価、そして西翁への尊崇
土曜日の夜です。
今夜はおよそ二か月半ぶりの味享さん。
七月の食材ってどんなんやろ?
昨年の七月三十日にお伺いした際のお皿を振り返ります。
うんうんうん。
お約束の鱧、梅雨明けの穴子、稚鮎、玉蜀黍の葛粉揚げなどなどなど。
フムフムフム。
今夜はどうでっしゃろ?
立ち食い寿司で空きっ腹を宥めすかし、お店の暖簾をくぐったのが六時前。
最初のお客でした。
天井から吊り下がる透明ビニールの間仕切りで確認すると、左から三席、二席、ラッコの一席、そして右端に二席、都合八席の組み合わせのようです。
『いらっしゃいませ』と井上氏。
茄子素麺の仕込みの真っ最中でした。
細切りした賀茂茄子に片栗粉をまぶし、ジュンサイのような食感を目論みます。
温度差が肝要なこの技術。やっとこ鍋で温め氷で急速に冷やし、透明なプルプルを纏わせます。
『試行錯誤しながら、ようやくこの温度に辿り着きました』
素材を見つめる真剣な眼差しがほどけた瞬間を見逃さず、『ハイボールを』と短く呟きます。
山崎が目の前に。
ふう~っ、このひと時が何物にも代えがたい。
Okura Amsterdamにいらした二番手さん、鋭意修行中の三番手さんと挨拶をかわし、しばし他のお客様の到着を静かに待ちます。
ほどなく以前にもいらした京味時代からのご常連様、妙齢女史の二人連れ、家族?連れの三人様が揃い、文月の献立がスタート。
さてさて、そのコース内容は以下の通り。
ひとさらひとさらの詳細は写真欄に記載しておりますので、画像と一緒にお読みいただければ幸いです。
そしてご馳走様でした。
<コース内容>
●賀茂茄子素麺とジュンサイ
●前菜:
・柳鰈一夜干し
・茗荷甘酢漬け
・黒豆の松露キノコ似せ
●芋茎と毛蟹の温餡仕立て
●キタムラサキウニと甘煮ゆり根のゼリー寄せ
●鱧の湯引き:梅オロシポン酢
●鮑と肝の葛粉揚げ:福井産
●鰹の炙り:気仙沼産
●アコウ(キジハタ):洗い
・白身
・皮の梳き切り
●お椀:
・天然海鰻:広島産
・玉ネギ:淡路産
・湯葉
●鮎の塩焼き:
・釣り鮎:奥飛騨の双六渓谷産
・枝豆
・セロリの土佐酢漬け
●炊き合わせ:
・スッポン玉子豆腐
・車海老:与論島産
・芋煮
・蕨生の信太巻き
●ご飯:
・牛肉の時雨煮
・水茄子
・胡瓜
●鮪丼:血合いスジ、中トロ
●お味噌汁
●デザート:蕨餅
<お酒>
●ハイボール:山崎
●天領飛び切り:純米、岐阜
●飛龍:純米大吟醸、宮城
京味の馳走と井上氏の創味、そして西翁への慕情
火曜日の夜です。
初めてお伺いする四月の味享さん。
季節柄、どんな食材が主役に抜擢されるのでしょうか?
鮑はまだ早いだろうけど、海からはやはり貝かな?
山からは九分九厘、筍でしょうかね?
期待と想像に胸を膨らませながら、六時ちょい前に暖簾を潜ります。
お客様は壮年男子のお二人組みと妙齢女子の御三方、合計六人の席となりました。
ラッコを除き、いずれも京味時代からのご常連の方達のようです。
特に女子の御三方はクリュッグのロゼやコルトンシャルルマーニュ?をボトルで所望。
えっへ~っ、持ち込みだったのかなぁ〜?
初めて見ました。お店でそんな大胆な飲み方をされるなんて、アハッ。
さてさてそれはともかく今夜の仕立てですが、やはり長岡の筍をメインに赤貝、小柱が脇を固めます。さらに島原のスッポン、虎魚の唐揚げ、白甘鯛などなど、週の中日からもうね、お腹いっぱい。
いつにも増して丁寧な仕込みと家庭的な優しい味わいに、ささくれがちなハートが癒されます。
決して前に出過ぎず、控え目な所作と素材に向き合う際の真剣な眼差し。そのギャップに目を細めるラッコ。
次回は七月。
何がメインかなぁ?
松茸は早いよなぁ?
鮑かな?
まっ、ハモやろな。
でも別にラッコに高級食材は不要。
なんてったって普通の素材を手間暇かけて珠玉の味わいに昇華させるのが、井上氏の真骨頂ですもの。
いただいたものは以下の通り。
読みやすいようにコメントは写真欄に短く記載しました。
画像とともにお読みいただければ幸いです、
そしてご馳走さまでした。
<コース>
予想通り、筍がメインの仕立てとなりました。
とりわけ焼き立ての筍はほんのりと甘く、シャクシャク食感もその齧った際の歯切れ音とともに、舌と耳を愉しませます。
島原のスッポンも口に合いました。”みつぽね”という希少な肩甲骨を分けていただき、指で持って口をすぼめてすすり舐めるようにいただきました。
また、桜餅に季節感の善き演出を楽しみます。
食紅で染めた餅米が玄界灘の白甘鯛を優しく包み、ひと塩も丁度良い塩梅。
真妻と思しき本山葵の摺り下ろし餡がラッコの低い鼻腔を刺激し、ただただ深く長い溜息が漏れるのみ。
『親方から良く「和菓子は料理の始まりなんやで」と教えていただきました。ご自身も和菓子がお好きで、形や色合いをいつも勉強されておりました。少しでも近づけるように日々心して取り組んでおります』と呟く井上氏。
押し付けがましい無駄な主張では無く、西翁への慕情を感じ取ります。いつもながらの食べ手に優しく寄り添う自然体の所作。
日々の疲れが癒されました。
●若竹汁
●前菜:
・菜の花:おろし唐墨
・蛍烏賊:富山湾
・〆鯖:五島
●焼物:筍と木の芽田楽味噌
●桜餅:一塩した白甘鯛
●酢の物:赤貝の紐、浜ぼうふう、ウド、タラの芽
●揚げ物:
・小柱の葛粉揚げ
・蕗の薹の天ぷら
●お造り:
・明石産の真鯛
・宇部産の赤貝
●スッポン汁
●虎魚の葛粉揚げ
●炊き合わせ:筍、翡翠豆、真鯛の卵
●素麺もずく
●筍ご飯:牛肉の時雨煮
●鮪ご飯:
●わらび餅
<お酒>
●ハイボール
●天領 飛び切り:特別純米、岐阜
●田中六五:純米、糸島
京味の背骨と井上氏の奮励、そして西翁への敬慕
土曜日の夜です。
日比谷の映画(すばらしき世界)で不覚にも落涙し、やるせない気持ちと微かに灯る希望が交錯する中、トボトボと西新橋の外堀通りまで歩きます。
やはり佐木隆三氏の原作。実話ゆえ、重い、重すぎる。次回はお腹を抱えて笑える映画にしよ、アハッ。
およそ二か月ぶりの味享さん。六時ちょっと前に到着します。
非常事態宣言の再発出に伴い、席間も広めに調整され、グループごとに仕切れるよう天井から透明のパーテーションが下がっておりました。
今夜のお客はラッコを含めて、ご夫婦?が二組と、仕事仲間とおぼしき壮年の二人連れの合計七名。
『このような大変な時期にお越しいただき、有難うございます』と井上氏。
押しつけがましくもなく、控え目で自然体の所作。衷心からの呟きであることが手に取るように伝わります。
今夜で九回目となりましたが、いつにも増して輝きを増す食材への感謝と手間を惜しまない仕込みの技。
しばらく通わせていただくことになりそうです。
いただいたものは以下の通り。
そしてご馳走様でした。
<お皿>
●鮭の板粕汁:
具材は鮭のほかに金時人参、牛蒡、お揚げ、蒟蒻、大根、芹、大葉といった面々。板粕は天領の新酒。『他の酒蔵の板粕だと、なんだかしっくりこないんです。京味で仕込まれた味わいは、やはり天領さんでないとアカンみたいですね』と呟く井上氏。
●飯蒸し:このわた
蒸した餅米を包み込むこのわたの甘い香り。ハイボールからたまらず天領の飛び切りにシフトします。
●三点盛り:一夜干し鰈の炙り
確か浜田産だったはず。ちょうど良い塩梅。皮の表面はパリッ。その裏側の脂はしっとりと精細な白身を包み込みます。
●三点盛り:黄身酢の干し柿巻き
昔ながらの処方。安価な食材に手間暇をかけ、珠玉の味わいに昇華させる、これがまさに京味の真価。高級食材ではなく、料理人さんの手技と粋にお金を払いたいラッコにとっては心から嬉しい一品でした。
●三点盛り:蕗の薹の揚げ炊き
蕗の薹を一度素揚げして細かく刻み、お出汁で炊き上げ、更に蕗の薹を模して成型した逸品。この苦味とその裏に潜む甘味にただただ溜息。もちろん日本酒にも合います。
●蛤の土手鍋:
蓋を開けるとグツグツと滾る味噌。まるで別府温泉の地獄めぐりみたい。こんなに熱々なのに、なんでこんなに蛤がジューシーなんやろ? トラフグの白子も熱でぐでたまのように変化し、味噌のコクに溶け込みます。名古屋の土手鍋は苦手だけど、味享さんの土手鍋は別。
●芋茎:葛餡仕立て
芋茎って他のお店ではいただいたことが無いのですが、おそらく地味なわりには手当てが面倒なので、あまりお使いにならないのかな。確かに地味ではあるけど品が良い。葛餡というシースルードレスをまとって淑女が娼婦に変化した感じかも。なかにし礼さん、ごめんなさい、アハッ
●筍と甘鯛の挟み揚げ:
ひと塩した甘鯛の切り身を鹿児島産の筍に挟みます。これはもう悶絶級の美味しさ。右から左から鼻息の荒いため息が漏れ聞こえてきました。
●お造り:真鯛
薬味は虎河豚白子の裏漉しポン酢と生醤油。これは朝〆だったかな。コリコリし過ぎず、熟し過ぎてダレもせず、ちょうど良い歯触り、舌触り。
●お椀:蟹真薯
ズワイ蟹の真薯。中を割ると蟹味噌が潜みます。蟹の旨味と昆布と鰹節のアミノ酸が相乗効果。間違いなく今夜のナンバーワン。
●焼魚:マナガツオの山椒ダレ焼き
西京味噌漬けも幽庵地焼きも好きだけど、この山椒ダレはウンマすぎる。ラッコにとっては焼き物のトップ・オブ・トップに間違いありません。
●炊き合わせ:揚げ蕨と湯葉と柚子
炊いて小麦粉をつけて揚げた蕨生のコクが、淡白な湯葉と香りの良い柚子をまとめます。この柚子は手が込んでいました。表面の皮を卸金で取り、中をくり抜いて無駄な白い繊維を毛抜きで取り、浮き袋状にしたものを一日、水に晒してとんがったアクを抜きます。もう、すんごいわぁ。食材の無駄をなくすこの技。ただただ感嘆!
●ご飯:一膳目
薬味は牛肉の時雨煮と白菜ほかの香の物。この時雨煮がホントに口に合います。
●ご飯:二膳目
下田産の本鮪の中トロ、赤身、中落の三種混合丼。文句なしの美味さ。
●デザート:わらび餅
焼魚が供されるあたりからバッタン、バッタンという音が厨房の奥から届きます。餅を叩いている音ですね。黒糖水の甘みがほど良く、最後に胃の落ち着く味わいです。
<お酒>
●ハイボール
●天領飛び切り:特別純米、下呂
●写楽:純米吟醸、会津若松
京味の道理と井上氏の献身、そして西翁への思慕
木曜日の夜です。
今夜は凡そ二ヶ月ぶりの味享さん。
季節柄、津居山のズワイや香箱の期待に胸を膨らませ、お店の前に佇んだのが六時五分前。
火の前に案内され、ハイボールをお願いします。
調理手順が間近で観察できるし、井上氏との静かな会話も愉しめるこの席が好き。
程なく七名のお客様が時間通りに見えられ、温かい海老芋の白味噌仕立てでスタート。
はぁ〜、ふぅ~~〜。
胃が落ち着く。
装飾過多の派手さも無く控え目な仕立てに、いつもながら深い息をゆっくりと吐きだします。
京味の道理と井上氏の献身、西翁への思慕を募らせながら、愚直にそして丁寧に、旬の素材の地味を頂点にまで引き出した一皿一皿が、ラッコの肩に圧し掛かる重荷を代わりに担いでくれているかのよう。
好感が持てます。
The Bandの名曲、♪The Weight♪が耳の奥から動き始めます。
勝手なラッコ訳ですが...、
♪ヘロヘロで味享に辿り着いたけど、今日も疲れた。もう横になりてえ。オヤジに訊いたけど、「そんな場所はねえけどよ...」と優しく手を取りながら香箱を差し出し、「その肩の荷を下ろしな。自由になんなよ。重荷は俺が運んでいくからさ...」なんてね。
独り静かに銘酒のグラスを傾けながら、Levon Helmの高温の歌声、Robbie Robertsonの哀しみをたたえた怜悧な眼差しを思い出します。
ふう~っ、寛げるなぁ。
こんなに肌合いの合うお店に巡り合えたことに感謝します。
どこか懐かしい家庭の味。
誤解がないように書き添えます。
もちろん食材も技量も家庭のそれと比べるのは野暮というもの。
雑味の無い洗練された味わいは超一流の懐石ですが、なんだろう、なぜだか理由は分かりませんが、母方の祖母やおふくろが隣に座っているような、そんな優しい味わいに感じ入ります。
一見地味だけど、滋味に溢れる一皿一皿。
こちらには足繁く通うことになりそうです。
ところで目当ての蟹ですが、残念ながら津居山のズワイは未入荷でした。十一月六日に解禁されてはいるものの、天候が悪くて出漁できなかったのかな?
西翁のこだわりで、同じ丹後でも間人や柴山ではなく、津居山。蟹への手当てが万全の底引き漁船をご指定で、水槽で生かさず水揚げ直後に浜茹でしたズワイをお使いです。
活か浜茹でか、一概に甲乙は付けられませんが、水槽で痩せるリスクのある活より、手練れの浜茹で職人さんへの信頼が太い、ということでしょう。
今宵は運が巡ってこなかったのかな。でも津居山の香箱はいただけたので、それで良しといたしましょう。
『今は良い食材の情報が簡単に伝わるので、みんなでその取り合いになってしまうんですよね。それでどうしてもお値段が吊り上がりますし、今はまだちょっと...、「食べもんには適切なお値段というものがございますやろ...」との親方(西翁)の呟きも聞こえてきますしね』と朴訥に呟く井上氏。
西翁は幸せだな。
その教えを背骨にする益荒男がここに居らっしゃるので。
週末ではないのでお酒は控え目にすませ九時過ぎにお会計。
『次回は二月でしたよね。頑張ってズワイを揃えておきます』と笑顔の井上氏。その感謝の眼差しを背中で受け止めながら、夜の街に溶け込むラッコ。
そしてご馳走様でした。
いただいたものは以下の通りです。
詳細なコメントは写真欄に記載しましたので、画像とご一緒にお読みください。その方が臨場感が伝わるかと思いますので。
<お料理>
●海老芋の白味噌椀
●八寸:
・柳鰈の一夜干し
・柚釜:飯蒸しのバチコのせ
・隠元のお浸し黒胡麻風味
・クワイの揚げチップ
●香箱蟹:土佐酢仕立て
●芽芋:豆腐と胡麻のあたり
●鮟肝真薯豆腐:生姜餡
●北寄貝:葛粉揚げ
●芹:天ぷら
●お造り:
・縞鯵
・虎河豚
●舟形昆布の真鱈白子乗せ
●鰆の西京味噌漬け
●京カブラの車海老と原木椎茸餡
●ご飯:牛肉の時雨煮、ちりめん山椒、香の物
●血合い岸丼
●わらび餅
<お酒>
●ハイボール
●天領飛び切り:特別純米、岐阜
●陸奥八仙:特別純米、おりがらみ、青森
●仙禽:雪だるま、栃木
京味の要諦と井上氏の創造、そして西翁への畏敬
水曜日の夜です。
今夜は亡き家内の月命日。
静かにひとりで彼女の笑顔を慕いながら、うまい飯と酒でもいただこう、と予約していたのがこちらの味享さん。
十月での訪問は初めてとなります。
恐らく松茸尽くしの膳かも、なんて卑しい妄想を膨らませながら、とりあえず新橋駅前の立ち食いそばでひとりゼロ次会。
だってランチ時間を逃してしまい、女子にめぐんでもらったソフトサラダせんべいを二袋しか胃に収めていないんですもの、別にラッコでなくともお腹は空いちゃっていますよね。
想像以上に美味しかったざるそばで一息つき、霧雨のけぶるなか、傘もささずに日比谷通りを渡ります。
夕暮れの霧雨は実に魅力的。
濡れた路面に踊る光の三原色と遊びながら、お店の前に到着したのは予約時間の十分前。
既に三人組壮年男子のお一方が着席し、持ち込まれたワインのコルクを抜かれているところでした。
折敷の数からして今夜は六名。
のちほど妙齢女史のお二人様がいらっしゃり、今宵の宴が幕を開けました。
過去のレビューでも書きましたが、こちらのお店の雰囲気がラッコの琴線を捉えて離しません。華美ではない造作と井上氏の控え目な所作が、傷んだ心の襞をさりげなく優しく、そっと撫でまわしてくれているような感覚...
そんな柔らかい空気模様に漂いながら、手間と時間と持てる技量の全てをかけたお皿の数々をいただいていると、なぜだか分かりませんが、愛する家族とともに過ごした食の記憶が蘇ります。
それは祖母が握ってくれたおむすびの甘じょっぱさだったり、あるいは父親につれていかれた街道沿いの一膳めし屋で、長距離トラックの運ちゃんに囲まれながら味わった塩サバの凝縮した旨味、初めて見た神楽の異様さに泣きながら、口に放り込んだ縁日の焼きそばのソースの香り、初デートで頬張った亡き家内お手製のハンバーグの焦げ臭さなどなど。
別に特別なものではありません。ただ一皿一皿をいただくごとに、そんな他愛もない日常の一コマを思い出し、なんだかホッとするような、とてつもなく幸せな気持ちに浸ることが叶います。
対極にあるのが、派手目の煌びやかな空間で非日常を演出し、高価な輸入食材や、もはや投機対象とも思えるワインやシャンパンを提供する『どうやぁ~!』系の新だなでしょうか。
そんな場所では、実はラッコはソワソワしちゃいます。落ち着きません。お尻が痒くなっちゃいます。一応、自分の分を弁えているつもりなので。
別に良し悪しを批評するつもりはありません。美味しければそれがすべて、という考え方も有りますし、要は和食に対する店主のスタンス次第です。
ただただラッコとしては、美味しい、と感じる本質、そしてその先にある何かを大切に思いたい、それだけなんです。
『仕込みがひと段落すると親方(西翁)から「コーヒーに行こか?」と誘われるんですよ。えっ、ええっ、またかいな、と他の職人さんの目も有りますから躊躇していると、さっさと行かれてしまうので慌てて後を追いかけておりました』と井上氏。
『人の目って、誘われる方とそうでない方とが居らしたんですか?』と不躾にも問います。
『はい、そうでしたね。コーヒーを飲みながら色んなことを話していただくのですが、当時はナンのこっちゃやろ、なんて感じていたことが、今はものすごく良くわかるんですよ』
お客が主役!
どうぞ、と常におもてなしの心で臨みなさい!
和食なんだから輸入ものに頼るんやない!
食材に無駄なところは無いんやで!
それが京味の真心。
西翁が井上氏に伝えたかった和食の神髄。
美味しい、のその先にある何かに触れ、また新たに感じ直しながら、そしてご馳走様でした。
コースは以下の仕立てとなります。
読み進めやすいよう、詳細なコメントは写真欄に記載しました。併せてお読みいただければ幸いです。
<総論>
季節柄、期待していた通り、松茸尽くしでした。
岩手の久慈市産の逸品です。
帰りがけの見送りで『高くなって申し訳ありません』と率直に頭を下げられる井上氏。
『いえいえ、あれだけ上物の松茸は奪い合いでしょうから...』とラッコ。
雨脚が強まっておりました。
傘をさして外堀通りに歩くラッコの背中を、氷雨に濡れながらじっと見つめていらっしゃったのでしょう、数十メートル離れた曲がり角で振り返ると、両手を臍の位置で組み、直立されたまま、深いお辞儀を返されます。
やはり福岡の益荒男。
生真面目で一途な眼差しに西翁も惚れたのかな?
次回は十二月の予約。津居山の蟹がラッコを待っています。
<料理>
●八寸:
・隠元と冬菇のお浸し、黒胡麻和え
・富津産のカマスの押し寿司、甘酢茗荷と酢橘絞り
・浜田産の柳カレイの一夜干しの炙り
●白甘鯛の一汐:丹波栗の裏漉しと山葵餡
●松茸炭火焼き:久慈産
●松茸フライ
●芋茎:豆腐と胡麻の裏漉し餡
●お造り:
・真鯛:明石産
・真鯛の皮の湯引き
・赤ウニ:唐津産
●お椀:鱧と開き松茸
●アカムツの塩焼き:舞鶴産
●炊き合わせ:身欠き鰊と茄子
●松茸の炊き込みご飯
●血合い岸丼:大間産
●デザート:葛餅
<お酒>
●生ビール:プレミアムモルツ
●天領飛び切り:特別純米、下呂
●七本槍:純米、長浜
日本酒は合計二合
京味の輪郭と井上氏の着想、そして西翁への憧憬
木曜日の夜です。
西新橋です。
駅でいえば、内幸町が最寄駅でしょうか。
今夜は、ひとり物静かに過ごせるこちら、味享さんで一献。
ゴールデンウィークのなか日の予約がコロナ休業でキャンセルとなり、およそ四ヶ月ぶりの訪問となります。
先日お伺いした弟さんのお店の印象を手土産に、質実な小料理とお酒に囲まれながら、三時間の心地良い時間を過ごせました。
『親方に良く言われておりました。「家庭に普通にあってな、お母さんが捨ててまうような部位を残さず使い切って旨い一皿にする、それが料理人やで」と...。高級食材で映えるお皿が人気ですが、それで良いのか、誰かが親方の思いを継がないとアカンやろ、と試行錯誤する毎日です』と享俊氏。
西翁の教えを背骨に残し、華美な輸入食材に振れることもなく、家庭の食卓にのぼる食材本来の地味を活かし切る技と美の饗宴に、ひたすら酔いしれてしまいます。
出過ぎず、引き過ぎず、適切な間合い。
無駄口のない閑かな男に風格が宿ります。
料理も口に合いますが、享俊氏のその接遇も心地良い。
そしてご馳走さまでした。
いただいたものは以下の通りです。
詳細なコメントは写真とともにどうぞ。
<お料理>
●前菜:
・白イカ糸造りと余市産蒸し赤ウニの白板昆布巻き
・隠元と冬子椎茸の胡麻和え
・鯒のひと口鮨:甘酢茗荷乗せ
●芋茎:吉野煮
●穴子:湯葉巻き
●鱧:湯引きと焼き霜
●縞エビとモズク:土佐酢の煮凝り
●玉蜀黍と空豆の小麦粉揚げ
●鯒のお造り
●鼈玉子豆腐
●稚鮎
●石川芋煮と蕨生の厚揚げ巻き
●ご飯と赤出汁:
・一膳目:牛肉の時雨煮、茄子、青菜
・二膳目:血合い岸の鮪丼
・赤出汁:豆腐
●わらび餅
<お酒>
●ハイボール:山崎12年
●天領飛び切り:純米、飛騨
●森嶋:純米吟醸、日立
●伯楽星:純米吟醸、大崎
日本酒は計三合
京味の相承と井上氏の前進、そして西翁への赤誠
金曜日の夜です。
内幸町です。
と言っても新橋から歩いてきましたが。
昨年暮れの最終日にお伺いして以来なので、約三ヶ月振りの訪問。愛する味享さんの暖簾をくぐります。
今夜は五時からの貸し切りが終了した八時からのスタート。
『二回転なんて久し振りなので、もうヘロヘロですよぉ〜』と呟きながら、でもその眼差しには活力が漲る井上氏。
程なく三組六名の方がいらっしゃり、今夜の宴がスタートします。
嬉しいニュースをお伝えします。
かねてから青雲の志はお聞きしておりましたが、右腕としてお店をサポートしてきた実弟の井上長嗣氏が、故郷の福岡は天神、ニューオータニそばにご自身の城を持たれることとなりました。
急では有りますが、手頃な物件が出てきたとのこと。
四月から準備を始め、五月中旬に開店予定。店名は、お名前の"嗣"と"味"を足して、"嗣味"。
語尾は上げません。
『それだと小鳥になっちゃいますぅ~』と長嗣氏。
若者の門出に乾杯。
我がことのように嬉しさが込み上げます。
奥様と二人で始められる六席の小体なお店とのこと。
『弟のこともよろしくお願いいたします』なんて、敬愛する兄貴に目を見据えて言われたら、是非も有りません。
『おめでとうございます。勿論です』なんて、気安く空手形を振りだす小デブ。
でもなぁ、どないしよう。福岡は誘惑が多過ぎる。
"鮨 さかい"、"鮨 田可尾"、"寿司つばさ"、"まつ山"・・・、顔を出さなければならない馴染みのお店ばかり増えてゆきます。
だって皆さん、いつも嘘偽りのない眼差しでお相手してくださるんですもの。その想いに応えなければ寝付きが悪い。ラッコも廃る!
五月の初めに"鮨 さかい"さんにお伺いする予定は有るものの、その時はまだ"嗣味"さんは開店準備中。所持万端整い、慣れるまでのバタバタが落ち着いてからショートメールを入れていただくこととし、夏には初訪かな。
そしてご馳走さまでした。
いただいたものは以下の通りです。
<お料理>
いずれのお皿にも春の芽吹きを感じます。
西翁への誠の敬愛を胸に、少しづつ井上氏の色を小出しにされ、ユックリとではありますが確実に、そして着実に、その高みに向けて前進されているような心証を受けました。
味覚の変化を計算し尽くされたお皿の連続に、銘酒を愛でながら、ただただ深い溜息と荒い鼻息の連続。
ああっ、和食って素晴らしい。
●若竹汁:
長岡産の筍と鳴門の若布。その若布がトロトロに変化する手前まで火を入れるのが京味流。胃がホッと休まります。お出汁の味を決める際の井上氏の真剣な眼差しと口元に、惚れない漢はいない!
●前菜:
・春子鯛と細魚の手綱鮨
・能登産の青海鼠のポン酢漬け
・蛍烏賊
・蕗の薹の揚げ漬け
・菜の花
春子と細魚の手綱鮨。海老と小肌は昔ながらの鮨屋でいただきますが、この組み合わせも小粋。
この一皿に酸味、苦味、甘味、海の旨味、揚げ油のコクのすべてが込められております。なかでも青海鼠が口に合いました。おろしポン酢に和えてから酢橘釜に盛り付けます。これだけで日本酒、一合、いけちゃいます
●蛤の土手鍋:
蓋を手にとります。シズル感が半端ない。ぐつぐつと味噌がたぎります。
具材は蛤の他に、餅と焼きネギ、角切り柚子。土手は見た目が濃いものの、白味噌と赤味噌が九対一の割合。焼きネギば暴力的に熱い。でも甘い。
蛤は別鍋で火を通すので、硬すぎず柔らかすぎず、まるで耳たぶのような食感
●白魚:
宍道湖産。塩水に漬け込み柚子香を添加。土佐酢の大根おろしでサッパリといただきます。トッピングはウドと紫蘇の叩き。土手鍋が濃い味なので、ここはサッパリ系ですよね、この変化は定石
●甘鯛と帆立の筍挟み揚げ:
長岡産の筍。一度炊いてから甘鯛と帆立を挟み、揚げ油に投入。味噌の濃い旨味から土佐酢の酸味と白魚の儚い滋味を経由し、山海の地味と油のコクに到達。
究極の陸上400メートルリレーや!(彦丸風にどうぞ)
●お造り:
・鰆の焼き霜
・鰆
・車海老
鰆はそのままと皮目を炭火で炙った二種類を提供。和芥子でいただきます。西翁の流儀とのこと。
まさに目から鱗。春の鰆のネットリとした身質と鼻の奥に刺さるような和芥子の刺激のピンポン攻め。ガックリと後方にのけぞり虚空を見つめる小デブが一匹。このマリアージュを伝える言葉はありません。
車海老は半レア。半身を塩で、残りを山葵醤油でいただきます。尻尾を先ずは丁寧に湯通し。そんな些細な工程にも隙が伺えません。その所作は剣士のたたずまい。とかく作業に陥りがちな一手間ですが、すべてがお持て成しの神髄。もちろん尻尾までボリボリと齧ります
●椀もの:
鮎魚女の葛叩きを敷き、利尻昆布のお出汁をはります。
鮎魚女は今が旬。1kg前後の大物です。お腹部分の美味しい個所をいただきます。硬質の身がひとひらずつ、まるで桜の花弁のようにゆっくりと剥がれます。つなぎとめるのは皮目。その皮裏から肌理の細やかな脂がお出汁の表面を埋め尽くします。
文句なし。こちらにお伺いする訳がここにあります
●虎河豚の唐揚げ:
ポン酢に漬け込んだアラに葛粉を纏わせます。恐らく本身の部分は前半の貸し切り会の薄造りで皆様の胃の中へ。
アハッ、そんなこと問題な~し。嫉妬心も湧きません。だってテッサってポン酢の味しかしない(小デブの舌での話です)し、そもそも河豚刺しは食感を楽しむもの。でも、その歯ごたえを愉しむなら唐揚げに軍配。
『xxさん、たくさんお食べになりますよね?』と井上氏に見つめられ、可愛く(周りからどう見えているかは不明です)上目遣いに頷きます。
でっかい部位が二本。
オッホォ~!海のケンタ君や。手づかみするや否や、軟骨なんてボリボリ噛み砕き、骨にしがみつく中落なんて前歯でこそぎ取ります。うん。うんまい!というかエモい!
●炊き合わせ:
具材は湯葉と揚げ蕨生、富田林の海老芋でした。
味享さんの神髄は、利尻のお出汁と油のコクの乳化に有り、なんて勝手に想像します。
●ご飯もの:
・牛肉の時雨煮
・血合い岸
こちらの時雨煮は悶絶者のエモさ。秘密の技をお聞きしました。ここでは書けません。自宅で早速試してみます。
血合い岸は”やま幸"さん経由で舞鶴から届きます。海苔はT。高島屋ではありません。お間違いなく。
三膳、お代わりしてしまいました。
●赤出汁:
うんまいよぉ~。やはり決め手は利尻ですね
●蕨餅:
天然蕨を黒糖水で伸ばし、バッタンバッタンと叩きつけながら加熱、氷水につけて急速に冷まします。この食感は天然の混ぜもの無しの証左。焦がしきな粉もうんまい
<お酒>
・生ビール:プレモル
・東長:純米吟醸、嬉野
・醸し人九平次:純米大吟醸、名古屋
・天領とびきり:純米、飛騨
日本酒は合計三合
京味の終章と井上氏への相伝、そして西翁への崇敬
土曜日の夜です。
令和元年の懐石食べ納めは此方の味享さん。
いつも懇意にしていただくフォロワーさんと、この一年の飽食三昧を振り返りつつ、盃を酌み交わします。
六時前に入りました。
既に京味時代からのご常連と思しきご夫婦が一組と、妙齢のお一人様女子が着席されております。
席数から今夜は七名の宴。
程なくフォロワーさんと、やはり京味時代の顔なじみらしきご夫婦がお見えになり、白味噌仕立てのお碗で胃を温めることからスタートします。
こちらの特徴は、見た目で魅了させる派手な輸入食材は使用せず、家庭でも手の届く普段使いの素材をその技量と愛情と手間で頂点にまで昇華させた、まさに地に足のついた仕事ぶり。
『親方(西翁)からそのように教え込まれましたから。それが京味の原点だと、今更ながら深く感じているんです。仲間内でも、その教えをここで終わらせてはいけないよな、と話し合っているんです...』と井上氏。
西翁への崇高な尊敬の念が、静かに重く伝わります。
今夜で四夜目となりますが、ただただ感嘆の溜息しか見つかりません。
昨今、お客を愉しませようとするあまり、見苦しいまでのはしゃぎ過ぎ(個人の単なる感慨なので、気になる方は読み飛ばしてください)や、ドヤ顔のカメラ目線の料理人さんを目にするにつけ、分をわきまえた(料理人の本質という意味です)品の良さを失わない此方のようなお店は、私にとって数少ない愛すべき貴重な住処となっております。
今夜は銘酒を飲みすぎたので四枚を超えてしまいましたが、お酒を控えれば三枚前半で収まるはず。次回は注意しよう、なんて、アハッ、来年の三月まで覚えて居られるかな?
いただいたものは以下の通りです。
そしてご馳走さまでした。
感動しているので、一つ一つのコメントが長い駄文となっていること、ご容赦ください。
<コース>
●汁:湯葉の白味噌椀。
ふり柚子の香りも清々しく、鰹節と真鯛の腹骨の出汁が効いた白味噌を堪能します。腹骨は敢えて焼かずにコクを抽出。骨の髄と腹身からにじみ出る脂が白味噌と乳化し、極上の旨味に昇華。最高のプロローグ。胃と鼻と舌が第九を歌いはじめます。
●飯蒸し:海鼠腸とイクラ
一晩お出汁に漬けたもち米の上に鎮座するのは、新海鼠腸(海鼠の卵巣の塩辛)とゆっくりと湯通しされたイクラ。海鼠腸のとろみがもち米の一粒一粒を優しく包み込みます。味の決め手はその塩味とイクラへの火の通し加減。オレンジ色から桜色に加熱されたイクラには、なんだろう、温泉卵か半熟卵のようなコクが産まれます。火の通り具合が命なので、調理中はお鍋の前から離れることが出来ません。手間暇の掛かる逸品です。
●蒸し物:ズワイ蟹と香箱蟹
ズワイは津居山。西翁が『絶対、山本さんの蟹』と御指名されていた千鳥丸の底引き。水揚げ直後に港で浜茹でし、お店で直前に蒸し上げます。漁場に近い京都や城之崎、越前のような地元であれば、活をその場で捌くのも愉しい演出。もちろん都内でも活を使用するお店は数多ありますが、物流費も上乗せされているし、この時期諭吉五枚超えは必定。どちらを選択するかは親方の考え方次第なんでしょう。
西翁の物差しに適うのは、やはり前者。その薫陶の一つに『食べ物には適切なお値段というものがございますやろ』を思い出します。
それになにより、実は活よりも浜茹での方が好き。海水の塩味が馴染んで蟹本来の旨味が倍増したように感じるので。人によっては甲殻類の臭みと感じるかもしれませんが、紙一重の差だと思います。
一番長い二番脚二本は、オヤジ達の視線を釘付けにしながらお二人の女性の眼の前に。私たち二人には両手の親指をご提供いただき、心底、嬉しかったぁ〜。腕組みしながら見えないところで小さくガッツポーズ。だって線維が一番太く味も濃ゆいので、ラッコの大好物。土佐酢でいただきます。
香箱は香住区の柴山。先月いただいた仕立ては温かい加減酢でしたが、今夜は違う...たとえようもない仄かな甘味が甲殻類の旨味に重なります。ああっ、何だろう、この多層構造。上白糖かなぁ...分かんない! 単に剥いて成形するだけでは無く、見えないところで一手間二手間を加えます。それを当たり前の如くこなされる流儀に、ひたすら敬服してしまいました。
●箸休め:里芋の茎
葛粉を使った吉野煮ですが、具材はなんと里芋の茎。フォロワーさんによれば、京味伝統の仕立てとのこと。西翁へのオマージュに感じ入ります。
ご家庭では捨てるような部位、というかそもそも畑が無い限り素人では入手しにくいはず。アクも強く、スーパーなどの小売りでは見向きもされない面倒な部位を、修練で紡いだ技量と手間暇で逸品物に仕上げてしまうなんて、生産者への感謝と食材への愛情、まさにそれこそが西翁の教え。
●揚げ物:北寄貝
長万部産の北寄貝を、柱、紐、内臓付きで葛粉を纏わせ、高温で揚げます。
勝手に名付けました。この薄衣はまさに北寄貝のシースルー揚げ。♪ああっん、見えすぎちゃって困るのぉ~♪ 昔々のマスプロアンテナのCMです。ご存知の方は少ないかも。見えそで見えないけど、ガン見しちゃいそう。すいません。チョイエロ表現で。
味付けは振り塩。付け添えは菜の花(はやっ!)でした。
●お造り:鮃と馬糞ウニ
鮃は明石産、今までの狭い了見では『鮃は陸奥湾でしょ』なんてしたり顔でしたが、まさに目から鱗。明石の寒鮃の仄かな甘味と食感に悶絶します。内側に浜中産の馬糞ウニを挟み、タップリの山葵を潜ませ、煮切り醤油でアムッ。ウッ、ウニ様が卵黄のようや。ああっ、もうここはグランパラディーソ!
超絶分厚い縁側。脂乗りもほど良く、こちらは塩でいただきました。
●椀物:甘鯛の一汐
甘鯛の一汐仕立てを利尻昆布舟に浮かせ、食用菊と芽ネギで色合いを、黄柚子の絞り汁で酸味を整えます。元を辿れば京味で、松茸が終わった後の数週間だけ仕入れられる天然シメジと旬の白身で供された一椀とのこと。
『親方(西翁)はよく、お椀が料理の最高の花形や...と仰っていました』と、熱く噛み締めるように呟く井上氏。なるほど。これはまさに西翁へのトリビュート椀。
●焼き物:鰤の幽庵焼き
12kgの魚体の氷見の天然鰤を柚庵地で焼き上げます。付け添えは芥子菜。薬味は大根おろしと思いきや、蕪おろし。それも単に蕪をおろしただけではなく、そのおろしに火を入れてエグミを飛ばし、薄口醤油で口当たりを整えます。
鰤の下敷きは黄柚子の輪切り。この輪切りがただ者ではありません。上品な酸味に加え、薄い砂糖漬けのような甘味を感じます。訊けば『いいえ、ただ切っただけですよぉ~(ニヤッ)』なんて、アムステルダムはオークラ山里ご出身の右腕がお答えになりますが、絶対、違う。何か秘密がある筈。ラッコのお古だけど、Ajaxのスタジアムコートと引き換えに、次回、その謎を解き明かします。
●煮物:京かぶら
八角形に面取りしたかぶらの中心に、車海老と大黒シメジなどを吉野葛のくずきりでまとめた餡がかかります。付け添えは京春菊。どの料理もそうですが、お出汁が完璧。その滋味が通奏低音のように一皿一皿の足もとを固めます。ほ~~っと、深い溜息。のど奥に微かにたたずむ鰤の脂の残滓も立ち消え、ご飯ものへ移行するエピローグの始まりを奏でます。
お出汁はお皿ごとに可変。こちらには基本の利尻に加え、真鯛の中骨焼きを添加。か弱い蕪の滋味に海の野生が持つ動というか命の強さを纏わせたかのような仕立てに変化しました。
●ご飯:松阪牛の時雨煮
松阪の切り落としを甘辛く炊き上げます。この甘味というか砂糖のコクが大好き。先月はお代わりを所望しましたが、なんだかその時の井上氏の哀しそうな眼差し(夜食が無くなった...)を思い出し、下品な所業は控えます。
●ご飯:中トロ
大間の延縄の血合い岸。ルビー色の煌きに射すくめられ、軽い眩暈に襲われるラッコ。内側にはタタキを潜ませ食感にアクセントを加えます。軽く煮切りを掃いた上質の鮪と本山葵と海苔、この三位一体に勝るものなし。
●お椀と香の物:
ナメコの赤出汁椀。奈良漬けと蕪と何かの野菜の茎。特に牛肉の時雨煮の甘辛さと奈良漬けの酸味がマリアージュ。日本酒を含むと口中で更に味変。脇役にも手抜き無し。
●デザート:わらび餅
厨房の奥から♪バッタン、バッタン♪と餅を練り上げる音が聞こえはじめるとデザートへの序章。天然わらび粉で打つ餅はうんまい。心底、うんまい。
<お酒>
・ハイボール
・みむろ杉:純米大吟醸、奈良
・東一:純米吟醸、甲州ワイン樽フィニッシュ、嬉野
・田中六五:生原酒、糸島
日本酒は合計三合
京味の流儀と井上氏の創出、そして西翁の教えへの遡行
水曜日の夜です。
凡そ三ヶ月ぶりの味享さん。
六月、八月と続き、三度目の訪問となります。
六時にお店の前に到着。
他には同伴の四人連れ。京味時代からのご常連らしきオヤジ様と銀座の蝶々の組み合わせ。蛾ではありません。今が旬の本物のアゲハ蝶です。
他には七時過ぎに、誰もが知るオリンピックのメダリストの方が仕事仲間をお連れし、総勢七名で今夜のカウンターが占められました。
最初にお伺いした六月の印象ですが、京味とは異なる新しい味に挑戦しなければ、といった、良い意味での気負い、プレッシャーからくる焦りのようなものが伝わります。
それが前回の八月には、肩から無駄な力が抜け、お皿の数々が嫋やかな丸みを帯び始めたかのような佇まいに変化。井上氏の言葉の端々にも、西翁へのオマージュが滲みでておりました。
そして十一月。
八月からさらに進化し、というか、井上氏の言葉を借りれば『開店当初の頃は、なんだか新しいことを、という焦りを常に抱えていて、今から思うと迷走していた部分も有ったかと思うのですが、最近、気がついたんです。親方に教えられたことの精度を愚直に上げていけば良いんだ。自分たちが伝承しないと、ここで親方の造られた和食の伝統が終わってしまうような気がして・・・』とのこと。
なるほど。
迷い、焦り、戸惑いながら無我夢中で努力したものの、気が付いてみれば西翁の掌中をぐるっと一周していたようなもの、ということなのでしょう。
因みに、その教えを私的に整理すると、
・食べ物の値段には上限がある
・輸入物の高級食材は避ける
・素材は無駄なく使用し、生産者に感謝する
・お客様の心から喜ばれるお顔が全て
・季節ごと、旬ごとの味わいを追い、手抜きをしない
といったところでしょうか。
この五箇条は、井上氏とお話を重ねる中で私が勝手に咀嚼した理解です。決してこのような教えが語り継がれているわけでは有りませんので、誤解なきように。
いただいたものは以下の通りです。
一言でいえば、今夜は派手な四番打者こそ居ないものの、滋味溢れる燻銀だらけのお皿の数々。
まっこと、私の口に合いました。
理想とする和食屋さんです。
次回は年末最終日。
ズワイ蟹かな?
そしてご馳走さまでした。
●汁物:湯葉と雲子
お出汁に柚子の香りが溶け込みます。箸で突いて雲子を潰し、湯葉に絡めて巻き取ります。
●お凌ぎ:イクラの飯蒸し
湯にくぐらせ、濃いオレンジ色から桜色に変化させた新イクラ。葛粉の山葵餡と混ぜていただきます。ウンマイ。ただただ脱帽。
●八寸:梭子魚、銀杏、甘露煮、うずら卵
梭子魚は皮目を炙り酢橘を垂らします。皮がまったく歯に当たらない。身にも適度な水分が残り、しんなりと柔らかい食感。
揚げ銀杏は祖父江産。
子持ち鮎の甘露煮は骨まで柔らかい。炊いて冷まして炊いて冷まして酢を浸透させ、骨抜きにします。
うずら卵を季節の柿に見立てます。食紅で加色し、ヘタは昆布で細工。この細工した昆布が凄い手間。フルーツピックのように刺さっています。この手間仕事が西翁の遺訓。いわばオマージュ。
●蒸し物?:香箱蟹
今年初めての香箱。兵庫香住区柴山産を2.5杯使用しています。内子と外子と脚肉を温かい加減酢でいただきます。これは悶絶。まったく角の立っていない酢と香箱の儚い香りが見事に溶け合いました。
●揚げ物:北寄貝の葛粉揚げ
長万部産の600gの大物。付け添えは菜の花。無駄な水分が抜けて貝の旨味が凝縮しておりました。
●箸休め:茄子ソーメン
茄子を太い繊維状にほぐし、片栗粉をまぶして湯通しし、冷水にとって旨出汁をはりました。
●お造り:真鯛
明石産の雄。肩の部分。皮を湯引きしアクセントにします。煮切り醤油との相性も抜群。
●碗物:キジハタと天然シメジ
昆布舟仕立て。舟に見立てた昆布から、旨味がじわじわと染み出します。お出汁には柚子の搾り汁を垂らして酸味を添加。天然シメジは松茸が終わった後の短期間が旬。この仕立ても西翁へのオマージュ。
●焼き物:鰤の幽庵地
余市産の5kg。味付けされた大根おろしとの相性が抜群。辛過ぎず甘過ぎず、この幽庵地は口に合いました。
●炊き合わせ:京カブラ
くり抜いた京カブラの中には、舞茸、車海老の餡掛け。お出汁は鯛の焼き骨。こらも西翁へのオマージュとのこと
●ご飯:
●赤出し:シメジ
●薬味:牛ロースの時雨煮、べったら、西瓜奈良漬け
肉が欲しいなぁ、と思っていたらまさかの牛肉の時雨煮。この甘さが大好き。禁じ手の時雨煮のお代わりを所望。笑顔の井上氏。惚れてまうやないか。きっとまかない分を食べたに違いない。
●鮪丼:
大間の50kg、中トロと赤身、剥がしとカマスジのタタキ。文句無しにウンマイ!
●蕨餅:
粉からバタンバタンと叩いて作ります。
<お酒>
・生ビール
・ハイボール
・天領:飛切り、特別純米、一合
京味の哲学と井上氏の発想、そして西翁へのオマージュ
土曜日の夜です。
新橋から歩いて内幸町に向かいます。
京味亭主 西健一郎翁の鬼籍入りに伴い、急遽予約日当日が告別式と重なります。
日経でご逝去の知らせに触れた朝、う~ん、予定通りお伺いできるのかなぁ、なんて懸念しておりましたが、やはりその通りとなりました。
暫くしてご相伴させていただくフォロワー様から連絡をいただき、日時をスライドさせるとのこと。井上氏の深甚なるご配慮もあり、幸いにも三週間後の土曜日のお席をご準備いただくことが出来ました。
今回のレビューに駄文は無用。
以下の井上氏の言葉に京味と味享の魅力が凝縮されておりますので。
別に録音しているわけではないので、一言一句、正確ではありません。
私の解釈で複数の会話をまとめて読みやすくしておりますが、軸は外していないと思います。
『この度は予約をずらさせていただき申し訳ありません。親方(西翁)には料理学校を経てからの修行の中で、食と料理にかかわる深い教えをいただき、感謝の念に堪えません。
特に今も心に残るのが、一番厳しい舌を持つのは毎日の食卓で接する家族の舌だということ。家庭で用意できる普通の素材を使い、棄てるところなく、余すところなく、生産者の方々への感謝の念も忘れず、魂を込めて調理しなさい、と...』
西翁への憧憬が皮膚に染みわたるように伝わります。
『親方はお酒は呑まれないのですか?』
『呑まないようにしているんです』
『それはお酒が苦手ということなのでしょうか?』
『いえいえ、大好きですよ。でも呑んでしまうと、舌が、どうしても微妙にぶれるんです。中には閉店後夜遅くまでお店に繰り出し、痛飲される方もいらっしゃるかと思いますが、私には出来ません。
私は親方の教えが、自分の持てるすべての技量と真心をお客様にお届けするんだ、っていうその教えが、忘れられないんです。
一期一会のお客様ですし、ましてや数か月もお待ちいただいているような状況の中で、多少でも濁った味のものをご提供することは許せないんです。それがお酒を控えている理由でしょうか...』
参りました。
カウンター割烹は実は真剣勝負。
作り手が真剣なら食べ手も真摯に向き合わないと。
残念ながら、真剣で臨む作り手が少ないのも事実。半端な気持ちで再訪は許されないな、と唸りつつ、次回の予約を確保し、高揚感に抱かれながら新橋まで歩きます。
出会えて良かった。
私は通います。
そしてご馳走様でした。
いただいたものは以下の通りです。
半可通なので、定義が間違っていたらごめんなさい。
<先付け>
●素麺と鱧の浮き袋:
冷たいお出汁の旨味に悶絶、何が違うんだろう。分かりません。鱧の浮き袋のプニュコリ食感が変化を演出。半切りの酢橘をタップリと絞り切り、爽快そのもの。
<八寸>
●干し椎茸と白瓜の白和え:
鬼灯を器に粋な逸品。毎日食べても飽きない、これが京味伝統の流儀
●子持ち笹鰈の炙り:
肉厚。故郷の広島で食べる瀬戸内の薄いデベラとは全く異なります。濃厚な白身と絶妙な塩梅にこれまた悶絶
●玉蜀黍の衣揚げ:
甘々娘という品種。甘い。兎にも角にもあんまい。薄衣は片栗粉?葛粉?小麦粉?もう追加で十枚いただきたい
●縞海老:
頭の味噌が薬味。恐らく数尾分、お出汁で軽く延ばしてサラマンダーで水分を飛ばした...のかな?
●鱧の押し寿司:
砂糖が多めのシャリがうんまい
<吸い物>
●白芋茎:
吉野葛和え。鰹と昆布のお出汁に八寸で興奮した胃が穏やかになります。まさに深い滋味
<煮物>
●茄子田楽:
味噌がたっぷりの田楽は正直苦手なのですが、こちらの仕立ては味噌とお出汁の旨味を茄子に浸潤させた軽やかな仕立て。浜中産の馬糞ウニのこってりとした甘味が、味噌の塩味と爆発的にマリアージュ。
会話の中から、西翁へのオマージュを感じ取りました。
『親方(西健一郎翁)からしばしば、お父様(西音松氏:時の総理や西園寺公のお抱え料理人として有名)の茄子のヘタを素材とした佳品を目の当たりにし、絶対に父親を超えられないと確信した、というお話を良く聞かされておりました。勿論当時の時代背景もあるのでしょうが、派手な食材を使用せず、余すところなく職人の技で命あるものを成仏させる...、それが今の私の背骨になっていると信じております...』
感動で、思わず目蓋の裏側が熱くなります。
<揚げ物>
●鮑のかりんと揚げ:
和歌山産のメガイ鮑。1kg超の大物です。個体数が少なく豊洲でも奪い合いとのこと。鮑の周囲を紐状に切り取り、一口サイズにカット。身肉も水平垂直の三方切りで、同様のサイズに切り揃えます。吉野産の葛粉を纏わせ、高温で短時間、揚げ油の中に投入。付け添えは新銀杏の素揚げ。愛知県祖父江の名産品です。片栗粉だと竜田揚げになるし、小麦粉だと重いしだるいし、葛粉ゆえの品の良い上質な衣を堪能します。
<向付>
●鱧の焼き霜と落とし:
淡路島産の鱧。産卵を終え食欲を増した秋には二度目の旬が訪れますが、こちらは産卵前の夏の名残り。皮目を炙った焼き霜とふんわりと仕上げた落としで食感の変化を味わいます。
薬味は梅酢と醤油。どちらも悶絶級の美味しさ。梅酢はお酒とお出汁で伸ばして柔らかさを演出、酸っぱいもの好きなラッコは全てゴクゴクと飲み干します。
醤油も旨味が抜群。訊けば御殿場は天野醤油の富士泉。プロ仕様品です。取り寄せ決定。
<椀盛り>
●鮎と枝豆豆腐:
枝豆豆腐の上に鎮座するのは長良川産の鮎。塩水に漬けた後、風干し。無駄な水分が抜け浸透した塩味が際立ちます。針柚子の香りに深い溜息が洩れます。昆布と鰹節のみのお出汁にも悶絶
<焼き物>
●鱸:
宮城産の3.6kg。肉厚です。昔の東京湾産のような独特の石油臭さが皆無。蓼酢との相性も抜群。焼いた皮目の薄く脂を残したカリカリ食感に、ただでさえ弛んでいる頬がゆるみます。うんまい
<炊き合わせ>
●鱧の玉子と石川早生芋
●山形みやこ南瓜
●絹さや
●才巻
●粟麩
生姜ベースの餡に青柚子の香り。日本人に産まれた感慨を噛みしめます。時間が許せば、一つ一つの素材に込められた生産者や漁業従事者、物流にかかわる市場や流通関係の皆様、そして宝物のように手渡しされた素材を丹精込めて調理される料理人の方々に、ただただ感謝しつつ、銘酒を嗜みながら、まったりしたい...
<ご飯と香の物>
●鱧の玉子の醤油漬け
●コリンキー
●本鮪の血合い岸と中落ち
●鰻鞍馬煮
●細胡瓜
●ガゴメ昆布
鉄釜炊きのお米がうんまい。うんま過ぎる。訊けば調理学校時代の同窓生が、地元の新潟は十日町で栽培される古い原種のコシヒカリとのこと。寮生活の中でその同窓生が実家から送られてきたコシヒカリを寮内で炊き、それをいただいて感動。自分が店を始めたらこのお米を使う、と決意。今はその同窓生が跡を継ぎ、十日町で栽培されているとのこと。漢同士の物語に落涙を禁じえません。
鰻の鞍馬煮が薄味で口に合う。これはお酒のアテにも最高。本鮪の血合い岸も赤身の鉄臭さが心地良く、中落ちの骨身に付いた脂と相まり、ご飯がすすむすすむ。最後はがごめ昆布のねばねばと一緒に合計二膳半。
<和菓子とお茶>
●わらび餅:
天然の奈良産のわらび粉を使用して店内調理。きな粉は京都の和菓子屋さんから直送、上白糖を混ぜて悶絶級の味に仕立て上げます。
<お酒>
●ハイボール
●廣戸川:純米大吟醸、福島
●東長:純米吟醸
合計二合
京味の作法と井上氏の独創
土曜日の夜です。
西新橋です。
アクセスは都営三田線の内幸町が近いかと思いますが、ラッコは日比谷で映画を楽しんだ後、のんびりと銀座、新橋界隈を散策し、六時前にお伺いします。
こちらは京味さんで煮方を永く努められていた方のお店。
京味の動向にお詳しい博学王にお誘いいただき、今日のこの日と相成りました。
京味。
超有名店ですよね。
不調法者のラッコなぞ、その暖簾に手をかけることも出来ません。
それもその筈。
『日本語、大丈夫ですよ...』なんて空手形を打っては、富裕層のYOU達を送り込む予約代行業もあれば、そのYOU達に数十万で座席を転売する無節操な輩まで跋扈する時代。
限りあるプラチナシートが幻に見えるのも、いかんともしがたい現実です。
臙脂色の暖簾の奥の引き戸を開けます。
いきなり、糊のきいた純白のコットンカバーに覆われた座席が眼の前に迫ります。以前はお鮨屋さんだったようで、カウンターが七席の小体な設え。
親方の井上氏と視線が交錯します。
一見のお店はお見合いのようなものですから、初対面の印象と心象がその後の経過を支配します。
親方にどのような足跡を残すのか、それはなによりも礼節に限ります。
いわば、蹲踞の姿勢。
踵の上に尻を乗せて腰をおろし(あくまでもイメージです。実際のお店で蹲踞しているわけではありません)、正面から向き合います。
造り手と味わい手の真剣勝負を控え、互いの切っ先と間合いを見切ります。
対手の呼吸を察しながら『●●で予約しているかと思います』と活舌良く呟くラッコ。
『お待ちしておりました。どちらでもお好きな場所にお座りください。狭いところで申し訳ありません』と井上氏。
漢!
まさに九州男児。
カップル向きのお店ではありません。並の男子はいとも簡単に霞ます。その存在がお財布だけになっちゃいそう。
物静かで控え目だけど、無駄のない立ち居振る舞いとメリハリのある所作。そして京味ご出身らしい分(作り手としての本分の意です)を弁えた適切な距離感。素材と仕上げに立ち向かう視線は真剣そのもの。
絢爛豪華の設えでもなく、派手目の高級食材を使用した剛速球もありませんが、質実剛健な体幹を感じるお皿の数々に恍惚の表情を浮かべるラッコ。
きけば想像をはるかに超える工程の数々。そのそれぞれに、理屈と実践に裏打ちされた理由が存在します。
和の技法は世界文化遺産。
これは通うな。
親方の井上氏の弟さんご夫婦と詠月で修行経験のあるお若い方達で、夜、一回転の七席の舌を唸らせる仕事の数々。
〆のわらび餅をいただき、お一人様の男子、二組のカップルが次回のご予約を入れつつ、お会計。
ラッコたちはしばらく井上氏と歓談し同様に次回の予約を入れますが、やはり京味ご出身の暖簾の威力か、土曜日限定の二席だと年末最終日が最短の予約可能日。
『それはそれで最終日だから、冷蔵庫の中を空にしちゃいましょう...』なんて、無邪気な恫喝なのか本気の懇願なのか良く分かりませんが、皆さまと破顔一笑して、西新橋の夜に放たれたオヤジ二人でした。
いただいたものは以下の通りです。
お皿のコメントは写真とともにどうぞ。
その方がより伝わりやすいかと思いますので。
そしてご馳走様でした。
<お料理>
●飯:
・渡り蟹カニの飯蒸し
●八寸:
・ヨモギ豆腐
・赤いかの生姜汁和え
・笹鰈と半生バチコ
・細隠元と冬菇の海苔佃煮和え
●向付?:
・無花果
●揚物:
・メゴチの湯葉巻きと空豆の天ぷら
●お造り:
・アコウの洗い
●椀盛:
・スッポンの玉子豆腐
●焼物:まさかの写真撮り忘れ
・時鮭、六キロ、叩いた木の芽と大徳寺納豆が薬味
●強肴?
・賀茂茄子、絹さや、車海老
●ご飯:
・鰻の山椒煮
●漬け丼:
・NZの本鮪、血合い岸
●デザート:
・わらび餅
<お酒>
・生ビール
・天領:飛び切り、特別純米
・東長:
日本酒は合計三合くらい
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店名 |
味享(ミタカ)
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受賞・選出歴 |
2024年Bronze受賞店
The Tabelog Award 2024 Bronze 受賞店
2023年Bronze受賞店
The Tabelog Award 2023 Bronze 受賞店
2022年Bronze受賞店
The Tabelog Award 2022 Bronze 受賞店
2021年Silver受賞店
The Tabelog Award 2021 Silver 受賞店
2020年Bronze受賞店
The Tabelog Award 2020 Bronze 受賞店
日本料理 百名店 2023 選出店
食べログ 日本料理 TOKYO 百名店 2023 選出店
日本料理 百名店 2021 選出店
食べログ 日本料理 TOKYO 百名店 2021 選出店 |
ジャンル | 日本料理 |
予約・ お問い合わせ |
03-6812-7168 |
予約可否 |
完全予約制 |
住所 | |
交通手段 |
内幸町駅から356m |
営業時間 | |
予算(口コミ集計) |
¥40,000~¥49,999
|
支払い方法 |
カード可 (AMEX) 電子マネー不可 |
個室 |
無 |
---|---|
貸切 |
可 |
禁煙・喫煙 |
全席禁煙 |
駐車場 |
無 |
利用シーン |
|
---|---|
初投稿者 | |
最近の編集者 |
|
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土曜日の夜です。
内幸町です。
筍を求めて今夜は三か月ぶりのこちら、【味享】さんにお伺いしました。
二席を予約していたので、いつもお鮨屋さんをご紹介いただくフォローワー紳士とご一緒します。
実は真昼間から、神奈川の恩田川で仕事仲間六名のお花見会を楽しんでいたラッコ。
その六人で八本の日本酒四合瓶を空け、ほろ酔い気分のまま内幸町まで移動。ハ時半に到着すると、すでに皆さんがお揃い。
生ビールで喉を湿らし、さてさてそれでは本題です。
ひとつひとつのコメントは写真欄に記載しておりますので、画像と一緒にお楽しみいただければ幸いです。
最初からほろ酔い気分だったので、撮影漏れが多々ありますが、その点はご容赦ください。
そしてご馳走様でした。
<まとめ>
狙い通り、合馬の筍の炭火焼きが登場。
栗のようなホクホク食感を楽しみました。〆のご飯にもラッコとしては初めてのビフカツが登場。たっぷりのイカリソースに浸してオンザライス。
はああああっ、ウンマイっス。
<コース内容>
⚫︎お通し:
・菜の花:お浸し
・唐墨
・白魚:桜煮
・卵黄百合根
⚫︎焼物:
・筍:炭火焼き、合馬
⚫︎小鉢:
・グジ
・桜餅真薯
⚫︎和え物:
・蛍烏賊
・赤貝
・分葱
・ウルイ
⚫︎揚物:
・シラウオ:宍道湖
・芹
⚫︎お造り:
・真鯛:明石
⚫︎椀物:
・筍:真薯、二度炊き
・蕗
・ウド
・木の芽
⚫︎焼物:
・金目鯛:味噌漬け
・皮揚げ:太白胡麻油
・空豆
⚫︎炊合せ:
・湯葉
・揚げ蕨
⚫︎ご飯もの:
・一膳目:ビフカツ
・二膳目:牛肉の時雨煮
・三膳目:ハラス
・香の物
・赤出汁
⚫︎水菓子
<お酒>
・生ビール
・天領:飛切り、特別純米、下呂
・天領:大吟醸、下呂