壺の中の極楽　☆ 虎屋壺中庵 : 虎屋 壺中庵

『壺の中の極楽』


久々に佐那河内の壺に入る。

穏やかな心持ちにしてくれる
あられの白湯。
肩の力を抜いて胃を少し動かしましょかと
無言の語りかけが
コトリとテーブルに置かれる。

程なく届く「どうまん蟹」と呼ばれる蟹のほぐし身。
ん、どうまん蟹？
ノコギリガザミと聞いてピンときた
高知ではエガニと呼ばれる蟹だ。
希少で味が濃い蟹に
優しい酸味のカニ酢がかかっている。

八寸は
ズイキの胡麻和え
銀杏餅
かますの押し寿司
栗の酒煎り
華美な装飾のないこの店らしい質実なラインナップ。

そして
楽しみにしていた黒塗りのお椀が届く。
わくわくしながら蓋に手をかける。
すると
白い菊花が咲いたような鮮やかな鱧が
松茸の隣で揺れている。
この澄みきってクリアなお出汁に淡白な鱧は
さぞ難しいだろうと思ったが
絶妙な塩加減なんだろう。
しみじみと美味しい。
リクエストの松茸もいい香りで花を添える。

お造りは鯛に車海老に鰆。
手前ひと切れ目に置かれた鯛の刮目の旨さ。

焼き物はマナガツオの酒盗焼き。
続いて鮎の栗蒸しに
イチジクの甘味。

そしてもうひとつのリクエスト。
もし獲れればお願いしますと伝えておいた
甘くないタレの天然鰻。
小ぶりながら脂も適度にあり臭みもなく美味しい。
お櫃に入った白ごはん
これも抜かさず書いておきたいほど美味しい。
もっちりと一粒一粒弾力がある力強いお米。

最後に栗に甘さを添えるあんこがいい塩梅の
栗きんとん。

ひとくち食べて思わず　
吐息が漏れて
遠い目をして抹茶をすする。

静かで穏やかな時間が流れる
壺の中の極楽。

【2013年8月再訪】

徳島の食べログオフ会で再訪。

この日の献立は以下の10品。

・胡麻豆腐
・鮎寿司、鱧の子の煮こごり、ずいきの胡麻あえ
・鮑しんじょうの椀物
・鯛、鱧、車海老のお造り
・香魚の塩焼き
・いちぢく煮
・ずいきの餡かけ
・鮎の土鍋炊き込みご飯
・甘夏のゼリー
・羊かん、抹茶

お造りは力強い鯛が素晴らしかったなぁ。
この鯛の前では鱧も車海老も脇にまわらざるを得ないだろう。

鮎は・・鮎寿司、塩焼き、炊き込みご飯とあったが
これは塩焼きに軍配を上げたい。
鮎の香魚たる由縁。
爽やかな香りのする鮎の塩焼き。
単純な料理だけど、ここのは真似できない美味しさがある。


この日は鮎づくしの感もある献立だったが
その中でキラリと光ったのは、やはり椀物。

一口おつゆを頂き絶妙な薄味を楽しんだ後、鮑のしんじょうに箸を入れる。
しんじょうは蒸しているのか・・絶妙な火入れ加減で
外側は割としっかりとしているが、中は溶け出すほどに柔らかい仕上がり。
箸を入れるごとに鮑のエキスがおつゆに溶け出し旨味が増してくる。
しんじょうの中で少し残した鮑の食感も変化がついて面白い。

そして、しっかりとした味の椎茸に、軽い苦みが堪らない鮑の肝。
椀の中の脇役達もしっかりと主役を盛りたてる。
全ての食材が自分の役割を果たし椀の中で起承転結を描く。
この日のもうひとりの主役。
鮑しんじょうの椀　　ただ　ただ素晴らしい。

こちらの料理は華やかさよりも素朴さを感じるお料理です。
侘び寂びの世界にも通じるものを感じます。
無駄に手を加えることを嫌い素材の味を前面に出す。
気負いのない岩本さんの人柄が重なる料理だと思います。

ごちそうさまでした。


【2012年5月】
いつぞやのオフ会で誰かが言った。
壺中庵へ行こうと。
ヤンヤ　ヤンヤ。

そこで集まったのが　釈迦の左手さん　　酒野夢蔵さん　無玄さん　高知羅我阿の４名。
いずれも　それぞれに食への強い思いを持つ者達である。
食楽の釈迦さん　・食探の野夢蔵さん　・食鑽の無玄さん　・そして食欲の羅我阿の４名である。
不思議な食縁で結びついたこのよったりで

いざ　壺中庵へ

場所は佐那河内という　”ももいちご”　で名を馳せた徳島市より西方の郷にひっそりと佇んでいます。


この日いただいたお料理

・穴子の八幡巻き　・うどの梅酢風味？・アメゴ寿司・アスパラの胡麻和え
　　他の方のレビューから　かなり淡い味付けを想像していただけに・・どれも思いの他しっかりとした味に軽い驚き。　
　　アメゴ寿司も田舎寿司のような素朴な味わいながら
　　小振りなアメゴそのものの処理も素材もかなり良い。
　　この後の料理が楽しみになる一皿です。

・煮鮑と肝・シズという名の山菜　
　　柔らかさと旨みが際立つ煮鮑。
　　そして焼きも入っているのかな？　鮑の肝が絶品。

・車海老しんじょうのお椀　
　　これは堪らない。　
　　上品なお汁に食感を残した海老が入ったしんじょう。
　　このしんじょうに味が閉じ込められていて、お箸を入れるとお汁に旨みが広がります。
　　又しんじょうの上に飾られた白い花　ゆずの花の蕾かな？
　　柑橘系の香りがいいアクセントです。
　　後を引く美味しい美味しい美味しい椀でした。


・車海老とセイゴのお造り　
　　車海老はチリ酢で　セイゴはわさび醤油で頂きます。
　　普通のお造りとは切り方が違うんでしょうか？　
　　どちらもすごく食感が良い。　　　　
　　
・白甘鯛の焼き物　
　　これは感動の一品。
　　希少な大物の白甘鯛にたで酢を掛けて供されました。
　　う～ん・・・驚きの焼き加減です。　
　　外側はカリッと中はギリギリの火の通し方。
　　今まで食べてきた焼きものとは似て非なるもの。
　　素材の味だけではない確かな技術に・・・唸ってしまいました。

・伊勢海老の蒸し物　
　　破竹とそら豆が添えられ海老のミソをベースにしたたれが掛っています。
　　それぞれの食感と少しだけ味を加えた海老のミソだれが絶妙です。

・甘鯛の炊き込みご飯
　　私・・・３杯頂きました。
　　とりあえず３杯目にはそっと出しときました。。。

・甘夏のゼリー
　　軽い苦みとさわやかな甘夏の香りが心地よいデザート。

・グリンピースの和菓子とお抹茶
　　最後の抹茶で食がしっかりと締まりました。


佐那河内にある壺の中には・・・
中国の故事さながらに「壺中天」の世界が
あ～ホント素晴らしい。

また季節が変わる頃に壺の中に入りに来ます。


ごちそうさまでした。