活の美味さが光るバランスの取れた仕事 : すし家 一柳

３月某日の昼、こちらでお昼を戴いた。比較的当日に予約が取れるのも良いポイント。ご主人の一柳さんからも適度なお声掛けを戴き、初訪問時に有りがちな不要な緊張感や壁を取り払ってくれ、握りへの導入部でスッと入ることが出来た。この日は12,000円(税抜)のおきまりに追加でお願いするスタイルで一柳親方の鮨を愉しんだ。

魚の仕込みは仕入れて捌いてみて身の状態を確認してから塩や酢の〆方や寝かせ方、つまみに適しているか握りに適しているか等々判断しているとのこと。例えば本日の鮃だが、今の時期の旨味のある鮃は大きさにもよるが、１日寝かせる程度で旨味成分が増して握りにもアジャストするとのこと。身肉の具合で寝かせる時間、日数を変えていく。築地の市場の店頭に並ぶ間にも時間、日数は経っているため、単純に入れてから何日というよりかは捌いて魚の状態をみて何ぼということである。あとは最近の熟成ブームについてもお話ししたが、こちらではフレッシュの美味さを大事にしたいので対極ですと。過度な熟成はしないということだ。確かにこちらの鮨は活の美味さが存分に愉しめた。ネタの揃えも豊富で客を飽きさせない、愉しんでもらおうとする気構えが感じられる。例えばこの日だと貝類が８種類用意されていた(鳥貝、蛤、小柱、水松貝、赤貝、帆立、つぶ貝、煮貝(蝦夷鮑))。どこかの高級鮨屋で絶対自身のあるものを厳選してということだが、魚河岸との付き合い、努力でネタの販路を見つけて種類を増やしていく鋭意努力を怠っていることもあるのではないか。要はどこまでやるかなのだが、こちらの親方はこちら側が『えっ？そこまで？』と思う程の揃えであると思う。

シャリは酢と塩は程々の利きだが硬めに炊かれた物で、どのネタとも合うようになっている。一粒が立ち、ネタとのこなれ方やほぐれ方も良し。パッツンとした弾力を持つ歯触りも心地良いが、老舗の鮨屋に多い中道的から柔らか目のシャリが好みの人には合わないかも。また、温度は高めと聞いていたが、極端に感じる程の温度ではなかったため違和感無く戴けた。握りは小振りでいつも通っている店と比較すると物足りないが、追加で補充。

サービスはほぼ完璧で、お茶は少なくなったり温くなる頃合いに差し替えがあり、鮨台の皿も親方が細目に拭いて気持ちも新たに美味い握りを最後まで愉しめた。ただ、仲居さんが当方の食べている姿をジッと見ている視線を感じてしまい、照れ臭い。その分サービスも細目なのは確かなのだが何とも…(;^_^A

以下戴いたもの。

【握り】
◉鮃
厚めに切った身だったので、一体感がどうなるかと気になったが、口内でのシャリとのこなれ方は問題無し。プリッとした歯応えと身の旨味をシャリが受け止めて一つになって喉元へ流れていく美味い握りである。寝かせについた聞いたところ、今回の鮃は１日のみとのこと。
◉金目鯛
◉真鯛昆布〆
◉長崎産鮪90kg赤身漬け
長崎は定置網と釣りが有るのだと。本日は定置網。漬けにすることで赤身の酸味が上手く引き出されて風味が増していた。
◉中トロ
◉大トロ霜降り
脂からの鮪の良い薫りと瞬発力の強い脂の旨味が素晴らしい握り。やはりこの時期の旨味を感じるまでのスピードは早く、余韻もパッと散る。
◉墨烏賊
サックリした歯触りは大人しめでネットリ感が強かった。１日程熟成させたものか？
◉小鰭
軽めの〆だが後からジンワリと来る脂と〆た酢の旨味がやって来る。
◉真鯵
握る前に軽く酢洗いしての提供となる。脂の乗りはそこそこで身のややプリとした歯触りを愉しむ握り。どこか懐かしく、味わったことのある身質。聞いたところ、淡路島だとのこと。ここ数年淡路はダメだという親方も多く、トンとご無沙汰であったが、中々に良いではないか。今の時期よく提供されるのは、山陰辺りから鹿児島近辺まで鯵の美味い産地で脂の乗りが最高ではあるが、こちらでは脂はアッサリの身の美味さで提供。薬味の葱叩きが絶妙に味を引き立てる。
◉閂(細魚)
厚みがあり、身のプリッとした美味さを愉しむ握り。塩だけで〆てあるが、魚から出てくる旨味も素晴らしい。少々の大葉の刻みを噛ませているのがアクセント。
◉巻海老(車海老)
甘味もあり味噌も中々だがもう一つ
◉函館産紫海胆(まるひら 檜山郡)
一房がとても大きい紫で握って供された。深みある味だがしつこく無くサラリとシャリと馴染んで喉元へ。
◉鳥貝
生での握りで潮の香りからのフレッシュ感。まだ出始めのため、甘味はまだまだこれから。
◉蛤
漬け込みで軽く火を通してあり、シャリとの一体感は申し分無い。ツメも甘過ぎとの指摘が有るが、塗られた量も適量でそれ程クドくは感じなかった。
◉穴子
先の握りがツメだったのでと塩で供された。同じような仕上がりのとかみの穴子よりこちらの方が煮上がりが断然美味い！身のシットリとしたふっくら加減。仄かに甘味を携えた味付け。穴子は甘味を入れないとフルスペックのポテンシャルを発揮しない素材だと思うことを更に確信させてくれた。
◉トロタク鉄火半巻
本日の瞬発力のある鮪トロを海苔の風味がさらに味わいを底上げするベストマッチ。沢庵の控え目な甘さと糠の軽い酸味が鮪とシャリの鎹(かすがい)として仲を取り持つ役割を果たしている。
◉玉子
芝海老のみでふんわりと焼き上げでいる。甘さも程々にあるため握りにしても十分美味しいと思うが。親方としては握りするにはもっと薄めのサイズにしないと握りとして合わないという。このサイズを蔵掛で握る職人もいるのでいずれは是非チャレンジして欲しいところ。

【追加】
◉大星(小柱)
青柳は江戸前でもあるが、北海道でないとこの大きさの物は無いとのこと。サクっとした繊維の歯触りが心地良く一粒の甘味が強い。
◉水松貝
黒皮を剥くため熱湯にさっと潜らす程度に通す。潮の香りは控え目になるが甘味と歯応えが増して美味い。
◉〆鯖
四国は高知の物だと。本日の身質から脂は薄いため軽めの〆加減。身肉も柔らか目のため、つまみで提供されるような柵切りからの厚みを持たせた握り。当方も長年色々なところで鮨を食べて来たが、こういう形態の握りとは初の対峙でワクワクするね。口内での身のこなれ方は仰る通り身肉がゴワつかずに肌理細かいためシャリとの融合も難無くこなした。強目の〆では無いためクドさも皆無で見た目以上に自然体な握りであった。なので味わいは突出しておらず普通なのであるが、少々吃驚の独創的で面白い一貫であった。

【椀】
◉青森小川原湖産蜆の味噌汁