今年も巡ってきた友人の誕生日。選んだのはこちらのグランメゾン : 銀座 レカン

　毎年この時期に巡ってくる、いつも食べ歩きに付き合ってくれる友人の誕生日。
　実は5月の私の誕生日にお相手が選んで祝ってくれたのが、丸の内の「モナリザ」。
　あそこも都内のフレンチでは、高位にランクされるお店である。
　その返礼に相応しいレストランとなると、選択肢はそれほど多くは無い。

　選んだのはこちらの＇グランメゾン＇。
　グランメゾンの定義はやや漠然としているが「料理・サービス・雰囲気」のいずれもが、群を抜いたレベルに在ることが必須のようだ。


　土曜日の昼に予約を入れておいた。
　こちらは「ミキモトビル」の地下に在り、銀座通りに面した所に控えめな入り口が見える。
　少し早めに着いた私は、隣の「山野楽器」にでも入って時間を潰そうかと思っていたが、一旦前まで行き中を覗くと、すぐにスタッフが気付いて店内に導いてくれた。

　予約の名前を告げると、すぐさま到着の旨がインカムにて階下へ報告される。
　連れは少し遅れることを伝えると、女性スタッフによりエレベーターで地下2階のラウンジに案内された。
　普段はバーとして利用される煌びやかな空間で、壁には「FUJITAのデッサン」が見て取れる。
　専任スタッフに飲み物を勧められたが、それほど時間は掛からないだろうと告げると、冷水を出してくれた。

　結局15分ほど待って連れが到着し、揃って地下1階のメインダイニングに上がる。
　そこには落ち着いた色調の空間が広がっており、天井の水玉を模したようなシャンデリアが印象的。
　我々には、壁に沿って並ぶ半円形のソファー席が用意されていた。

　まずは食前酒にシャンパンを所望するとワゴンで3種が運ばれ、その中から＇レカンオリジナルラベル＇の「Ｒ＆Ⅼ ルグラ」を選択。
　それに合わせて、手で摘まめる2種の「一口おつまみ」（パイ生地の生ハム乗せ・赤ピーマンのプチシュー）が黒曜石のプレートで登場。
　まずは上々のスタート。

　料理の注文はアラカルトでも可能だが、今回は＇La cime＇というコース（アミューズブーシェ・前菜2品・魚料理・肉料理・デザート・カフェ・ミニャルディーズ）を選択。
　内容の変更は融通がきくとのことで、肉料理は2人別々でお願いする。

＇アミューズブーシェ＇は次の通り。
　「南瓜の冷製スープ」はエスプーマ仕立てで、散らされた南瓜の種が食感のアクセント。
　「冬瓜・鮑・グリーントマト・ジュンサイなどの冷鉢　胡瓜のソース」は、旬もの取り合わせの妙を感じさせる、見た目も味も涼やかな一品。
　「鱧の一口フリット」は丁寧に骨切りされており、少量ながら味が凝縮。

＇前菜1品目＇は「絹かわなすの海老アロマコンフィ　しょうが風味のヴルーテ　才巻海老／スモークチキン／ウフマヨのコンディモン」
　皮が薄くて柔らかいのが特徴の愛媛産の「絹皮茄子」に海老の香りも纏わせ、才巻海老とスモークチキンと盛り合せた上に、ジュレ状の生姜風味のヴルーテで覆われている。
　さらにウズラの半熟卵をウフマヨに仕立て、香辛料を塗したものが添えられている。
　丁寧な仕事が施された個々の食材を、ジュレの食感と味でまとめ上げた一品。

＇前菜2品目＇は「岩ガキのスチーム　ココナッツの香り　ベーコンと生のり　2種のソース」
　レア感を残して蒸し上げた岩ガキに、ベーコンと生のりの2種のソースが掛かっている。
　さらにテーブル上で、添えられた焼けた小石にココナッツ風味の湯が垂らされるというパフォーマンスがあり、それにより香りが立ち上がるとという趣向。

＇魚料理は＇は「イトヨリのポワレ　白いかとフレゴラのセトワーズ　コリアンダーのクーリ　南仏野菜のミルポワ　ソース バスティス」
　イトヨリのポワレは、白いかとフレゴラという粒状のパスタのトマトソース煮込みの上に盛り付けられ、周囲はコリアンダー風味のクーリで満たされている。
　添えの野菜はズッキーニ・パプリカ・アーティチョークなどのソテーが、パスティスの香るソースを纏っている。
　プロバンスの明るい日差しが感じられるような、色彩も味わいも華やかな一皿。

＇私の肉料理は＇は「イベリコ豚のロティ　ブータンノワールとリヨン　パイナップルとリンゴのピュレ　はしばみのクルート　ソース トルテュ」
　キュイソンの色合いが美しい腿肉のロティと、パートフィロ包みのブータンノワール、さらにヘーゼルナッツに似た「はしばみ」入りのクルートが添えられている。
　中央にパインとリンゴの甘酸っぱいピュレが直線的に絞り出されており、ソーストルテュとはウミガメを使ったソースのようで、大胆さと繊細さが織りなす味わいが印象的。

＇お相手の肉料理は＇は「ピレネー産 仔羊のロティ　蕪のピュレ ターメリック風味　フィーヌラタトゥイユとアーティチョークコンフィ　ナヴァランソース」
　一口味見させてもらったが、香草の風味が効いた仔羊が美味しかった。

　ワインについてが後になったが、ソムリエは分厚いワインリストを提示して、好みを聴いてくれる。
　＇しっかり目の白＇の要望から選ばれたのは「プイィ フュイッセ　グラン ボールガール」。
　豊かな芳香ときりっとした味わいで、なかなか楽しめた。
　さらに肉料理に合わせて「ジュヴレ シャンベルタン」を一杯もらったが、こちらも良かった。

　パンはプチフランスと、ナッツ入りのカンパーニュタイプの2種。
　添えられたバターも上質で、いずれも美味しい。

　種類の豊富さで定評のある＇デザート＇は、2台のワゴンで登場。
　実際に目の当たりにすると、充実の内容に目を見張る。
　フルーツタルト・サヴァラン・オペラ・プリン・ガトーショコラなどに加え、フルーツコンポートなど10種類以上が並び、選ぶには大いに迷う。
　好みのもの数種類ずつ指定すると、皿に美しく盛り付けられて供される。

　友人の皿には、前もってお願いしておいた、バースディメッセージがチョコレートで線描きされ、さらに3本のキャンドルも灯されている。
　これを目の前に、スタッフが記念写真を撮ってくれるサービスも施される。
　もちろん味についても満足。
　
　カフェに続き＇ミニャルディーズ＇が納められた、マホガニーのチェストが恭しく登場。
　手前の2段と左右の抽斗、さらに蓋を開けると照明が点る仕掛けになっている上段に、合わせて13種類の、一口サイズのショコラやマカロン、パート・ド・フリュイなどが、整然と並んでいる。
　＇レカン＇とは「宝石箱」を指す言葉で、まさにその名前通りの華やかな演出である。
　欲張って一種類ずつをもらったものを2人で摘まみながら、充実したコースの余韻に浸る。


　料理については、もっと王道と言うかスタンダードなスタイルが貫かれているイメージが有ったが、結構斬新な手法が随所にちりばめられていた。
　フレンチ全体の流れが、今ではそういった傾向に向かっているのだろう。

　サービスの素晴らしさは、さすがに＇グランメゾン＇に相応しいもの。
　かなりの数のスタッフが立ち動いているが、無駄のない動きは実にスマート。
　特に料理提供の際の、連携の取れた所作が印象的。
　最後にグランシェフが各テーブルに挨拶をして廻る。

　窓のない地下店舗なので開放感は無いものの、その分外界から隔絶された異空間という雰囲気は決して悪くない。
　食器類や調度も洗練されており、上質の居心地の良さを演出。
　テーブル上の料理を上手く浮かび上がらせる、照明の使い方も見事。
　地上の喧噪と暑さをしばし忘れる、実に快適な時間を過ごせた。

　この日に選ぶレストランは、年々レベルアップされている。
　来年は何処にするかは悩むところだが、私自身も大いに楽しみである。