神田グリル/永遠にみつからない : 神田グリル 日比谷シャンテ店

【 平成27年7月/再訪録追記 】

雨がぱらついていたのと、もう時間も午後二時近くとなっていたので、劇場で切符を入手しざま、急ぎ目の前のシャンテに飛び込んだ。
レストラン街は地下二階。エスカレータを二回下りた。どこもそこそこの値段がとられるのだろうと、何となくは思っていた。
この時も何となく ……

「東京洋食屋 神田グリル/日比谷シャンテ店」

「ご来店ありがとうございます。お決まりの頃、またうかがいます」
と丁寧に告げて下さって、ウェイトレスさんは一旦身を引いた。

よく“お決まりになりましたらお声をお掛け下さい”というところがあるが、私は姿も見えない場所に潜むウェイターに大声を出せるタイプでないので、こういったことが非常に嬉しく感じてしまう。放っておいても様子を見に来てくれるんだな、という意味において。
実際にはメニュウをテーブルに伏せた時点で別の男性スタッフがフォローしてくれて、更にスムースに、且つ気持ちよく注文することが出来た。

ただその内容についてだけ、自分でやってしまったことながら、ビビり続けてしまうことになったが ……

“ハンバーグ & カニクリームコロッケ” @1,380
“Cセット (ライス・スープ・サラダ・ドリンク) @700”
税込みで締めて \2,246也。

自分に正直であり続けたかったとはいえ、また千円札二枚オーヴァということをやってしまったことには少々複雑な気持ちになった。
とは言え、いつまでもくよくよしてもはじまらない。例の紅白格子のテーブルクロスに励まされるようにポタージュスープをやりはじめれば、あとはいつものように、あれ、スープってスプーンを手前から奥へすくうんだよなと、知りもしない小笠原流を模倣することに一瞬にして夢中になれる自分が心底愛おしい。
そしてサラダのドレッシングはシーザー。

ハンバーグは鉄板の上、蠱惑的なブラウンのドミソースを派手に弾かせながら舞い降りた。
付け合わせはジャガイモまるまる一個に、ブロッコリ。
ジャガイモの身は、オーヴァに言っておでんのじゃがいものような艶のある褐色を帯びていたが、それが煮込むことによってそうなったものか、芋の種類に拠るものかの判断はつかなかった

ハンバーグはふつうに美味しかった。
としか言えないことが、価格を鑑みると些か悲しい気もするが、ふつうに不味いものよりはずっといいと思うことにした。
見渡せば女性客、多し。
午後二時半となって、構わずに続く後客。隣の卓で女性二人連れが、宝塚の話をそっと花咲かせはじめた

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<H26.9.6>

また暑さがぶり返したか、東京。
からっと爽やかなものではなく、じんわりと蒸し焼きにされるような、そんな質の悪い不快な暑さだった

「東京洋食屋 神田グリル」

白と赤の格子模様のテーブルクロスが、弥が上にも今まさに、庶民派でありながらも正統的な洋食屋の卓に着いたのだなと、気分を高揚させる。このお店の血統がどんなだか、まったく知らないけど。
メニュウを広げると、ホールの女の子がお決まりになった頃に伺いますとそっと身を引いてくれたので、柄じゃないが土曜日も遅い午後だし、珍しくゆっくりと料理を選ぶことにした

“ハンバーグカレー” @1,180
“Eセット (スープ・サラダ・ドリンク)” @500
締めて \1,680也。と思ったら外税で、\1,814也。

単品注文にしようと固く決心したはずだったが、私の中に巣くう別人格が突如しゃしゃり出て、ウェイターに口をついて余計なものを告げてしまった。
兎も角、注文してしまったものは仕方がない、前向きに切り替えていこうと、狡っ辛しく自分を正当化させた。桃井かおりのように私も、人のことは嫌いになっても、自分のことだけを、嫌いになりたくないのだ。
ほどなくして供されたサラダはそれなりのもので、スープも、トウモロコシの優しい粒状感が、連夜のアルコールでダメイジを受けた臓腑に心地よく沁みた。

あっという間にサラダをやっつけてスープを飲み干すと、どこかで様子を伺っていたかのように、流れるようなタイミングでカレーの皿がやってきた。
ハンバーグは小振りで、あっても100g～120g ? とか、そんなもん。しかし肌の色艶は魅力的だった。ウェイターが薬味とか何とか囁いた気がしたが、一歩遅れてらっきょと福神漬けが出てきて、ちょっぴり嬉しい。
やはり、屋号に神田と冠してはいるが、ほんとうに神田に暖簾を構える店の学生向けランチでもあるまいし、単品では私には少々物足りなかったことは否めず(ルゥも少々足りない感じ)、瞬間の閃きだったが、セットを付けて貰ってよかったなと安堵した

最近インドカレーに慣れてきた私だが、目の前の、洋食屋さんの優等生的笑顔を振りまくカレーに、直ぐ様恋に落ちた。ビーフのうま味が巧く織り込まれているが、肉塊の部分はハンバーグに譲って、リンゴと蜂蜜とろ～りとろける、甘さと辛さをどちらも強調させつつ拮抗させた、単純に美味しいと感じさせてくれるカレーであった。

映画の時間までまだ間があったので、珍しくカフィを食後にとお願いしていたが、これまたリズミカルに供されたアイスカフィに、例によってポーションミルクとガムシロップを最後の一滴まで絞った。密度の高い硝子で形成された多角形のグラスにぶつかる氷の奏でる、低い周波数の乾いた響きが、無機質に枯れた男のハードボイルドを疾走させる。

思い出したようにフロアに河合奈保子の姿を探したが、永遠にみつからない。
昨今の銀座洋食ランチのリーズナブルのぬるま湯に浸かっていた者として、少し身に滲みる価格となってしまい、「秀樹、感激!」 とはいかなかったが、これでランチラッシュタイムまでとは言わないが、そこを少々外したところでこのくらいゆったりとくつろげるなら、その意味ではありなのかなと納得することにした