禅の精神とお茶の心、食だけではない日本文化あり◆招福樓 本店 : 招福樓 本店

滋賀県東近江市八日市本町8番11号、招福樓 本店。
1868年(明治元年)創業。茶懐石、会席料理の老舗料理店。
大都市から離れた場所にありながら茶懐石の名店として広く知られ、遠方から足を運ぶ客も多い。
湖国近江に森閑と佇む名店。
季節ごと設え、至福の茶懐石・会席料理は、和食の世界で屹立する最高峰と言われる。
近江本線八日市駅徒歩1分。 個室計84席、駐車場あり15台。
営業時間12:00～15:00、16:00～22:00。定休、第1月・第3・第5月曜日。
サービス料20％。利用は2名～

和食の世界に身を置く料理人は知らない人は居ないであろう、招福樓 本店。
機会があればと思っていましたので、滋賀・京都に出かけることが決まった際に予約を入れました。
電話を取られたのは落ち着いた年齢の男性。
昼の利用であることを告げると昼会席を説明して下さいました。
<昼会席>税・サ20%別
33000円
27000円
22000円
15000円(11月のみお休み)
髙い価格から説明があり、お昼だけの価格の会席を選びました。
ホームページを見ますと、おまかせもあるようですね。
15000円の料理ですが、消費税と奉仕料を含むと19440円であることの説明あり。
建物にも興味があり楽しみにしていますと返事し、感じの良い受付けに期待が上ります。
THE TABELOG AWARD2017 Bronzeを受賞。

当日。近江本線八日市駅に着き地図を見ながら徒歩1分。
ルートインが目に入りますが、その正面。
予約時間。敷地入口に、店の白い袢纏を来た若い男性が立って待っていました。
延命新地。かつて存在した花街、赤線地域の1/3を超える敷地を占める、招福樓 本店。
看板らしいものはなく、敷地の入口に招福樓と彫られた石。
御影と思しいその石に彫られた屋号が濡れており、水が撒かれたのだと分かります。
客を迎えるタイミングを計られたもので、ここで先ず、お店の格を知ることになります。
玉砂利の道を案内され、音を立て歩く。
ジャリ、ジャリ、ジャリ…
まるで禅寺にでも来たような印象。ヒールの女性には歩き辛い道です。着物姿が合うアプローチですね。
表の道路から真反対にまわり込んで冠木門に到着。
門のそばに100年のソメイヨシノ。
今は緑の季節ですが、桜の季節は華やかでしょう。
冠木門を入り、立派な数奇屋造の建物。
中に入ると、仲居さんの案内で部屋へ。
玄関からスリッパに履き替え、板貼りの廊下を進みます。
部屋に着くと脱ぎ、畳の間へ。
灯の間(ともしびのま)2～6名が利用出来る部屋です。
庭園眺望が良い座敷で、部屋の名称ともなる壁面の桐一枚板の丸い大きな照明器具が印象的。
晴れ日の昼間なので一面のサッシからの景色が眩しい。
灯の間からよく見える、茶室 半庵(ちゃしつ はんなん)。
こちらの部屋からは直接行くものではないらしく、これより中に入ることは遠慮されたしとの関守石あり。
店の白い袢纏を来た若い男性が庭に立ち、蓮口が付いたブロンズ色の如雨露で、石の通路に水を撒いています。
乾くたびに水を撒きます。動きを感じ、眩しい外を見るたびに。
静かな部屋です。
会話をしなければ、何の音もしない静寂。

献立表はありません。
都度丁寧にご年配の仲居さんが説明してくれます。
言葉使いも別格に丁寧。そつなく話されます。
座卓に座椅子、席には膳。
おしぼりと、あられ湯で迎えられ、膳に伏せてあった盃で一献の酒を受けるところから始まります。

飲み物はメニューあり。
日本酒、焼酎、洋酒、生ビール、瓶ビール、ノンアルコール。
シャンパン、ワイン、スパークリング日本酒。

◆ブルーノ パイアール ブリュットプルミエ キュベ (H) 5250円(税・サ20%別)
ワインメニューに、グラス提供はありません。
最初に三人で1杯づつになるので丁度良いだろうと、ハーフボトルのシャンパンを。
シャンパンを置かれる店は増えましたが、セレクト銘柄で料理人のお考えが分かることも。
招福樓はこの1種のみ。一番搾り(プルミエ・キュヴェ)を選ばれたよう。
淡い藁のような黄金色。新鮮な柑橘類、フレッシュなアーモンドなどのシャルドネの特徴がよく出ています。

◆昼会席 15000円(税・サ20%別)
・先付…　叩きオクラ、蝦夷鮑、独活、茗荷。オクラが滑らかでねっとりもっちりとしていて驚く。
　　　　　ガラス器が涼やか。
・蓋物…　穴子の飯蒸し(いいむし)。半つきのもち米の上に甘辛く炊かれた穴子。
・煮物椀…鱧と車麩、蔓菜。鱧に梅肉をのばして。は箸で掴めないほど柔らかく調理された鱧。柚子の香。
　　　　　輪島塗りの白漆の椀！夏向きの色、初めて見ました。オリジナルオーダーとか。
・造り…　鯛、剣先烏賊。松菜。醤油と、鯛は好みで割り醤油(出汁・柑橘割り)。
・八寸…　グラスは鯛の白子と塩辛。白瓜、新蓮根とサーモン、生ハムセロリ。
　　　　　近江八幡赤蒟蒻、薩摩芋檸檬煮、鰻の八幡巻。
・焼物…　滋賀県東部、淀川水系の一級河川、愛知川(えちがわ)の若鮎の塩焼き。　
　　　　　粘度を感じる濃い蓼酢と。
・炊合せ…里芋と三度豆、茄子。多く添えられた木の芽を散らしていただく。
　　　　　茄子が蕩ける。芋は柔らかすぎず。
・ご飯…　地元のものをとのことで近江米の永源寺米のこしひかり。
　　　　　かなり柔らかい。過去頂いた茶懐石の中でも特に。香の物と止め椀と。
・菓子…　わらび餅。黒糖味。生姜片が入る。見た目を裏切り、凄くのびます。
・薄茶

食事中は日本酒をいただきました。
◆松の司 楽 1400円(税・サ20%別)
折角なので近江の酒。松瀬酒造(滋賀)の酒を。
純米吟醸。辛口のワインのような味わい冷酒、ぬる燗向き。
◆浦霞 禅 2000円(税・サ20%別)
こちらはご一緒した方の好みで。
佐浦(宮城)の酒。宮城の純米吟醸。冷酒で。

食事が終わる頃、白漆の椀の色のような夏色の着物で、女将が挨拶に来てくれました。
今日のお料理のことや器のことなど聞かせていただいて。
御後のシャーベットも自家製とおっしゃってましたが、女将、私達の予約内容ではここで終わりのようです(^^;
女将、仲居、白袢纏の若い男性で敷地途中まで送って下さいました。
表の道路へ出ていく最後の姿が見える場所まで。
それでも距離がありますので、送って下さる姿が小さくなっていきます。

料理だけではなく日本文化を見せていただいた感じです。
素晴らしかったですが、感動までいかなかったのは格の高さを感じさせる誇りある接客との溝かもしれません。
見て感じ取らないといけない持て成しの高さが、日本らしいと思えました。
主の話を聞く機会があると、自己犠牲の上に成り立つその哲学に心震えるのかもしれませんね。
ネットで見つけた、若主人の話には、苦悩の上にある今を感じることが出来ました。
(招福樓 若主人 中村成実氏の話)
http://shokumaru.jp/aboutchef/20121218_1.html

数奇屋造の建物、その造作、庭、隅々にまで心配りの行き届いた設え。
野の花を摘み、季節の花が生けられることから始まる持て成し。
輩出された料理人の方々。
素晴らしい店に違いはありませんでした。