昭和の文豪たちに愛された熱海を代表する老舗洋食店（#スコット） : スコット（新館）

スコット本店（新館）＠静岡県熱海市

JR熱海駅から徒歩15分、熱海親水公園の近くの渚町の路地裏にある熱海を代表する老舗洋食店。戦後間もない昭和21年（1946年）創業で、谷崎潤一郎や志賀直哉、武者小路実篤など名高い文人たちに愛された歴史のあるお店。

熱海というと駿河湾の新鮮な海の幸を使った温泉宿の和食料理の印象があるが、明治自体から現在まで、数多くの文豪が別荘として長期居滞在して執筆活動の場にしていたことから、東京の名店を食べ歩いて舌の肥えた文豪たちによって育てられた老舗の洋食店や中華料理店が点在するそうだ。

確かに執筆のために熱海の宿に何カ月も滞在するとなったら、朝と夜は宿の提供する和食の魚料理になるだろうから、昼は和食以外のものが食べたくなるだろうな。

最近では村上春樹も通いつめているそうで、暇があって天気がいい日は都内からオープンカーを飛ばして熱海に行ってお気に入りの「スコット」か「カフェ・ド・シュマン」でご飯を食べて日帰り温泉に入って帰るらしい。

こちらが本店（新館）で10mほど離れた場所にもっと狭くてこじんまりした旧館もあるが、現在は新館のみで営業している。建物の1階が駐車場、2階がお店となっており、店内は30席ほどあるが昼、夜とも予約は取っておらず先着順だそう。平日12時の開店直後にお邪魔したが、既に店内は開店と同時に入店したお客さんで賑わっている。

メニューはアラカルトの場合、単品で2000～3000円前後のものが中心。ランチコースはメイン料理によって3960円、もしくは5390円。今回は5390円のランチコースでメインは名物の「ビーフシチュー」、妻は「アワビのコキュール」をチョイス。

【ランチコース】5390円

●本日のオードヴル
オードヴル（前菜）の盛り合わせはスモークサーモンと豚のゼリー寄せ、豚のテリーヌ、アジのエスカベッシュの盛り合わせ。盛り付けも綺麗。

豚のゼリー寄せはフランス料理のフロマージュ・ド・テッド（豚のこめかみ肉の煮こごり）みたいな感じだけど、赤身やレバーっぽい部位など色々入っている。豚のテリーヌはふわふわの魚肉ソーセージみたいな食感。

スモークサーモンは今まで見たことないような特大サイズ。ちょこんと乗せられたケッパーがアクセント。熱海らしくアジを使ったエスカベッシュ（南蛮漬け）はさっぱりした味わい。


●スープ
コーンクリームスープがカップで提供。やや赤みを帯びたベージュ色でとろりとした舌触り。コーンの甘みだけでなくコンソメの旨みもしっかり感じられる。


●サラダ　ライス or パン
サラダはレタス、トマト、ピーマンの輪切りの入った野菜サラダ。ドレッシングはさっぱりした白色のフレンチドレッシング。ライスかパンを選べるのでパンをチョイス。ふっくら焼きたてのロールパンが2個。表面はサクッとした食感でパンもしっかり美味しい。


●メインディッシュ
1週間かけて仕込んだデミグラスソースと5～6時間煮込んだとろとろの国産和牛を使用したビーフシチュー。伝統の製法を守りつつ改良を重ねたスコット自慢のデミグラスソースは重厚でコクがあり、野菜の甘みや赤ワインの由来の酸味や渋み、食材を煮詰めて焦がしたビターな苦味もあり、五味（酸味・苦味・甘味・辛味・塩味）が完成している。一朝一夕では生まれない老舗ならではの複雑な味わい。

牛肉は超肉厚だがスプーンで切れるほど柔らかくとろとろに煮込まれた和牛のスジ肉。口の中でふわっとほどける食感。明治から昭和にかけて活躍した白樺派を代表する小説家のひとりで「小説の神様」とも呼ばれる志賀直哉は、スコットのビーフシチューが特にお気に入りだったそう。

妻がオーダーしたアワビのコキュールは大きなアワビの貝殻をお皿にして、薄くスライスしたアワビの身と刻んだ玉ねぎ、濃厚なベシャメルソースの上にチーズを載せて焼き上げた料理。ざっくばらんに言えばアワビのグラタンだ。貝殻の器が傾かないように食パンの白い部分の真ん中を切り抜いた上に貝殻を乗せて滑り止めにしているのが面白い。

コキュール（コキーユ）というのは、フランス料理の一種で、ホタテの貝殻や貝殻型の陶器を使って、エビやカニ、白身魚などをベシャメルソースと和えて、パン粉、チーズなどをのせてオーブンで焼いた料理のことだそう。同じく「グラタン」（gratin）も元々はフランス料理だが、「コキーユ」（coquille）の定義としては貝殻（または貝殻型の器）に盛り付けて焼き上げるのが必須だそう。


●デザート　コーヒー or 紅茶
食後のデザートはフルーツババロア。洋食のコース料理のデザートといったらプリンやケーキのイメージがあるが、ババロアは珍しい。銭湯で風呂上り飲むフルーツ牛乳を濃縮して、さらにゼラチンで固めような濃厚な味わいと滑らかな舌触り。お皿を動かすたびにプルプルと揺れ動くのもなんだか可愛らしい。