『HARU』にある　"横手炒麪（よこてやきそば）"　狼狽（うろたへ）の　腰（こし）すらもなき　甜（あま）き麪條（きりむぎ） : キッチン ハル

愚按（やつがれおもふに）、
外（そと）での晝飧（ひるめし）は、
腹（はら）の蟲（むし）を養（やしな）ふのみならず、
逍遙（すゞろあるき）を兼（か）ね、冩眞撮影（ゑをうつしと）るためでもある。

"照相（とる）"と云ふ行動（ふるまひ）：
就中（わきても）肖像（ひとのすがたかたち）は、
その經歴（あゆみ）や爲人（ひとゝなり）を如實（あますところな）く表（あらは）す。
當人（そのひと）ゝの驅引（やりとり・かけひき）も不亦樂乎（またゝのしからずや）?

宛然（あたかも）、
禽獸（とりけだもの）を狩（か）り、魚（うを）を漁（すなど）るに髣髴（にたり）。
鏡頭（レンズ）は、新鏡（あらたしきたま）より老鏡（ふるきたま）を嗜（この）む。
微距鏡（マクロ）より標準鏡（ひやうじゆん）が吉（よい）。

老鏡（ふるきたま）の個性（くせ）を知（し）り、
活用之（これをつかひこな）す術（てだて）を探究（さぐる）。
鏡頭（たま）古（ふる）きに過（す）ぎれば、
則（すなは）ち、暈（ぼ）け、朦朧（かす）み、濁（にご）るが理（ことわり）。

と云ふ情由（わけ）にて、
專（もつぱ）ら、多層膜増透處理以降（マルチコートよりのち）のものを用（つか）ふ。
就中（わきても）頼（たよ）るが、"東蔡（Carl Zeiss Jena）紅 MC Pancolar 1.8/50"。
缺點（いたらぬところ）だらけながら、微距拍攝（より）て趣（おもむき）を増（ま）す。

この日（ひ）の鏡頭（たま）は、
旭光學（あさひくわうがく）"超琢磨（Super Takumar）八枚玉 1.4/50"。
昭和卅九甲辰歳（せうわさんじふくきのえたつどし、=1964）生（うまれ）。
單層膜増透處理（モノコート）故（ゆゑ）、精彩（あざやかさ）に缺如（かく）。

加旃（しかのみならず）、
對象（うつすもの）に近接拍攝（ちかより）ては、
靄霞（もやかすみ）のかゝりたるがごとく、鮮鋭度（するどさ）を虧（かく）。
如此照片（このゑのごとし）。

有左程（さるほど）に、
この日（ひ）は、"横手やきそば"が幟（のぼり）翩飜（ひるがへ）るを眼（め）にし、
俄頃（にはか）に武者震（むしやぶる）ひ。
實（げ）に、据物斬（すゑものぎり）の心境（こゝち）ぞしたりける。

桌上（つくゑ）の菜單（しながき）より選擇（えら）みしは、
勿論（いふまでもなく）、"横手炒麪（よこてやきそば）"、
對價（あたひ）七百圓也（なゝひやくゑんなり）。
茶（ちや）と茶請（ちやうけ）が附屬（つく）。

齢（よはひ）五十五（いそぢあまりいつゝ）の鈍刀（なまくらがたな）、
否（いな）、老玉（おいぼれだま）を掌（て）にし、
はて、老玉兮（たまや）、老玉兮（たまや）、奈若何（なむぢをいかにせん）?
やはり、どうにも暈（ぼ）けて締（しま）りなく刻苦奮鬪（ひたいにあせ）。

案下某生再説（それはさておき）、話題（くだん）の"横手炒麪（よこてやきそば）"：
甘藍（はぼたん）、絞肉（ひきにく）のほか、
上（うへ）に雞蛋（たまご）、脇（わき）には眞紅（くれなゐ）の福神漬（ふくじんづけ）、
と云ふ尤（いと）色鮮（いろあざ）やかなる陣容（かほぶれ）。

雞卵（たまご）は目玉燒（めだまやき）。
上（うへ）には、
ウスターシャ・ソースとも豆油（しやうゆ）とも解（つ）かぬ玄（くろ）き液體（しる）。
ウスター・ソースが馨（か）で、半點（いさゝか）强（つよ）き甜（あまみ）。

これには、氣（き）も萎（な）え、櫡（はし）も滯留（とゞこほ）りがち。
麪條（楚者゛）はと瞻（み）るに、
茹（ゆ）でたと推定（おぼ）しき嫩（やはらか）なる切麥（きりむぎ）。
腰無（こしな）きこと、翁（おきな）がへのこ歟（か）?と疑（うたが）はる。

"福神漬"は、『酒悦』に限（かぎ）る。
とは云へ、各地（いづち）の"炒麪（やきそば）"とて、
あの毒々（どくどく）しき"紅生薑（べにしやうが）"に頼（たよ）るが尋常（つね）。
可怖（おそるべし）、實（げ）に可怖（おそるべし）！

堪（た）へがたきを堪（た）へ、忍（しの）びがたきを忍（しの）び、
以（もつ）て、己（おのれ）の體面（たいめん）をとり繕（つくろ）ふため、
福神漬（ふくじんづけ）以外（のほか）は辛（から）うじて平之（これをたひらぐ）。
かくて、抹茶（まつちや）にて漱（くちすゝ）ぎ辭別（いとまごひ）。

"紅生薑（べにしやうが）"こそ囘避（さ）くるが習慣（つねのならひ）なれど、
卽席麪（そくせきめん）を除外（のぞ）くなら、
おしなめて、"炒麪（やきそ者゛）"は大外（おほはづ）れなきもの。
野州（しもつけ）"咬［口留］吧炒麪（じやがたらいりやきそば）"など嗜好（このみ）。

"横手炒麪（よこて）"が「三大（さんだい）やきそば」として處遇（あつか）はるは、
何（なに）かの誤謬（あやまり）歟（か）?
それとも、當方（こちら）の味覺（した）が狂（くる）ひたる歟（か）?
ま、これも、羽州横手（ではよこて）固有（ならでは）の名物（もの）。

なでふ、これを侮（あなど）り、譏（そし）るべき？
蟻（あり）喰（く）ふ民（たみ）あり、蓼（たで）食（く）ふ蟲（むし）も、、。
蠶（かひこ）は桑（くは）を食（は）みては止（とゞ）まることを不知（しらず）、
唐人（たうじん）能（よ）く蠶（かひこ）を咋（くら）ふ。

東瀛（ひのもと）では、魚（うを）の尾頭附（をかしらつき）が好（この）まれ、
禽獸（とりけだもの）の尾頭附（をかしらつき）は惡（にく）まる。
紅毛（あちら）では、禽獸（とりけだもの）ゝ兜（かぶと）が嗜（この）まれ、
鯛（たひ）の兜（かぶと）は嫌（きら）はる。

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【照相機】：東京通信工業 索尼（Sony）α7 II 無反光鏡可換鏡頭照相機（みらーれす）
【鏡頭】　：旭光學 賓得（Pentax）Super 琢磨（Takumar）8枚玉 1.4/50 @F2.4～F4
　　　　　　東蔡（Carl Zeiss Jena）MC Flektogon 2.8/20 @F11